うずたか)” の例文
彼の思想は物置場であり、ユダヤ人の古物店であって、珍稀な器物、高価な布、鉄くず襤褸ぼろなどが、同じ室の中にうずたかく積まれていた。
貧苦の中にありて「机に千文ちぶみ八百文やおぶみうずたかく載せ」たりという一事はこれを証して余りあるべし。その敬神尊王そんのうの主義を現したる歌の中に
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
滅茶滅茶に足で蹈み潰した蕎麦饅頭そばまんじゅうだの、鼻汁で練り固めた豆妙りだのを、さも穢ならしそうに皿の上へうずたかく盛って私達の前へ列べ
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うしろに、細君であろ、十八九のひっつめにって筒袖つつそで娘々むすめむすめした婦人が居る。土間には、西洋種の瓢形ふくべがた南瓜かぼちゃや、馬鈴薯じゃがいもうずたかく積んである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日華洋行にっかようこうの主人陳彩ちんさいは、机に背広の両肘りょうひじもたせて、火の消えた葉巻はまきくわえたまま、今日もうずたかい商用書類に、繁忙な眼をさらしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
丘は起伏して、ずっと彼方あちらの山にまで連なっていた。丘には処々草叢くさむらがあり、灌木の群があり、小石を一箇所へ寄せ集めたうずたかがあった。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
越中の袴腰峠はかまこしとうげ、黒部山の原始林の中では、ともに六月初めの雨の日に、まだ融けきらぬ残雪が塵をかぶって、路の傍にうずたかく積んでいた。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昼は稲を刈り夜なべには稲こきをする と本陣がいったがもう暮れてきたのに田畑にはしきりに人の影がうごいてなにかうずたかく積まれた。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
帯もめで、懐中ふところより片手出して火鉢に翳し、烈々たる炭火うずたかきに酒のかんして、片手に鼓の皮乾かしなどしたる、今も目に見ゆる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい、いらっしゃい。」そう言って、白髪の係員はちらと眼をあげたが、そのまま又、うずたかくつまれた銭の山へ視線をおとした。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
その夜、李陵は小袖短衣しょうしゅうたんい便衣べんいを着け、誰もついて来るなと禁じて独り幕営の外に出た。月が山のかいからのぞいて谷間にうずたかしかばねを照らした。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また洞の外には累々たる白骨の、うずたかく積みてあるは、年頃金眸が取りくらひたる、鳥獣とりけものの骨なるべし。黄金丸はまづ洞口ほらぐちによりて。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
卓の上には、書きさした紙片がうずたかく散乱している。駒井は一わたり書棚の書物を検閲したが、英語と覚しいものは極めて乏しい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
木魚の音のポン/\たるを後に聞き朴歯ほおば木履ぼくりカラつかせて出で立つ。近辺の寺々いずこも参詣人多く花屋の店頭黄なる赤き菊蝦夷菊えぞぎくうずたかし。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
拓殖会社の大事務室には卓が一見縦横乱雑に並び、帳面立ての上にまで帰航した各船舶から寄せられた多数の複雑な報告書がうずたかく載っている。
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
川べりにうずたかく積まれたままに投げ棄てられたこれらの畳は、半ば腐って泥とまじり、まるで堆肥のような形になっていた。
亡び行く国土 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
日は朗らかに南から射して、路にうずたかい落葉はからからに乾いている。音を立てて踏んでゆく下からは色美しい栗の実が幾つとなく露われて来た。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
本宅の方での交際つきあいも、今年は残らずこっちへ移されることになったのであった。水引きのかかったお歳暮が階下したの茶の間にうずたかく積まれてあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、やがて中堂の焼け跡、また大講堂や山王院や浄土院のあたりを経巡へめぐってみても、そこにはかつてのうずたかい焦土がそのままあるだけであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその急ぐ為事が片付くと、すぐに今一つの机の上に載せてある物をそのあとへ持ち出す。この載せてある物はいつも多い。うずたかく積んである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
対岸にうずたかく積まれていた汚穢おわい物の山は黒く点々と島になり、低い所から濁流は田畑に舌舐めずりしつつ食い入っていた。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
見ているに一杯一杯一杯と重なって、ついには両人ふたりの皿には山盛の砂糖がうずたかくなって、壺の中には一匙の砂糖も余っておらんようになったとき
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は大地のうずたかい堆積や限なき永劫えいごうよりも一瞬の間にせよ闇黒の深さを破って輝く星の光を愛することを知っている。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
私の目は不図ふと右手の崖下にうずたかく盛り上った異様の塊に惹き付けられた、白茶化た枯枝などが一面に掩うては居るが
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ね返した痕跡が割れ目を生じたころは、雪は一方にうずたかく盛り上られ、一方ではすくわれたようにげっそりとへこむ。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
