桐油とうゆ)” の例文
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
困つたなと思つてゐると、車夫が桐油とうゆはづしてこの辺ぢやおへんかと云ふ。提灯ちやうちんの明りで見ると、車の前には竹藪があつた。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
極彩色、生け彩色、俗にいう桐油とうゆ彩色など。その彩色に属するもので、細金ほそがねというのがある。これは細金で模様を置くのである。くとはいえない。
子供の旅立ちを見送りに来た親たちに、顔を見せると、すぐに桐油とうゆ布をかぶせてしまって、子供たちに里心を起させないようにしたという、みじめさだ。
ああそうそう、あの桐油とうゆをかけておいで、きっと雨が降るよ、お前たちも、うちの印のついた合羽かっぱを着て行くといい
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あによめはまず色の眼につくあでやかな姿を黒いほろの中へ隠した。自分もつづいて窮屈な深い桐油とうゆの中に身体からだを入れた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうか——そこの中ほどに、さきが古道具屋と、手前が桐油とうゆ菅笠屋すげがさやの間に、ちょっとした紙屋があるね。雑貨も商っている……あれは何と言ううちだい。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの宿駕籠しゅくかご二十五ちょう、山駕籠五挺、駕籠桐油とうゆ二十五枚、馬桐油二十五枚、駕籠蒲団ぶとん小五十枚、中二十枚、提灯ちょうちんはりと言ったはもはや宿場全盛の昔のことで
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
象の下ッ腹に、この通り桐油とうゆを五枚梳張すきばりにして、その上を念入にしぶでとめてある。象の腹で金魚を飼いやしまいし、こんな手の込んだことをする馬鹿はない。
黄色い桐油とうゆ旅合羽たびがっぱを着た若侍が一人松の間に平伏している。薄暗がりのせいか襟筋えりすじが女のように白い。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
桐油とうゆ外套に赤縞のはんけち——海岸通りサン・ジュアン街の酒場アベニダは、深夜の上陸船員で一ぱいだった。
此の五日には多助が元村もとむらへ小麦の俵を積んできますが、日暮方から遣りますから、山国の事ゆえ天気のいのはあてにならないから、桐油とうゆを掛けてきなと云って
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おせんを首尾しゅびよくにがしてやったあめなかで、桐油とうゆから半分はんぶんかおしたまつろうは、徳太郎とくたろうをからかうようにこういうと、れとわがはなあたまを、二三平手ひらてッこすった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
脂蝋燭あぶらろうそくかまたはルイ十六世時代のランプをともし、卓布の代わりに桐油とうゆくぎでとめたテーブルの上で、人々はそれを食べた。わざわざ遠くからやって来る客もあった。
「赤さんは大きな男のおですよ。」と、産婆は死児をそっと次のへ持ち出した。そこには母親が、畳の上に桐油とうゆを敷き詰めて、たらい初湯うぶゆ湯灌ゆかんかの加減を見ていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
血の臭いに酔って、無暗むやみに吠え付く犬を叱りながら、桐油とうゆをすっぽりかぶって、降りしきる細雨の中をやって来たのは、絵師の月岡米次郎つきおかよねじろうこと、大蘇芳年たいそよしとしの一風変った姿です。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
元より二重三重に桐油とうゆ紙につつんである。自身、秀吉は上紙うわがみをのぞき、また封を切って
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思いながら、彼はさすがに人通りのれな日本堤の上を歩いていた。後から「ほい、ほいッ!」と威勢のいい懸声をしながら、桐油とうゆをかけた四つ手籠が一丁そばをり抜けて行く。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
付けて中津川なかつがはより來りし馬二頭ありしを幸ひこれに乘る元より駄馬なれば鞍も麁末そまつに蒲團などもなし宿の主才角さいかくしてうしろより馬の桐油とうゆをかけて我々を包む簑虫の變化ばけものの如し共に一笑してこゝ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
桐油とうゆはちふくろ
