トップ
>
寂寞
>
せきばく
ふりがな文庫
“
寂寞
(
せきばく
)” の例文
恥を知らない太陽の光は、再び薔薇に返って来た真昼の
寂寞
(
せきばく
)
を切り開いて、この
殺戮
(
さつりく
)
と掠奪とに勝ち誇っている蜘蛛の姿を照らした。
女
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
吾人かつて各地に遊びその封建城下なるものを見るに、
寂寞
(
せきばく
)
たる
空壕
(
くうごう
)
、破屋、秋草
茫々
(
ぼうぼう
)
のうちにおのずから過去社会の遺形を残せり。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
蔦が厚く扉をつつんだ開かずの門のくぐりから、
寂寞
(
せきばく
)
とした
境内
(
けいだい
)
にはいって玄関の前に目をつぶって突立った。物音一つ聴えなかった。
父の出郷
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
それは自分が感傷に打克とうと努力していたからではあるが、矢張り人生の事実と、人間の
寂寞
(
せきばく
)
との経験が足りないためであった。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
平次は
仮借
(
かしゃく
)
しません。八五郎に手伝わせて押込むようにそれぞれの部署に就かせると、家の中はしばらく、死の
寂寞
(
せきばく
)
が領しました。
銭形平次捕物控:090 禁制の賦
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
だが土用を過ぎると急に天地の色から一つ何物かが引去られ、
寂寞
(
せきばく
)
と空白が
漲
(
みなぎ
)
り初める。私はいつもその不思議な変化を
味
(
あじわ
)
って眺める。
大切な雰囲気:03 大切な雰囲気
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
六畳の座敷は
緑
(
みど
)
り濃き植込に
隔
(
へだ
)
てられて、往来に鳴る車の響さえ
幽
(
かす
)
かである。
寂寞
(
せきばく
)
たる浮世のうちに、ただ二人のみ、生きている。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
家の中は永遠の
寂寞
(
せきばく
)
そのもののごとくに、佇んでいると何かは知らず、冷え冷えと一種の鬼気を感ぜずにはいられなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
間遠
(
まどお
)
に荷車の音が、深夜の
寂寞
(
せきばく
)
を破ったので、ハッとかくれて、
籐椅子
(
とういす
)
に涼んだ私の蔭に立ちました。この音は妙に凄うございました。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
吾人は
寂寞
(
せきばく
)
閑雅なる広重の江戸名所において
自
(
おのずか
)
ら質素の生活に
甘
(
あまん
)
じたる太平の
一士人
(
いちしじん
)
が
悠々
(
ゆうゆう
)
として狂歌俳諧の天地に遊びし
風懐
(
ふうかい
)
に接し
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
何
(
いづ
)
れの家も寝静まつた深夜の、
寂寞
(
せきばく
)
の月を
践
(
ふ
)
んで来るのが、小米である、ハタと行き当つたので、兼吉の方から名を呼びかけると
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
際涯
(
はてし
)
無く
寂寞
(
せきばく
)
の続く人生の
砂漠
(
さばく
)
の中に自然に逆ってまでも自分勝手の道を行こうとしたような、そうした以前の岸本では無かった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
先生の御蔭で夏目先生に御目にかかる事が出来て大変悦んで居りました処、夏目先生は死なれましてまた
寂寞
(
せきばく
)
を感ずるようになりました。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
森閑
(
しん
)
とした
寂寞
(
せきばく
)
が彼を押しつつみ、ただ時計のチクタクばかり、闇の中で
忙
(
せわ
)
しげに時を刻んでいたが、彼にはその時刻もわからなかった。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
さらぬだに
寂寞
(
せきばく
)
たる山中の村はいよ/\しんとして了つて、虫の音と、風の声と、水の流るゝ調べの外には更に何の物音も
為
(
せ
)
ぬ。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
呼吸
(
いき
)
を凝らしている文次の耳へ、陰深たる
寂寞
(
せきばく
)
を破って、かすかに聞こえてくるのは、かの猫侍は内藤伊織のじゃらじゃら声ではないか。
つづれ烏羽玉
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
寂寞
(
せきばく
)
とした、拝殿の
階段
(
きざはし
)
に腰かけたが、覆面の侍は、いつまでたっても、黙然として、唯じっとお延を睨みつけているような
態
(
さま
)
。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かくのごとく、
寂寞
(
せきばく
)
たる深夜におきましては、遠方のことの近く聞こえるものであります。これらはただその一例であります。
妖怪談
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
