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宵
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よい
ふりがな文庫
“
宵
(
よい
)” の例文
日の暮れるのが早い季節で、暮れてから大分になるが、時間としてまだ
宵
(
よい
)
の口だ。だのに、細い路地には早くも人がひしめいていた。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
源氏が二条の院へ帰って見ると、ここでも女房は
宵
(
よい
)
からずっと
歎
(
なげ
)
き明かしたふうで、所々にかたまって世の成り行きを悲しんでいた。
源氏物語:12 須磨
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
夜は好きなだけ
宵
(
よい
)
っぱりしていられるし、いつ起きようと、家賃を催促する下宿の主人とか家主とかにつきまとわれずに出あるける。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
見ると、間の
襖
(
ふすま
)
が二
尺
(
しゃく
)
ばかり
開
(
あ
)
いて、そこにKの黒い影が立っています。そうして彼の室には
宵
(
よい
)
の通りまだ
燈火
(
あかり
)
が
点
(
つ
)
いているのです。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一昨日
(
おとつい
)
の
晩
(
ばん
)
宵
(
よい
)
の口に、その松のうらおもてに、ちらちら
灯
(
ともしび
)
が
見
(
み
)
えたのを、
海浜
(
かいひん
)
の別荘で花火を
焚
(
た
)
くのだといい、
否
(
いや
)
、
狐火
(
きつねび
)
だともいった。
星あかり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
まだ暮れたばかりの夏の
宵
(
よい
)
のことだった。不意に起った銃声に、近所の人々は、夕食の
箸
(
はし
)
を
放
(
ほう
)
りだして、井戸端のところへ集ってきた。
空襲警報
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
乗客の視線が、自分の身体にふりそそぐのを感じながら、彼女は村川と一緒に、銀座の
宵
(
よい
)
を散歩する幸福を、いろいろに想像していた。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
英気をやしなうため、
宵
(
よい
)
のくちに、ほんのちょっと寝ておくつもりだった
竹童
(
ちくどう
)
は、いつか
鼻
(
はな
)
から
提灯
(
ちょうちん
)
をだしてわれにもなく、大いびき。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
七日の
宵
(
よい
)
がまたうってつけのたなばた晴れで、加うるに式部小町とあだ名をされた上野山下の国学者
神宮清臣
(
かんみやきよおみ
)
先生の
愛女
(
まなむすめ
)
琴女
(
ことめ
)
が
右門捕物帖:17 へび使い小町
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
まだ
宵
(
よい
)
のうちは帳場の蓄音機が人寄せの
佐渡
(
さど
)
おけさを繰り返していると、ぽつぽつ付近の丘の上から別荘の人たちが見物に出かけて来る。
沓掛より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
薬売
(
くすりう
)
りの
小父
(
おじ
)
さんは、その
宵
(
よい
)
、
港
(
みなと
)
から
出
(
で
)
る
汽船
(
きせん
)
に
乗
(
の
)
って、
娘
(
むすめ
)
をつれて、
遠
(
とお
)
い、
遠
(
とお
)
い、
西
(
にし
)
の
海
(
うみ
)
を
指
(
さ
)
して
走
(
はし
)
っていったのであります。
二番めの娘
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
宵
(
よい
)
のうちに私の謀略でしたたか酒を飲まされていたその成金は、いまやひどく神経質な態度で札を切ったり、配ったり、打ったりしたが
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
闇夜
(
やみよ
)
だった。まだ
宵
(
よい
)
の口だ。開墾地に散在している移住者の、木造の小屋からは、皆一様に
夜業
(
よなべ
)
の淡い
灯火
(
あかり
)
の余光が洩れていた。
熊の出る開墾地
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
お兼 ほんとに
宵
(
よい
)
のあなたはみじめだったわ。坊様はあなたの皮肉に参らないで、かえってあなたを哀れみの目で見ているようでしたよ。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
宵
(
よい
)
から朝まで寝言の言い続け、コレお登和こうしてくれ、ソレお登和ああしてくれとお登和さんという名が百遍も出ましたろう。
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
まだ
宵
(
よい
)
の口から、家の周囲はひっそりとしてきて、坂の下を通る人の足音もすくない。都会に住むとも思えないほどの静かさだ。
嵐
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
屋敷町
