あらた)” の例文
私はちょっかいを出すように、おもてを払い、耳を払い、頭を払い、袖を払った。茶番の最明寺さいみょうじどののような形を、あらためてしずか歩行あるいた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は午少し前に衣服をあらためて、旅館からはすぐ近いところにある、電車通りを向うに渡った横町にある路次の中に入って往ってみた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
將軍樣しやうぐんさまより其方へくださるゝ金子なれば有難く頂戴ちやうだい致されよとて渡しあらためて申けるは當將軍樣には加納將監方にて御成長遊ばし御幼名ごえうみやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あらためて、わしが双方の言分を聴いてみたところで、国際連盟が満洲事件の審議をするやうなもんで、どつちの気に入るはずもなしさ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
斉名は筆をふるって書いた。ところで卿の御気に召さなかった。そして卿はあらためて大江以言に委嘱された。以言も骨を折って起草した。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で私はクレオパトラやサロメの例を引いて、何故貴方はあのやうに嘆いてゐらつしやいましたか、と言葉をあらためて新しく問ひかけました。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
自分等の嘆きに娘の新しい思想を一がいにくらましてはならないとも感じられる。何事も娘が帰ってからあらためて語り合おうと心を定めた。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ア、今朝篤と松谷秀子嬢に逢い、昨夜の詫びも云いあらためて時計の秘密を聞き度いと思い其の室を尋ねたら、虎井夫人と共に早朝に此の宿を
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あらためて文部省書記官となり、而して往復課長となったのだが、規則の制定や改正などというといつも私は特別にそれに関係した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
ロクロ首の怪談、又は絵画が、人間の夢、又は夢中遊行の心理を象徴せるものなる事は、ここにあらためて呶々どどするを要せざるべし。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
といひかかるを、奥様目顔で制したまへば、老女は本意なげに口をつぐみたれどさすがに老の繰言止め難くや、更に詞をあらためて
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
イエスはキリストたる地位の自覚をもってあらたまって物を言われる時には、いつも御自分のことを「人の子」と呼び給いました。
この他のものについてあらためて同じ仕方で、自分自身から出てくるのか、それとも他のものから出てくるのか、と追求せられ
私はあらためて、このへんてこな荷物の持主を観察した。そして、持主その人が、荷物の異様さにもまして、一段と異様であったことに驚かされた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
孫四郎はかういひ乍ら半紙を綴ぢた帳面を懐に入れ、矢立ての墨をあらためて、腰にさすと変に興奮した体で衣紋掛けの羽織を取つて引つかけた。
モンタギュー、其方そちは、この午後ひるごに、まうかすこともあれば、裁判所さいばんしょフリータウンへ參向さんかうせい。あらためてまうすぞ、いのちしくば、みな立退たちされ。
九日目に三吉さんや助太夫やも寄合つてあらためて法事を営みましたが、私は泣いては恥しいと堪え/\していましたが到頭堪え切れなくなつて
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
光徳は小字おさなな徳治郎とくじろうといったが、この時あらためて三右衛門を名告なのった。外神田の店はこの頃まだ迷庵のてつ光長こうちょうの代であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
礼廻りから帰った彼は、村の仲間入すべく紋付羽織にあらためて、午後石山氏にいて当日の会場たる下田氏の家に往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「車? 車はもう来ています」伯母はなぜか他人のように、叮嚀ていねいな言葉を使っていた。そこへ着物をあらためた妻も羽根布団はねぶとんやバスケットを運んで来た。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「お前はお母さんのお世話をしてくれたうえに、わしのために節を守ってくれて、なんともお礼の言いようがない、わしは、今、あらためて礼を言うよ」
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう日本へ送り返してしまったから、あらためて買う用はなし、本場とは云うものの、思ったより登山案内はないものだ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
この工場と相対むかいあってる北側に、今は地震でくずされて旧観をあらためてしまったが、附属の倉庫の白壁の土蔵があった。
で、上つて行つて、蒲団などをすゝめられると、彼女は里離れのした態度で、あらためて両手をついて叮嚀ていねいにお辞儀をした。彼は面喰めんくらつたやうな困惑を感じた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わたくしはあらためて一望の焼野原をつくづくと眺めました。本式の戦さが始まってより、まだ半年にもならぬ間に、まったくよくも焼けたものでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
遂に京都で大寺だいじの住職となり、鴻の巣の若江は旅籠屋はたごやを親族に相続させ、あらためて渡邊祖五郎が媒妁人なこうどで、梅三郎と夫婦になり、お竹も重役へ嫁入りました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
