ます)” の例文
『二ヶ月ぜんの様にますを取っておきますが、留守中盗賊どろぼうに見舞われてはかなわないね』と笑いながらドーブレクが云っていた、という。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「じゃあ、おらがますはかって、安くまけて持って来ようね。——そのかわりに、小父さん、またおもしろい話を聞かせておくれね」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなが、みんな、何か、ますざるのようなものをつかんで、振り立てて、冬の宵の口を、大通りを目ざして、駆け出すのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
などと、頤でしゃくって、ますを指した。そこには女学校に通うているらしい十七、八の桃割の、白い襟首と肥えた白い頬とが側面から見えた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
昨夜も久しぶりで、窮屈なますの中へ四人の者が並んで見たが、四人の洋服は八本の足を持っているものだからその片づけ場所がないのだ。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
物は最も広大にして鞏固きょうこなる容器の中に収めて置くことが最も安全です。一斗の水を一升ますに入れようとすれば必ずあふれます。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
方形の厚紙に縦横の線を引き、原稿用紙のようなます目を作る。そしてそのあちこちの一桝ずつを、でたらめにくり抜いて、幾つも窓を作る。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はシャヴルで、セメンますにセメントをはかり込んだ。そしてますから舟へセメントを空けると又すぐその樽を空けにかかった。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
予の隣のますは東京の客だつた。一人は五十に近い、町家の主婦らしく、道徳的な而もやや意氣な顏付をしている女であつた。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
溜息ためいきをつきながら黙って三本ばかり呑んだ、そしてそこを出て二町ほどゆくと、こんどは酒屋の店先で一合ますを二つあけた。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
店の人は心得たもので、伏せてあるコップをゆすぎ、一つの樽の飲口から小さなますに酒を受けて、コップに移して渡します。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ますの底から周囲まわりまで竹箆たけべらで油をこすり落して、一滴たりとも買い手の利益になるように商売をなさいますので、人々がみな尊敬いたしました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここで買った白碗は、茶道の方で「ますはかり」と呼ぶものの親属なのだが、朝鮮では今も濁酒にごりざけ(マッカリ)のますであると同時にさかずきなのである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
買いに来るものがあれば、ますではかって売る。新酒揚げの日はすでに過ぎて、今は伏見屋でも書き入れの時を迎えていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するとすぐ隣のます派手はでな縞の背広を着た若い男がいて、これも勝美夫人の会釈の相手をさがす心算つもりだったのでしょう。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
世帯を持つとき、ますを買った筈だが、別当はあれで麦を量りはしないかと云うのである。婆あさんは、別当の桝を使ったのは見たことがないと云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
汚いますのなかで行火あんか蒲団ふとんをかけ、煎餅せんべいや菓子を食べながら、冬の半夜を過ごすこともあったが、舞台の道化にげらげら笑い興ずる観衆の中にあって
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし料理の分量は幾度いくたびも経験してこの位がちょうどいいというほどを我が心で悟るようにならなければ匙ではかってもますで量ってもなかなかうまく参りません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それを日ざしを見ていて午飯の刻限近しと見るや、飛んで帰ってきて飯焚めしたきの支度をしたのは主婦である。ケシネビツすなわち糧米櫃ろうまいびつの中にますが入っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
世間で一升ますに雄雌這入はいるのが好いとか、足が短くて羽をくのが好いとかいうのは、これは玩具おもちゃで、いわば不具同様、こんなのは矮鶏であって、矮鶏ではない。
無けなしのぜにをハタキ集めてやっと五合ます一パイの酒を引いたが、サテ、酒肴さかなを買う銭が無い。向うの暗い棚の上には、章魚たこの丸煮や、蒲鉾の皿が行列している。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
およそ雇人やといにんと名のつくものは一人残らず中島座の見物にやり、土間(客席のこと)のますを埋めさせる。
馬丁べっとう、車夫のともがら、手に手にますを取りて控えたる境内には、一百有余の俵を積み、白米むしろに山をなせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等の楽しみは、なにより、「角打かくうち」だ。ますかどから、キュウッと、冷酒ひやざけ一息ひといきに飲むことである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その有様ありさまが沢山の坊主頭を並べているようだからその名があるのだともいうし、また円内坊えんないぼうとかいう坊さんが二重ますをつかって百姓から米穀をむさぼり取ったがために
