うま)” の例文
したがってしっかりした御話らしい御話をしなければならない訳でありますが、どうもそううまく行かないからはなはだ御気の毒です。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学者が聞いてあきれらあ。筆尖ふでさきうまい事をすりゃあ、おたなものだってお払箱にならあ。おう、そうそう。お玉は三味線が弾けたっけ。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
さういふ場合にはなるべく注意して塩梅あんばいうまくするとか、または病人の気短く請求する時はなるべく早く調製する必要も起つて来る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
余程うまい物 と見えるです。そういう旨い肉を拵えるために秋の末に沢山殺すので、秋は家畜を殺すに大変好い時期であるそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
上野うへの戦争後せんそうご徳川様とくがはさま瓦解ぐわかい相成あひなりましたので、士族しぞくさんがたみな夫々それ/″\御商売ごしやうばいをお始めなすつたが、おれなさらぬからうまくはまゐりませぬ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
隅のとうの編み方はうまいものだ。これなら隅がいたむことはないだろう。実用が招いた美しさだ。革がなくなってかえってよくなったね。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もう海水浴も過ぎた頃なのでうまい魚を直ぐ食はせるところも見当らず、逝春ゆくはるに和歌の浦にて追ひ付きたりといふ句境にも遠いので
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
値段の標準を知るにはデパートがよいとしても、好い物を買い、うまいものを食べ度いと思えば、信用のある中小店の方がよろしい。
ニュウ・ヘブリディスから来た当座は、うちの食事がうまいとて無闇に食過ぎ、腹が凄くふくらんで了って苦しんだことがあったが。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
犬を利用する外無いからうまく行けば詰る所君の手際だ、犬に目を附け初めたのは君だから、夫にしてもやって見るまでだまって居たまえ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日本酒は勿論もちろん、ウォツカのような強い酒でも、そう云う風にぐい飲みをしないとうまくないと云うのだから、実にあきれた胃袋である。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
例えばチベットという国の名は Tibet でありますが、「ティ」(ti)という音は日本語にないので、どの音にもうまはまらない。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
斧田が火をつけてやると、老人はうまそうに頬をへこませて二三服ふかしたが、すぐに火をもみ消して外套のポケットへしまった。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もし自分じぶん文字もんじつうじてゐたなら、ひとつ羊皮紙やうひしれて、それにしたゝめもしよう。さうして毎晩まいばんうんとうまものべてやる。
妹は姉の食ふ分はいつさううまかるべしと想ひて、庖丁にてその姉を殺せしに、たちまちに鳥となり、ガンコ、ガンコと啼きて飛び去りぬ。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
にぎやかじゃあるし、料理が上手だからおかずうまいし、君、昨夜ゆうべは妹たちと一所に西洋料理をおごって貰った、僕は七皿喰った。ははは
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まる淑女レディ扮装いでたちだ。就中なかんづく今日はめかしてをつたが、何処どこうまい口でもあると見える。那奴あいつしぼられちやかなはん、あれが本当の真綿で首だらう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
子が向こうを向いているのを、肉をもって——肉はまずうまいものとしてある——向こうを向いているものを引き寄せる意である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
庄造はきょうあることに思って、うちの中から食物を持って来て投げてやった。と、狸はうまそうにそれを食ってからってしまった。
狸と俳人 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その地割じわりがその筋でやかましく、いろいろ干渉されますので、土地の世話役はうまめ合いを附けるのが骨が折れたものです。
 (太吉は無言で首肯うなずく。重兵衛はすしを一つ取ってうまそうに食い、茶をのむ。旅人は巻烟草まきたばこを出して吸いはじめる。ふくろうの声。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「小三治さんはうまくなったネ。今のおのが姿を花と見てという所の見をズッと下げて、てエエを高く行く所なぞ箔屋町(小三郎)生き写しだ」
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
当時毛沼博士は整形外科の医員に友人があり、うまく頼み込んで、妻が出産をする前夜に、始終整形外科に出入していることが判明しました。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それと同時に草原を物狂わしく走っていた間感じていた、うまく復讐を為遂しとげたと云う喜も、次第につまらぬものになって来た。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると、「これは非常にうまい。」と言ってその素麪そうめんを食べてしまった。そうして、「よろしく頼む。」と言って、幽霊は帰って行ってしまった。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
