なが)” の例文
薄暗い電燈の光のもとで、なまずの血のような色をした西瓜をかじりながら、はじめは、犯罪や幽霊に関するとりとめもない話を致しました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
女はそれがまんざらでもないらしくあしらいながいて彼に引き寄せられまいとしてジョーンの左腕にすがって居るようにも見える。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は新聞二三種へ目を通して、葉巻を一本つけ換えて、淡路島名物の涼風に吹かれながら、いい心持でウトウトして居ると、いきなり
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「併し一概に山賊などと云っても中には却々なかなかい儀深い奴もいるものですよ。」と医師は周章あわてて眼をらしながらそんなことを云い出した。
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
その文面はすこぶる鄭重ていちょうを極めたもので、「遠路えんろながら御足労を願い、赤耀館事件の真相につき御聴取をわずらわしたく云々」とあった。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
羽子板や福寿草や安い反物など並べた露店を、ぽつぽつと拾いながら資生堂の前まで来ると、チョッキのポケットから金鎖を引き出した。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
まだどこか子供々々したおもかげのぬけきらぬ顔をあかくし、パタ/\とその書面を叩きながらそれを奥方に見せに座を蹴つて立つた程であつた。
兄の居間が一通り済むと老人は表二階から裏二階まで、用意してきた彼の懐中電灯で足元を照らしながら侵略するように歩き廻った。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
若い女は、話しながら、さげすむようなまた探索するような、なざしで二三度じいさん達を見た。と、清三が老人達の方へ振り向いた。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
只今ただいまのご質問はいかにもごもっともであります。多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾いかんながらそれはみな実験になって居りません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
犯罪物の研究は、今や本邦第一流類と真似手のない点からも、珍重すべきものではあるが、その創作に至っては、遺憾ながら未成品である。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
久助は涙をぽろぽろと流しながら、かしこまりましたと云った。主人は、これで良い、と思った。これでこの男も真人間になれる。
忠僕 (新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
ぎの晩より少しほやほやと南風の吹く晩がよいので、それにはコンクリートの海の城壁の上で、月を迎へながら魚を待つ方が静的である。
夏と魚 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
それまで点々としてしょんぼりうなだれていた千之介が、突如おもてをあげると、何ごとか恐れるように声をふるわせながらけわしく遮切さえぎった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
又対岸の蘭領のリオ島ほか諸島が遠近につて明るい緑とこいあゐとを際立たせながら屏風の如くひらいて居るのも蛮土とは想はれない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
節づけつたなけれど、人々の真面目に聴きいる様は、世の大方の人が、信ぜぬながらもおの厄運やくうんにかゝはるうらなひをばいと心こめてきくにも似たり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私が凡ての点に於て未だ独り前の母になる丈けの力がないのを承知しながら姙娠しない様に注意しなかつたと云ふ事が大いに悪かつたのでした
獄中の女より男に (新字旧仮名) / 原田皐月(著)
そして其虫のよさを自分では卑しみながらも、其位の虫のよさなら、当然持つてしかるべきものだと、自ら肯定しようとしてゐた。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
だが私もひそやかに微笑を浮べるだけで何も訊かなかった。「さあ、出掛けようか」と帽子をとりながら一言云っただけである。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
「柵のくいはかく打つもの、結び様はこの様にするもの」と云いながら立ち働いて居るのを見て、昌景、「彼奴かやつは尋常の士ではない、打ち取れ」
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そんなことを鷺太郎は考えながら、それでも生垣を舐めるように身を密ませながら追いて行くうち、いつか住宅地も杜絶とだえて、崖の上に出た。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
丑松が男女の少年の監督にせはしい間に、校長と文平の二人はの静かな廊下で話した——並んで灰色の壁に倚凭よりかゝながら話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『さァ人間界にんげんかい年数ねんすうなおしたら何年位なんねんぐらいになろうかな……。』と老竜神ろうりゅうじんはにこにこしながら『すくな見積みつもっても三万年位まんねんぐらいにはなるであろうかな。』
姉は流石さすがに女の気もやさしく、父の身の上、弟のことを気づかいながら、村の方へ走って行った。この燈台とうだいから村へは、一里に余る山路である。
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
