工合ぐあい)” の例文
あのときは一月ほども野宿したという、今度もこの工合ぐあいでは一月ぐらいは野宿しなくてはなるまい、大変なことになった、と思った。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
しかしそんなことよりも見も知らぬ人のまえでこんな工合ぐあいに気やすくうたい出してうたうとぐにそのうたっているものの世界へおのれを
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有おっしゃった時の、手附、顔色かおつきに体の工合ぐあいをお考えなすって下さいまし。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はその羽織の色に親しみがあるように感じたので、顔をあげて見ると、その横顔から髪の工合ぐあいが、広小路で見た女そっくりであった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土竜……けれど結局何かに弾かれたような工合ぐあいになって、ただ頭の中をぐるぐる廻っているだけで口外へ吐き出すことが出来ない。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
足跡からはんずると、ロボは狼群ろうぐんの先に立ってわなへ近よると、仲間なかまを止めて、自分ひとりでうまい工合ぐあいにかきだしてしまうらしい。
それが驚異軍艦の上まで来ると、袋の底が破れてその穴から黒豆くろまめがぽろぽろ落ちるような工合ぐあいに、幾百幾千という爆弾がばらかれた。
「えい、うるさい、すきなくらいそこらであそんでけ。」たしかにさっきの鳥でないちがったものが、そんな工合ぐあいにへんじしたのでした。
彼女は体の工合ぐあいがすこし快くなって来ると、夜、部屋の窓をあけて、遠く地中海のあたたかな海辺にその想いを馳せるのだった。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
おれが運命というものが分らないでいると思うのかい。今ちょっと工合ぐあいくなったからといって、己がそれにだまされていると思うのかい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
身体の工合ぐあいもいい様だから、私はこれから又島へ出掛け様と思うが、今度はすっかり工事が出来上って了うまで帰れまいと思う。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれは常に心のうちで、そういう工合ぐあいに修養しようと要心ようじんしながら、ツイ自分から口をだしては、自分から用を求めてしまった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其処そこへ順序もなく坐り込んで講義を聞くのであったが、輪講の時などは恰度ちょうどカルタでも取る様な工合ぐあいにしてやったものである。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大抵胃の工合ぐあいの悪いときであるらしいが、そういう夢の中ではきまって非常に流暢りゅうちょうにドイツ語がしゃべれるのが不思議である。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こんな工合ぐあいで、平次がわざと避けて、この事件から手を引いたのは、ガラッ八でも立派に解決が出来ると思ったせいでしょう。
夜は、これらの摘草をでて食卓しょくたくに並べた。色は水々しかったが、筋が歯にからんで、ひずるの工合ぐあいなどはまるで蒟蒻こんにゃくのようであった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
八王子、所沢、青梅おうめ飯能はんのう、村山とほとんど隣同志でも、八王子は絹の節織ふしおりを主にし、村山はかすりもっぱらにするという工合ぐあいです。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小山の妻君しきりに感心し「お登和さん、そううかがってみるとお魚ばかりではありませんね、お野菜でも肉類でもそういう工合ぐあいがありましょうね」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
こんな工合ぐあいに感激すれば、いかにも小説らしくなる、「まとまる」と、いい加減に心得て、浅薄に感激している性質のものばかりなのである。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
その時以来、子路の親孝行は無類の献身的けんしんてきなものとなるのだが、とにかく、それまでの彼のにわか孝行はこんな工合ぐあいであった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ほとんど完膚かんぷなしと云うほどに疵だらけになっていましたが、それが使い馴れていて工合ぐあいがよいので、ついそのままに使いつづけていました。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一グラムとは一もんめまうして三ゲレンとは三わりにして硝盃コツプに三十てきはんゲレンぢやが、見てういふ工合ぐあいにするのだ。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
縁端えんばなへ出て言葉を交している工合ぐあいが、どうもそうらしいので、均平も何か照れくさい感じでそのまま女中の案内で二階の加世子の部屋へ通った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
殊更うれいを含む工合ぐあい凄味すごみあるに総毛立そうけだちながらなおくそこら見廻みまわせば、床にかけられたる一軸たれあろうおまえの姿絵ゆえ少しねたくなって一念の無明むみょうきざす途端
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこを散歩して、己は小さい丘の上に、もみの木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密をおおかくすような工合ぐあいに小屋に迫っている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
