かが)” の例文
お玉は嬉しくてたまらない、腰をかがめてムクの背中をさすってやろうとすると、ムクがその口に何か物をくわえていることを知りました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御骨は、沼の縁にやわらかな泥の中にありましたって、どこも不足しないで、手足も頭もつながって、膝をかがめるようにしていたんだそうです。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、ふたりは早速、断層の崖ぎわへ身をかがめ、架け渡してある二本の朽木橋くちきばしの土台へ、石を噛ませたり、土を築いたりしている様子。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侯爵はそこで体をかがめた。指で雪をすくひ上げてぢつと見詰めた。それから手首を外側へしなはせると雪片は払ふまでもなく落ちた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
『まつくらでござんすなおばけが出さう』ボーイは少しかがんであの若い船乗りののぞいてゐる窓からちよつと外を見ながら云ひました。
氷河鼠の毛皮 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
細身ほそみ造りの大小、羽織はかまの盛装に、意気な何時いつもの着流しよりもぐっとせいの高く見える痩立やせだち身体からだあやういまでに前の方にかがまっていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けれどももとより、舞台ぶたいにはなんの仕掛しかけもありませんし、さるは人形の中にじっとかがんでいますので、だれにも気づかれませんでした。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
婆やは腰をかがめながら入ってきた。その手には、白樺しらかばの皮を握っていた。二人の目は驚異の表情をたたえて、その自樺の皮の上に走った。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と、妙子はさっきから溜息ためいきをつきつき食べていたが、雪子があたりへ気がねしながら廻って来た杯の方へ身をかがめている向うから
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
武男が入り来る足音に、老爺じじいはおもむろに振りかえりて、それと見るよりいささか驚きたるていにて、鉢巻はちまきをとり、小腰をかがめながら
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
何卒どうぞ、先生、主義の為めに御奮闘を願ひます」慇懃いんぎんに腰をかがめたる少年村井は、小脇の革嚢かばんしかと抱へて、又た新雪あらゆき踏んで駆け行けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
佐吉に紹介されると、五尺八寸もあろうかと思われる変な男は、二つ折になるように小腰をかがめました。足が少し悪い様子です。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
蝙蝠傘を少し内廻転をさせたひざの間に寄せ掛けて、帯の間から出して持っていた、小さい蝦蟇口がまぐちの中を、うなじかがめてのぞき込んだ。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「おゝなこつた、らねえよ」おつぎはすこかがめて手桶てをけつかんでまゝのばすと手桶てをけそこが三ずんばかりはなれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
エクランでは銀色に溶け入るやうな脚をした一人の踊子が、乱れた食卓の上で前かがみにたたずんで、不思議に複雑な笑ひを漏した。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
一文字に結んだ唇のはしには、強い意志さえうかがわれた。昔取った杵柄きねづかとでもいおうか、調べ方は手堅くて早く、かがんだかと思うと背伸びをした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お側にソッとかがんで見ますと、なんとそれは、右掌の指にからみつくようにして握りしめられた数本の、長い女の髪の毛ではございませんか。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
店口から声をかけると、樒に埋まっているようなお婆さんがかがんだ腰を伸ばして、眼をしょぼしょぼさせながら振り向いた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乾いた川筋を上って行く中に、谷が狭くなり、所々にほらがあったりして、横倒しになった木の下をかがまずにくぐって歩けた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小腰をかがめて鍵穴のあたりへ眼を付けたが、不思議な事に鍵穴の向うは一面に仄白ほのじろく光っているばかりで、室内の模様がチットモわからない。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さらに、彼は、泳ごうとしてからだをかがめる。ところが、兄貴のフェリックスは、その背中へじ登って、飛び込みをやる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
庭の土塀のくつがえったわきに、大きなかえでの幹が中途からポックリ折られて、こずえ手洗鉢てあらいばちの上に投出している。ふと、Kは防空壕ぼうくうごうのところへかが
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
かれはますます身をかがめ、肩をすぼめるような感じで日を過していった。——するとある日、組頭の甚之允がやって来て
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
突然、人影が見えなくなつたといふのは、犬がその人の足もとまでなついて来たので、誰かその人が、犬の頭を撫でようと身をかがめたに相違ない。
