周囲まわり)” の例文
旧字:周圍
彼は先生の家の周囲まわりを歩くというだけで満足して、やがて金目垣に囲われた平屋造りの建物の側面と勝手口の障子とを眺めて通った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
屋敷やしき周囲まわりには広々ひろびろとしたはたけがありました。そして、そこにはばらのはなや、けしのはなが、いまをさかりにみだれているのであります。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗近君は脱いだ両袖をぐるぐると腰へ巻き付けると共に、毛脛けずねまつわる竪縞たてじますそをぐいと端折はしおって、同じく白縮緬しろちりめん周囲まわりに畳み込む。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(無造作に、座を立って、卓子テエブル周囲まわりに近づき、手を取らんとかいなを伸ばす。美女、崩るるがごとくに椅子をはずれ、床に伏す。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「でもあの辺はうございますのね、周囲まわりがおにぎやかで」おゆうはじろじろお島の髷の形などを見ながら自分のあたまへも手をやっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの襟化粧をした頸部くび周囲まわりに、生々しい斑点となって群がり残っている絞殺の痕跡……紫や赤のダンダラを畳んでいる索溝ストラングマルクを……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お宅は下根岸しもねぎしもズッと末の方でく閑静な処、屋敷の周囲まわりひくい生垣になって居まして、其の外は田甫たんぼ、其のむこう道灌山どうかんやまが見える。
瀑壺の周囲まわりは瀑水の飛沫しぶきが霧となって立ち罩めているのに、高い木立の隙間から漏れた陽の光が射して処どころに虹をこしらえていた。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし、その理由と、原因をわざわざと探し求めるまでもなく、米友の身の周囲まわりに降りそそぐ石礫いしつぶてが、とりあえずこの不穏を報告する。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
キャラコさんの周囲まわりでさまざまな人生の起伏を見せたひとたちが、ただ二人だけを除いて、あとは一人残らず全部ここにそろっている。
次に現場の踏査に移り、慎重に視察した揚句、署長にそう言って屍体のあった周囲まわり二メートル平方の広袤ひろさを、充分に灰をふるわせた。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
その男の押すボタンに連れて、珠が鏡に変わるのである。部屋の広さ三十畳敷ぐらいそこに幾個か円卓があり、円卓の周囲まわりとうがある。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
というのは、周囲まわりの人達が、何かセエラの方に味方しているようだったからです。少女達は、実をいうと、皆宮様プリンセスが好きだったのです。
その周囲まわりには御殿女中と町娘と芸者らしい姿した女がいずれ劣らずこの男に魂までも打込んでいるという風にしなだれ掛っていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出す時には骨付のまま皿へ盛ってパンの小さく切ったのをフライして周囲まわりへ置きますが尾の肉が柔くなってなかなか美味おいしゅうございます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
田鶴子さんと二人で池の周囲まわりを歩いて見た。大きな川が出来るほど清水が湧いているのだから、夏場所としてはこの上のところはない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これには何か深い仔細しさいがなくてはかなわぬと先刻から眼惹き袖引き聴耳立てていた周囲まわりの一同、ここぞとばかりに犇々ひしひしと取り巻いてくる。
僕は戸外そとへ飛びだした。夜見たよりも一段、蕭条しょうじょうたる海であった。家の周囲まわりいわしが軒の高さほどにつるして一面にしてある。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
銃劒が心臓の真中心まッただなかを貫いたのだからな。それそれ軍服のこの大きなあなあな周囲まわりのこの血。これはたれわざ? 皆こういうおれの仕業しわざだ。
そういいながらイタリアで散歩をしていて、にぎやかな生活に身の周囲まわりを取り巻かれているのだ。僕はそういうのを気取っているというのだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
けれども、其対手そのあいての市郎は云うに及ばず、父の安行も周囲まわりの人々も、お葉の恋をばかりに熱烈なるものとは想像し得なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花壇の上にも、畠の上にも、蜜柑の木の周囲まわりにも、蜜蜂みつばちが沢山飛んでいるので、石田は大そう蜜蜂の多い処だと思って爺さんに問うて見た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
辺鄙な田舎ですから、家も家の周囲まわりも、まことに駄々っ広いのです。裏の山林を背にして、先祖代々の屋敷は、昔となんの変りもありません。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いくらわたし娘の時から周囲まわりから責められ通しに責められていても、今だに女手一つで二人ふたりの妹まで背負って立つ事はできませんからね。……
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此所ここで話が前置きをして置いた浅草大火のくだりとなるのですが、その前になお少し火事以前の雷門を中心としたその周囲まわりの町並み、あるいは古舗しにせ
