ひろ)” の例文
袋だけはそまつなごわごわした物を入れてあるくために、きぬや布以外の多くの材料をつかったのが、今でもまだひろくもちいられている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「こっちへおよんなさい。寒いから。」と母親のお豊は長火鉢の鉄瓶てつびんおろして茶を入れながら、「いつおひろめしたんだえ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
四百年前西洋に親鸞しんらん上人を生じ、日本にマルチン・ルーザを生じ、上人は西洋に行なわるる仏法を改革して浄土真宗をひろ
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「されば、劉皇叔りゅうこうしゅくが、この地に新政をいてひろく人材を求めらるる由をはるかに承り、もしご縁あらばと来てみたわけです」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
知能ちのうを啓発し、徳器を成就し」、進んでは「公益をひろめ、世務を開く」ための生活、それがすなわちわれわれの理想的生活というものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
洛中らくちゅうに一人の異形いぎょう沙門しゃもんが現れまして、とんと今までに聞いた事のない、摩利まりの教と申すものを説きひろめ始めました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
キリストの弟子として、僕は、キリストの純粹な、惠み深い慈しみのある教義を採用する。僕は、その教義を説く。僕は、それをひろめることを誓ふ。
まずお手を上げられい、本来武道を一藩に止どめるというが無法、優れた術なれば出来るだけ世にひろめて、流儀を盛んならしむるが剣法の道でござる。
半化け又平 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの聖徳太子が仏教をさかんにひろめたもうてからは、代々のみかどがみな法師を尊信し、大寺だいじ大伽藍だいがらんを建てさせ、天下の財用を尽くして御信心があつかったが
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その髭は森の中なるインドびとをも驚かすばかりに高く、かつ高きに從ひていよ/\伸びひろがれり 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
別に切支丹をひろめるわけでもないから近頃は放ってあるが、昔はなかなかうるさい男で、江戸へ出る時は何千両の金を持って来たが、宗旨の事で大方はつかい果し
米国の勃士敦ボストンにペン先きの製造業者がある。数多い同業者を圧倒おしたふして、店のペン先きをひろめようとするには、何でも広告を利用する外には良い方法は無かつた。
さてひろめまするところは神慮しんりょ神事かみごとなり、国は坂東ばんどうの総社常陸ひたちの国、鹿島大神宮の事触れでござる。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けだしそれ、文字・文章は声音の記号、言語の形状にして、古今を彼此ひしを通じ、約諾やくだくしるし、芸術をひろむる、日用備忘の一大器なり。まことに言語と異なるべからず。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
朕薄徳を以てかたじけな重任ぢゆうにんけたり。未だ政化をひろめず寤寐ごみにも多くづ。いにしへの明主は皆先業をくしてくにやすらかに人楽しみわざわひ除かれさきはひ至れり。何の政化を修め能く此の道をいたさむ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
わたしは千葉の者であるが、馬琴ばきんの八犬伝でおなじみの里見の家は、義実よしざね、義なり、義みち実尭さねたか、義とよ、義たか、義ひろ、義より、義やすの九代を伝えて、十代目の忠義ただよしでほろびたのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中日は村総出そうでの草苅り路普請みちぶしんの日とする。右左からほしいままに公道をおかした雑草や雑木の枝を、一同らした鎌で遠慮会釈えしゃくもなく切払う。人よく道をひろむを、文義もんぎ通りやるのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼の主著『正法眼蔵しょうぼうげんぞう』の第一章は、この廃院において、右のごとき社会的環境の下に、書かれたのであった。彼は序していう、——自分は宋より帰って真理をひろ衆生しゅじょうを救うのを念とした。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
國々へひろめんとて又々諸國武者修行むしやしゆぎやうこゝろざし旅立たびだちせんと云に半四郎は是をとゞめ最早御老年の御事此上の御修行にもおよぶまじければ是までの如く當所たうしよおはして以後は月雪花つきゆきはなながめともとなし老を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
髪をれざる働きに俊雄君閣下初めて天に昇るを得て小春がその歳暮くれ裾曳すそひひろめ、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げならぬ大吉が二挺三味線にちょうざみせんつれてそのおり優遇の意をあきらかにせられたり
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
私どもが西洋料理を世にひろめると西洋食品が沢山売れて来ます。食品屋は大きに悦んで益々商売に勉強すれば殊勝ですが、益々悪い事をして暴利をむさぼるようではかえって西洋料理の発達を妨げます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
トリシバというのが京都周辺の異名であって、これが意外にも東北のひろい区域に分布している。中国は一般にフクギというようである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此方こつちへおよんなさい。寒いから。」と母親のおとよ長火鉢ながひばち鉄瓶てつびんおろして茶を入れながら、「いつおひろめしたんだえ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして秋が来たとき、高原の西の方にある村へ、維新の戦で傷ついた青年の一人が帰ったという噂がひろまった。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(兵を進めるには、神速を規矩きくとなす、とか申します。——法をおひろめになるには、何を以て規矩としますか)