タロコ亭は横丁のどんづまりにある小さな中華飯店で、飾窓にはうまそうな鶏の丸焼きだの豚の脚などがぶら下っていました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
どうかして舞台でうまい事をしたのを、劇評家が見て、あれは好く導いて発展させたら、立派なものになるだろうにと、おしんで遣ることもある。
「おい、かあさん、これはとてもうまいぞ!、もっともらおう!」といったが、べればべるほど、いくらでもべられるので
「君、この葡萄酒はうまいだろう。こいつを一人で一本ばかりやっつけると、愉快な気持になって踊り出したくなるよ。君もっとやらないか。」
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
れば今僕は君の進退を賛成して居るから、君もまた僕の進退を賛成して、福澤は引込ひっこんで居る、うまいといって誉めてこそれそうなものだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
祕密喰ないしよぐひのうまさは母にも祖母にも告げなかつたが、柿のために腹がいたむといふことはなかつたので、不斷の戒めをいくらか輕んずる氣になつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
その時又金花の眼の前には、何だか湯気の立つ大皿が一つ、まるで卓から湧いたやうに、突然うまさうな料理を運んで来た。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私が何かあの人の氣の向くやうにうまいことを考へて、見事にやらせて見せます。本當にまあ私、何かあなたのおためになるやうなことがしたいわ。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
長庵は座敷へ胡座を組み、煙管きせるで煙を吹かしながら、うまいことづくめの大平楽をそれからそれと述べ立てるのであった。
村井長庵記名の傘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うまかった。ツグミ云々うんぬんとあるのは漱石氏が胃潰癰いかいようを再発して死を早めたのはツグミの焼鳥を食ったためだとかいう話があったのによるのであろう。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一方甜瓜まくはうりうまさうに熟して居る畠の間の細い路を爪先上りにだら/\とのぼつて行くと、丘と丘との重り合つた処の、やゝ低くくぼんだ一帯の地に
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
侯爵はうまいことを言つた。「智」だの、「仁」だの、そんな結構な物の持合せの無い男には「勇」で納得させるに限る。
七色のにじを望みながら、悠然と御帰館相成ろうという寸法であったが、問屋がそううまく卸してくれぬことがあって、一度ひでえ目に遭ったことがある。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうでなくても一つのものをよく玩味がんみしてそのうまさが分かれば他のものへの食慾はおのずから誘発されるのである。
が、壱岐殿坂時代となると飛白の羽織を着初きだして、牛肉屋の鍋でも下宿屋の飯よりはうまいなどと弱音よわねを吹きした。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
うむ、うむ、と逸作は、うまいものでもべる時のような味覚のうなずきを声に立てながら息子の手紙を読んで居る。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うまく行ったところで、その恐怖を隠しているに過ぎない。僕は正直な話をするがね、一体これまで歴史に書いてある臨終の心理というものはみな偽物ぎぶつだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
僕は万幅まんぷくの力を籠めて此場合に於ける令夫人の心理状態を描いて見ようと思ふが、うまくゆくか如何どうか、心元ない。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
そんな仕事のあいだに一本の煙草をすううまさ、軽い冗談じょうだんのやりとりをするしたしさは、彼の持つ社会的などこにも見当らない親密なものばかりであった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それから少し手際が面倒ですけれども醤油と味淋と水飴とを煮詰めて照炙てりやきにしても結構ですがあたらしい鰯をって上手に取扱わないと崩れてうまく参りません
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ある先生はショボショボ降る雨でも飲んでくれようと考えたものか、空を仰いで大口開けて突立っているが、雨はなかなかうまく口中へ降り込んではくれぬ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ほとんど何年ぶりかで食った汽車弁当の味も、今もなお舌なめずりせずにはいられないうまさで思い出された。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
今も凶年に竹の実をジネンコと称えて採り食らうは自然粳じねんこうの義で、余りうまい物でないそうだからこの世界ではとかく辛労せねば碌な物が口に入らぬと知れる。
我は前の日の酒のうまかりしを稱へしかど、翁自ら瓶取り出して、ふるふ痩手にて注ぎたれば、これさへあだなる望となりぬ。この日も少女は影だに見せざりき。
善三郎 ヘッ、先刻さっきの奴ですか。まだ、見付かりゃしませんが。ご安心なさいましうまいことになりました。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)