わか)” の例文
巴里の北の停車場でおまえとわかれてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだかわからない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何だ、きさまの眼玉は黄いろできょろきょろまるで支那しなの犬のやうだ。ははあおれはドイツできさまの悪口を云ってやる。わかるかい。
電車 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あなたがたもいずれはこちらの世界せかい引移ひきうつってられるでしょうが、そのときになればわたくしどもの現在げんざい心持こころもちがだんだんおわかりになります。
「本のままじゃあ、どうなるもんですか。河竹かわたけなんぞは何をいっているのかわかりゃしません。」などと、すこぶる得意そうに語っていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ハナショウブの母種ぼしゅ、すなわち原種のノハナショウブは、関西地方ではドンドバナと称するらしいが、今その意味が私にはわからない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
きんの関係した男達は、みんなそれぞれに偉くなっていったが、この終戦後は、その男達のおおかたは消息もわからなくなってしまった。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「まあ、大概たいがいのことはわかつてゐるつもりですが、貴女あなたがはからなら、大久保おほくぼ生活せいくわつがいつそくはしくわかつてゐるはずぢやないですか。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
どんな御用でお前さんが招ばれるのか、そいつはわたし達にもわからないが、おかみからのお呼び出しだとなりゃア、どうにも仕方がない。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
どうしてそういう風に目に見えたかは、残念ながらまだ明白にわからぬというまででまずは怪物の証拠とでもいうべきものであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
宗兵衛の後嗣と云うのが、非常に物のわかった人と見え、子供の養育料として一万両と云う可なりな金額をけてくれたそうです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
従って、このマッチは、レッテルの文案に「関東煮」としてあるだけで、充分に東京の料理店のマッチでない事はわかはずだ。——
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
許宣はこんな大きな家に住んでいた人が何故なぜわからなかったろうと思って不審した。彼はそのまま小婢にいてそこの門をくぐった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これほど明白にわかり切った事をおとよが勝手かって我儘わがまま私心わたくしごころ一つで飽くまでも親の意に逆らうと思いつめてるからどうしても勘弁ができない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私は、彼女が私をこれから入れようとしてゐる新らしい生活から、私の希望を既にもぎとらうとしてゐるのを朧氣おぼろげながらわかつた。
医者が患者の容態ようだいわかるように、料理をする者は、相手の嗜好しこうを見分け、老若男女いずれにも、その要求がかなうようでなくてはなりません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その女の叫ぶ百万言もみんな彼にはわかっていた。だから少しも聞いていなかった。過ぎ去ったどうにもならぬことはどうでもよかったのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
同じ友人に依頼して誰が掃除そうじしてくれたるか、もしわかったならば礼もしたいから、住職なり番人なりにただしてくれと、いって送るけれども
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
眼鏡めがねをかけた白ズボンの青年は、いよいよ梅三爺とは五六間程の距離になった。爺は、それが巡査でないことだけはわかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
自分の絵は自分で厳しく判断すれば大概わかっているもので、それが判らない位の鈍感さならさっさと絵事はあきらめる方がいいと考えていた。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
つぶれた鼻に、いびつな耳、一目でボクサアとわかる、その男は、あまりにも、みすぼらしい風体ふうていと、うつろなひとみをしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その後間もなくシャクはみょう譫言うわごとをいうようになった。何がこの男にのり移って奇怪きかいな言葉を吐かせるのか、初め近処の人々にはわからなかった。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「その道の玄人くろうと多勢おおぜいかかってわからんことがお前などに判ってたまるもんか。まあ危ない仕事には手を出さん方がいいね」
少年探偵呉田博士と与一 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
米田さんに充分なものがあることがわかり、この次それを参考としてさらに力作をしたい下心であることなどお話しました。
彼は其眼の光よりも女の云い方の恐ろしさに呆然ぼうぜんとした。全くどうして好いのかわからなくなった。彼の眼の先へ恐ろしい獄舎の建物さえ浮んだ。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
新聞を読んだことがなくて新聞社へ試験を受けに出向いたという、勝負は始めからわかっているが、勿論もちろん美事に落第した。
