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誠に有難ありがたい事で、わたくしもホツといきいて、それから二の一ばん汽車きしや京都きやうと御随行ごずゐかうをいたして木屋町きやちやう吉富楼よしとみろうといふうちまゐりました
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
玉ちやんの汁かけ飯を食べてゐるのには構はずに、奧さんは先づ溜息を一つ苦しげにいて、中單チヨキ着掛きかゝつてゐる博士にかう云つた。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「だめだ。お母さんは、僕たちの遊びを馬鹿にしているんだからなあ。」大袈裟おおげさに溜息をいて、蒲団を頭から、かぶってしまった。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、旅宿やどやの一で出来るだけ小さくなつて、溜息ばかりいてゐると、次の日曜日の朝、夫人は金糸雀かなりやのやうな声ではしやぎ出した。
やがてお客様達がお食堂の方へお入りになると、乳母ばあやさんは達也様を抱いて、静かなお離室はなれへやって来て、一息いていました。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そして両腕をつきだし、卓子テーブルの上に拳骨を構えて、大きな小麦袋でも抜き取ろうとする時のように、ふうっと深い溜息を一ついたが
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
一時は腰が抜けて起つことも出来ない。寝ていても時をしきってき上げて来て気息いきくことも出来ない。実に恐ろしく苦しみました。
氏の何より嫌ったのは、偽善家、氏の好意と寛大とにつけ込んであくどく利益を貪ろうとする人物、気障きざな人間嘘き等であった。
名古屋の小酒井不木氏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八千石の大旗本が、潰れるか立つか、人の命幾つにも関わる事だけに、平次もお静も、八五郎も息もかずに神妙に聴入りました。
玲子は眼を大きく大きく見開いて中林先生の顔を見上げて呼吸いきけないでいた。その顔を見下しながら中林先生はニッコリと笑った。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一あめ、さっと聞くおもい、なりも、ふりも、うっちゃった容子のうちに、争われぬ手練てだれが見えて、こっちは、ほっと息をいた。……
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今の世にこんな事のできるものがいるかどうだかはなはだ疑わしい。おそらく古代の聖徒せいんとの仕事だろう。三重吉はうそいたに違ない。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おげんは寝衣ねまきを着かえるが早いか、いきなりそこへ身を投げるようにして、その日あった出来事を思い出して見ては深い溜息をいた。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
語り來つて石本は、痩せた手の甲に涙をぬぐつて悲氣かなしげに自分を見た。自分もホッと息をいて涙を拭つた。女教師は卓子テーブルに打伏して居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
溜息ためいきいて、ジーナは語り出しました。父親というのは、同じ長崎県でもここからは北のはずれに当る、平戸島の人だというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
寝しなに、ランプの火で煙草をふかしながら、気がくさくさするような調子で、「アア、何だか厭になってしまった。」と溜息をいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたくしはあまりのもどかしさに、よくないこととりながらもツイ神様かみさまってかかり、さんざん悪口あくこういたことがございました。
ここに正直な告白が更に一層明確に表現されたとしたら、私は恥づべき者でないことを證據立てられるのです。私はうそをいてゐない。
帆の世界 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
ホッと息をいた彼れは直ちに衣服きものを脱ごうとして例の通り、寝床へ入る前に懐中しておるものを一々取り出してそば暖炉ストーブの上に置いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
小平太は一丁ばかり来て、始めて吾に返ったように息をいた。別段取りたてて吹聴ふいちょうするようなこともないが、使命だけは無事に果した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
もっとも私の立ったあとにあるいはしばられたとかいうような説もあるが、何分ラサの人間は嘘をく者が多いからどうも当てにはならない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
嘘言をくと云ふことは悪いことだと私達はずつと小さい時から教へられて来ました。これは恐らく一番いけないことに違ひはありません。
また精神上の潔癖家として無暗むやみに人を毛嫌けぎらいするものもある。あいつはオベッカ者だからとかあいつはウソきだとかいって、口もかぬ。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
でも昨今は彼女も諦めたか、昼間部屋の隅っこで一尺ほどのさらしの肌襦袢を縫ったり小ぎれをいじくったりしては、太息ためいきいているのだ。
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
彼は指先を酒に浸しながら櫃台の上に字を書き始めたが、わたしが冷淡に口を結んで遠のくと真から残念そうに溜息をいた。