(
やしきまち
)
のことで、まだ
宵
(
よい
)
の
中
(
うち
)
であったにも
拘
(
かかわ
)
らず、あたりはいやにしんとしずまり返っていた。時々犬の遠吠が物淋しく聞えて来たりした。
幽霊
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
小野と新吉とが、間もなく羽織袴を着けて坐り直した時分に、静かな
宵
(
よい
)
の町をゴロゴロと
腕車
(
くるま
)
の響きが、遠くから聞え出した。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
あちらこちらで
梟
(
ふくろう
)
がホーホーと
啼
(
な
)
いて、夜の七時といえば都会では、まだほんの
宵
(
よい
)
の口です。銀座なぞは人で、さぞ雑踏しているでしょう。
墓が呼んでいる
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
雛の
宵
(
よい
)
の可愛いい飲食なども、本来はまた野外の楽しみを移したものらしく、しかも天龍川や相模川の川沿いで、この際に古雛を送り流し
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
宵
(
よい
)
もすぎたが、すると、家来が来て、中村座の雪之丞が、久々にて、機嫌うかがいのため、参館したことを知らせるのだった。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
宵
(
よい
)
の大津をただふらふら歩き廻り、酒もあちこちで、かなり飲んだ様子で、同夜八時頃、大津駅前、秋月旅館の玄関先に泥酔の姿で現われる。
犯人
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
夜の八時ごろ、私はいつものようにお幸のもとに参りますと、この晩は
宵
(
よい
)
から
天気
(
そら
)
模様が怪しかったのが十時ごろには降りだして参りました。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
土に
滲
(
し
)
み入るように降りしきって、軒端をつたう
雫
(
しずく
)
のおとがそゞろに人を物思いに誘うと云う晩、織部正は
宵
(
よい
)
の口から夫人の部屋に閉じ籠り
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
宵
(
よい
)
の中に二人客がつき、終電車の通り過る頃につかまえた客は宿屋へ行ってから翌朝まで泊りたいと言出す始末であった。
吾妻橋
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
まだ
宵
(
よい
)
のうちの出来事で、内外の戸締りもなく、庭は打ちつづくお天気に踏み固められて、足跡一つ残ってはおりません。
銭形平次捕物控:211 遠眼鏡の殿様
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
夕汐
(
ゆうしお
)
の高い、
靄
(
もや
)
のしめっぽい
宵
(
よい
)
など、どっち河岸を通っても、どの家の二階の灯も
艶
(
なまめ
)
かしく、川水に照りそい流れていた。
朱絃舎浜子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
もしまた、馬や、
駕籠
(
かご
)
や、人足の用があらば、
宵
(
よい
)
のうちに宿屋の亭主にあってよく頼んでおくがよい、
相対
(
あいたい
)
でやると途中困ることがあるものだ。
大菩薩峠:23 他生の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
妾をば別に
咎
(
とが
)
めざるべき模様なりしに、
宵
(
よい
)
のほど
認
(
したた
)
め置きし葉石への
手書
(
てがみ
)
の、寝床の内より現われしこそ口惜しかりしか。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
春が過ぎ夏がおとずれ、水郷の祭の
宵
(
よい
)
であった。
社詣
(
やしろまい
)
りの戻りの
女車
(
おんなぐるま
)
がつづいて、いずれが筒井の車だか分らなかった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
昨夜
(
ゆうべ
)
は
宵
(
よい
)
から容子が変なので行李の産所へ入れるとは直ぐ飛出して
息遣
(
いきづか
)
いも苦しそうに
喏々
(
ニヤニヤ
)
啼
(
な
)
きながら頻りと
身体
(
からだ
)
をこすりつけて変な容子をする。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
三味線
(
さみせん
)
は「
宵
(
よい
)
は待ち」を
弾
(
ひ
)
く時、早く既に自ら調子を合せることが出来、めりやす「黒髪」位に至ると、師匠に連れられて、
所々
(
しょしょ
)
の
大浚
(
おおざらえ
)
に往った。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
昨日カヤノが帰ってゆき、今日
宵
(
よい
)
の上りで高子がたち、明方近くの下りでミチを送りだすと家の中はしんかんとした。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
火鉢一つでは、こんな天井の高い家ではもう
凌
(
しの
)
げる時節ではない。それに
宵
(
よい
)
もだいぶふけたらしかった。おまけに酒の酔いもさめぎわになっていた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
