愚鈍ぐどん)” の例文
後世こうせい地上ちじやうきたるべき善美ぜんびなる生活せいくわつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも壓制者あつせいしや殘忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどほらしむるところの、まど鐵格子てつがうしのことなどである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
見たところ十五六くらゐには踏めますが、柄が大きい割に年は若いらしく、何んとなく愚鈍ぐどんらしさが、ひどく相手を苛立いらだたせます。
が、中根なかね營庭えいていかがや眞晝まひる太陽たいやうまぶしさうに、相變あひかはらずひらべつたい、愚鈍ぐどんかほ軍曹ぐんそうはうけながらにやにやわらひをつづけてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
最も愚鈍ぐどんなるもの最もかしこきものなり、という白いくいが立っている。これより赤道に至る八千六百ベスターというような標もあちこちにある。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
万一人造人間の愚鈍ぐどんな進軍だけが続くようでは、原地人軍は、その間に人造人間の頭の上をとび越えて、わが陣営へ攻めこんでくるであろう。
今まで見たこともない世にも愚鈍ぐどんな、不純な、腐爛した人間が私に結び付けられ、法律により、社會によつて私の半身と呼ばれてゐるのです。
虎男とらおとこはいかにも愚鈍ぐどんな調子でそんなことをつぶやくと、虎の首をスッポリかぶり直して、ノロノロと立ち去って行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
の人は妾にいつも恥をかかすのです、彼の人が愚鈍ぐどんなために、妾は、妾が良妻であるにもかかわらず世間から誤解をまねくようなことになるんだわ。」
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
こんな世の中に、無智でただよっているほど恐いことはない。於通は、田舎もいや、田舎人もきらい、なぜといえば、余りな愚鈍ぐどんを、見ていられないからです。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楕円形だえんけいの中の肖像も愚鈍ぐどんそうは帯びているにもせよ、ふだん思っていたほど俗悪ではない。裏も、——ひんい緑に茶を配した裏は表よりも一層見事である。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
愚鈍ぐどんという言葉とは、それぞれ二つの意味をもっており、その一つの意味では、神の国において同義語であり、もう一つの意味では、悪魔の国において同義語であるが
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
如何いかに思ひても女房にはされずさて當惑たうわく千萬と思案しあんすれども元來愚鈍ぐどんなる生れ付故工夫も出ずこまり切していを見てお兼は今更斯なりては奉公も成難なりがたし若此儘このまゝきれる御心なら手當てあて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
愚鈍ぐどんではあるが子供こどもときかられといふ不出來ふでかしもかつたをおもふとなに殘念ざんねんのやうにもあつて、まこと親馬鹿おやばかといふのであらうが平癒なほらぬほどならねとまでもあきらめがつきかねるもので
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
赤羽君はこの通り、愚鈍ぐどんのような聡明そうめいのような男だ。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
愚鈍ぐどんな虫の本能よ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
後世こうせい地上ちじょうきたるべき善美ぜんびなる生活せいかつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも圧制者あっせいしゃ残忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどおらしむるところの、まど鉄格子てつごうしのことなどである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
側で精一杯玩具を散らばして遊んでゐる兒は、大柄でお人形のやうな造作をした顏ですが、何んとなく愚鈍ぐどんさうでもあります。
