掛物かけもの)” の例文
金の事なんぞ云い出せる訳のものじゃないんだから、けっして御心配には及びませんと安心させて、掛物かけものだけ帰して来ましたと云う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのすすけた天照大神あまてらすおおみかみと書いた掛物かけものとこの前には小さなランプがついて二まい木綿もめん座布団ざぶとんがさびしくいてあった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
義兄にいさんのうたほんをおみなさるのと、うつくしい友染いうぜん掛物かけもののやうに取換とりかへて、衣桁いかうけて、ながら御覧ごらんなさるのがなによりたのしみなんですつて。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ジイボルトは蘭領印度インド軍隊の医官にして千八百二十三年(文政ぶんせい六年)より三十年(天保てんぽう元年)まで日本に滞在し絵画掛物かけものおよそ八百種を携へ帰りしといふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どういふわけかといふと、其頃そのころわたくし怪談くわいだんの話の種子たねを調べようと思つて、方々はう/″\つて怪談くわいだん種子たね買出かひだしたとふのは、わたくしうちに百幅幽霊ぷくいうれい掛物かけものがあるから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
で私は自分の舎にあってまず釈迦牟尼如来の掛物かけものを掛け、その前に釈迦牟尼如来の仏舎利ぶっしゃりを納めてある舎利塔を置き、大きな銀の燈明台を三つ列べてバタの燈明を上げ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかしこんな古い掛物かけものはとてもこれと同じようなものは出来ません。すぐに偽物ということが分ります。次にあるのは四枚のこの名画です。あの壁に掛けてある有名な絵は偽物です。
彼は庭土をみがいていた、そして百つぼのあふるる土のかなたに見るものはただ垣根だけなのだ、垣根がとこになり掛物かけものになり屏風びょうぶになる、そこまでひろげられた土のうえには何も見えない
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
蔵書を始め一切の物を売却しようと云うことになって、ず手近な物から売れるだけ売ろうと云うので、軸物じくもののような物から売り始めて、目ぼしい物を申せば頼山陽らいさんよう半切はんせつ掛物かけものきんに売り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから、やっぱり用意してあったつい掛物かけものとこにかけ、花瓶を置き、二枚の座蒲団ざぶとんを正面に並べ、その一つに、盛装の花嫁をチンと据えた。倒れぬ様に花嫁御のお尻に、トランクの支柱棒つっかいぼうだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その日自分の書斎には、梅の花がけてあつた。そこで我々は梅の話をした。が、千枝ちえちやんと云ふその女の子は、この間中あひだぢう書斎のがく掛物かけもの上眼うはめでぢろぢろ眺めながら、退屈さうに側に坐つてゐた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
尊氏は灯をかざして「はて?」と壁の掛物かけものにむかいあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出し治助どん去月の幾日頃いくかごろだの治助中市と思ひました桃林寺たうりんじ門前の佐印さじるしか三間町の虎公とらこういづれ此兩人の中だと思はれますといへば十兵衞成程々々なるほど/\かうつと十日は治助どんは燒物やきもの獅子しし香爐かうろ新渡しんとさらが五枚松竹梅三幅對ふくつゐ掛物かけもの火入ひいれ一個ひとつ八寸菊蒔繪きくまきゑ重箱ぢうばこ無銘むめいこしらへ付脇差二尺五寸瓢箪へうたんすかしのつば目貫めぬきりようの丸は頭つのふち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
田舎巡いなかまわりのヘボ絵師じゃあるまいし、そんなものは入らないと云ったら、今度は華山かざんとか何とか云う男の花鳥の掛物かけものをもって来た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
掛物かけものも何も見えぬ。が、ただその桔梗の一輪が紫の星の照らすようにすわったのである。この待遇のために、私は、えんを座敷へ進まなければならなかった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひげするんではない、吾身わがみいやしめるんだ、うすると先方むかうでは惚込ほれこんだと思ふから、お引取ひきとり値段ねだんをとる、其時そのとき買冠かひかぶりをしないやうに、掛物かけものきずけるんだ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ゴンクウルは歌麿が蚊帳美人かちょうびじん掛物かけものにつきて、その蚊帳の緑色りょくしょく女帯おんなおび黒色こくしょくとの用法の如き全く板画にのっとりしものとなせり。肉筆画の木板画に及ばざるの理由は布局ふきょくの点なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たゞし、此方このほう掛物かけものまへに立つて、はあ仇英きうえいだね、はあ応挙だねと云ふ丈であつた。面白おもしろかほもしないから、面白い様にも見えなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
掛物かけものにしてふるびがき時代がきますによつて、せがれ成人せいじんいたしませう、そればかりが楽しみでございます、何分なにぶんどうかお世話を願ひますと、親はそれほどに思つてゐるのに
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
師匠ししやうのおとよ縁日えんにちものゝ植木鉢うゑきばちならべ、不動尊ふどうそん掛物かけものをかけたとこうしろにしてべつたりすわつたひざの上に三味線しやみせんをかゝへ、かしばちで時々前髪まへがみのあたりをかきながら、掛声かけごゑをかけてはくと
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
揚物あげものわかるか、揚物あげものてえと素人しらうと天麩羅てんぷらだと思ふだらうが、なげえのを漸々だん/″\めたのを揚物あげものてえのだ、それから早く掛物かけものを出して見せなよ、やぶきアしねえからお見せなせえ
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
道具類だうぐるゐせきばかりつて、金目かねめにならないものは、こと/″\はらつたが、五六ぷく掛物かけものと十二三てん骨董品丈こつとうひんだけは、矢張やは氣長きながしがるひとさがさないとそんだと叔父をぢ意見いけん同意どういして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ掛物かけもの屏風びやうぶひとつも見當みあたらないことだけたしかめて、なか這入はいつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)