中尊仏の殊に上体と山との関聯かんれんに、日想観を思わせるものが、十分に出て居るが、二つながら聖衆と中尊との関聯の上に、稍不自然な処がある。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
大衆文芸も同じ新聞に載りながら、新らしき時代の物のみを、特に、通俗小説、又は、新聞小説と称しているが、この区別は甚だ曖昧なのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
私のジャンパーを「丁度いいね」などと仰言りながら、お召しになる。背広はあまり改まるし、第一、長時間着ていると、肩の凝ってくるものだ。
「たまたま逢ふに切れよとは、仏姿ほとけすがたにありながら、お前は鬼か清心様せいしんさま」という歎きは十六夜いざよいひとりの歎きではないであろう。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
それは湯殿と云ふ名で呼ばれながら、然も、半分は客間に適するやうな設計の下に造られたものであることが確かだつた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
あざみの咲き出したばかりの紅紫と白の光沢、それらをまた驚きながら、時時には籠に入れて、蜜柑を吸ひ吸ひあるいて行く。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其れをぶらぶらと懐手ふところでに抱えながら、変に落着いた蒼白い足どりで投函に行った。末枯れた冬ではあったが、あわただしいどんよりした薄明の街であった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
譲次の投げる短剣は、青白い電光を受けて、不思議な稲妻ときらめきながら、空を飛んで、次から次へと、麗子の背後の戸板に突き刺さって行った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
孫伍長は云いながら独りで近づいて行ったが、左右の銃眼から一人も通すまいと狙っているのを見ると大きな声で叫んだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
お春は老いた母人をも、遠く船出をする兄人をも、すっかり忘れて了ったように、はしゃいだ声でこう言いながら、やさしく駕籠に身をのせました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
知りながら夫となしに梅をすみやかに離縁りえんに及び其上叔母へ金子迄をつかはしたるを阿容々々おめ/\と二人ながら引取親子たがひに妻と致し其上にも厭足あきたらず傳吉を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
舟の横浜を離るるまでは、天晴あつぱれ豪傑と思ひし身も、せきあへぬ涙に手巾しゆきんを濡らしつるを我れながら怪しと思ひしが、これぞなか/\に我本性なりける。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
赤い舌を垂れて、苦しげな息を吐き出しながら、庭に這入つて来た彼等の主人達の顔を無邪気な上眼で眺めて、静かに楽しさうに尾を動かして見せた。
懐中の略図を取り出して見ると、ヒキ岩は合流点の附近に描いてあるので、注意して探しながら行くとすぐ見付かった。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そのものに脅えたような燃える眼は、奇異な表情をたたえていて、前になり後になり迷いながいてくるのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
簡單かんたんながら一にちしきをはつたとき斗樽とだる甘酒あまざけ柄杓ひしやく汲出くみだして周圍しうゐつて人々ひと/″\あたへられた。しゆとして子供等こどもらさきあらそうてそのおほきな茶碗ちやわんへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
六十劫ろくじふごふの流転をけみしても、まだ子供のやうに喃々なん/\としやべりながら、デモステネス以上の雄弁だと己惚うぬぼれるだらう。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あくる朝、平野氏は紅茶をすすながら新聞を読んでいた。——そこには昨夜の殺人事件がでかでかと報道してあった。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
晋の趙簡子ちょうかんしの所から荘公に使が来た。衛侯亡命のみぎり、及ばずながら御援け申した所、帰国後一向に御挨拶が無い。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
此間こないだ甚公じんこうの野郎が涙をこぼながら、あのは泥坊なぞをする様な者じゃアねえ彼様あんな娘はねえってう云ってた
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いわんや、名誉に関する言議に、覆面の偽人は戒心を要する。さりながら、英人といえども、ハイド公園パアクの散策に
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
(たといどんなに折れ曲っていたにしても——)青ぐろく緊張した発田の表情を思い浮べながら彼は考える。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そして自分も惶しく一二本の煙草を吸いすてたが、やがてツイ側の老爺の顔に微笑を投げながら云ってみた。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
富岡は冷い茶をすゝりながら、寒いので、膝を貧乏ゆすりして、ゆき子のヒステリックな口説くぜつを聞いてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
く考えて見ろ。はばかながら諭吉だからそのくらいに強く云たのだ。乃公はその時にはみずから決する処があった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何しろその頃は世の中がもつと官学崇拝だつたから……。この記憶はわれながら不快な記憶には違ひない。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)