出入ではい)” の例文
二、三人の募集員が、汚い折り鞄を抱えて、時々格子戸を出入ではいりした。昼になると、お庄はよく河岸かし鰻屋うなぎやへ、丼をあつらえにやられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ひゃあ、」と打魂消うったまげて棒立ちになったは、出入ではいりをする、貴婦人の、自分にこんな様子をしてくれるのは、ついぞ有ったためしが無いので。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには竹の栞戸しおりどがあった。武士は渓川たにがわへりに往くに一二度そこを出入ではいりしていたのでかっては知っていた。武士は栞戸しおりどを開けて外に出た。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
よく母が町への出入ではいりにこの家へ立寄るのである。いつしかその桶屋の前へ来た。五つばかりの頭に腫物はれものの出来た子が立っていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの不具者はここの家からも出入ではいりしていたことが分った。つまり彼奴の住家すみかは、三つの違った町に出入口を持っている訳だ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
従兄いとこうちのついむこうなので、両方のものが出入ではいりのたびに、顔を合わせさえすれば挨拶あいさつをし合うぐらいの間柄あいだがらであったから。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふるに俊雄はひたすら疇昔きのうを悔いて出入ではいりに世話をやかせぬ神妙しんびょうさは遊ばぬ前日ぜんに三倍し雨晨月夕うしんげっせきさすが思い出すことのありしかど末のためと目を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
出入ではいり送り迎えは欠かさないが、着替えの手伝いまでしてくれる時代はもううに過ぎ去っている。結婚して六七年になれば細君も良人りょうじんを理解する。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
入江に出入ではいりして來る漁船は皆その側を通つてゐるのに、彼れはかつて其處までも行つたことがなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
うち出入ではいる者一同から、おさんどんにまでも宜く勤めますが、決しておべっかでするのではなく、信実しんじつに致しますので、番頭が肩が張ったと云えばぐにうしろへ𢌞ってたゝきます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まアそれで勘弁しておくれよ。出入ではいりするものは重にあたしばかりだから私さえ開閉あけたてに気を
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お浪の家は村で指折ゆびおり財産しんだいよしであるが、不幸ふしあわせ家族ひとが少くって今ではお浪とその母とばかりになっているので、召使めしつかいも居ればやとい男女おとこおんな出入ではいりするから朝夕などはにぎやかであるが
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
入口では出入ではいりの邪魔になると思ったけれど、折角の助言じょごんを聴かぬのも何だから、言う通りに据直すえなおすと、雪江さんが、矢張やっぱり窓の下の方がいという。で、矢張やっぱり窓の下の方へ据えた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
若い町の辯護士がいそがしさうに粗末な硝子戸を出入ではいりし、蒼白い藥種屋の娘の亂行の漸く人の噂に上るやうになれば秋はもう青い澁柿を搗く酒屋の杵の音にも新らしい匂の爽かさを忍ばせる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
六十九人もの破戒僧が珠数じゅずつなぎにされて、江戸の吉原よしわらや、深川ふかがわや、品川新宿しんじゅくのようなところへ出入ではいりするというかどで、あの日本橋でかおさらされた上に、一か寺の住職は島流しになるし
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わざとこんな家を選んだのさ、下は西洋料理屋だから、出入ではいりが人目につかぬし、このゴタゴタした学生町なら、一寸気がつくまいと思ってね」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は精々せっせ出入ではいりしました。先方さきからも毎日のように来るんです。そして兄さん、兄さんと、云ううちには、きっと袖を引くにきまっているんです。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の生活はこれほどの余裕にすら誇りを感ずるほどに、日曜以外の出入ではいりには、落ちついていられないものであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丹治父子おやこを引入れて逢引するとは、実に犬畜生同様の致方いたしかた、殊にわしを附け狙うから丹治父子が此のうち出入ではいうちとても居る訳にはいかない、命があれば死んだ養父に恩返しも出来るが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
顧客とくい先で、小野田が知合になった生花はなの先生が出入ではいりしたり、蓄音器を買込んだりするほど、その頃景気づいて来ていた店の経済が、暗いお島などの頭脳あたまでは、ちょと考えられないほど
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
優等生で、この容色きりょうであるから、寄宿舎へ出入ではいりの諸商人しょあきんども知らぬ者は無いのに、別けて馴染なじみ翁様じいさまゆえ、いずれ菖蒲あやめと引き煩らわずに名を呼んだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分はうち出入ではいる人の数々について、たいていは名前も顔も覚えていたが、この逸話をもった男だけはいくら考えてもどんな想像も浮かばなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一品ひとしな盗まれていないこと、窓その他人間の出入ではいり出来る場所は、凡て完全に戸締りがしてあって、外部から何者かが忍び入った形跡絶無なことであった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
柳橋やなぎばし左褄ひだりづまとったおしゅんという婀娜物あだものではあるが、今はすっかり世帯染しょたいじみた小意気な姐御あねごで、その上心掛の至極いゝたちで、弟子や出入ではいるものに目をかけますから誰も悪くいうものがない。