「こう、みんなも聴けよ」彼は、周囲まわり南瓜面かぼちゃづらを、ずーッとめまわした。「ありゃナ、クレーンが、動いている音さ!」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これを目撃した町の人々や、同じく帰途にあった女学生たちは、余りのことに呆れ果てて、その周囲まわりに立ちつくしました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
少しむくみのある顔を悲しそうにしかめながら、そっと腰の周囲まわりをさすっているところは男前も何もない、血気盛りであるだけかえってみじめが深い。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
そこで弟子たちが注意申し上げて、「ここは寂しき所、はや時もおそし。人々を去らしめ、周囲まわりの里また村にきて、己がために食物を買わせ給え」
と、強い決意の色を示したが、途端に身の周囲まわりを見廻して、手近にあった紙おさえにしてあった小さなものを取って
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼のうち門口かどぐちへ駈けこんだ時、良平はとうとう大声に、わっと泣き出さずにはいられなかった。その泣き声は彼の周囲まわりへ、一時に父や母を集まらせた。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
崖下がけしたにある一構えの第宅やしきは郷士の住処すみかと見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾かざり少く、夕顔の干物ひもの衣物きものとした小柴垣こしばがきがその周囲まわりを取り巻いている。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
泉原の周囲まわりの人々は一斉に振返って、奇声をあげた小さな日本人を不思議そうにみはっている。泉原は突嗟とっさの間に雑沓ざっとうの間を縫ってM駅行の切符をった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それに周囲まわりは厚い壁で仕切られているし、話声の外部へもれる恐れもない。お梶さんはやっと安心したらしく
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
太平洋の濤に囲まれた小さな島の・椰子の葉でいた土民小舎の中で、家の周囲まわりにズシンと落ちる椰子の実の音を聞いている時に、突然思出されたものか。
アンドレイ、エヒミチは知識ちしき廉直れんちょくとをすこぶこのみかつあいしていたのであるが、さてかれ自分じぶん周囲まわりにはそう生活せいかつもうけることは到底とうてい出来できぬのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
俄かに気がついて身の周囲まわりを見廻してみると、それがみんな手探りも出来ない無色無臭の中央であつたりする。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そうしていろ/\の恐しい噂に驚かされて、白昼に伝家の一刀をよこたえて、家の周囲まわりを歩き廻った一人である。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
海には、まだ大きな鯨共が、逃げもせずにグルグルと船の周囲まわりをまわっていた。それは不思議な景色だった。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
その背後うしろ周囲まわりと、それから到る処たくさんの墓の上に死者の霊火が蝋燭のように燃えていた。いまだかつて人の目にこれほどの鬼火が見えた事はなかった……
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
その枝は四百一尺の周囲まわり明地あきちをグルリと覆ふてゐる。一二二九年に此の木はもう余程年とつてゐた。其の時代の著述家に『大きなリンデン』と云はれてゐた。
越歴エレキの講義が終ッて試験に掛る所で、皆「えれくとりある、ましん」の周囲まわりに集って、何事とも解らんが、何かしきりに云い争いながら騒いでいるかと思うと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
キチンと四角に坐ったまま少しもひざをくずさないで、少し反身そりみ煙草たばこかしながらニヤリニヤリして、余り口数くちかずかずにジロジロ部屋へや周囲まわりを見廻していた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
戦争の気配もないのに、大砲の音が遠くできこえ、城壁の周囲まわりに立てた支那の旗が、青や赤のふさをびらびらさせて、青竜刀の列と一所に、無限に沢山連なっていた。
自分のことばかり考えて、周囲まわりに自分だけの城を築いて暢気に世の中を送るやつが——思いきってそういうことのできるやつが、結局一番利口なんじゃないかな。
が、彼ははげしい怒りで、口の周囲まわりの筋肉が、ピク/\と痙攣けいれんする丈で、言葉は少しも、出て来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼の周囲まわりには、賊の風采に比べて甚だ見劣りのする警官達が十数名、帯剣の柄を握って警戒している。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
周囲まわりには真黒い厚ぼったいカーテンが重そうにゆるやかなひだをうって垂下っている中に、小さい赤燈が、ぼんやりと、いまにも絶入りそうな弱い光の輪を描いていた。
魔像 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
頭髪かみ金色こんじきに染め、その蒼白い頬を生々した薔薇色に見せ、彼女の周囲まわりをちょろちょろとダンスをやりながら、額や、眼瞼まぶたや、唇のあたりに気まぐれな陰影かげを投げかけた。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかし己はたかが身の周囲まわりの物事を傍観して理解したというに過ぎぬ。己と身の周囲まわりの物とが一しょに織り交ぜられた事は無い。周囲まわりの物に心をゆだねてわれを忘れた事は無い。