というのはあらためていうまでもねえ、ブ職同士のことだからなあ。ええ、そうでござんしょう、そうだろうが。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
人の生活をあらためさせたためしがあろうか、人はその人自身によって何事もあらためるものをあらためてこそいいが、式や形でそれをつかさどることは無理であるといった。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
クララはぎょっとしてあらためて聖者を見た。フランシスは激しい心の動揺から咄嗟とっさの間に立ちなおっていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
携帯電灯の薄明りで、室内が、あらためて眺めまわされたとき、素六の身体も、紅子の姿も見当らなかった。それに代って、大きな図体の男が、長々と伸びていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それでは壮健たっしゃで参られよ。今に到ってあらためて申し上げるほどのこともない。ただ身体を気をつけられい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は既に小学校に這入はいる前に色々と高等な学科を習っていたのであるが、小学校では五十音からあらためて習い、単語・連語・その他色々のものを掛図について習った。
自分に対する罵詈ばりのために、カッとなってしまって、青年の顔も少女の顔も、十分眼に入らなかったが、今は少し心が落着いたので、二人の顔を、あらためて見直した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そればかりのことに現在の生活をあらためられないのかという声と、そればかりのことに現在の平和を破壊するのかという声と、その二つの声が彼の心の内部なかで戦った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一たびは言い放して見たが、思い直せば夫や聟の身の上も気にかかるのでふたたび言葉をあらためて
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
富江が不平を言出して、三人にあらためて付けようと騒いだが、それは信吾がなだめた。そして富江は遂に消さなかつた。森川は上衣の鈕をかけて、乾いた紛帨ハンケチで顔を拭いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ヤレ寐過ねすごしたか……」と思う間もなく引続いてムクムクと浮み上ッた「免職」の二字で狭い胸がまずふさがる……芣苢おんばこを振掛けられた死蟇しにがいるの身で、躍上おどりあがり、衣服をあらためて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
篠田は語り来つて、急に言葉をあらため「余り自身のことを語り過ぎましたが、其よりも貴嬢あなたの将来こそ問題でせう、実は先頃剛一君とも一寸御話致したことでありましたが」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
芳子さんを、一つの椅子にお掛けさせになると、先生は少しあらたまった口調で仰有いました。
いとこ同志 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
死んでから急いだつてなんにならう……だがこんなことを考へるのも可笑おかしい、うん、可笑しい。それにしても、——私はまたあらためて思ふのであつた、弟は既に旅立つてゐる。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
第二の見慣れぬ旅人 ああ、私は、まさしく地平線に日の光りを浴びながら、憂鬱の色をあらためずにいる黒い木立であると思いました。而してそれを目標に疲れた足を早めました。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宵の程あつらへ置きし酒肴しゆこう床間とこのまに上げたるを持来もてきて、両箇ふたりが中に膳を据れば、男は手早くかんして、そのおのおの服をあらたむるせはしさは、たちまきぬり、帯の鳴る音高く綷※さやさやと乱れ合ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ながら」といひて「なほ」と受けたるもうるさく、また「なびく」の語も「ゆらぐ」「動く」などにあらため候方山吹に適切かと存候。この歌巧ならんとして言葉づかひ無理に相成候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
六助はいまあらためて、お豊が他国人、ついこのごろ来た人であるかのように合点がてんして
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
他に護送避難のいとまがない時は、一時囚人を解放し、二十四時間内にあらためて監獄または警察署に出頭させるという規則があって、石出流の応急処分が今日においても是認せられている。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
これまで付いて来た巡査はここから後戻りをしてあらためて護衛兵を一人付けてくれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
馬琴と名乗る若者は、ここで一膝敷居の内へ這入ると、またあらためて頭を下げた。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
同時どうじ滊角きかく短聲たんせい三發さんぱつ蒸滊機關じようききくわんひゞきハッタとあらたまつて、ぎやく廻旋くわいせんする推進螺旋スクルーほとり泡立あはだなみ飛雪ふゞきごとく、本船ほんせんたちまち二十米突メートル——三十米突メートル後退こうたいしたとおもつたが、此時このときすでにおそかつた
日本は古への倭奴わどなり。(中略)咸享元年使を遣はして、高麗を平ぐるを賀す。のちやゝ夏音かおんを習ひて倭の名をにくみ、あらためて日本と号す。使者自ら言ふ。国日出づる所に近きを以て名と為すと。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
今度は題を「見えざる後より」とも、「見えざる目」ともあらためた。矢張り書けなかつた。直ぐ前の井戸傍へ子供が大勢集つて、何かガヤ/\わめき始めた。湯村は筆を投出して、ゴロリと寝た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)