あけるには、中の動物が死ぬまで日にあてるのだ。それから、人々はそのひどい臭ひのする貝のうずたかい中をかきまはして、真珠を採る。その真珠はもう穴を
三週間もたたないうちにその原稿は積もり積って三四百枚にもなっていた。うずたかいそのかさなりを眺めてみずから驚嘆した。む事なくなお熱心に続けて行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
片側は高い石垣の、日のさゝない、暗い、ヒッソリした道のうえに冬の名残の落葉が小砂利まじりにうずたかかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
四辺あたりには様々の空瓶をうずたかきほど重ねあり、目科は外の品よりも是等これらの瓶にもっとも其眼を注ぎ殊に其瓶の口を仔細にあらたむる様子なれば余は初て合点行けり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
勿論木葉このはうずたかく積って、雑草も生えていたが、花立の竹筒は何処へ行った事やら、影さえ見えなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
砲弾は雑多な破片のうずたかい中に没してしまった。せいぜい乗り合い馬車の車輪を一つこわしアンソーの古荷車を砕いたに過ぎなかった。それを見て人々は笑い出した。
北の山々は夜のころもをまだ脱がぬと見えて、くずれかかった砲塁ほうるいのような黒雲くろくもうずたかく拡がっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
店先に李がうずたかく盛上げてあって、それに埃がかかっているなどというのは、どうしても涼を呼ぶ趣ではない。暑い方の感じであろう。作者はそれを率直に描いたのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
セエラは衣類をうずたかく重ねて持ち、落ちないように顎で上を押えていました。セエラにまともに見つめられると、アアミンガアドはよけいどうしていいか判らなくなりました。
つるぎいけのほうに出て、それから藁塚わらづかのあちこちにうずたかく積まれている苅田のなかを、香具山かぐやま耳成山みみなしやまをたえず目にしながら歩いているうちに、いつか飛鳥川のまえに出てしまいました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
妙に、この未決の籠の中にうずたかく積まれてある未決裁の書類が気になってならぬ。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
釜の此方こなた厨人ちゅうじん土間に立ちてつぼを棚にせ、厨人の前方板にてかこいたる中に瓦斯竈がすかまど三基を置く。中央の置棚おきだなに野菜類のうずたかかごに盛られたるは同邸の一名物と称せらるる温室仕立の野菜なり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
然れども警察の取締皆無のため往来の人随所に垂流すが故に往来の少し引込みたる所などには必ず黄なるもの累々としてうずたかく、黄なる水たんとしてくぼみにたまりをりて臭気紛々として人にせま
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
うずたかかったものであろうが、血餅ちのりが分解して土間に吸い込まれるし、盛上った灰が又、湿気のためにピシャンコになっているので、その下に在った塵屑ごみくずの形を、浮彫レリーフみたいに浮き出させている。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二階にはあがったが、隆太郎余憤よふんが晴れないと見えて、窓の障子紙をぴりぴりぴりと裂き初める。だが、こちらはうずたかく持って出された画帖や色紙や短冊をそうはばりばりとやる訳にはゆかない。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それは彼が初めてこの寺へ第一歩を踏み入れた夜のこと、龍然はその書院にかなりうずたかく積まれた書籍を隠すやうにしながら、「売り払ふ古本屋も山の中には無いので……」と恥ぢた顔付をした。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
濡らし、温め、日にさらして、実の入った房をうずたかくお積累つみかさねになりますと
日本橋呉服町に在る宏壮おおき建築物たてものの二階で、うずたかく積んだ簿書のうちに身をうずめながら、相川は前途のことを案じわずらった。思い疲れているところへ、丁度小使が名刺を持ってやって来た。原としてある。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何千年経ったとも分からない大木が立ち並んでいて、その枝葉の茂みで空を隠していて、昼は日の光も見えず、夜は月の光もささず、地面には落葉がうずたかく積もって、気味の悪いこけなどが生えています。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
別に何も入っていないが、そのあたりには真黒まっくろすすが、うずたかつもっていて、それに、木のきれや、藁屑わらくずなどが、乱雑にちらかっているので実に目も当てられぬところなのだ、それから玄関を入ると、突当つきあたりが台所
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
机の上はうずたかい塵であった。争議に関する郷里の新聞が来ていた。
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
議長の卓上には書類うずたかく積まれて開会のベルを待ちつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こちこちに固った鳩の糞が一面うずたかく積っている。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
膝の辺にうずたかく無数の経文が積まれている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてそのひまに近所で昼食をしたためて来てから、自分も若夫婦に手を貸して、ほこりうずたか嵩張かさばった荷物を明るい縁先へ運び出した。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)