うれひ)” の例文
遊佐は実にこの人にあらず、又この覚悟とても有らざるを、奇禍にかかれるかなと、彼は人の為ながら常にこのうれひを解くあたはざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さいはひにして一人ひとりではひきれぬほど房々ふさ/\つてるのでそのうれひもなく、熟過つえすぎがぼて/\と地にちてありとなり
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
れぢや基督ハリストスでもれいきませう、基督ハリストスいたり、微笑びせうしたり、かなしんだり、おこつたり、うれひしづんだりして、現實げんじつたいして反應はんおうしてゐたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこには二十燭ほどの電気がついてゐて、その戸を排して中に入れば、何んな秘密な話をしようが、外からそれを立聞きされるうれひは少しもなかつた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「さうでござんすね」勘次かんじはぐつたりと俛首うなだれて言辭ことばしりきとれぬほどであつた。ふかうれひ顏面かほしわつよきざんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
是を以つて知る、縦令たとひ罪過に拘泥するも、運命の解釈さへ誤ることなければ、決つして命数の弊に陥るのうれひなきを。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
何故なにゆゑといはんも事あたらしや、お互に後世に於て、鼻突合はすうれひなければなり。憂はむしろ、に作るをよしとす。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
父は間もなく用事が出来て行つてしまひ、私も子供心にうれひを長く覚えては居ず、椽先ゑんさき手鞠てまりをついて居り升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
その夜、私の寢床ねどこには何のうれひもなく、獨りぽつちの部屋にも何の恐怖もなかつた。疲れと滿足とで私はぐつすり眠つてしまひ、眼が醒めた時は全く明るくなつてゐた。
をつとのおのれをよくをさめて教へなば、此のうれひおのづからくべきものを、只一〇かりそめなるあだことに、女の一一かだましきさがつのらしめて、其の身のうれひをもとむるにぞありける。
るにてもあまりのうつくしさに、ひととなりてのちくにかたむくるうれひもやとて、當時たうじ國中こくちうきこえたる、道人だうじん何某なにがし召出めしいだして、ちかう、ちかう、なんぢよく可愛かはゆきものをさうせよ、とおほせらる。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼が進歩党員であるが為に、鉱毒問題がやゝもすれば党派問題と見なされるうれひがあつた。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
〔譯〕いきどほりを發して食をわする、志氣しきかくの如し。たのしんで以てうれひを忘る、心體しんたい是の如し。らうの將に至らんとするを知らず、めいを知り天を樂しむものかくの如し。聖人は人と同じからず、又人とことならず。
あらたなり流離のうれひ
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あらたなり流離のうれひ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
にがきうれひに。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
天もあはれみ給ふにや風雨のうれひなく十日餘りもたち川崎宿かはさきじゆくへ着て御所刑場おしおきば是より何程なにほどあるやとたづねしに品川の手前に鈴ヶ森と云所こそ天下の御仕置場おしおきばなり尤も二ヶ所あり江戸より西南の國にて生れし者はすゞもりまた東北とうほくの國の生れなれば淺草あさくさ小塚原こつかはらに於て御仕置に行はるゝと云由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いづくより 来ませし仏か 敷島の 大和の国に いほりして 千年ちとせへにける けふ日まで 微笑ゑみたまふなり 床しくも 立ちたまふなり ほのぼのと 見とれてあれば 長き日に 思ひ積みこし うれひさり 安けくなりぬ 草枕くさまくら 旅のおもひぞ ふるさとの わぎに告げむ 青によし 奈良の都ゆ 玉づさの 文しおくらむ 朝戸出の 旅の門出に 送りこし わがみどりも 花咲ける 乙女とならば 友禅の 振袖ふりそで着せて 率ゐ行かむぞ このみ仏に
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
夫は心たけく、人のうれひを見ること、犬のくさめの如く、唯貪ただむさぼりてくを知らざるに引易へて、気立きだて優しとまでにはあらねど、鬼の女房ながらも尋常の人の心はてるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
といつて、私を椽先ゑんさきまで手を引いて行き、そばすわらせ柔和に私のうれひもといを問ふてくれた父に私は心をすつかり打あけて、どうぞ決心のよく守れる仕方を教へてと頼み升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
勘次かんじこゝろからやうや瘡痍きずいたはつた。かれ平生いつもになくそれを放任うつちやつてけば生涯しやうがい畸形かたわりはしないかといふうれひをすらいだいた。さうしてかれ鬼怒川きぬがはえて醫者いしやもと與吉よきちれてはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
にがきうれひに。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
口惜くちをしとの色はしたたかそのおもてのぼれり。貫一は彼が意見の父と相容あひいれずして、年来としごろ別居せる内情をつまびらかに知れば、めてその喜ぶべきをも、かへつてかくうれひゆゑさとれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)