しかし総監閣下が犠牲ぎせいになられたのでは、何にもならない。本庁の連中の愚鈍ぐどんさに、帆村はあきれるほかなかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それに私は、彼女と結婚した——愚鈍ぐどんな卑屈な、目の見えぬ莫迦者ばかものだつたのだ。私は! 私の罪は、——いや、誰に話しをしてゐるか忘れないやうにしなければ。
生れつき愚鈍ぐどんのために、何者かに強迫されて、江戸くんだりまで、連れて行かれ、つい五、六日前、神隠かみかくしにったように、ボンヤリと、この小屋へ戻って来たのだ
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、性来愚鈍ぐどんな彼は、始終朋輩のなぶり物にされて、牛馬同様な賤役せんえきに服さなければならなかった。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぞ待にける爰に飯焚めしたきの宅兵衞と云は桝屋ますや久藏が豐前ぶぜん小倉に居る時よりの飯焚にて生得しやうとく愚鈍ぐどんなる上最もしはく一文の錢も只はつかはず二文にして遣はんと思ふ程の男なれども至極しごくの女好にて年は五十を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せておまへさまは何故なぜそのやうに御心おこゝろよわいことおほせられるぞ八重やへ元來もとより愚鈍ぐどんなり相談はなしてからが甲斐かひなしとおぼしめしてかれぬ御使おつかひも一しんは一しん先方かなたさまどのやう御情おなさけしらずでらうともつらぬかぬといふことあるやうなしなにともしておのぞ屹度きつとかなへさせますものを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貴方あなたがもしわたくしが一ぱん無智むちや、無能むのうや、愚鈍ぐどんほどいとうておるかとってくだすったならば、また如何いかなるよろこびもっ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お此が殺された今日、肝心の金次郎が此袷を着てゐなかつたといふのは重大なことですが、愚鈍ぐどんらしい下女の言葉を、何處まで信じて宜いかわかりません。
わたくしはこの小娘こむすめ下品げひんかほだちをこのまなかつた。それから彼女かのぢよ服裝ふくさう不潔ふけつなのもやはり不快ふくわいだつた。最後さいごにその二とうと三とうとの區別くべつさへもわきまへない愚鈍ぐどんこころ腹立はらだたしかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「どこが悪いか、ひとにかねばわからぬほど、そち自身の愚鈍ぐどんが、まだ気づかぬか。それも見えぬものに、何で、真の剣が観えよう、一刀流の極意ごくいの印可など、沙汰さたのかぎりである、断じて、そちにはまだ許せない」
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴方あなたわたくしが一ぱん無智むちや、無能むのうや、愚鈍ぐどんほどいとふてるかとつてくだすつたならば、また如何いかなるよろこびもつ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
振り返る二十二三の若い男、緊張した青い顏が、間伸びがして少し長く、愚鈍ぐどんさうなうつろな眼、一應若旦那型の良い男——とは踏めますが、あまり嬉しくない人物です。
見たところ背の低い脂肥りの五十前後、顏は死の苦惱もなくおだやかで、何んとなく愚鈍ぐどんにさへ見える表情です。恐らく物慾と女漁をんなあさり以外は、何んの興味も持たない人柄でせう。
たゞ醫者いしやとして、邊鄙へんぴなる、蒙昧もうまいなる片田舍かたゐなかに一しやうびんや、ひるや、芥子粉からしこだのをいぢつてゐるよりほかに、なんこといのでせうか、詐欺さぎ愚鈍ぐどん卑劣漢ひれつかん、と一しよになつて、いやもう!
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
振り返ると二十二三の若い男、緊張した青い顔が、間伸びがして少し長く、愚鈍ぐどんそうなうつろな眼、いちおう若旦那型の好い男——とは踏めますが、あまり嬉しくない人物です。
ただに医者いしゃとして、辺鄙へんぴなる、蒙昧もうまいなる片田舎かたいなかに一しょうびんや、ひるや、芥子粉からしこだのをいじっているよりほかに、なんすこともいのでしょうか、詐欺さぎ愚鈍ぐどん卑劣漢ひれつかん、と一しょになって、いやもう!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
薄汚ない身扮みなりと、グロテスクな面を持つた、界隈かいわいの嫌はれ者で、萬屋治郎兵衞は、五十前後の肉の厚い、月代さかやきの光る、愚鈍ぐどんらしい癖に、何事にも一と理窟こねなければ氣の濟まぬ男。
お榮のさり氣ない言葉のうちに、何やら重大なものを平次は感じないわけには行きません。二十歳のお榮は、色白で、豐滿で、存分に色つぽくて、そして少しばかり愚鈍ぐどんらしくさへ見えたのでした。
平次はこの愚鈍ぐどんに近い乳母が恐ろしくさへなりました。
妙にこの男を愚鈍ぐどんらしく見せます。