孔乙己 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかし、その時鑑識課員が姉妹の指紋を採りに入ってきたので、偶然緊迫した空気がほぐれて、一同はやっと一息くことが出来たのである。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「貴様ひとりで、勝手にさっさっとうせえ。内のはそんなところへ出て往く用はない」といって、またいつもの悪態をく。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この緊張した、黄金点をのみ通って行くような動きのあとに、息をく間もなく、バッカントがバッカンティンを追うような動きが始まる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
最前、ここをだしてくれなければ、火をつけるぞとあくたれをいていた、その弁天べんてんさまのほうへ、声をしぼって救いをよんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしていかにもつかれたやうにふらふら頭をふつて、それから口をまげてふうと息をき、よろよろ倒れさうになりました。
月夜のでんしんばしら (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
此の無責任の大群が、恩人顔して出放題をくのだから堪えられるもので無い。けれど「運動」と云ふものには此の「有志者」の虫が必要だ。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「嘘をき給へ、イワン・イワーノヸッチ!」その話を小耳にはさんで、グリゴーリイ・グリゴーリエヸッチが口を入れた。
「わッははは。軍師が違うわ。うしろ楯におつき遊ばす軍師がお違い申すわ。夜食に芋粥いもがゆでも鱈腹たらふくすすって、せいぜい寝言でもかッしゃい」
頻りに溜息をいておいでになりましたが、やがて低い聲で『あゝ御運の惡い方だ。』と獨り言のやうにおつしやいました。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そんなら、どうしてうそくんだい。お父さんを困らせようと思ってだろう。ラッパが好きなら、ピストルが好きだなんていうもんじゃない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
莫斯科モスコオまであとがもう五晩いつばんあると思つて溜息をいたり、昨日きのふ一昨日をとゝひも出したのに又子供達に出す葉書を書いたりして居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
加藤夫人はこれをドアまで送つてもとの椅子へ戻るまでに、中将は此処で始めて溜息をき、椅子の背へもたれて眼を閉ぢる。
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
若し分かつたと言つたら、吉右衛門は——嘘をいたのである。あの文章は他人ひとに分かる筈がない。なぜなら、私にさへよく分からないのだから。
吉右衛門の第一印象 (新字旧仮名) / 小宮豊隆(著)
男は名前を云ってしまふと、息をいて、それから、自分の年齢も、妹の名前も年齢も住所も話した。さうして、彼はまた赦して呉れと哀願した。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
今日やつと給料を前借りして來て息をいた處なんだ。それも君、もう三月許り前借してゐるんだからねえ。はゝゝゝゝ
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
訓示と報告とが一通り済んだ時分、もうこれで散会になるだろうと、しびれを切らしたり、あくびを噛み殺していた連中がホッと息をいた時分
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『まァ、つてしまつた、可哀相かあいさうに!』ねずみ姿すがたまつたえなくなるやいなや、ローリーてうつて長太息ためいききました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かゝればかまどの烟細しとは言ひながら、其日其日を送るに太き息く程にはあらず、折には小金貸し出す勢ひさへもありきと言ふものもありけり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そして良人の留守に姑は散々の悪態をいて乱暴にも肺を病んでいる嫁をいびり出そうとした。恐ろしい権幕で今から直ぐに出て行けといい放った。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
番丙 これなる老僧らうそうは、ふるへながら溜息といきき、なみだながしてをりまする。只今たゞいま墓場はかばからまゐるところを取押とりをさへて、これなるすき鶴嘴つるはしとを取上とりあげました。
長閑のどかに一服吸うて線香の煙るように緩々ゆるゆると煙りをいだし、思わず知らず太息ためいきいて、多分は良人うちの手に入るであろうが憎いのっそりめがむこうへまわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
池のちかくまで来ると、冬子の脚どりは次第にのろくなつて、稍ともすると立どまつて溜息をくかのやうであつた。
女に臆病な男 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
世帶せたいじみたことをと旦那だんなどのが恐悦顏きようえつがほぬやうにしてつまおもて立出たちいでしが大空おほぞら見上みあげてほつといきときくもれるやうのおももちいとゞ雲深くもふかりぬ。
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
社前の拝石に腰を掛けて、深い溜息をいていると、突然、空中から薄黒く細太き蛇が降って来て、危く直芳に当ろうとした。びっくりして飛上った。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そしてようよう汽車賃ほか遺らない中から、薬代を払おうとして、きっと浩が済ませたに違いない受取りを出されたとき、彼は思わずも溜息をいた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)