)” の例文
もう明日あすの朝の準備したくをしてしまって、ぜんさきの二合をめるようにして飲んでいた主翁ていしゅは、さかずきを持ったなりに土間の方へ目をやった。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに其の間だつて、別のつらさで生活の苦しみをめて来た晴代は、決して木山と一緒になつてふら/\遊んでゐる訳ではなかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
其處そこふるちよツけた能代のしろぜんわんぬり嬰兒あかんぼがしたか、ときたならしいが、さすがに味噌汁みそしるが、ぷんとすきはらをそゝつてにほふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
物置は二間に二間半、中はガラクタと炭俵だけで、何の変哲もなく、めるように見ましたが、金の茶釜などはどこにもありません。
ええ、おちついているな。やにめさせられた蛇のように往生ぎわが悪いと、もう御慈悲をかけちゃあいられねえ。さあ申し立てろ。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
舌の上にはとろとろした血のりがたまっていたではないか。彼はその舌で、ポトポトと赤いしずくをらしながら、口辺をめ廻した。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そんぢやぢい砂糖さたうでもめろ」とおつぎは與吉よきちだい籰棚わくだなふくろをとつた。寡言むくち卯平うへい一寸ちよつと見向みむいたきりでかへつたかともいはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
およそありとあらゆる社会の酸いと甘いとをめ尽して、今は弱いもの貧しいものゝ味方になるやうな、涙脆い人と成つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もちろん僕は大いに謹聴すると誓ったが、これから思うと、その事件において帆村は、よほど、にがにがしい苦杯をめたものらしい。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仁太郎は、年上の羅宇屋も、本職の七之助も、土蔵ぶんこ破りは、名人だろうが、頭が低いな——とすぐめてしまった。で、弁をふるって
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ええ、おこついているな。やにめさせられた蛇のように往生際が悪いと、もうお慈悲をかけちゃあいられねえ。さあ。申立てろ。
半七雑感 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「女のところを味わうには、それ以上のいやな処を多くめなければならない。」とは、女の価値をあまりみとめない氏の持説じせつです。
魂を打込んだ真心が幾度か無惨に裏切られ、悩みに悩みをめて鍛えられた心がいつわりやすい目的に目をくれなくなるのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
むるとも、屈せずたゆまず、ついの勝利をはかるこそまことの大将とは申すべし、はやく本城へ退きたまえ、吉信しんがりをつかまつる
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私がなかにはいってめた苦労の十が一だって、あなたには察しができやしません。私はどれほど皆から責められたかしれないのですよ。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
二度と再びフロールとのあんな経験をめたくないという恐ればかりが先に立って、人と交わることが苦しくなってくるからであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
即刻太田の補充をすること、太田の検挙のことをビラに書いれて倉田工業の全従業員に訴えること。私は原稿を鉛筆をめ/\書いた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
話がすこし脱線したが、其日庵主は玄洋社を離脱してから海外貿易に着眼し、上海シャンハイ香港ホンコンあたりを馳けまわってつぶさに辛酸をめた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ラザルスてふ靴工、蜜をめるところへ蠅集まるを一打ちに四十疋殺し、刀を作って一撃殺四十と銘し、武者修業に出で泉の側に睡る。
それをお皿の上にさかさにして笠の裏を出して砂糖を少し振りかけておくと蠅がその匂いをぎつけて沢山あつまって来てそのつゆめます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あの星を、ほしいと思っていた。それでは、いつか必ず、幻滅の苦杯をめるわけだ。人間のみじめ。食べる事ばかり考えている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
地を這ふ爬虫むしの一生、塵埃ごみめて生きてゐるのにもたとふれば譬へられる。からだは立つて歩いても、心は多く地を這つて居る。
人からあわれまれているとおりに確かに自分は寂しい、自分のめているものはにがいほかの味のあるものではないと夫人は思ったが
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
めて見るとそれが真塩ましおであり、その僧は弘法大師であったと、古い記録にも書いてあるそうです。(安房志。千葉県安房郡豊房村神余)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