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「蠅男の背丈は八尺である。そして蠅男は一升ますぐらいの四角な穴を自由に出入する人間である」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
嚴罰主義でのぞみましたが、わけても不正ます——即ち八合判と、贋金——つまり銅脉どうみやくと言はれたものゝ僞造行使は、藩によつては極刑中の極刑を以つて罰した例もあります。
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
数年前、米屋がますを使用していた時代には彼は錚々そうそうたる職人として桝取業をしていた。彼の腕にかかれば、必要に応じて、一斗の米が一斗五升にも八升にもはかりかえられた。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
修道院めいた高い壁に囲まれてる狭い方形の庭だった。芝生や平凡な花の植わってるます形の間に砂の小径がついていた。葡萄蔓ぶどうづる薔薇ばらが巻き込まれてる青葉棚が一つあった。
それもわるいとはもうさぬが、しかし一しょうますには一しょう分量ぶんりょうしかはいらぬ道理どうりで、そなたの器量うつわおおきくならぬかぎり、いかにあせってもすべてがちるというわけにはまいらぬ。
同伴したのは心安い医者などや、上屋敷にいた常府の婆連で、ますを二つほど買切って見た。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「た、たわけ申すなッ。うずらひとます小判で買って参ったのじゃ。うぬのさし図うけんわい!」
「ダレさせやしないよ。御褒美は嘘だけれど、実はその一円でお頼みがあるのさ。お前さん、元は大工だろう。ひとつ大工さんの昔に返って一斗ますをこしらえてもらいたいンだ」
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
床は枠によって六百フィート平方、深さ一フィート以上の場所に、仕切られているが、これ等の箱が即ちますで、その一つに家族一同が入って了うという次第なのである(図21)。
メール社の社長の如きは、その徒を引きつれて、一ますを初めから買ひ切りにしてゐたくらゐで、義雄が今囘の旅行に關してメール社長に會ひに行つた時も、晩はいつもゐなかつた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
部屋へ来てみると、ランプを細くしてう床もってある。私はますでお糸さんと膝を列べている時から、妙に気がいらって、今夜こそは日頃の望をと、芝居も碌に身にみなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「だめ、だめ。ますではかるような小人物ばかりで、まるで問題にはならない。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
其日お糸さんも三業組合の連中で私達のつい傍のますへ来てつた。私を見付けるとやつて来て何やかや話をして居た。家内にも挨拶をして居た。「おもちやさんも来てますよ、」と云つて
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
あの交番——喜久井町きくいちょうを降りてきた所に——の向かいに小倉屋おぐらやという、それ高田馬場の敵討あだうちの堀部武庸たけつねかね、あの男が、あすこで酒を立ち飲みをしたとかいうますを持ってる酒屋があるだろう。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花道から平土間ひらどまますあいだをば吉さんの如く廻りの拍子木の何たるかを知らない見物人が、すぐにも幕があくのかと思って、出歩いていたそとから各自の席に戻ろうと右方左方へと混雑している。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仲間十人おのおの金子きんす十両と酒肴しゅこうを携え、徳兵衛の家を訪れ、一升ますを出させて、それに順々に十両ずつばらりばらりと投げ入れて百両、顔役のひとりは福の神のごとく陽気に笑い、徳兵衛さん
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
椽板椽かつら亀腹柱高欄垂木ます肘木ひぢきぬきやら角木すみぎの割合算法、墨縄すみの引きやう規尺かねの取り様余さず洩さず記せしもあり、中には我の為しならで家に秘めたる先祖の遺品かたみ、外へは出せぬ絵図もあり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
たゞ無々ない/\とばかり云ひをつておのれ今にあやまるか辛目からきめ見せて呉んと云ながら一升ます波々なみ/\と一ぱいつぎ酒代さかだい幾干いくらでも勘定するぞよく見てをれと冷酒ひやざけますすみより一いきにのみほしもうぱいといひつゝ又々呑口のみくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
眞理のともしびますの下から出すのだ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ますではかって目方にかけて
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
雨量はますではかりがたく
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
咄嗟とっさに眼をらせながらまた眼鏡オペラグラスをとり上げて、見るともなく向うの桟敷さじきを見ますと、三浦の細君のいるますには、もう一人女が坐っているのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「——が、こんどだけは、智恵をさずけてやろう。今日から、糧米を兵へ配るますをかえるがいい。小桝を使うのだ小桝を。——さすればだいぶ違うだろう」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えッ! おまえさんが、お酒を呑まぬ? まあ、ほ、ほ、ほ——法印、ますからでなくては、呑まぬのかい?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
すなわち酒のかすぬかと豆の皮と、この三つの品をますに入れて、次の詞を唱えつつ家の周囲にまき散らした。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)