両親ふたおや)” の例文
旧字:兩親
「おしずは、両親ふたおやも、兄妹きょうだいもないのだから、かわいがってやらなければならぬ。」といって、そこのひとたちは、いたわってくれました。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
半狂乱の両親ふたおやは、検屍も調べも待たず、四本の手に抱き上げて、よろぼいよろぼい庭を隔てた自分の家へ担ぎ込んで行ったのです。
は母のふところにあり、母の袖かしらおほひたればに雪をばふれざるゆゑにや凍死こゞえしなず、両親ふたおや死骸しがいの中にて又こゑをあげてなきけり。
「じゃあおめえは、両親ふたおやを持っているかね。——ほんとのとっつァんを知ってるけえ? おめえを生んだおッさんはどこにいる?」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫の両親ふたおやはそのために、毎日毎日新しいお話の書物を一冊ずつ買ってやったが、今は最早もはやその書物が五ツの倉庫くらに一パイになってしまった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
両親ふたおやは村境の橋の所まで送つて行つて、万作の姿の見えなくなるまで見てゐましたが、おつ母さんはたうとう泣き出しました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
むずかしそうな在所の両親ふたおやの顔や、十両の小判や、黄八丈の小袖や、それが走馬燈まわりどうろうのように彼女かれの頭の中をくるくるとめぐった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そいつの両親ふたおやと、生き残った女を、事務所へ引張って来て置いてくれ。ああ、まだ女の兄と云うのがあったな? そいつも連れて来て置け」
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
実家さとの方は其頃両親ふたおやは亡くなり、番頭を妹にめあはせた養子が、浄瑠璃につた揚句あげくみせを売払つて大坂へ遂転したので、断絶同様だんぜつどうやうに成つて居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「神様お願いです」そう呟く、「親をうやまうように、あいつらに智慧と分別を授けてやって下さい。それも、両親ふたおやよりは利口にならぬように……」
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夫れを嘆く間もなく又た父が病床とこに就くように成りこれも二月ばかりで母の後を逐い、三人の児は半歳のうちに両親ふたおやを失って忽ち孤児みなしごとなった。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いな!』と強く自ら答へて見た。自分は仮にも其麽そんな事を考へる様な境遇ぢやない、両親ふたおやはなく、一人ある兄も手頼たよりにならず、又成らうともせぬ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(女中たちが、そんな乱暴なことをして済みますか。良人やどなら知らぬこと、両親ふたおやにだって、指一本ささしはしない。)
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は不運で御座りますとて口惜くやしさ悲しさ打出うちいだし、思ひも寄らぬ事をかたれば両親ふたおやは顔を見合せて、さてはその様の憂きなかかとあきれて暫時しばしいふ言もなし。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
父も兄も相果て、母が病中斯様な処に這入って芸者を致すとの物語を聞き、あゝ己は不孝で、二十四歳の折家出をして、両親ふたおやに聊かも報恩おんがえしを致さんで
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはてつきり清野のちやんとおつかあとの寝物語を聞いたのに相違ないと思つたのだ。子供といふものは、両親ふたおやの寝物語からいろんな智識を得るものなのだ。
「おおさようか、益〻気の毒、さぞ両親ふたおやが案じていよう、計らず逢ったも何かの縁、人を付けて帰して遣わす」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一時に両親ふたおやに別れて、死目にもはず、その臨終と謂へば、気の毒とも何とも謂ひやうの無い……およそ人の子としてこれより上のかなしみが有らうか、察し給へ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爾がためには父のみか、母もやみ歿みまかりたれば、取不直とりもなおさず両親ふたおやあだ、年頃つもる意恨の牙先、今こそ思ひ知らすべし
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
校長の話では某県下の大地主で両親ふたおやはなく文学士の兄が弟を監督して居るとのことで、もうこれで疑いの余地がなくなったから、最後に直接訪問をした訳だが
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
お島は両親ふたおやの前へ出ると、急に胸苦しくなって、昨夜ゆうべから張詰めていた心が一時にゆるぶようであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あのときの赤ん坊が、両親ふたおやの断末魔の血を啜って、どんな女に生長せいちょうしたか、よく顔を拝ませてやれ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
修身の先生に、両親ふたおやの無い人は手を挙げてごらんなさいと云われて、隆吉は手を挙げた由。するとその後で、授業がすんでから、先生がいらして、いろいろ慰めて下すった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかる後、また死んだもののために小さな位牌いはいを作った。位牌には黒いうるし戒名かいみょうが書いてあった。位牌のぬしは戒名を持っていた。けれども俗名ぞくみょう両親ふたおやといえども知らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊賀の国は柳生のさとの生れとだけで、両親ふたおやの顔も名も知らない、まったくの親なし千鳥。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女史には老たる両親ふたおやがおありでした。三人の女のお子と、その折に二歳ふたつになる男のお子とをお残しでした。今は、二人の女のお子は母君ははぎみのあとをしたって、次々に世をさられました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
