かなえ)” の例文
ただこの後の処分がどうであろうという心配が皆を悩まして居る内に一週間停船の命令は下った。再びかなえの沸くが如くに騒ぎ出した。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
門に入ればかなえくごときものが感じられ、早くもここには一死を共に誓う家の子郎党の二心なき者がきびすをついで駆け集まっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、老中をば朝廷より免職するというは全く前例のないことであった。いろいろな議論が出て、一座はかなえの沸くがごとくである。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さて、私は子供のころから体が弱かったので、茨城県の北相馬郡布川ふかわ町に行って医者をしていた長兄のかなえの許に預けられることになった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けだし聞く、大禹たいうかなえて、神姦鬼秘しんかんきひ、その形を逃るるを得るなく、温嶠おんきょうさいを燃して、水府竜宮、ともにその状を現わすを得たりと。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生命いのちかろんずること鴻毛こうもうのごとく、約を重んずることかなえに似たり。とむずかしくいえばいうものの、何の事はがあせん、人殺しの飯事ままごとだ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸いにして江戸へ這入ったが、ちょうどその時であった。徳川慶喜とくがわよしのぶは大政を返上して、江戸にはかなえの湧くような騒ぎが起った。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
この告示が、島内隈なく貼りだされると、人心はかなえのようにわきたった。どの告示板の前にも、黒山のような人だかりだった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当時木村と花田は関根名人引退後の名人位獲得戦の首位と二位を占めていたから、この二人が坂田に負けると、名人位のかなえの軽重が問われる。
可能性の文学 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これはまむし、はぶ、こぶらの三毒蛇を生きながら皮を剥ぎとり、肉をそぎ身にして細かく叩き、かなえにかけた鍋のなかへ投ずる。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
しかし、徳川の社稷しゃしょくに向かってかなえを上げようとするような者は、ほとんど一人もないということは確かな事実でございます。
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのころ町々は町会議員の選挙でかなえのわくがごとく混乱こんらんした、あらゆる商店の主人はほとんど店をからにして奔走ほんそうした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
当時、本国はかなえの湧くような騒ぎ。密告が密告につぎユダヤ人ならぬ僕までが、本国に帰れないことになりました。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いま会った山崎譲の話では、関東も関西もかなえのわくような騒ぎ、四海のうちが浮くか沈むかという時勢であるそうな。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、事務長は、はるか離れた船艙せんそうの出口に田川夫妻とかなえになって、何かむずかしい顔をしながら立ち話をしていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
藩中が、かなえのわくように沸騰するのも無理もなかった。藩主も留守であって、一藩の人心を統一する中心がない。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは日本ではとても見られないような巨大な竹の根をくりぬいて、一匹の大きい蝦蟆がまを拵らえたものであるが、そのがまはかなえのような三本足であった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地下室はわきたぎるかなえの混乱となり、その中に闘士のゼイゼイという息づかいと、けもののような怒号、婦人たちの歓喜と恐怖の叫び声が満ちあふれた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
海蛇丸かいだまるわが弦月丸げんげつまる右舷うげん衝突しやうとつして、かぜごとそのかたち闇中やみぼつつたのちは、船中せんちゆうかなえくがやうさわぎであつた。
和流砲術の大家、井上外記げき正継まさつぐ、稲富喜太夫直賢なおかた田付たつけ四郎兵衛景利かげとしの三人がかなえのかたちになって床几しょうぎに掛け、右往左往する組下の働きぶりを監察していた。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
公儀のことは文次などにはよくわからないが、彦根ひこね様が大老職について、以前まえから持ち越していた異国との談判、つづいて何だかんだとかなえのわくような世のさま。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
次いで前土佐藩主山内土佐守豊信とよしげの名代として、家老深尾かなえが大目附小南五郎右衛門と共に到着した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何しろ塗山とざん禹王廟うおうびょうにある石のかなえさえげると云うのですからな。現に今日のいくさでもです。わたしは一時命はないものだと思いました。李佐りさが殺される、王恒おうこうが殺される。
英雄の器 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
赤い旗、青い旗、黄いろい旗、黒い旗、白い旗、三角旗、流れ旗、幾万とも数えることの出来ない労働者諸君の持つ旗は街路を埋め、全市はかなえの湧くがごとくであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
それにもかかわらず、とかくに自己を挙げて京伝をへんする如き口吻こうふんを洩らすは京山のいう如く全くこの人にしてこの病ありで、この一癖が馬琴のかなえの軽重を問わしめる。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