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われにしたがひて物学ばむともがらも、わが後に、またよき考へのきたらむには、かならずわが説にななづみそ。わがあしきゆえを言ひて、よき考へをひろめよ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
売薬師が看板を金にして大いに売りひろめ、山師の帳場に空虚なる金箱を据え、学者の書斎に読めぬ原書を飾り、人力車中に新聞紙を読みて宅に帰りて午睡ごすいを催す者あり
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今では百合若ゆりわかと名乗っているそうです。ですからあなたも御気をつけなさい。泥烏須デウスも必ず勝つとは云われません。天主教てんしゅきょうはいくらひろまっても、必ず勝つとは云われません。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
年々に三都へ出して売りひろめた日には、少なくとも天下の薬価の三分の一を減ずることができる、それのみならず、木曾地方は山谷の間にあって、穀物を生ずることが少ない
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
非常にひろく多く且つ美しく変化して分布している、花売竜神はなうりりゅうじんなどと呼ばれる話の型があって、是だけはどうしてこのように興味がもたれ
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「噂はすっかりひろまっている、本宿のほうでも評判になっているそうだが、加島家へはどう挨拶するつもりだ」
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
石菖せきしょうの水鉢を置いた欞子窓れんじまどの下には朱の溜塗ためぬりの鏡台がある。芸者がひろめをする時の手拭の包紙で腰張した壁の上には鬱金うこんの包みを着た三味線が二梃にちょうかけてある。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さりながら、世間せけんの有様を考ふるに、今は物ごと新奇を好む風俗なれば、この学風も儒仏の道の栄えたるごとく、だんだんとひろまり行くことであらうと思はれる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同時に又いつかお民の名は一村の外へもひろがり出した。お民はもう「稼ぎ病」に夜も日も明けない若後家ではなかつた。いはんや村の若衆などの「若い小母をばさん」ではなほ更なかつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若しその方法もなく、また身命を顧みずしても道に進むという程の勇猛心が起らないならば、ただそのままで一心に念仏をするがよい。阿弥陀様は左様な罪人の為にひろく誓いをおたてになったのだ。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
資料を古くひろく求めてみればみるほど輪廓りんかくは次第に茫漠ぼうばくとなるのは、最初から名称以外にたくさんの一致がなかった結果である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まちには騒ぎがひろまっているものと思ったが、玄智老はなにも知らないようすで、——友人と口論のうえ誤ってけがをした、ということを疑うようすもなかった。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天文地理の学は言ふに及ばず、器械の巧みなること人の目を驚かし、医薬製煉せいれんの道ことにくはしく、そのふみどももつぎつぎと渡りきたりて世にひろまりそめたるは、すなわち神の御心であらうでござる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あなたは天主教てんしゅきょうひろめに来ていますね、——」
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吉日きちにちをえらむひろめや菊日和きくびより
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
隠れ座頭はひろく奥羽・関東にわたって、巌窟の奥に住む妖怪ようかいと信ぜられ、相州の津久井つくいなどでは踏唐臼ふみからうすの下に隠れているようにもいっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
噂のたねはそのおみちで、参吉とあやしいから茂兵衛がやきもちをやくとか、参吉がおみちを追い出そうとしているとか、まったく反対な陰口がひろまっていた。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
田舎いなかと謂っても勿論もちろん富豪の家であろうが、こうして自慢の手造りを、京まで持参しようとするのだから、もうこの頃には貯蔵のふうひろく行き渡り
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二人がいい仲になっている、といううわさはそれからひろまった。いろいろなうわさが取り交わされ、いっとき「もくしょう」の存在が大きく、蒸気乗りたちを圧迫した。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
是が日本海の沿岸だけにひろく伝わって、東や南に面した海辺には知られていないのは、やはり海運史の問題であろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二人がいい仲になっている、といううわさはそれからひろまった。いろいろな評が取り交わされ、いっとき「もくしょう」の存在が大きく、蒸気乗りたちを圧迫した。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかもかくのごとき微小なる発明でも、やはり山路海辺を伝わって、ひろくその恩恵を流布させていたかと思われる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こうして、「しっつぁんはすっかり役者(賢いというほどの意味)になった」といううわさひろまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その邪推の当不当は別として、こんな有様ではよし結構な計画でも、到底感化は行われず、恩恵はひろく及ばない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こうして、「しっつぁんはすっかり役者(賢いというほどの意味)になった」といううわさひろまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)