やじり)” の例文
鑢は何にするかといふとやじりなどの損んだときにそれを研いだり、或は武器の損じたときにそれを研ぐ。それから篩を持つて行きます。
元時代の蒙古人 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
と、鞍の上でのけったが、あぶみしかと踏みこたえて、片手でわが眼に立っている矢を引き抜いたので、やじりと共に眼球も出てしまった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げて行く二人を追いながら玄関まで主馬之介は走り出たがそばの半弓を押っ取るや、やじりを抜き取った矢をつがえて討手の勢へ声を掛けた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おゝ、彼の自棄——私の自棄よりも遙かに惡い——の恐れが如何に私の心を刺したことか! それは私の胸に刺さつたやじりの矢先であつた。
ただならぬ狼狽ろうばいの影が差したけれども、「いやガリバルダさん、やじり矢筈やはずを反対にしたら、たぶん、弩のいとが切れてしまうでしょうからな」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それから随分危険ながら蛇が著しく人を助くる今一件は、その毒をやじりに塗りて蠢爾しゅんじたる最も下劣な蛮人が、猛獣巨禽を射殺して活命する事だ。
そのまたまるい天窓の外には松やひのきが枝を張った向こうに大空が青あおと晴れ渡っています。いや、大きいやじりに似たやりたけの峯もそびえています。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これが木曾名物の焼きぐりだと言って、なまの栗を火鉢ひばちの灰の中にくべて、ぽんぽんはねるやつをわざとやじりでかき回したげな。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
和泉の国の猟夫さつおは土手下にころがり落ちてこれも胸の深部に、背にまでやじりき抜かれて、息はすでになくなっていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「このねらい方というやつが……人によってはこれをやじりからねらうものもある、また左からねらうものもあるけれど、これはいずれもよくないこと」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
義家よしいえはそこらにあるゆみをつがえて、無造作むぞうさはなしますと、よろいを三まいとおして、うしろに五すんやじりが出ていました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
二人が眼々がんがん相看た視線のは其やじりと鏃とがまさに空中に突当った。が、丹下の箭は落ちた。木沢はかぶせるように
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……ただいま傷口をあらため見まするところ、一見、水蛭の咬み傷の如くには見えまするが、実は水鳥を狩るにもちいるくろろ鏑形かぶらがたやじりによりできたる傷。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
名高い八峰はちみねの断裂は、底が五竜岳の方にえぐれ込んではいるものの、う離れて眺めては、天魔が巨箭きょせんを飛ばしてザクリと射抜いたやじりの痕のように小さい。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ちてもりしづかに、かぜむで肅殺しゆくさつつるところえだ朱槍しゆさうよこたへ、すゝき白劍はくけんせ、こみち漆弓しつきうひそめ、しもやじりぐ。峻峰しゆんぽうみな將軍しやうぐん磊嚴らいがんこと/″\貔貅ひきうたり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
美しくして晴れがましからず、心もおのづから靜まりぬべき室なり。窓の前には厚き質のとばりを垂れたるが、長く床を拂へり。やじりぐ愛の神の童の大理石像あり。
百年ほど前にその豊後の木が枯れたので、伐って見ますと、太い幹からたくさんのびたやじりが出ました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あゆみ速かなりしかどもわがなつかしき父はもださで、汝やじりまでひきしぼれることばの弓を射よといふ 一六—一八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
の研究にるに、彼等は何れも矢毒(即ち野獣を射てこれを毒殺すべくやじりに塗る毒)クラーレ、ヴェラトリンのごとき猛毒の使用を知り、あはせて阿片あへん規那きな大麻おほあさヤラツパ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
汝のうその南山の竹に矢の羽をつけやじりを付けてこれをみがいたならば、ただに犀革を通すのみではあるまいに、と孔子に言われた時、愛すべき単純な若者は返す言葉にきゅうした。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は蹶張けっちょうを得意とし、熊や虎やひょうが、その弦音つるおとに応じてたおれた。蹶張というのは片足で弓を踏ん張って射るのである。そのやじりをあらためると、皆その獣のむねをつらぬいていた。
あまつさえやじりには猛毒でもが塗り仕掛けてあったものか、ご藩医たちがうちうろたえて、介抱手当を施したにもかかわらず、すでに難をうけた者は落命していたものでしたから
十重二十重とへはたへにも築き上げられた大鐵壁を目がけてやじりのない矢をぶつつけるやうな、その矢が貫けないからと云つて氣ばかりぢりぢりさせて居たことが、全く無意味に終つてしまつた。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