千鈞せんきんかなえを挙げる勇者をかれは見たことがある。めい千里の外を察する智者ちしゃの話も聞いたことがある。しかし、孔子に在るものは、決してそんな怪物かいぶつめいた異常さではない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かなえをかぶって失敗した仁和寺にんなじの法師の物語は傑作であるが、現今でも頭に合わぬイズムの鼎をかぶって踊って、見物人をあっと云わせたのはいいが、あとで困ったことになり
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところが、ここに一つの定窯の宝鼎ほうていがあった。それはかなえのことであるからけだし当時宮庭へでも納めたものであったろう、精中の精、美中の美で、実に驚くべき神品であった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かれははげしくあえいだ、いつの間にかあたりはひじょうに熱くなり、巻きこんでくる煙が眼口をふさぐように思える、燃えているのは本堂であろう、巨大なかなえでも沸騰するような
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜陰やいん森中もりなかに、鬼火おにびの燃えるかなえの中に熱湯ねっとうをたぎらせて、宗盛むねもりに似せてつくったわら人形をました。悪僧らはあらゆる悪鬼の名を呼んで、咒文じゅもんを唱えつつかなえのまわりをまわりました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その書生さんは山本かなえさんのお父さんで、修業中に手伝いをしていられたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
今夜もなまけものの癖として品川へ素見ひやかしにまいり、元より恵比寿講をいたす気であるうちあがりましたは宵の口、散々さんざぱら遊んでグッスリ遣るとあの火事騒ぎ、宿中しゅくじゅうかなえくような塩梅しき
これも渋谷の終点近い有名なアパートで隣室に居る女流詩人のかなえ咲子と十時過ぎまでお茶を飲んで無駄っ話をして、それから自分の部屋へ帰って、締切に追っ立てられて居る原稿を書いて
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
其処そこは暗黒であるが、その向うに大きな唐銅からかねかなえがあって、蝋燭ろうそくが幾本となくともっている。奥の院の夜は寂しくとも、信心ぶかい者の夜詣りが断えぬので、燈火の断えるようなことは無い。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ところが十九世紀の末から既に大英帝国のかなえの軽重は問われつつあった。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
人間弱味がなければ滅多めったに恐がるものでない。幸徳らめいすべし。政府が君らを締め殺したその前後のあわてざまに、政府の、いな、君らがいわゆる権力階級のかなえの軽重は分明に暴露されてしもうた。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
近郊近在からの参詣客で、毎年、かなえのたぎる盛況を呈するのを常とした。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それを公報に載せて職に尽くせしと誇るは、羊をぬすんだ父を訴えた直躬者ちょっきゅうしゃ同然だ。かかる無用の事を聞かせて異種殊俗の民に侮慢の念を生ぜしめ、かなえの軽重を問わるるの緒をひらいた例少なからず。
いたずらに空華くうげと云い鏡花きょうかと云う。真如しんにょの実相とは、世にれられぬ畸形きけいの徒が、容れられぬうらみを、黒※郷裏こくてんきょうりに晴らすための妄想もうぞうである。盲人はかなえでる。色が見えねばこそ形がきわめたくなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もって互にかなえの軽重を問うことであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
かなえ微温湯ぬるゆで女性の「百合」に逢わせる。
城外にいた張飛、関羽たちは、すぐさま馬を打って駆け入ろうとしたが、城中の空気、かなえの沸く如く、ただ事とも思われないので
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の長兄のかなえは、井伊大老が殺された万延元年に生まれたが、神戸の師範学校を出ていたので、十九歳で田原の小学校の校長になっていた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これはまむし、はぶ、こぶらの三毒蛇を生きながら皮をぎとり、肉をそぎ身にして細かく叩き、かなえにかけた鍋のなかへ投ずる。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
ト一人でさえ太刀打のむずかしい段違だんちがい対手あいてが、ここにかなえと座を組んで、三面六臂ろっぴとなったので、青年わかものは身の置場に窮した形で、汗をき、押拭い
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お銀様とお君とがその屋敷へ送り届けられた前後には、もちろん伊太夫の家はかなえの沸くような騒ぎであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
更に黄金こがねの鞭を取りしろがねの鞍に跨がりかなえを連ねて遇わんとするに非ず、いでや事成れば天が下の君とはなれずとも一国の主たらんとのいにしえの人の言葉慕うにたえたり
正雪の遺書 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一藩は兄弟に対する賛美で、かなえの沸くようであったが、その中で、鈴木兄弟だけは無念の涙をのんでいた。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
瑞安寺では顔役で、両国のびっこすて、日本橋の伊勢とならんでかなえの足と立てられているこのわしだが、姿見井戸へ行ってはまるで嬰児あかごだて。えらい奴がおるでな。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たとえば昔仁和寺にんなじの法師のかなえをかぶって舞ったと云う「つれづれ草」の喜劇をも兼ねぬことはない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)