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しかも私がくるまの上へ靴の片足を踏みかけたのと、向うの俥が桐油とうゆを下して、中の一人が沓脱くつぬぎへ勢いよく飛んで下りたのとが、ほとんど同時だったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからお医者さんの道具と薬箱、これは潮水に当てねえように、雨にかからねえように、桐油とうゆをかけて、細引にからげて、取扱注意としておくんなさいよ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おさえたたもとはらって、おせんがからだをひねったその刹那せつな、ひょいと徳太郎とくたろう手首てくびをつかんで、にやりわらったのは、かさもささずに、あたまから桐油とうゆかぶった彫師ほりしまつろうだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ある雨の降る日余はこの玄関に上って時間の来るのを待っていると、黒い桐油とうゆを着て饅頭笠まんじゅうがさかぶった郵便脚夫が門から這入って来た。不思議な事にこの郵便屋が鉄瓶てつびんげている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一、宿駕籠しゅくかご桐油とうゆ提灯ちょうちん等、これまでのもの相改め、これまたしかるべく記入のこと。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
投出して手をくまでも、短刀を一口ひとふり持っています——母の記念かたみで、峠を越えます日の暮なんぞ、随分それがために気丈夫なんですが、つつしみのために桐油とうゆに包んで、風呂敷の結び目へ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうぶりで、車軸を流す様で、菊屋橋のきわまで来て蕎麦屋で雨止あまやみをしておりましたが、更に気色けしきがございませんから、仕方がなしに其の頃だから駕籠を一挺いっちょう雇い、四ツ手駕籠に桐油とうゆをかけて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
行李こうり桐油とうゆ紙包みやかばんなどのため変な形になり、客をいっぱいのみこんでる馬車が、絶えまなく通って、道路をふみ鳴らし、舗石に火を発し、鍛冶場かじばのような火花を散らし、ほこりの煙をまき上げ
聞で出懸でかけしまゝ私しも病氣ながら起上おきあがり止る桐油とうゆそで振切ふりきり首途かどで
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見上げるところの九十九折つづらおりの山路からおもむろに下りて来るのは、桐油とうゆを張った山駕籠やまかごの一挺で、前に手ぶらの提灯を提げて蛇の目をさしたのは、若い女の姿であります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
思うほどの会釈えしゃくもならないうちに余は早く釣台の上によこたえられていた。黄昏たそがれの雨を防ぐために釣台には桐油とうゆを掛けた。余はあなの底に寝かされたような心持で、時々暗い中で眼をいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かぶっていた桐油とうゆを、見世みせすみへかなぐりてて、ふところから取出とりだした鉈豆煙管なたまめぎせるへ、かます粉煙草こなたばこ器用きようめたまつろうは、にゅッと煙草盆たばこぼんばしながら、ニヤリとわらって暖簾口のれんぐち見詰みつめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
どこへつけるつて、宿やどへつけるのにきまつてゐるから、宿だよ、宿だよと桐油とうゆうしろから、二度ばかり声をかけた。車夫はその御宿おやどがわかりませんと云つて、往来わうらいのまん中に立ち止まつた儘、動かない。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこには卓布の代わりに桐油とうゆをしいた食卓が並んでいた。
その身体からだ桐油とうゆ合羽かっぱでキリリと包んでいるし、質素な竹の笠をかぶり、尋常な足ごしらえをしているものですから、お銀様に先手せんての打てようはずがありませんでした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左手の山谿さんけいの間には、遠く相模川の川面がおりおり鏡のように光って見える時、山巒さんらんを分けて行く駕籠は、以前のように桐油とうゆを張った山駕籠ではなく、普通に見る四ツ手駕籠。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山駕籠に桐油とうゆをまいて、案内に慣れた土地の駕籠舁かごかきが、山の十一丁目までかつぎ上げ、それから本山を経て五十丁峠の間道を、上野原までやろうとするのは、変則であってまたかなりの冒険です。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)