伽藍がらん)” の例文
老人「バッブラッブベエダです。BABRABBADAと綴りますがね。まだあなたは見ないのですか? あの伽藍がらんの中にある……」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
当然語らねばならぬ多くの伽藍がらんや古仏にふれてない様式等に関しても精密ではない。そういう研究書なら他にいくらもあると思った。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
被衣かずきやうちかけなどを濡らして頭からかぶったまま、はすの如く池の中にひたって、焼け落ちる伽藍がらんと信長の終焉しゅうえんを目のあたりに見つつ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うかとこゑけて、むねあちこち、伽藍がらんなかに、鬼子母神きしぼじん御寺みてらはとけば、えゝ、あか石榴ざくろ御堂おだうでせうと、まぶたいろめながら。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはなにも、その町のつゴセック建築の伽藍がらんでもなければ、おれんじ色の照明にウォルツの流れる大ホテルの舞踏場でもない。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
古い伽藍がらん地主神じぬしがみが、猟人の形で案内をせられ、またとどまって守護したもうという縁起えんぎは、高野だけでは決してないのであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この豊量に水に恵まれた都には、聖ピエトロ大伽藍がらん前のピアッツアの噴水を中心にして、僧院にも市場にも全都に散在している。
噴水物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自ら縄墨じょうぼくつかさどつて一宇の大伽藍がらん建立こんりゅうし、負ひ来りたる弥勒菩薩の座像を本尊として、末代迄の菩提寺、永世の祈願所たらしめむと欲す。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
試みに四国八十八ヶ所めぐりの部を見るに岩屋山海岸寺といふ札所の図あり、その図断崖だんがいの上に伽藍がらんそびえそのかたわらは海にして船舶を多くえがけり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
敬田院きょうでんいんには、救世観音くせかんのんを本尊とする金堂こんどうを中心に伽藍がらんがある。ここに精神的な救いの手が民衆に向かってひろげられている。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
是等幾多の主観的、抒情的小詩人を葬り去つて後、始めて綜合的客観詩人のおもむろに荘厳なる美術的伽藍がらんを築き来たらんとするにはあらざるか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
上野山内から、伽藍がらんの焼落ちる黒煙が見えた。幕府という古い制度の、最後の堡塁とりでであった彰義隊の本営が、壊滅される印の黒煙でもあった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
コンポステラの伽藍がらんに尊者の屍を安置し霊験灼然とあって、中世諸国より巡礼日夜至って、押すな突くなのにぎわはげしく、欧州第一の参詣場たり。
古き空、古き銀杏、古き伽藍がらんと古き墳墓が寂寞じゃくまくとして存在する間に、美くしい若い女が立っている。非常な対照である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの大和やまと法隆寺ほうりゆうじなどのおほきい伽藍がらん出來でき時分じぶんに、いままで私共わたしども古墳こふんがなほつくられてをつたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その丸屋根の向こうにはひらめくあけの明星がかかっていて、まっくらな伽藍がらんからぬけ出してきた霊魂のようであった。
その決定はただKの意見にだけかかっているが——ただ伽藍がらんだけを、しかしこれは徹底的に見物することに決心した。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
刑後、重衡の首は、治承の戦に伽藍がらんを焼き亡ぼした時に陣を敷いた般若寺はんにゃじの大鳥居の前に釘づけにしてさらされた。
あの工藝の大塔とも云うべき中世紀の伽藍がらんを見よ。それは工人たちの信仰と情熱と勤勉との一大記念碑ではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
聖ピエトロの伽藍がらんには中央なる大穹窿、左右の小穹窿、正面の簷端のきば、悉く透きとほりたる紙もて製したる燈籠を懸け連ねたるが、その排置いと巧なれば
その時引取手の無い死骸を本所牛島新田に埋め、その上に築いた伽藍がらんがすなわち回向院えこういん——そんなことはもう講釈種で皆様よくご存じのことと思います。
その女人は、日に向ってひたすら輝く伽藍がらんの廻りを、残りなく歩いた。寺の南ざかいは、み墓山の裾から、東へ出ている長い崎の尽きた所に、大門はあった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
むかし熊坂長範ちやうはんが山で一稼ぎする積りでが更けて高野へ登つた事があつた。大きな伽藍がらんは皆門を閉ぢてゐるなかに、たつた一つ小さなの見える所がある。
徳川三百年の由緒を語る御霊屋おたまやを除き、本堂、庫裡くり、護国堂等壮麗なる七堂伽藍がらんいっさいを灰燼かいじんに帰せしめた。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
即ち堂塔伽藍がらんの修費、燈明台とうみょうだいその他の什器じゅうき購入費、掃除費そうじひ及び読経どきょう僧侶の手当でありますが、そのうちでも最も多く費用のかかるのは前にいうマルです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