春もやや準備が出来たといった工合ぐあいに、和やかなものが、晴れた空にも、建物を包む丘の茂みにも含みかけていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから僕は、映写機とスクリインと通風と腰かけの工合ぐあいさえよければ、どんな倉庫のような活動小屋だっていいので、その他の設備は二番目の問題である。
牛込館:映画館めぐり(十) (新字新仮名) / 渡辺温(著)
されど蕪村派の俳句の趣味と、盛唐の詩の趣味と同じといふにはあらず、蕪村派の俳句のしまり工合ぐあいと、盛唐の詩のしまり工合と同じといふには非ざるなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これも、その折畳まり工合ぐあいが面白くて不思議なので欲しくてたまらず、そっと持出して引っぱってみるうちに壊れてしまったらしい。お祖母様に大変に叱られた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちょっとほのめかしてみたことがあるにはあるんですが、……何だかみょう工合ぐあいになってしまいましてねえ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
富五郎はその晩から恐ろしく吃逆しゃっくりが出て、どうしてもまらない。身体からだも変な工合ぐあいになって行きました。
丁度此処ここへ通りかかつた、ではない泳ぎかゝつた湖水のひれ仲間に名を知られた老成なますどのが、おなかのすき加減といひ、うまさうな物が水の面に見える工合ぐあいといひ
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
おかしいなと思って、誰か立ってホヤの工合ぐあいを見ようとすると、手を付けない内に、またポウとつく。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
こういう場合には、情熱が時を得顔えがおにのさばり出て、それがちょうどいい工合ぐあいに事件と調和するときには、いつまでもその事件の蔭にとどこおっているものである。
内部の対流の工合ぐあいで蒸発する水蒸気が全部霜の出来る場所へ運ばれるとは限らない。また上昇する気流が水面を離れる時にもその条件で完全に飽和されてはいない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
どうしてくわをうつか、仕立屋がどんなふうにミシンをまわし、どんな工合ぐあいにエプロンのポケットをぬいつけるか、またせんべやのじいさんが、せんべをさしはさんだ
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
もしくは四段の雛段ひなだん式に場席がなっていて、一桝くぎりはおなじだが、これは舞台へ斜めにむかう工合ぐあいで、おなじ竪に流れていながら横にならんでいる感じでならび
「いやあよ!」と鼻声になつて、膝の上にのしかゝつて、猫が自分の寝どこを工合ぐあいよく作る時のやうに、ぐん/\と体の半分を机とあの人の体との間に割り入れてしまふ。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
貞阿もこの冬はじめて奈良にしばらく腰を落着けて、鶴姫のうわさが色々とあらぬ尾鰭おひれをつけて人の口ののぼっているのに一驚を喫したが、工合ぐあいの悪いことには今夜の話相手は
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
イカバッドは、ボーンズとその一党の荒くれ騎士たちに妙な工合ぐあいに苦しめられるようになった。
しかるにその後七、八年のあいだに、また幾分か逆戻ぎゃくもどりして、怖気おじけがなくなったのは、その間に日常心懸けたこともあるが、一つには身体の工合ぐあいがよくなったためと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どうやらこうやらというような工合ぐあいですよ。この頃はわたし共に御用はおありなさらないの。
といっても、このしめり工合ぐあいじゃあ、まさか山の中のものじゃないし、どうだい、こうしている間に、ちょっとこの下のしぶきのかかりそうな波打ち際を散歩してみないかい
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
父が「一家鶏犬一車上、器機妙用瞬間行」なぞ悪詩あくしを作った。工合ぐあいが好いので、帰りも自動車にした。今度のはちと大きく、宅のそばまでは来ぬと云う。五丁程歩んで、乗った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼は単に、農場の事務が今日までどんな工合ぐあいに運ばれていたかを理解しようとだけつとめた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ただ飛来とびく弾丸たまに向い工合ぐあい、それのみを気にして、さて乗出のりだしていよいよ弾丸たまの的となったのだ。
この工合ぐあいのいいかくに一家鴨あひるがそのときについてたまごがかえるのをまもっていました。
すこ身体からだ工合ぐあいわるいから、今日きょうだけ宿やどのこっていると、つい思切おもいきってともうたのであった、しかるにミハイル、アウエリヤヌイチは、それじゃ自分じぶんいえにいることにしよう
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
神様かみさまのお言葉ことばによれば、いつか時節じせつがまいれば、親子おやこ夫婦ふうふ兄弟きょうだいが一しょらすことになるとのことでございますが、あんな工合ぐあいでは、たとえ一しょらしても、現世げんせのように
みんな大きな声で、さっさと無表情むひょうじょうに歌った。まるで太鼓たいこでもたたくような工合ぐあいだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)