周囲まはり)” の例文
旧字:周圍
君には分からないから云つて聞かせるが、偉大な思想は僕を饜飫えんよくさせる。そして僕の体の周囲まはりの闇を昼の如くに照らしてゐるのだよ。
セルギウスが一人暮しをして、身の周囲まはりの事をすべて一人で取りまかなひ、パンと供物とで命を繋いでゐた時代は遠く過ぎ去つてゐる。
夏、夏、夏の薄暮は何時もアーク燈の光のやうに薄紫の涙に濡れしとつたやるせない寂しい微光の氛囲気を私の心の周囲まはりにかたちづくる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちやうどこゝのやうな処でね。」と未来の大統領は吐き出すやうに言つた。「法律家はみんな火の周囲まはりに立たせられて居ましたよ。」
ういふ相談をして居るところへ、ひつぎが持運ばれた。た読経の声が起つた。人々は最後の別離わかれを告げる為に其棺の周囲まはりへ集つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのシヨオルの下の端は腰の周囲まはりに結んである。シヨオルもその外の衣類も、山の高い、庇のない帽も氷で真つ白になつてゐる。
只違つてゐるのは、今度は今までよりも縦の方向が勝つて走るのでございます。わたくしはたんを据ゑて目を開いて周囲まはりの様子を見ました。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
はげしく手真似をして叫びかはす群が忽ちドルフの周囲まはりへ寄つて来た。中に干魚ひもののやうな皺の寄つた爺いさんがゐて、ドルフの肩に手を置いた。
主人は起きて周囲まはりを見廻はしたが、そばにある軍刀を取らずに、運動のために振ることにしてゐる木刀のあつたのを持つて、玄関に出て来た。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
二十三の青年が到底人生につかれてゐる事が出来ない時節が来た。三四郎はる。大学の池の周囲まはり大分だいぶんまはつて見たが、別段のへんもない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
周囲まはりには村の若者が頬かぶりに尻はしよりといふていで、その数大凡およそ三十人ばかり、全く一群ひとむれつて、しきりにそれを練習して居る様子である。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
世が日毎に月毎に進んで、汽車、汽船、電車、自動車、地球の周囲まはりを縮める事許り考へ出すと、徒歩で世界を一周すると云ひ出す奴が屹度出る。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勇少年の輝いた胸と晴れやかな顔と、さうして少年の周囲まはりで声張上て万歳を唱えてゐる少年達の表情をよく見て下さい。
喜びと悲しみの熱涙 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
家来の口の周囲まはりには微笑の影が浮んだ。遠慮がし切れなかつたのである。「でも、お嬢様、馬は附けてございません。」
薔薇 (新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
『わしは仕切つてる時にのう。周囲まはりで見物のわあといふ声がするとどうしても立てんで。それに知つた人の顔が桟敷に見えるともういかんね。駄目だ』
怪物と飯を食ふ話 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
彼の家の門口かどぐちへ駈けこんだ時、良平はとうとう大声に、わつと泣き出さずにはゐられなかつた。その泣き声は彼の周囲まはりへ、一時に父や母を集まらせた。
トロツコ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
くはをかついで来た勘又さんが、掘りはじめた。みんなはその周囲まはりに立つて見てゐた。良寛さんも見てゐた。まるで他人ひとのことのやうに平気で見てゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「さう、土地を見てですな、周囲まはりの風物、つまり環境を、最上級の言葉で讃美するといふのが、まあわれわれの常識です。前例をみられたらわかります」
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
削立つた岩は罅隙すきまのない壁の様で、しかもその上から瀑布たきが泡を飛ばして墜ちて来て、直ぐ下にある、周囲まはりの森の影に裹まれて、真黒な淵にはいります。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
けれども、次第しだい畜生ちくしやう横領わうりやうふるつて、よひうちからちよろりとさらふ、すなどあとからめてく……る/\手網であみ網代あじろうへで、こし周囲まはりから引奪ひつたくる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鼻は尖つて、干からびた顔の皮は紙のやうになつて、深く陥つた、周囲まはりの輪廓のはつきりしてゐる眼窩がんくわは、上下うえしたの瞼が合はないので、狭い隙間をあらはしてゐる。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
ソロドフニコフはそれに腰を掛けて周囲まはりを見廻した。部屋に附けてあるのはひどく悪いランプである。それで室内が割合に暗くて息が籠つたやうになつてゐる。
赤帽が柱の周囲まはりに、不性らしく立つてゐる。埃だらけのベンチの上に、包みや籠を置いて、それに倚り掛つて、不機嫌らしい顔をしてゐる下等社会の男女もある。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
右の手はアリスチドののどぶえを掴んでゐる。周囲まはりの人がなか/\その手を吭から放すことが出来なかつた。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
そしてこの金色こんじきのさゞ波にくるまつて、それは上手に踊るのでした。すると夕暮れの風は、急にはしやぎ出しますし、沼の周囲まはりの草木もさかんに拍手をいたします。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