維新の際南部藩が朝敵にまわったため、母は十二、三から流離の苦をめて、結婚前には東京でお針の賃仕事をしていたということである。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うして、世の辛酸をめつくした中老の亜米利加アメリカ女と、坊ちゃん育ちで、我儘わがままで天才的な若いスコットランド人との結婚生活が始まった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「歴代のうちで私は一番愛されたかどうかは存じませんが、ただ私が一番よくめられた大統領だつたことだけは事実です。」
美を主眼とする者があるなら、彼はその美から棄てられる矛盾をめるであろう。何故なら工藝においては、用のみが美を産むからである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
どんな苦杯をめて来たでしょう! それも何のためでしょう? みんな、私が正義を守ったからです、良心に恥じたくなかったからです
が、勝平は戸外のさうした物音に、少しも気を取られないで、瑠璃子がいでやつた酒を、チビリ/\とめながら、熱心に言葉を継いだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
癇癪持で酒乱の父に兄や姉は叱られた怖い思い出ばかり残っているようだが、末ッ子のぼくは父からめられるみたいに愛された記憶が強い。
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
お銀ちやんは、唾の泡立つた唇をめまはしながら、まだ何かを叫ぼうとしてゐたが、やがてその口をおきみの方へ向けて
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
お前さんたちに、いつまでもいいようにされている子供じゃないんだぞ。東京でもうさんざっぱら塩をめて来ている私だ。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
民族は抑圧に対抗するとき最も強靭きょうじんであり、民族的英雄や民族の伝説は、多くは民族の繁栄よりも、相共にめた苦しみとたたかいの記念である。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
「王の居候」だからおもしろい。「置候おきさふらふ」の相馬小次郎は我武者に強いばかりの男では無い、幼少から浮世の塩はたんとめて居る苦労人くらうにんだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
くものは、らざるべからず。今や徳川幕府も、二百年来の悪因果たる鎖国のがき経験をめねばならぬ時とはなれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
支那では人神牛首じんしんぎうしゆ神農氏しんのうし赭鞭かはむちを以て草木をむちうち、初めて百草をめて、医薬を知つたといひ、希臘ギリシヤではアポローの子、エスキユレピアスが
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
田舎いなかの書生、国をずるときは、難苦をめて三年のうちに成業とみずから期したる者、よくその心の約束をみたるや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ジャックリーヌはその新たな苦悶くもんを一人でめた。それから脱したのは苦悶が鈍ってきたときにであった。しかも苦悶は愛とともに鈍ってきた。
乙下人 はて、うぬがゆびめぬやうなやつ不可いけ料理人れうりにんでござります。それゆゑゆびめぬやつ採用とりあげませぬ。
梅子は思はず赧然たんぜんとしてぢぬ、彼女かれの良心は私語さゝやけり、なんぢかつて其の婦人の為めに心に嫉妬しつとてふ経験をめしに非ずやと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
フリードリヒ大王当時は幅は広いが(軍隊は広正面にて前進し得た)ほとんど構築せられない道路のみで物資の追送には殊に大なる困難をめた。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
その時までは何とも思はなかつたが、衣服の端で寒い外気をおほはうとした刹那に、某年某月の旅にめた異境での悲みが突然心によみがへつたのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかしわれわれ下戸げこの経験を言ふて見ると、日本の国に生れて日本酒をめて見る機会はかなり多かつたにかかはらず
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
出鱈目でたらめの名を呼び立てた。ポチは、砂を蹴って父の傍から離れると、一飛び体をくねらせ、傍の晴子の頬の辺をめた。父がまるでむきな調子で
海浜一日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
われらが冷たい思索の世界に、こうして凡俗の知らぬ苦労をめているのは「真」のためでなく、「美」のためでなく、じつに「善」のためである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「学問は上達しても、踊が、あれじゃあなってねえな。おめえたちのは、踊ってるんじゃなくて、畳をめてるんだ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おもんみれば誰が保ちけん東父西母がいのち、誰がめたりし不老不死の藥、電光の裏に假の生を寄せて、妄念の間に露の命を苦しむ、おろかなりし我身なりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
鄙吝ひりんでもあったろうが、鄙吝よりは下女風情に甘くめられてはというむずかし屋の理窟屋の腹の虫が承知しないのだ。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
東京の帝國大學には、アイノ語學者を以て任ずる人もあるがすべてがバチエラの糟粕そうはくめてゐるものばかりで、それも半可通はんかつうに滿足してゐること。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)