報知しらせ)” の例文
「別段面白い事もないようだ。それをわざわざ報知しらせに来る君の方がよっぽど面白いぜ」と主人は巻煙草まきたばこの灰を火桶ひおけの中へはたき落す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此の報知しらせを耳になさった時、御奉行様はいつになく暗い顔をなされ、それからは偉い方々と頻りに行き来をなさったようにおぼえます。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
やれ嬉しやも、心配の先立ちまする、御重病。はやはや来いのお報知しらせは、どなたのお筆かは知らぬど、どうでお許しあつての事。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
変屈者のA老人は唯一人飄然へいぜんと海岸へ来て、旅館ホテルに滞在中、固疾こしつの心臓病が起って危篤に陥った。報知しらせによって倫敦ロンドンから娘が看護に来た。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それ來りてこの報知しらせを聞く者甚だまれなり、高く飛ばんために生れし人よ、汝等すこしの風にあひてかく墜ちるは何故ぞや 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
主税が、小児こども衆は、と尋ねると、二人とも乳母ばあやが連れて、土産ものなんぞ持って、東京から帰った報知しらせ旁々かたがた、朝早くから出向いたとある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病気をして、病院へ入つたと云ふ報知しらせの来たときも、退院してしばらく田舎へ帰つたときにも、彼女は出来るだけ都合して金を送つてゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
三吉はそれを家のものに言って、丁度離れた島に住む人が港へ入る船の報知しらせでも聞くように、濡縁ぬれえんの外まで出て耳を立てた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此處にまた新らしく素晴らしいことがあつた——私は四五千ポンドだと思つてゐたのである。この報知しらせは一瞬間、まさに私の息をとめてしまつた。
この報知しらせを耳にした時、豊後守の驚愕はよその見る眼も気の毒なほどで、怏々おうおうとして楽しまず自然勤務つとめおこたりがちとなった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
四時半にはモウ共立病院の室々に洋燈ランプの光が華やぎ出して、上履うはぐつの辷る程拭込んだ廊下には食事の報知しらせの拍子木が輕い反響を起して響き渡つた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
紐育ニユーヨーク電報によると、大使は米国政府から旅券を交附するといふ報知しらせを受取ると、叱られたちんのやうに眼に涙を一杯溜めて
親興の妻は家来の報知しらせによって、五人の小供を伴れ、その夜、新改村の長福寺へ忍んで往った。長福寺の住職は比江山の恩顧を受けている者であった。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急激な報知しらせの為に、みだされた感情が静まりかけて、其処に恩人の死と云う事実が、何物にも紛ぎらされずに、彼の心に喰い込んで来たからである。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこへ、法水の予測が的中したという報知しらせが、私服からもたらされて、はたせるかな地精コボルトふだが、伸子のへやにある格子底机ボールド・ルーベ抽斗ひきだしから発見されたのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
翌朝よくあさ銅鑼どらおどろ目醒めさめたのは八三十ぷんで、海上かいじやう旭光あさひ舷窓げんさうたうして鮮明あざやか室内しつないてらしてつた。船中せんちゆう三十ぷん銅鑼どら通常つうじやう朝食サツパー報知しらせである。
やがて此報知しらせが上田の町家ちやうかから戸へ伝へられると、その夜の静かに燃える洋燈らんぷの下では、すべての人々がすべての理由を忘れて父の立派な行為を語り合つた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
そこへ晩餐ばんめし報知しらせ階下したから聞えたので、皆んなドヤドヤと下りて行つたが、勝代は一人後へ殘つて、二三度母の呼び立てる聲を聞いてから、やう/\炬燵を離れた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
薄暗いすみに顔を向けて、皆ガヤガヤ騒いでいるのをよそに、何度も指を折り直して、考え込んでいるのがいた。——中積船で来た手紙で、子供の死んだ報知しらせを読んだのだった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
長屋の者の一同は捨置難すておきがたき二つの珍事ちんじなかにも家主庄兵衞が殺されたるは大變たいへんなりと其のあに山田元益の許へも斯と報知しらせるに元益驚きはせ來り家内を改め見たる所ろ何一つだに紛失ふんじつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その報知しらせを受けたお祖父じいさんは、一言も口をきかずに、ただ悲しげにうなずきました。
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おはよう。おまえの元気げんきのいいかおると、わたしのこころまでせいせいします。なにかいい報知しらせってきたこととおもうが、きかせておくれ。」と、いもうとは、はとにかっていいました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
故郷の馬橋村へ帰っておったのでありますから、早速これへ報知しらせをやりました。
ながらく外部そとへ出ずにいても、いつも世の動きを耳へ入れておくことのできたのは、このつづみの与吉があいだに立って絶えず報知しらせをもちこんできていたからで、誰知らぬ場所とはいえ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女の子が生れたという報知しらせを姉の良人おっとから受け取ったのは五月であった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