とりわけ聖徳太子にゆかりのある仏法最初の伽藍がらん天王寺によってこの夢を見たことを不思議の縁としている。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
越後えちご三島郡出雲崎なる不動山西方院とて、いと古代じみたる木彫地蔵尊を本尊となす、真言宗の古伽藍がらんあり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あなたのように幾ら思っても甲斐ない方は、伽藍がらんの中に居る餓鬼像を後ろから拝むようなものではありませんか、というので、才気のまさった諧謔かいぎゃくの歌である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこは広大な伽藍がらんであった。どのあたりから射してくる光とも分らないが、幽かにただよう明るさによっては、奥の深さ、天井の高さが、どの程度とも知りようがない。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
広大なる堂宇伽藍がらんは、いまし、迫った落日の赤々とした陽光に照りはえて、伽藍を囲む築地塀ついじべいは、尼僧の清さそのものを物語るかのごとくに白々と連なり、しかも
リンチェーピング市は、宝石のまわりに真珠しんじゅをはめこんだようなぐあいに、その伽藍がらんのぐるりを取りまいていました。農園のうえんはブローチかボタンのように見えました。
四月の空はうるわしく晴れて、遠くに見ゆる伽藍がらんとうが絵のようにかすんで見えました。早くも観衆かんしゅうは場外にあふれ、勇ましい軍楽隊の合奏がっそうが天地にひびわたりました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ヨハン・セバスチアンの大伽藍がらんの大きな影の中に、彼以上に敬虔けいけんな情をもって身を潜めた者があったろうか?——しかしながら彼はまた、彼らの虚偽を苦しんでいた。
伽藍がらんを見物に行く。案内のじいさんを三リラで雇ったが、早口のドイツ語はよく聞き取れなかった。夏至げしの日に天井の穴から日が差し込むという事だけはよくわかった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は、いま神様を信じます。これは、この空の色は、なんという色なのかしら。薔薇。火事。虹。天使の翼。大伽藍がらん。いいえ、そんなんじゃない。もっと、もっと神々こうごうしい。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これが最初に建てられたのは七世紀頃のことだとわれていますが、現在の伽藍がらんはその後十三世紀頃に改造されたので、更に礼拝堂や高塔などがなお後に建て増されたのでした。
ロード・ラザフォード (新字新仮名) / 石原純(著)
第一に浅草といひさへすれば僕の目の前に現はれるのは大きな丹塗にぬり伽藍がらんである。或はあの伽藍を中心にした五重塔や仁王門である。これは今度の震災にも幸と無事に焼残つた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
其の播磨へ行った時の事である。これは堂塔伽藍がらんを建つることは、のりの為、仏の為の最善根であるから、寂心も例を追うて、其のため播磨の国にいて材木勧進をした折と見える。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
建物のすぐ前の小高いところにフラム・フリスタ・スパシーチェリヤの多角型の大伽藍がらんが大理石ずくめで建っているせいか、すべての音響が拡大されて伸子の室へとびこんで来た。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
豪壮な伽藍がらんは、幾度も兵火にあいながら、私達の子供の時分までは再建を続けられていたのだそうだが、坊主が養蚕で火を出してから、今では仮普請かりふしんの小さなものになってしまった。
荒雄川のほとり (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
昔し蕃山熊沢氏はへり堂宇だうう伽藍がらん巍々ぎゝたる今日は即ち是れ仏教衰微の時代也と、宣教師は来りて雲突計くもつくばかりの「チョルチ」を打建うちたつるも、洋々たる「オルガン」の音、粛々たる説教の声
それはたとへば堂塔だうたふ伽藍がらんつく場合ばあひに、巨大きよだいなるおも屋根やねさゝへる必要上ひつえうじやう軸部ぢくぶ充分じうぶん頑丈ぐわんぜうかためるとか、宮殿きうでんつく場合ばあひに、その格式かくしきたもち、品位ひんゐそなへるために、優良いうれうなる材料ざいれうもち
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
かくて果つる我世さびしと泣くは誰ぞしろ桔梗さく伽藍がらんのうらに
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
墳塋おくつきにして、はた伽藍がらん赫灼かくやくとして幽遠の
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
『見よ、伽藍がらんぞ』と子の母は、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
清浄しょうじょうな、そうして荘厳な大伽藍がらん
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ポトホトと野の中に伽藍がらんは紅く
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
山門も伽藍がらんも花の雲の上
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
伽藍がらんかべに遺りなば
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いや、その本願寺にしても、それだけの伽藍がらん勢力だけでは、こう何年も信長と対立し信長の統業を根底からさまたげるものとはなり得ない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)