まして大宮浅間の噴泉の美は、何とであろう、磨きあげた大理石の
楼閣台榭
(
ろうかくだいしゃ
)
も、その
庭苑
(
ていえん
)
に噴泉がなかったら、
頓
(
とみ
)
に
寂寞
(
せきばく
)
を感ずるであろう。
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
この句を解する者
曰
(
いわ
)
く、ただ神無月の
寂寞
(
せきばく
)
たる有様を現はしたるのみ。しかも禅寺の松葉と見つけたる処
神韻
(
しんいん
)
あり、云々と。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
一
生涯
(
しょうがい
)
われわれを結びつける、この結婚という習慣の連鎖に比ぶれば、自分の
寂寞
(
せきばく
)
もさほど悲しくないように彼には思われた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ましてや人は山に住んでも
寂寞
(
せきばく
)
を
厭
(
いと
)
い、行く人に追付き、来る人に出逢おうと
力
(
つと
)
めるから、自然に
羊腸
(
ようちょう
)
が統一するのである。
峠に関する二、三の考察
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
詩人の墓所を歩く聖堂守の遠い足音にさえも、異様な
寂寞
(
せきばく
)
としたひびきがあった。わたしは、ひるまえに歩いた
路
(
みち
)
をゆっくりともどって行った。
ウェストミンスター寺院
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
其
寂寞
(
せきばく
)
たる光りの海から、高く
抽
(
ぬき
)
でて見える二上の山。淡海公の孫、
大織冠
(
たいしょくかん
)
には曾孫。藤氏族長太宰帥、
南家
(
なんけ
)
の豊成、其
第一嬢子
(
だいいちじょうし
)
なる姫である。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
その声はさのみ高くもないのであるが、深夜の山中、あたりが物凄いほど
寂寞
(
せきばく
)
としているので、その声が耳に近づいてからからと聞えるのである。
くろん坊
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
の奥で人の騒ぐ声が聞こえ、物打つ音が聞こえる。里も若葉も
総
(
すべ
)
てがぼんやり色をぼかし、冷ややかな湖面は
寂寞
(
せきばく
)
として夜を待つさまである。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
遠く戦陣の
轟
(
とどろ
)
きをもたらす片すみの人なき広い野原、昼間の
寂寞
(
せきばく
)
、夜間の犯罪、風に回ってる揺らめく風車、石坑の採掘車輪、墓地のすみの居酒屋
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
みずからを無用の人間と観ずる
寂寞
(
せきばく
)
ほど深いものはあるまい。踏みなれた
懐
(
なつか
)
しい道を、足は郷里に向って急いでいたが、話すことも無いらしかった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
その音が
寂寞
(
せきばく
)
を破ってざわざわと鳴ると、閭は髪の毛の根を締めつけられるように感じて、全身の肌に
粟
(
あわ
)
を生じた。
寒山拾得
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
船のゆらぐごとに木と木とのすれあう不快な音は、おおかた船客の寝しずまった夜の
寂寞
(
せきばく
)
の中にきわ立って響いた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
しかしてパリよりもむしろこの古都において、
寂寞
(
せきばく
)
として、「市にそぼ降る雨のごと、我が心にも降るものあり」
雨の日
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
汽笛の
吼
(
ほ
)
ゆるごとき叫ぶがごとき深夜の
寂寞
(
せきばく
)
と云う事知らぬ港ながら帆柱にゆらぐ星の光はさすがに静かなり。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
しばらくするとまた前と同じような靴の音がコツコツとして、そのあとはまた以前と同じような
寂寞
(
せきばく
)
に帰った。
六月
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
末路
寂寞
(
せきばく
)
として
僅
(
わずか
)
に
廓清
(
かくせい
)
会長として最後の幕を閉じたのは
啻
(
ただ
)
に清廉や
狷介
(
けんかい
)
が
累
(
わざわ
)
いしたばかりでもなかったろう。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
其外
(
そのほか
)
の百
姓家
(
しやうや
)
とても
數
(
かぞ
)
える
計
(
ばか
)
り、
物
(
もの
)
を
商
(
あきな
)
ふ
家
(
いへ
)
も
準
(
じゆん
)
じて
幾軒
(
いくけん
)
もない
寂寞
(
せきばく
)
たる
溪間
(
たにま
)
! この
溪間
(
たにま
)
が
雨雲
(
あまぐも
)
に
閉
(
とざ
)
されて
見
(
み
)
る
物
(
もの
)
悉
(
こと/″\
)
く
光
(
ひかり
)
を
失
(
うしな
)
ふた
時
(
とき
)
の
光景
(
くわうけい
)
を
想像
(
さう/″\
)
し
給
(
たま
)
へ。
湯ヶ原より
