木彫きぼり)” の例文
「君はどうかしてるよ、あの銀の針金のような白髪しらがと、木彫きぼりのようなしわとがわからないかい、なにがむすめなのだ、六十の狼女おおかみむすめかい」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
未来派裸体巨人像の額縁、絹紐煽風機、壁の中に嵌め込まれている木彫きぼり寝台の白麻垂幕ドロンウォークなぞが重なり合って並んでいるほかに
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この木彫きぼり金彫かねぼりの様々なは、かめもあれば天使もある。羊の足の神、羽根のあるけもの、不思議な鳥、または黄金色こがねいろ堆高うずたかい果物。
すくふには、天守てんしゆ主人あるじ満足まんぞくする、自分じぶん身代みがはりにるほどな、木彫きぼりざうを、をつときざんでつくなことで。ほかたすかるすべはない……とあつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一一〇 ゴンゲサマというは、神楽舞かぐらまいの組ごとに一つずつ備われる木彫きぼりの像にして、獅子頭ししがしらとよく似て少しくことなれり。甚だ御利生ごりしょうのあるものなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
コロンボに着きしは九日こゝのかの朝にさふらひき。木彫きぼりの羅漢達の如き人人船の中を右往左往し、荷上げの音かしましき中へ私はまたよろめきながらさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と笑ったきり、何時までも顔の様子をかえず、にッたりを木彫きぼりにしたような者に「にッたり」とむかっていられて、憎悪も憤怒も次第に裏崩れして了った。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……柿江は思わずそれを考えている自分の顔つきが、森村という鏡に映ってでもいるように、素早くその顔をぬすみみた。しかし森村の顔は木彫きぼりのようだった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
竜之助は木彫きぼりの像を置いたようにキチンと坐って、かおすじ一つ動かさず、色は例の通り蒼白あおじろいくらいで、一言ひとことものを言っては直ぐに唇を固く結んでしまいます。
「あ……」箭四郎は、ぺたんと、部屋のまん中に坐って、一隅にある木彫きぼりの坐像にまろい眼をみはった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自動車を拾うと、博士はクッションにもたれたまま、じっと目を閉じて、一言も口を利かない。まるで木彫きぼりの像のように、呼吸さえしていないかと疑われるばかりだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いかさま、まづ第一木彫きぼりの人形か、其次は………イヤ中店なかみせのおもちやを一手買占もできるだらうな。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
お三輪は椅子を離れて、木彫きぼり扁額がくの掛けてある下へも行って見た。新七に言わせると、その額も広瀬さんがこの池の茶屋のために自分で書き自分で彫ったものであった。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
市「誰が呉れやした、虚言うそばかりいて、此の体は木彫きぼりじゃアねえし仏師屋ぶっしやが造ったなんてえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちらりと磯吉を見て、マスノもやはりあとをいわずにとこを指した。そこにはハガキ型の小さな額縁がくぶちにいれた一本松の下の写真が、木彫きぼりの牛の置物おきものにもたせかけてあった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
吾輩は急に動悸どうきがして来た。座蒲団の上に立ったまま、木彫きぼりの猫のように眼も動かさない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、右手の上方に、凄愴せいそうな生え際を見せた魔王バリ(印度ヴイシユヌ化身伝説に現われる悪魔の名)の木彫きぼり面が掛っていて、その左眼の瞳が、五分ばかり棒のような形で突き出ている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
持ってきてくれるだろうし、僕も木彫きぼりの動物かなんか、ほかの品物をこしらえてあげよう。とにかく、市郎の店は、ただ売るだけでなくて、仕事もしてみせる店だと、その覚悟でやるんだな。
市郎の店 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
実際、その顔つき全体が、大変いきいきとした、そしてどちらかといえば、いたずららしい表情をしていて、それがきっとその木彫きぼりの唇から、言葉になって飛び出して来そうに思われるくらいでした。
平次は蝋燭を片手に、木彫きぼりの龍の側にある段々を踏みました。
木彫きぼり日光にっこう陽明門ようめいもんがくが、心持ち曲っていただけです」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「殉教者」と云ふ木彫きぼりの像のあつたのは。」
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
さあ、貴下あなた、あらためて、奥様おくさまつくなふための、木彫きぼりざうをおつくあそばせ、すぐれた、まさつた、生命いのちある形代かたしろをおきざみなさい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分の手すさびに彫った木彫きぼりの観世音をそこへ出すと、茶店の老爺おやじは、今度は甚だしく不平顔で
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
礼をいって大噐はその家を出た。雨はいよいよひどくなった。傘を拡げながら振返って見ると、木彫きぼりのような顔をした婆さんはまだこちらを見ていたが、妙にその顔が眼にしみ付いた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
木彫きぼりか、牙彫げぼりか、何だろうと、ちょっとその材料の点にまで頭を使って見たようですが、なお決して、伊太夫は、それに近づいてコツコツと叩いてみるような無作法には及びませんでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はその土蔵の二階にたたみを敷きつめて、愛蔵の異端の古書や、横浜よこはまの古道具屋で手に入れた、等身大の木彫きぼりの仏像や、数個の青ざめたお能の面などを持込んで、そこに彼の不思議なおりを造りなした。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木彫きぼりのあの、和蘭陀靴オランダぐつは、スポンとうらせて引顛返ひつくりかへる。……あふりをくつて、論語ろんごは、ばら/\と暖爐だんろうつつて、くわつしゆそゝぎながら、ペエジひらく。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
目付の間瀬ませ久太夫、植村与五右衛門の五人が、木彫きぼりのような硬ばった顔をそろえて出て来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容姿端麗ようしたんれいとほ藤原氏時代ふぢはらしじだい木彫きぼりだとくが、ほそゆびさきまでいさゝかそんじたところがない、すらりとした立像りつざうの、法衣ほふえいろが、いまひとみうつつた萌黄もえぎなのである。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、官兵衛孝高よしたかは、まるで木彫きぼりの武者像のように、ひろい闇へ向って、じっとしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、木彫きぼりの、ちひさな、護謨細工ゴムざいくのやうにやはらかに襞襀ひだはひつた、くつをもつてかごまへ差置さしおいて
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
武者修行して歩く者は皆、その袋へ、大事な物を押し籠めて負っているが、武蔵の包みの中には、今彼のいった木彫きぼりの観音と、一枚の肌着と貧しい文房具しかはいっていなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美女たをやめ姿すがたありのまゝ、木彫きぼりざうつたときひざつて、雪枝ゆきえひし抱締だきしめてはななんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、一体の木彫きぼりの観世音を包みから出して授けた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御面おんおもては天女にひとしい。彩色いろどりはない。八寸ばかりのほのぐらい、が活けるが如き木彫きぼりである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かゝとくろいのを眞向まむきにせて、一ぽんストンと投出なげだした、……あたかよしほか人形にんぎやうなど一所いつしよならんだ、なかまじつて、其處そこに、木彫きぼりにうまごやしを萌黄もえぎいた、舶來はくらいもののくつ片隻かたつぽ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)