両親ふたおやに対しては前よりも一入なお言わぬ。何処をあてともなく茫然ぼんやりとして溜息をつく。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
お祭をりましたが、一人息子に死なれた年老としとつた両親ふたおやは、稼人かせぎてが無くなつたので、地主から、田地を取り上げられる、税を納めねいので、役場からは有りもせぬ家財を売り払はれる
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
両親ふたおやともとうに無くなって、他に兄弟と云うものもないので、親類の老人達は彼に結婚させようとしてうるさく勧めたが、彼はそれに耳を傾けないし、また、彼に財産の多いのと名聞めいぶんがあるのとで
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ほかにも心当りないわけやないけど、それよりもやな、気心のよう判ったおまはんの孫を貰たらと、こない思てな。それになんや、その子は両親ふたおやともないさかい、かえって貰ても罪が無うて良えしな
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
秋作氏は長六閣下末弟ばっていの子で、従って槇子たち同様、キャラコにとっても従兄いとこにあたる。早くから両親ふたおやをなくして、苦労しながら絵の勉強をしている。沼間夫人いうところの『乞食画かき』である。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
エリザヴェート姉上、我々姉弟きょうだいは早く両親ふたおやに死に別れました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
両親ふたおやは娘一人ふえたこれからの生活くらしを考える
けれども遣らねばならぬ。遣るならば両親ふたおやが附き添うて、腰元にともさせて、華やかに喜び勇んで遣りたかった。けれどもそれも出来なかった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
戦略のため、わが子を頼朝へ渡しておきながら、生みっ放し、人手に渡しっ放しの、無情な両親ふたおやになっているのである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そとあそんでいた子供こどもうちらせにきました。両親ふたおやかお見合みあわせてびっくりしました。そしてそとてみますと、まさしく龍雄たつおでありました。
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
両親ふたおやに早く死に別れて、たった二人の姉弟きょうだいですから、互いに力にしていたのが、今では別れ別れになって、生き死にさえわからんようになりました。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まだ両親ふたおやともあったんです。母親が大病で、暑さの取附とッつきにはもう医者が見放したので、どうかしてそれをなおしたい一心で、薬を探しに来たんですな。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お絹はその軽薄を憎むよりも、そうした境遇に沈んでいる自分の今の身が悲しく果敢はかなまれた。小さいときに死に別れた両親ふたおやや妹が急に恋しくなった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さま/″\の浪言らうげんをのゝしりて家内かないくるひはしるを見て、両親ふたおや娘が丹精たんせいしたる心の内をおもひやりてなきになきけり。
倫敦ロンドンで生れて英国の小学校で育つただけに達者に英語を話す。この日本まちに加はつて日本画をいたり日本陶器たうきを売つたりして居る真面目まじめ両親ふたおやの愛嬢である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
自分は両親ふたおやが結婚してから三月目に出来た子供だといふ事、借りた金には利息といふものが要るといふ事を知るのは、大抵の場合両親ふたおやの寝物語からである。
ああ可愛さうな事をと声たてても泣きたきを、さしも両親ふたおやの機嫌よげなるに言ひいでかねて、けむりにまぎらす烟草たばこ二三服、空咳からせきこんこんとして涙を襦袢じゆばんそでにかくしぬ。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その日より宮はすこしく食して、多く眠らずなりぬ。貫一は知らず、宮はいよいよ告げんとはざりき。この間に両親ふたおや幾度いくたびと無く談合しては、その事を決しかねてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
富「イヤ此度こんどは実に弱りまして、只もうどうも富五郎は両親ふたおやに別れたような心持が致しますなア」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『紋十郎は悪党だ、心の知れない曲者くせものだ』と……けれども妹の私にだけはいつも親切ないい兄様で、一度として叱った事もなく、両親ふたおやのない私には誰より頼もしい方でしたが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小さい時に両親ふたおやを失って、お祖父じいさんの手で育てられていましたが、非常な乱暴者で、近所の子供達と喧嘩けんかをしたり、他人の果樹園に忍び込んで、林檎りんご無花果いちじくの実を盗んだり
彗星の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おいらの両親ふたおやは、伊賀国柳生の者だとばっかり、皆目手がかりがねえんだが、もしお立ちあいの中に、心あたりのある人があったら、ちょいと知らせておくんなせエ。いい功徳くどくになるぜ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時はそれですんだが、両親ふたおやに対する僕の記憶を、生長ののちに至って、遠くの方で曇らすものは、二人のこの時の言葉であるという感じがそののちしだいしだいに強く明らかになって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうもこうもねえ。俺達は両親ふたおややられたんだ。さっさと切ってしまえ」