彼は又、その家の周囲まはりかんばしいにほひを放ついろいろの草花を植えた。彼の部屋の、書卓テーブルゑてある窓へ、葡萄棚ぶだうだなの葉蔭をれる月の光がちら/\とし込んだ。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
双方共背後うしろから押されてゐる。中にちよい/\理性にかなつた詞を出すものがあつても、周囲まはりの罵りさわぐ声に消されてしまふ。此場の危険は次第にはつきり意識に上つて来た。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
其の周囲まはりには子供が大勢泣いたり、騒いだり、喧嘩したりしてゐる。さう云ふ狭い横町をば包みを持ち尻を端折つた中年の男が幾人も、突当る人の中を急しさうに通つて行く。
根津遊草 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
目の周囲まはりにいろんな隈を取つたりする遊女の厚化粧は決してこの国の誇る趣味ではない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
近江屋「なに、それはもつと小さい丸いので、ぶら提灯ぢやうちんといふのだが、あれは神前しんぜん奉納ほうなふするので、周囲まはりあかつぶして、なかくろで「うをがし」と書いてあるのだ、周囲まはりなかくろ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
老人は骨鯁こつかうで、しかも淳樸なものらしい。周囲まはりに狗がたかつて吠えてゐる。
屋根も周囲まはりの壁も大木の皮を幅広くぎて組合したもので、板を用ゐしは床のみ、床にはむしろを敷き、出入の口はこれ又樹皮を組みて戸となしたるが一枚おほはれてあるばかりこれ開墾者の巣なり家なり
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
寝床の周囲まはりに散らばつた
何れこれからは毎朝まいてう新聞記者が群をなして来て、このブリツキの盤の周囲まはりを取り巻いて、最近の海外電報に対する僕の意見を聞くだらう。
弁護士、大日向、音作、銀之助、其他生徒の群はいづれも三台のそり周囲まはりに集つた。お志保はあをざめて、省吾の肩に取縋とりすがり乍ら見送つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
野々宮君の妹と、妹の病気と、大学の病院を一所にまとめて、それに池の周囲まはりつた女を加へて、それをいちどきにまはして、驚ろいてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さいはひ美吉屋みよしやの家には、ひつじさるすみ離座敷はなれざしきがある。周囲まはり小庭こにはになつてゐて、母屋おもやとの間には、小さい戸口の附いた板塀いたべいがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
火の周囲まはりには田舎の旅の者と仲間の弁護士が四五人、亀縮かじかむだ手を出してふるへてゐた。どの手もどの手もまだ運を掴むだ事が無いらしかつた。
鳥は園の周囲まはりに鳴き、園丁の鍬に掘りかへさるる赤土のやはらかなるあるかなきかの湿潤しめりのなかのわかき新芽のにほひよ、冷めたけれども力あり。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はふり出されて、雪の中を引き摩られてゐる乗手は、力一ぱいに手綱を控へて、体の周囲まはりの雪を雲のやうに立てゝゐる。
見えてゐる限りの空の周囲まはりが、どの方角もぐるりと墨のやうに真黒になつてゐまして、丁度わたくし共の頭の上の所に、まんまるに穴があいてゐます。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
良寛さんの人がらも、その周囲まはりの人々の心をうるほし、うはついてゐた心をしつとり落着かせ、知らぬ間に希望のぞみと喜びの芽をふかせるといふ風である。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
自動車はゆつくり花壇の周囲まはりに輪をかいて、それから速度を早めて、をどるやうに中庭を走つて出て、街道に続く道の、菩提樹の並木の間に這入つて行く。
薔薇 (新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
何処かヲルフに似たやうな、饑死をし掛つた犬が一匹、家の周囲まはり彷徨ぶらついて居るから、名を呼んで見ると、厮奴きやつは歯を露出むきだして、噢咻うなつて逃げて仕舞ひました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ソロドフニコフは歩きながら身の周囲まはりを見廻した。何もかも動いてゐる。輝いてゐる。活躍してゐる。
「どうぞおかまひくださるな。なんでもありませんから。」セルギウスは殆ど目に見えぬ程唇の周囲まはりを引き吊らせて微笑みながら、かう云つた。そしてその儘勤行ごんぎやうを続けた。
三味線のくやうにきこえる、月の光の下に巧い祭文語さいもんがたりが来て、その周囲まはりに多勢の男女を黒く集めてゐる——そこからその軽いなまめかしい足音がやつて来たのであつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
みづしづかときおほきつのりうそこしづんだやうで、かぜがさら/\とときは、胴中どうなかつてみづおもてうろこはしるで、おしろ様子やうすのぞけるだから、以前いぜんぬま周囲まはり御番所ごばんしよつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
岩燕いはつばめや、鴎や、あらゆる鳥達が、小川の岸に集つて、口の周囲まはりを染めたり、羽を洗つたり、白粉をつけたり、紅をつけたり、手をそめたり、熱心に化粧をしてゐるのですから
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
多吉は両手で口の周囲まはりを包むやうにして呼んだ。『先生い。何処を歩いてるんでせう?』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)