「さようでございます。焼け死んだのは三人でございます。男女の別もわかりませぬほど、焼けただれておりますが——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どんな鋭敏な観察者が外部そとからのぞいてもとうていわかりこない性質のものであった。そうしてそれが彼女の秘密であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この岸さえじのぼってゆけば、それがはっきりわかってくるのだ。おれは毎日この岸にきて空の方をながめている。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しばらくして、お近婆さんは男と一緒に夜逃げしたのだとわかった。それは兵さんのうちの隣の小屋にいた飴売りの親爺おやじと、かけ落したと言うのだった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
(仁王門に住むとは今から考えたら随分奇抜きばつです。またそれを見ても当時浅草寺の秩序がなかったのがわかります。)
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
それから毎日々々いろ/\なむづかしい事件が起つてそれを申上げても、万作には何の事やらわからないのでいつも黙つてゐました。だから人民たちは
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
禅家の公案に、父母未生みしょう以前本来面目というのがあるが、人間は何処どこから来て何処に去るものか、これはわからない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お母さん、貴女あなたはこのアマリリスを、どうしてここへ持っていらっしゃったのです。ああわかった。貴女は私を殺そうとお考えになっているのでしょう。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
馬をその妻と心得按腹する指先で男とわかり、逃げかかる処を馬が止め検すればこれも立派な男子の証拠儼然たり。
われ目をもてかなたをうかゞふ間、そのひとり頭いたく糞によごれて緇素をわかち難きものを見き 一一五—一一七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はっと驚く暇もなく彼女は何所どこともわからない深みへ驀地まっしぐらに陥って行くのだった。彼女は眼を開こうとした。しかしそれは堅く閉じられて盲目めしいのようだった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
主人の娘が死んで悲しいわけではないけれど、気が動転してどうしていいのかわからないのだろうと私は思った。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
巡査がハンドバッグをひらいてみると、通帳や公債が出て来た。旅装のまま、遭難した婦人であることがわかった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
僕にはわからない外国の文字ばかりで、仕方がないから大辻さんに見せると、これがギリシャ語だというのです。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わけても日本人には親しみの深い人で、野村光一氏が「日本人の情操からしてむしろわかやすい音楽の一つ——」
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そして伸び上つて幹をしらべてみると、それは明らかに或る一種の恐ろしい病気に襲はれてゐることがわかつた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
荷嵩にかさになりさうな物だつたり、由緒がはつきりわかりかねる品だつたら、その渡来の時日がぴつたり註文に合はうが、合ふまいが、そんなことには一向頓着なく
侘助椿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そうして大都会の下町に、はちの巣の如く交錯している大小無数の街路のうち、私が通った事のある所と、ない所では、孰方どっちが多いかちょいとわからなくなって来た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
突如だしぬけうしろから肩を叩くものがある。びツくりして振返ると、夜目だから、わからぬが、脊の高いやせツこけた白髮の老人が、のツそりと立ツてゐるのであツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかしその中にはどうしても鼻でなければ受け持ち得ない役が又どの位あるかわからないのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これをも文運の促進とは聴いて呆れる、大量生産の十が九は、それ等の手に帰する外はあるまい、これを我輩は多数少国民を荼毒せし文弱化と叫ぶのである、わかったか
彼女かのぢよは、片山かたやま同志どうしのKうちせて、かれ居所ゐどころさがしてゐたが、そのかれが、I刑務所けいむしよ未決監みけつかんにゐるとわかつたのは、行方不明ゆくへふめいになつてから、半年はんとしもののちだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
舟木一家に残る古い焼物図絵を見ると「御誂物手鑑おんあつらえものてかがみ」とか「御好御写物おんこのみおんうつしもの」とか「御誂物絵図」とか題したものが残っている。藩の御用命で上等の品も作られたことがわかる。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
『あらいやだ! もうわかってるじゃないの。フラミンゴか、さもなけりゃキャメルフォウドよ。』
この最後の大笑で砲車雲ほうしゃうんは全く打払ッたが、その代り手紙は何を読んだのだか皆無かいむわからない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)