と見ればあと小舎こやの前で、昇が磬折けいせつという風に腰をかがめて、其処に鵠立たたずんでいた洋装紳士のせなかに向ッてしきりに礼拝していた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
……四年前よりも父の顏にいちじるしく似通つてゐた。兄が身體をかがめて、英作文を一二行見てゐる間に、辰男は帽子を被りトンビを着て直立してゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
もう一人の助手のエッベも、窓の下で二階を見上げながら、立ったりかがんだり、犯人の足跡でも探しているのであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そして、あんたには太鼓をね。太鼓がいいでしょう?」と、チチコフはアルキッドの方へ身をかがめて、言葉をついだ。
跳んだり、かがんだり、押し分けたりしながら、真正面へとまっすぐにひた走りに走り、とうとうその上走れなくなった。
と大きい方の奴が小腰をかがめて申入れた。ジョーンズ君はこれなら大したこともないと思って安心した。ポケットから銅貨を一枚出して渡しながら
英米笑話秀逸 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ああ世に誰か此のフンの意味の能く解る人があらう。やがて身をかがめて、落ちて居た櫛を拾ふ。抱いて居る児はまだ乳房を放さない。随分強慾な児だ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三人は予の左右にかがみ加減に両手を突いて等しく父の前に顔を出すのであった。予も新聞を取るや否、自然に気象台員の談話という項目に眼は走った。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
子どもはもう知らずに歌っていることであろうが、気をつけてみると、この「かごめ」は身をかがめよ、すなわちしゃがめしゃがめということであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その、世にも恐るべき跫音が、ゴソリ、焚口の前でしたから、ハッ! とした園絵が、本能的に小さくかがみ込むと
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
兼五郎は腰をかがめて取ろうとすると、鍬はたちまち引込んでしまった。しばらくして又頭を出したので取ろうとすると、又ひょいと引込んで往って取れなかった。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その暗いなかの一点がぱっと燃え出した。動いて来る。小野さんは急に腰をかがめて手を伸ばすや否や封を切った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は病人の枕もとで、ヒイタアに足を載せながら、手にした本の上に身をかがめていた。そのとき病人が不意に
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
うなだれかがんだ露月のすがたが、恰度ちょうど池の西北の、榊原さかきばら屋敷に沿うた曲浦きょくほのあたりにさしかかった頃でした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
手も足もしびれ切って どうしてその荷物が上ったのか後で考えてもその理屈が分らん位ですがもう足をかがめることも出来ず、こごえ切って立つことも出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
手は二の腕から先で、指が動くようになっている。女の手は指をそろえたままで開いたりかがめたりする。三味線を弾く時などは個々の指の動く特別の手を使う。
文楽座の人形芝居 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
若い婦達が下駄を手に持って、時々腰をかがめて沙場の貝殻を拾っている様は美しい。その頃の高校の歌に
玄海灘密航 (新字新仮名) / 金史良(著)
左の足はかがまりて伸びず。故に仰臥の時は左の膝は常に立て居るなり。沐浴もくよくせず。時々アルコールにて体をぬぐふのみなれどそれも一ヶ月に一、二度位なるべし。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
伊留満喜三郎 (突然門扉の内にかがみて)やいの、やいの、みなの衆よ。ここの門のとびらに細い隙がおぢやつたぞや。はれ、見られい。や、何とまあ美しい絵ぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
私の頭には、痩せたかがみ腰の学生服を着た岩元君をしか想像することはできない。私は始終鎌倉に来るようになってから、一度同君を尋ねて見たいと思っていた。
中学生はかがんで、犬の口からステツキを取ると、何か犬にいひながら、ステツキを高くさし上げました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
鏡磨かがみとぎ師は柘榴の実を使用つかったもの、古い絵草子などにも鏡ぎの側には柘榴のがよくいてある……でその名の意は、かがみ入る(鏡入る)の洒落しゃれから来たもの
部屋へと二人は別れぎわに、どうぞチトお遊びにおいで下され。退屈で困りまする。と布袋殿は言葉を残しぬ。ぜひ私の方へも、と辰弥も挨拶に後れず軽く腰をかがめつ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
なんて、技巧的に、やや身を前かがみにして、手を出して制した。そして反身そりみになって車を飛ばせた。前綱は片手をグルグル振って、見送られているので得意にけた。
びっくりして振り向くと六十ばかりの老爺おやじが腰をかがめて僕の肩越しにのぞき込んでいるんだ。僕はあまりのことに、何だびっくりしたじゃアないかと怒鳴ってやッた。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
頭の上の浴槽の中には五六人の女たちが、立ったりかがんだりして、いい気持そうにゆあみしています。
足の裏 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)