朝飯あさはん)” の例文
朝飯あさはん珈琲コーヒーもそこ/\に啜り終つて書齋の襖をあけると、ぼんやり天井を眺めて卷煙草を遠慮なしにふかして居た黒川は椅子から立ち
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌日彼は朝飯あさはんぜんに向って、煙の出る味噌汁椀みそしるわんふたを取ったとき、たちまち昨日きのうの唐辛子を思い出して、たもとから例の袋を取り出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と下女が二度目に使いに参り、帰った時にポーンと酉刻むつが鳴ります、朝飯あさはん夕六時くれむつでございます。是からお化粧に取り掛ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第一 毎日まいにちき、寢衣ねまき着替きかへ、蒲團ふとんちりはらひ、寢間ねま其外そのほか居間ゐま掃除さうじし、身體しんたい十分じふぶん安靜しづかにして、朝飯あさはんしよくすること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
五時になると、四人がいっせいに起き出す。朝飯あさはんを喰べている間にサッサと寝床を片づけ、寝袋スリーピング・バッグをよくたたいて戸外おもてす。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
欣七郎は朝飯あさはん前の道がものういと言うのに、ちょいと軽い小競合こぜりあいがあったあとで、参詣おまいりの間を一人待つ事になった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は昨日きのう朝飯あさはんの時、文三が叔母にむかって、一昨日おととい教師を番町に訪うて身の振方を依頼して来た趣を縷々るるはなし出したが、叔母は木然ぼくぜんとして情すくなき者の如く
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
丁度十二月朔日ついたちのことで、いつも寺では早く朝飯あさはんすますところからして、丑松の部屋へも袈裟治が膳を運んで来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
父は火のやうにおこつて、絹篩にかけた程に柔らかない灰の上層うはかはから、ザラ/\した燒土やけつちの如き灰を取り棄てるのに、朝飯あさはん晝飯ひるめしになるのをも忘れてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのうちに、ごはんになって、吉雄よしおは、おぜんかい、あたたかなごはんとおしるで、朝飯あさはんべたのであります。
ある日の先生と子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とさけんでいる、ペテロの心を思いうかべ、「おお、神よ」といって、朝飯あさはん夕飯ゆうはんにとりかかるのでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「お連れ様は、たいそうよくおりでございますね、おや、朝飯あさはんもあがっていらッしゃいませんようで」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は残り少くなった休暇をせめて一日でも有効に使いいと思って珍らしくも、私の先輩にあたる須永すなが助教授を、染井そめいの家に訪うために、少し遅い朝飯あさはんをしまうと
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とこを上げたり座敷の掃除をして居るうちに急に今日けふは人並な朝飯あさはんを食べて見ようかと云ふ気になつた。オートミルを火に掛けるのをめさせて子供と一緒に暖い御飯を食べた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
翌朝お玉が、池の端の父親の家に来た時は、父親は丁度朝飯あさはんを食べてしまった所であった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
めづらしいこと此炎天このえんてんゆきりはせぬか、美登利みどり學校がくかうやがるはよく/\の不機嫌ふきげん朝飯あさはんがすゝまずば後刻のちかたやすけでもあつらへようか、風邪かぜにしてはねつければ大方おほかたきのふのつかれとえる
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その朝朝飯あさはんをパンとコーヒーとだけですませたばかしの口で噂をするのは、おそれ多いやうな調子だつた。牧師は英語読みにすると、マリヤはメリイで、ヨハネはジヨンであることを説明した後で
それ故、六月のある朝、朝飯あさはんをすましてブリティッシ・メディカル・雑誌を読んでいると、玄関のベルが鳴り、つづいて私の親友の大きな甲高い調子の声がきこえて来たので、私はびっくりした。
それをヤット起して湯に入れると間もなく朝飯あさはんになる。それから十二時か一時頃になって支配人の笠圭之介が遣って来て三人寄って紅茶か、ホット・レモンを飲みながら業務上の打合わせをする。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ずつとむかうの方には朝鮮人も起きて来て外を見て居るやうであつた。斎藤氏は朝寝坊をしたと云つて、八時すぎに食堂へくのを誘ひに来た。パンと珈琲コオヒイだけの朝飯あさはん一人前ひとりまへに払ふのが五十銭である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
