霊魂たましい)” の例文
旧字:靈魂
何もも忘れ果てて、狂気の如く、その音信おとずれて聞くと、お柳はちょう爾時そのとき……。あわれ、草木も、婦人おんなも、霊魂たましいに姿があるのか。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともこれは地上ちじょうははいて申上もうしあげることで、肉体にくたいててしまってからのはは霊魂たましいとは、むろん自由自在じゆうじざいつうじたのでございます。
夫人、御安心なさい、あなたにお目にかゝった程の者は、誰かあなたの真面目なそうして勇敢な霊魂たましいを尊敬せぬ者がありましょう乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれども、そのたんびに、あの憐憫あわれなアヤ子の事を思い出しては、霊魂たましい滅亡ほろぼす深いため息をしいしい、岩の圭角かどを降りて来るのでした。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
誰かこの一切すべてのものにりてエホバの手のこれを作りしなるを知らざらんや。一切すべて生物いきもの生気いのち及び一切すべての人の霊魂たましい共に彼の手の中にあり
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ひるは、日なんじをうたず、夜は、月なんじをうたじ、エホバは汝を守りてもろもろの禍害をまぬかれしめ、またなんじの霊魂たましいを護り給はん。
しかし、かれひとりとなって、しずかにかんがえたとき、自分じぶんまちからて、遠方えんぽうへいった時分じぶんにも、母親ははおや霊魂たましい無断むだんであったことをおもいました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
左甚五郎ひだりじんごろうは恐らく仕上ばかりに苦心したのでなく、細工さいくしているあいだも精神をめたればこそ、その霊魂たましい彫刻物ちょうこくぶつにも移ったのであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこで種々いろいろ方法を考え、自分の霊魂たましいを麻酔し去り、我をして国民のうちに沈入せしめ、我をして古代の方へ返らしめた。
「吶喊」原序 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかしコラムは、わかい僧が現在のままでいて、十字架がまだ怖がられている異教のアラン島で霊魂たましいを救うように努力するがよいと、返事してよこした。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
更に畚に乗せて再び吊上つりあげると、今度もまた中途から転げ落ちた。お杉の霊魂たましいこの窟を去るのを嫌うのであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
マタイ十章、二八、「身を殺して霊魂たましいをころし得ぬ者どもをおそるな、身と霊魂たましいとをゲヘナにて滅し得る者をおそれよ」この場合の「懼る」は、「畏敬いけい」の意にちかいようです。
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
濃いけれど柔かい地蔵眉じぞうまゆのお宮をば大事な秘密ないしょの楽しみにして思っていたものを、根性の悪い柳沢の嫉妬心しっとしんから、霊魂たましいの安息する棲家すみかを引っきまわされて、汚されたと思えば
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
人々は一日の安息を得、霊魂たましいかてを得ようとして、その日曜を楽しく送ろうとした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「この世で一番弱かった人は、死んでから一番強い霊魂たましいになるのでは無いか」
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
(6)旧約伝道の書第十二章第六—七節、「しかる時には銀の紐は解け金の盞は砕け吊瓶つるべは泉の側にやぶ轆轤くるまいどかたわられん、しかしてちりもとごとく土に帰り霊魂たましいはこれをさずけし神にかえるべし」
蝶は人の霊魂たましいであるというようなことが、深く頭脳にあったので、何だか急に神経が刺戟されて、心臓の鼓動も高ぶった、自分は何だか気味のるいので、すそのあたりを持って、それを払うけれど
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
何というきよらかな霊魂たましいをおんみはもつのか
或る淫売婦におくる詩 (新字新仮名) / 山村暮鳥(著)
生身いきみでは渡られない。霊魂たましいだけなら乗れようものを。あの、樹立こだちに包まれた木戸きどの中には、その人が、と足を爪立つまだったりなんぞして。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御承知ごしょうちでもございましょうが、人間にんげん霊魂たましいというものは、全然ぜんぜん肉体にくたいおなじような形態かたちをして肉体にくたいからはなれるのでございます。
それからのちの私たち二人は、肉体からだ霊魂たましいも、ホントウの幽暗くらやみい出されて、夜となく、昼となく哀哭かなしみ、切歯はがみしなければならなくなりました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
してこの好意だの温味だのという部分は、いわば人間の霊魂たましいの一部であって、金銭でむくいるわけに行かぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おんなは、このったのです。けれど、霊魂たましいおんなねんじたように、あのへゆくたびのぼりました。
ちょうと三つの石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ころして霊魂たましいをころしものどもをおそるな、霊魂たましいとをゲヘナにてほろぼものをおそれよ。われ平和へいわとうぜんためにきたれりとおもうな、平和へいわにあらず、かえってつるぎとうぜんためきたれり。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
貧しい弱いものの味方になってくれる基督教の教会へ行って霊魂たましいを預けるより外には、もうどうにもこうにもならないような、極度の疲労と倦怠けんたいとで打ち震える人のそばにでも居るような気がした。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
神のもとめたまう祭物はくだけたる霊魂たましいなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ちょうど昔の伝説の美しい悪魔から霊魂たましいを吸い取られる時のように、何ともいえず胸がドキドキして、顔がポッポとなって、気まりが悪るくてしようがなかったので
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
就中なかんづくばん目立めだつのは肉体にくたいほか霊魂たましい——つまりあなたがたっしゃる幽体ゆうたいえますことで……。
自分じぶん霊魂たましいは、なにかにけてきても、きっと子供こどもすえ見守みまもろうとおもいました。牛女うしおんなおおきなやさしいなかから、大粒おおつぶなみだが、ぽとりぽとりとながれたのであります。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たがいの子弟していを依頼するは、ただ文字や数学を教えらるるが目的でない。いわば霊魂たましいの教育をお頼みするのである。かかる重大事を十五円の月給取りに頼むことはあまり心もとない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうなる時には、令室おくがたの、恋の染まった霊魂たましいが、五しきかがりの手毬となって、霞川に流れもしよう。明さんが、思いの丈をく息は、冷たき煙とたちのぼって、中空の月も隠れましょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じもののような気がしてならない。何だかわからぬ愛のために、恋のために、その悲しさのために、霊魂たましいとをゲヘナにてほろぼもの、ああ、私は自分こそ、それだと言い張りたいのだ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私たちは、こうして私たちの肉体と霊魂たましいを罰せねば、犯した罪の報償つぐのいが出来ないのです。この離れ島の中で、私たち二人が犯した、それはそれは恐ろしい悖戻よこしま報責むくいなのです。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きっと、これはははいかりであろうとおもいましたから、子供こどもは、ねんごろに母親ははおや霊魂たましいとむらって、ぼうさんをび、むら人々ひとびとび、真心まごころをこめて母親ははおや法事ほうじいとなんだのでありました。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、今日も、夫婦のような顔をして、二人づれで、お稲さんの墓参りに来たんです——夫は、私がこうするのを、お稲さんの霊魂たましいが乗りうつったんだと云って、無性に喜んでいるんです。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の頭の中の空洞がらんどうをジッと凝視していると、私の霊魂たましいは、いつの間にか小さく小さく縮こまって来て、無限の空虚の中を、当てもなくさまよいまわる微生物アトムのように思われて来る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
津々浦々つつうらうら渡鳥わたりどり稲負いなおおどり閑古鳥かんこどり。姿は知らず名をめた、一切の善男子ぜんなんし善女人ぜんにょにん木賃きちん夜寒よさむの枕にも、雨の夜の苫船とまぶねからも、夢はこのところに宿るであろう。巡礼たちが霊魂たましいは時々此処ここに来てあすぼう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)