しげしげ足を運んでくる生花はなの先生は、小野田が段々好いお顧客とくい出入ではいりするようになったお島に習わせるつもりで、頼んだのであったが、一度も花活はないけの前に坐ったことのない彼女の代りに
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かの患者の室にこそこそ出入ではいりする人の気色けしきがしたが、いずれもおのれの活動する立居たちいを病人に遠慮するように、ひそやかにふるまっていたと思ったら
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ホウ、すると犯人は、その裏口から出入ではいりしたって訳だね。……無論むろん戸締りはしてあったんでしょうね」
面じゃの、ふァふァふァ、お夏さんなぞは心懸次第またどんな出世でも出来るのじゃ、こっちへ出入ではいってござればおつきあいがおつきあいじゃから、ふァふァふァ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕舞って置いたって折切おりきれます、たれにも遣る者はなし詰らんわけだから着せて下さい、綺麗な身装なりをして出入ではいりをして下されば私も鼻が高い、今だって汚くもなんともない、私の綿入羽織が有ったろう
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男は廊下から出入ではいりの出来る左側の席の戸口に半分身体からだした。男の横がほを見た時、三四郎はあとへ引き返した。席へかへらずに下足を取つて表へた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二階の部屋々々は、時ならず商人衆あきんどしゅう出入ではいりがあるからと、望むところの下座敷、おも屋から、土間を長々と板を渡って離れ座敷のような十畳へ導かれたのであった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、又綿密に屋内の捜索が行われたが、結局、柱や畳の上に沢山の小さな血の斑点が発見されたのと、犯人が勝手口から出入ではいりしたらしいことが分った外には、何の得る所もなかった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此先このさきんな変化がないともかぎらない。君も心配だらう。然し絶交した以上はやむを得ない。僕の在不在にかゝはらず、うち出入ではいりする事丈は遠慮してもらひたい
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誰も知った通り、この三丁目、中橋なかばしなどは、とおりの中でもあい宿しゅくで、電車の出入ではいりが余り混雑せぬ。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「裏口の方からだれか出入ではいりしたものはありませんか」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれ生活せいくわつ是程これほど餘裕よゆうにすらほこりをかんずるほどに、日曜にちえう以外いぐわい出入ではいりには、いてゐられないものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あとで、台所からかけて、女中部屋の北窓の小窓の小縁こえんに、行ったり、来たり、出入ではいりするのは、五、六羽、八、九羽、どれが、その親と仔の二羽だかは紛れて知れない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから二三日して、かの患者のへやにこそ/\出入ではいりする人の氣色けしきがしたが、いづれもおのれの活動する立居たちゐを病人に遠慮する樣に、ひそやかに振舞つてゐたと思つたら
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ともなわれて庫裡にる——奥州片原の土地の名も、この荒寺では、鼠棚がふさわしい。いたずらものが勝手に出入ではいりをしそうな虫くい棚の上に、さっきから古木魚が一つあった。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏には敷居の腐った物置がからのままがらんと立っているうしろに、隣の竹藪たけやぶが便所の出入ではいりに望まれた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
内じゃがえんに知己ちかづきがあるようで、まことに近所へきまりが悪い。それに、聞けば芸者屋待合なんぞへ、主に出入ではいりをするんだそうだから、娘たちのためにもならず、第一家庭の乱れです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし岡本のうち出入ではいりをするそれらの人々は、みんなその分をわきまえていた。身分には段等だんとうがあるものと心得て、みんなおのれに許された範囲内においてのみ行動をあえてした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たれも知るまいし、また知らせるようにもせんですだが、俺はお前ん、二階から突出されて、お孝の内に出入ではいりが出来なくなってからは、天に階子はしご掛けるようにのぼせ上って、極道、滅茶めっちゃ苦茶
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出入ではいりにね。日本の芝居小屋ごやは下足があるから、天気のい時ですら大変な不便だ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
倶利伽羅くりからを汽車で通った時、峠の駅の屋根に、車のとどろくにも驚かず、雀の日光に浴しつつ、屋根を自在に、といの宿に出入ではいりするのを見て、谷にさきのこった撫子なでしこにも、火牛かぎゅう修羅しゅらちまたを忘れた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
得ない。僕の在不在に係わらず、うち出入ではいりする事だけは遠慮して貰いたい
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからこれを箱へ入れて、出入ではいりのできるような穴をあけて、日当りのいい石の上に据えてやった。すると蜂がだんだんふえてくる。箱が一つでは足りなくなる。二つにする。また足りなくなる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから之を箱へ入れて、出入ではいりの出来る様なあなけて、日当りのい石の上に据ゑてやつた。すると蜂が段々えて来る。箱がひとつではりなくなる。二つにする。又足りなくなる。三つにする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
出入ではいりにね。日本の芝居小屋しばいごや下足げそくがあるから、天気のいい時ですらたいへんな不便だ。それで小屋の中は、空気が通わなくって、煙草が煙って、頭痛がして、——よく、みんな、あれで我慢ができるものだ」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)