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
山ノ宿の、文殊堂——もうじき、大川も近い、
寂寞
(
せきばく
)
たるお堂で、小さいが、こんもりした木立を背負っていた。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
雲が重苦しく空に低くかかった、もの
憂
(
う
)
い、暗い、
寂寞
(
せきばく
)
とした秋の日を一日じゅう、私はただ一人馬にまたがって、妙にもの
淋
(
さび
)
しい地方を通りすぎて行った。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
疾風は林を
掠
(
かす
)
め、森を掠め、野を掠め、雲乱れて飛び、蜩の泣声止んで、
寂寞
(
せきばく
)
として天地は静まりかえった。
森の妖姫
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
しかし、
寂寞
(
せきばく
)
とした広間の中で彼の見たものは、
御席
(
みまし
)
の上に血に
塗
(
まみ
)
れて倒れている父の一つの死骸であった。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
夕暮が近いのであろう、
蒼茫
(
そうぼう
)
たる
薄靄
(
うすもや
)
が、ほのかに山や森を
掩
(
おお
)
うている。その
寂寞
(
せきばく
)
を
僅
(
わず
)
かに破るものは、牧童の吹き鳴らす哀切なる牧笛の音であるのだろう。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
孤独な母親の身の
周
(
まわ
)
りを取り
捲
(
ま
)
いている
寂寞
(
せきばく
)
、貧苦、妹が母親の手元に
遺
(
のこ
)
して行った不幸な孤児に対する祖母の愛着、それが深々と笹村の胸に感ぜられて来た。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
父の棺輿はしばし堤の若草の上に
佇
(
たたず
)
んで、
寂寞
(
せきばく
)
としてこの橋を眺める。橋はまた巨鯨の白骨のような姿で寂寞として見返す。はだらはだらに
射
(
さ
)
し下ろす春陽の下で。
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
二
代目
(
だいめ
)
の
時代
(
じだい
)
の
鷄屋
(
とりや
)
の
番人
(
ばんにん
)
に
好
(
い
)
い
老人
(
らうじん
)
が
居
(
ゐ
)
て、いろ/\
世話
(
せわ
)
をして
茶
(
ちや
)
など
入
(
い
)
れて
呉
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
たが、
其老人
(
そのろうじん
)
間
(
ま
)
もなく
死
(
し
)
んだので、
何
(
な
)
んとなく
余
(
よ
)
は
寂寞
(
せきばく
)
を
感
(
かん
)
じたのであつた。
探検実記 地中の秘密:02 権現台の懐古
(旧字旧仮名)
/
江見水蔭
(著)
柿の樹の下に並んだ
稲鳰
(
いなにお
)
の上に、落ち散った柿の葉が、きらきらと月光を照り返している。桐の葉や桑の葉は、微風さえ無い
寂寞
(
せきばく
)
の中に、はらはらと枝をはなれている。
蜜柑
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
と淋しく云って私に別れを告げた彼をあとにしながら、私は何とも云いようのない
寂寞
(
せきばく
)
におそわれつつ、雨の中をわざと車にも乗らず一人とぼとぼと帰途についたのでした。
彼が殺したか
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
女は其の無言無物の
寂寞
(
せきばく
)
の苦に、十万億土を通るというのは斯様いうものででもあるかと苦んでいたので、今、「コレ」と云われると、それが厳しい叱咤であろうと何であろうと
雪たたき
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
しかし……何しろ人跡絶えた山奥の
谿谷
(
けいこく
)
で、水の音ばかり聞こえる
寂寞
(
せきばく
)
境ですからね。
キチガイ地獄
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
その愉快なることいわん方なく、膝栗毛の進みもますます速く、来た処は、音に名高き胸突き八丁の登り口。日ははや暮れかかり、
渓谷
(
たにま
)
も森林も
寂寞
(
せきばく
)
として、真に深山の面影がある。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
いわゆる
囘憶
(
おもいで
)
というものは人を喜ばせるものだが、時にまた、人をして
寂寞
(
せきばく
)
たらしむるを免れないもので、
精神
(
たましい
)
の
縷糸
(
いと
)
が
已
(
すで
)
に逝ける淋しき時世になお引かれているのはどういうわけか。
「吶喊」原序
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
猛獣や
毒蛇
(
どくじゃ
)
に
脅
(
おびや
)
かされることもあった。夜は
洞穴
(
ほらあな
)
に
寂寞
(
せきばく
)
として眠った。彼と同じような
心願
(
しんがん
)
を持って白竜山へ来た行者の中には、麓を
彷
(
さまよ
)
うているうちに
精根
(
しょうこん
)
が尽きて倒れる者もあった。
仙術修業
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
寂
常用漢字
中学
部首:⼧
11画
寞
漢検1級
部首:⼧
13画
“寂寞”で始まる語句
寂寞閑
寂寞幽僻
寂寞道人肩柳