壁の上よりは、ありとある弓を伏せての如く寄手の鼻頭はなさきに、かぎと曲るやじりを集める。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで十郎は命が助かり、いまだに石のおもてはやじりのあとが残っているそうです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
新助は本矢に近い頑固ぐわんこやじりが入つた稽古矢を一本選ると、その根の方へ、袂から取出した矢文——小菊へ細々としたゝめて、一寸幅ほどに疊んだのをキリヽと結び付け、手馴れた弓につがへて
やじりするどき勁箭は、衆軍の上翔けり飛ぶ。 125
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
引く弓はいよよ張り詰め一筋や眼先まさきやじりゆづかまで引く
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
厚三分のやじりとを発見したことである。
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
やじりひかめく圍みうち。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
人々がかたずをのんでみつめるまに、矢筈やはずつるにかけた蔦之助は、にきらめくやじりを、虚空こくうにむけて、ギリギリと満月にしぼりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
味方の負傷者を調べて見るといずれも傷は浅かったが、やじりに劇毒が塗りつけてあるので負傷者はのた打って苦しがる。そしてだんだんに弱って行く。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや、大きいやじりに似た槍ヶ岳の峯も聳えてゐます。僕は飛行機を見た子供のやうに実際飛び上つて喜びました。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貝原先生同様人の唾が蜈蚣の大敵たる由を言うたは、秀郷唾をやじりに塗りて大蜈蚣を殺したというに合う
我が爲めに祈りて世のけがれを受けざらしめんとして、その度ごとに知らず識らずやじりを我心に沒せしめたり。
くるいなく深くもえぐられたやじりのあとも、ほぼ似た鮮やかさであった。しかも、相射ちのおちついた決意は彼らの相貌に一脈の穏やかささえ、ふかくも刻まれてあった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もし無我夢中の裡に窓框まどわくに片手を掛けなかったなら、あるいは、そのうちに矢筈がしなやじりが抜けるかして、結局直下三丈の地上で粉砕されたかもしれなかったのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
憂ひのやじりをその矢につけし異樣の歎聲なげき我を射たれば我は手をもて耳を蔽へり 四三—四五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その時姉が、並んで来たのを、と前へ出ると、ぴったりと妹をうしろに囲うと、筒袖つつそでだが、袖を開いて、小腕でかばって、いたいけなてのひらをパッと開いて、やじりの如く五指を反らした。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十重二十重とへはたへにも築き上げられた大鉄壁を目がけてやじりのない矢をぶつつけるやうな、その矢が貫けないからと云つて気ばかりぢりぢりさせて居たことが、全く無意味に終つてしまつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
新助は本矢に近い頑固なやじりの入った稽古矢けいこやを一本ると、その根の方へ、たもとから取出した矢文——小菊へ細々としたためて、一寸幅ほどに畳んだのをキリリと結び付け、手馴れた弓につがえて
さらに間髪を入れず第三矢のやじりが第二矢の括にガッシとい込む。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その三叉みつまたやじりある矢にマカオーン勇將の 505
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
ねえ親方、こういうところを見ると、やっぱり富士ふじ裾野すそのあたりで、テンカンテンカンとやじりをたたいているのが一ばん安泰あんたいですね
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば盆地の一所に、弓、鉄砲を持った十五、六人の武士が、冬次郎他五人のものを、中へ取りこめ真ん丸に包み、やじりを向け銃口つつぐちを差しつけていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蜂は勿論蜜を取る為、蛇は征矢そややじりに塗るべき、劇烈な毒を得る為であつた。それから狩や漁の暇に、彼は彼の学んだ武芸や魔術を、一々須世理姫に教へ聞かせた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その春と題したる畫の中に群れ遊べるさまこそ愛でたけれ。童一人大なるめぐらすあれば、一人はそれにてやじりを研ぎ、外の二人は上にありて飛行しつゝも、水を砥の上にそゝげり。
一生涯が間身を放たで持ちたりける、五人ばりにせきづる懸けて湿しめし、三年竹の節近ふしぢかなるを、十五束二伏ふたつぶせこしらへて、やじり中子なかご筈本はずもとまで打ち通しにしたる矢、たゞ三筋を手挟たばさみて
やじりは青銅製の四叉になっていて、こうのとりの羽毛で作った矢筈やはずと云い、見るからに強靱兇暴をきわめ、クリヴォフ夫人を懸垂しながら突進するだけの強力は、それに十分窺われるのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
みどりやじりの千の矢のように晃々きらきらと雨道を射ています。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)