宵
(
よい
)
から夜中に掛けてツクを乗りますが、是は不思議なもので、代々近村の
重次郎
(
じゅうじろう
)
と云う人がツク乗りを致します、其の
扮装
(
なり
)
が誠に可笑しゅうございます。
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
なかでも夏の
宵
(
よい
)
の別れの場面などは、遠い昔に読んだ
荷風
(
かふう
)
の『六月の夜の夢』を思わず想い起させるほどの情趣に富んだものだが、まあそれはそうとして
チェーホフの短篇に就いて
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
ある蒸し暑い夏の
宵
(
よい
)
のことであった。山ノ手の町のとあるカフェで二人の青年が話をしていた。話の様子では彼らは別に友達というのではなさそうであった。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
政雄はその晩既に
宵
(
よい
)
の
口
(
くち
)
に隣町の淋しい処で女を襲おうとしたが、人が来たので逃げ、それから近くのカフェーへ入って酒を飲みながら夜を
更
(
ふ
)
かし、そして
女の怪異
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
宵
(
よい
)
の
内
(
うち
)
に内野さんと下村さんの二人でそりゃ大議論をしたのよ。先生は書斎でいつも通りご勉強でしょう。
ニッケルの文鎮
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
宵
(
よい
)
から勢いを増した風は、海獣の飢えに吠ゆるような音をたてて、
庫裡
(
くり
)
、本堂の
棟
(
むね
)
をかすめ、大地を崩さんばかりの雨は、時々
砂礫
(
すなつぶて
)
を投げつけるように戸を叩いた。
死体蝋燭
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
宵
(
よい
)
に月が出る時は、いつも
矢車草
(
やぐるまそう
)
の森の精が御殿の庭まで迎えに来てくれました。王子は千草姫の所に行って、御殿の戸がしまる十時少し前に帰って来られました。
お月様の唄
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
夕暮となり
宵
(
よい
)
となり、
銀燭
(
ぎんしょく
)
は輝き渡りて客はようやく散じたる跡に、残るは辰弥と善平なりき。別室に
肴
(
さかな
)
を新たにして、二人は込み入りたる
談話
(
はなし
)
に身を打ち入れぬ。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
見たところそこは多勢の
抱妓
(
こども
)
たちをはじめ家中の者の溜り場にしてあると思われて
縁起棚
(
えんぎだな
)
にはそんな夜深けでもまだ
宵
(
よい
)
の口のように燈明の光が明るくともっていて
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
最早
(
もう
)
其家はつぶれ、弟は東京で一人前の
按摩
(
あんま
)
になり、兄は本家に引取られて居るが、虫は秋毎に依然として鳴いて居る。家がさながら虫の音に
溺
(
おぼ
)
れる様な
宵
(
よい
)
がある。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
もう二十年も前にその丘を去った私の幼い心にも深く
沁
(
し
)
み込んで忘れられないのは、
寂然
(
ひっそり
)
した屋敷屋敷から、花のころ月の
宵
(
よい
)
などには申し合わせたように単調な
懶
(
ものう
)
い
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
首を廻らして凱旋門通りの
鱗
(
うろこ
)
のように立ち重なる
宵
(
よい
)
の人出を見ると軽い調子になって彼女は言った。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
宵
(
よい
)
っ
張
(
ぱ
)
りの私もここへ来てからは、九時の鐘を聴かないうちに寝ることにした。(大正七年一月)
春の修善寺
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それは
春
(
はる
)
の
宵
(
よい
)
でありました。坊さんは
法事
(
ほうじ
)
へいってるすでした。法師はじぶんの
寝間
(
ねま
)
の前の、えんがわへでて、
好
(
す
)
きなびわをひきながら、坊さんの帰りを待っていました。
壇ノ浦の鬼火
(新字新仮名)
/
下村千秋
(著)
場所は庭の中の
亭
(
ちん
)
である。すぐ側に恋人が坐っている。美しい夕月の
宵
(
よい
)
である。二人の他には誰もいない。……しかし、彼女は処女であった。そうして性質は
穏
(
おとな
)
しかった。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
今の芝公園と
愛宕山
(
あたごやま
)
の
界
(
さかい
)
のところを「切通し」という、昼間から
宵
(
よい
)
の口までは相当賑であったが、夜が
更
(
ふ
)
けると寂しくなり、辻斬などもしばしば行われた、翁は子供心に
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
宵
常用漢字
中学
部首:⼧
10画
“宵”を含む語句
今宵
徹宵
宵々
終宵
宵祭
宵闇
昨宵
宵暗
宵宮
宵越
宵月
春宵
待宵
宵惑
今宵限
宵寐
凌宵花
一宵
宵寝
此宵
...