わたしはかれが朝飯あさはんのお湯をわかすところを見ながら、ふと目を火からはなして外をながめると、カピが一人の巡査じゅんさられて、こちらへやって来るのであった。どうしたということであろう。
臥床ふしどを出るや否やいそいで朝飯あさはんととのえようと下座敷したざしきへ降りかけた時出合頭であいがしらにあわただしく梯子段はしごだんを上って来たのは年寄った宿の妻であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
朝飯あさはんの後、伊東へ向けてこの宿を發つた。是非復た來たい。この次に來る時は大島まで行きたい、と互に言ひ合つた。内儀さんや娘は出て吾儕を見送つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我にも解らぬ出鱈目でたらめ句籠勝くごもりがちに言ッてまず一寸遁いっすんのがれ、匆々そこそこに顔を洗ッて朝飯あさはんぜんに向ッたが、胸のみ塞がッてはしの歩みも止まりがち、三膳の飯を二膳で済まして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
翌日よくじつは、日曜日にちようびでした。朝飯あさはんべると、しょうちゃんは、そとしてゆきました。往来おうらいで、とくちゃんたちが、あそんでいました。とくちゃんは、まさちゃんとおなとしごろでした。
ペスをさがしに (新字新仮名) / 小川未明(著)
翌朝おもいのほか寝過ごして、朝湯で少しはっきりして、朝飯あさはんを取ります頃は、からりと上天気。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無理に止めまして少し冷めた味噌汁おみおつけをあっため、差向いで朝飯あさはんを仕舞まする。
手桶てをけをも其處そこ投出なげいだして一つは滿足まんぞくなりしが一つはそこぬけにりけり、此桶これあたゑなにほどからねど、身代しんだいこれがためにつぶれるかのやう御新造ごしんぞ額際ひたへぎは青筋あをすぢおそろしく、朝飯あさはんのお給仕きうじよりにらまれて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
陸の諸国でもう朝飯あさはんの済んだころ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
毎日々々二階に坐つて考へてばかり居た叔父さんが舟でも漕がうといふ人に成つたことは、姉妹きやうだいのものを悦ばせた。お節は朝飯あさはん前の茶を入れて茶好きな叔父さんにすゝめた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雪江さんは一ツ橋のさる学校へ通っていたから、朝飯あさはんを済ませると、急いで支度をして出て行く。髪はいつも束髪だったが、履物はきものせいが低いからッて、高い木履ぽっくりを好いて穿いていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
藤原喜代之助も朝飯あさはんを食べて文治郎の家へ参り、お町の様子を文治郎に聞くと、心掛も良し、女も良し、結構だと云うから、昼飯ひるはんを食べて暑うございますから涼しい処へでも参ろうと云う処へ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手桶をも其処そこ投出なげいだして一つは満足成しが一つは底ぬけに成りけり、此桶これあたゑなにほどか知らねど、身代これがためにつぶれるかの様に御新造の額際ひたへぎはに青筋おそろしく、朝飯あさはんのお給仕よりにらまれて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
明日あす朝飯あさはんしろを持たぬ無職者も
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お栄がそこへ朝飯あさはんの膳を運んで来た。姉は飯をつけて出し、妹は味噌汁を膳の上に置いた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
是にもはらはたてども良人おつとあそばすことなればと我慢がまんしてわたしなに言葉ことばあらそひしたこと御座ござんせぬけれど、朝飯あさはんあがるときから小言こゞとえず、召使めしつかひまへにて散々さん/″\わたし不器用ぶきよう不作法ぶさはう御並おならへなされ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
朝飯あさはんがすむ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蓮華寺の蔵裏くりへ来て、斯う言ひ入れた一人の紳士がある。それは丑松が帰つた翌朝あくるあさのこと。階下したでは最早もうとつく朝飯あさはんを済まして了つたのに、未だ丑松は二階から顔を洗ひに下りて来なかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これにも腹はたてども良人おつとの遊ばす事なればと我慢して私は何も言葉あらそひした事も御座んせぬけれど、朝飯あさはんあがる時から小言は絶えず、召使の前にて散々と私が身の不器用不作法を御並べなされ
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)