伏見戦争のあとで直ぐ、朝命てうめいを蒙つて征討将軍のみや随従ずゐしうし北陸道の鎮撫に出掛けたと云ふ手紙や、一時還俗げんぞくして岩手県の参事さんじを拝命したと云ふ報知しらせは、其の時々とき/″\に来たが、すこしの仕送しおくりも無いので
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
うした場合ばあいにはかならず何等なんらかの方法ほうほう報知しらせがありますもので、それはぬるひと思念おもいつたわる場合ばあいもあれば、また神様かみさまからとくらせていただ場合ばあいもあります。そのほかにもまだいろいろありましょう。
報知しらせひまなく打電てる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私は母や伯父おじと相談して、とうとう兄といもとに電報を打った。兄からはすぐ行くという返事が来た。妹の夫からも立つという報知しらせがあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
報知しらせを聞くとひとしく、むすめは顔の色が変って目がくぼんだ、それなりけり。砂利へ寝かされるような蒲団ふとんに倒れて、乳房の下に骨が見える煩い方。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幕府から回された討手うっての田沼勢は絶えず後ろから追って来るとの報知しらせもある。千余人からの長い行列は前後を警戒しながら伊那の谷に続いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四時半にはモウ共立病院の室々へやへや洋燈ランプの光が華やぎ出して、上屐うはぐつの辷る程拭込んだ廊下には食事の報知しらせの拍子木が軽い反響を起して響き渡つた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
叔父はこれまでに丸山のあるじや糺に手伝ってもらって、死亡の報知しらせを大方出してしまった。病院の帰りに、電話や電報を出した口も少しはあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この絵図面が今夜ようやくオースチン師の手によって作り上げられたという嬉しい報知しらせが城まで届けられたからであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ジョンさんのくなられたことと、そのときの樣子の報知しらせが、あまり不意に參りましたので、それがお惡かつたのです。
己を悦ばす事を聞くしゆが、しもべやがてもだすとき、その報知しらせにめでゝ、直ちにこれを抱くごとく 一四八—一五〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「じや君、僕は今日はこれで別れよう。用が出来たら電話で報知しらせるからね。何だか少し、疲れちまつたよ」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「祥子や、安心しなさい。先生への電報は、わるい報知しらせじゃなかったんだよ。パパは、ちょっとご用事が出来たから、『コンコン山のきつね』は、また後にしようね。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かたりだ。」居合せた男達は口々に叫んで、昇降機リフトに向おうとする刹那、倏忽たちまち戸外そとに凄じい騒ぎが起った。それは年若い婦人が五階の窓から敷石の上へ墜落ちて惨死したという報知しらせであった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
突然とつぜんはは危篤きとく報知しらせむねかんじてまいったのでございます。
それらの報知しらせを胸にまとめて見て、半蔵はいずれこの木曾街道に帰東の諸団体が通行を迎える日のあるべきことを感知した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこへお貞さんが下から夕食の報知しらせに来た。自分は彼女に、「お貞さんは近頃うれしいと見えて妙ににこにこしていますね」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この婆さんの報知しらせで上京して来たお銀の父親が、また田舎へ引き返して行ってから間もなく籍が笹村の方へ送られた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つい今朝も、僕は長い間待つてゐた僕の後任者が、もう三ヶ月しないとやつて來ないといふ報知しらせを受けたばかりなんです。その三ヶ月も、多分六ヶ月に延びるでせう。
巡吉の直ぐ下の妹(名前は忘れた。)が、五歳いつつ許りで死んだ。三日許り病んで、夜明方に死んだので何病気だつたか知らぬが、報知しらせの来たのは、私がまだ起きないうちだつた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
向うも、伏目ふしめ俯向うつむいたと思うと、リンリンと貴下あなた、高く響いたのは電話の報知しらせじゃ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その暗い境地に身を隠して紋也のおり場所を目付けたというそういう報知しらせを待ちかまえていた、目明かしの代官町の松吉が乾児の一人の猪吉の口から今やおり場所を聞いたのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの報知しらせはわたしの方へも早く来ました。ほら、横須賀よこすかの旅に、あの辺は君と二人で歩いて通ったところなんですがね。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
するととうとう死んだと云う報知しらせが来た。そう早く死ぬとは思わなかった。そんな大病なら、もう少し大人おとなしくすればよかったと思って帰って来た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はその時、仕事から帰って、湯に行ったり何かしてね、娘どもを相手に飯をすまして、凉んでるてえと、××から忰の死んだ報知しらせが来たというんだ。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)