“贖(あがな)” の例文
いまだに贖(あがな)われないほどの罪科を犯した自分らであったろうか。——内心の不平は、思いあまった人々の眼を血走らせるのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
輪廻が贖(あがな)いであり、そこに歓喜が伴うということは、鶴見が前にいっていた。彼はそれを基礎として更に考えを進めてみるのである。
又、農作物は神物であつて、害(そこな)ふ者の罪の贖(あがな)ひ難い事を言うて、祓(ハラ)への事始めを述べ、其に関聯して、鎮魂法の霊験を説いて居る。
我らの衷心(ちゅうしん)が然(しか)囁くのだ。しかしながらその愉快は必ずや我らが汗もて血もて涙をもて贖(あがな)わねばならぬ。収穫は短く、準備は長い。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「世(よ)の人々(ひとびと)の御主(おんあるじ)よ、われをも拯(たす)け給(たま)へ。」此世(このよ)の御扶(おんたすけ)も蒼白(あをじろ)いこのわが罪業(ざいごふ)は贖(あがな)ひ給(たま)はなかつた。わが身(み)は甦生(よみがへり)の日(ひ)まで忘(わすれ)られてゐる。
此處の歌は七首の聯作で、ほかの歌には、『後悔いむかも鈍(おぞ)の亞米利加』とあつたり、『罪をはや知りて贖(あがな)ひまつれ亞米利加奴(やつこ)』
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
考える事と、行動力は別々であった。皮膚(ひふ)を一皮むいてしまいたいような熱っぽい感じなのである。一日一日罪を贖(あがな)ってゆく感じだった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
二人の聖(きよ)い魂から去らないで、ある童貞女らの修道院において「常住礼拝」をしなければ贖(あがな)われるものではないように思われた。
その罪の恐ろしさは、なかなか贖(あがな)うべき術(すべ)のあるべきに非(あら)ず、今もなお亡き父上や兄上に向かいて、心に謝(わ)びぬ日とてはなし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
かの事ありしよりこの方、暴(あらび)と僞(いつはり)をもて掠(かす)むることをなし、後贖(あがな)ひのためにポンティ、ノルマンディア及びグアスコニアを取れり 六四—六六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
想ふに羅馬市には、黄金(こがね)の耳環(みゝわ)を典して、客人を贖(あがな)ひ取ることを吝(をし)まざる人あるならん。拿破里(ナポリ)の旅稼(たびかせぎ)は、その後の事とし給はんも妨(さまたげ)あらじ。
そうして流転の途次(とじ)において、二度三度否(いな)無限に「小なる生命」を産み育てる。死は単なる現象に過ぎない。死は罪を贖(あがな)うことは出来ない。……
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我れ知る我を贖(あがな)う者は活(い)く、後の日に彼(か)れ必ず地の上に立たん、我この皮この身の朽果(くちは)てん後われ肉を離れて神を見ん、我れ自(みずか)ら彼を見奉らん
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
但し罰をうければこそ、贖(あがな)いもあると云う次第ゆえ、やがて御主の救抜(きゅうばつ)を蒙るのも、それがしひとりにきわまりました。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「風当りは強いだろう、だがいずれにしても贖(あがな)い無しというわけにはいかない、問題はそこもとの辛抱いかんにある」
葦 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
エルナニは恋敵に或る不始末を見られた贖(あがな)ひとして、何時でも望みの時に命を遣らうと云ふ約束をしておいたが、大詰の城内の結婚式後の宴会の場で
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いつの比(ころ)より五三鞆(とも)の津の袖といふ五四妓女(あそびもの)にふかくなじみて、遂(つひ)に五五贖(あがな)ひ出し、ちかき里に別荘(べつや)をしつらひ、かしこに日をかさねて家にかへらず。
強者は、人からなされた善を忘れる——のみならずまた、悲しくも、自分のなした害を自分の力で贖(あがな)い得ないと知れば、それをもただちに忘れてしまう。
十八歳の倭文子は、両親を失い、遠い縁者に養われる身であった故か、金銭と、金銭によって贖(あがな)い得る栄誉とに、珍らしい程、烈(はげ)しい執着を持つ娘であった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
怠(おこた)り、重大なる材料を流出させたる失敗を贖(あがな)うことを命ずる。忠勇なる『赤毛のゴリラ』よ。地下に瞑(めい)……
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし後悔しておるとすれば、つまり愛しておるのじゃ、もし愛しているならば、そなたはもはや神の子じゃ……愛はすべてのものを贖(あがな)い、すべてのものを救う。
神様が人間の罪をお憐(あわれ)みになって、その一人子を天からお降(くだ)しになって、人間の罪の贖(あがな)いをなされました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
或人は東京神田須田町(すだちょう)の某売薬株を買わせようとした。この株は今廉価を以て贖(あがな)うことが出来て、即日から月収三百両乃至(ないし)五百両の利があるといったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此(ここ)を以(もつ)て(四四)三世(せい)、名(な)を諸矦(しよこう)に顯(あら)はせり。越石父(ゑつせきほ)、賢(けん)にして(四五)縲紲(るゐせつ)の中(うち)に在(あ)り。晏子(あんし)出(い)でて之(これ)に塗(みち)に遭(あ)ふ、(四六)左驂(ささん)を解(と)いて之(これ)を贖(あがな)ひ、載(の)せ歸(かへ)る。
「お母さんの早く没くなって、私がつかえられなくなったのは、天が私に罪を贖(あがな)わないためです。」
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
しかし工藝においてはそうではない。労働なくして工藝の美はあり得ない。器の美は人の汗の贖(あがな)いである。働きと美と、これが分離せられたのは近代のことに属する。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「どうぞ御免なすつて下さいまし。まあ、わたくしはどういたして此罪を贖(あがな)つたら宜しいでせう。」
父の子は世界の罪を贖(あがな)うために殺される。その肉と血にあずかるのが「聖餐(せいさん)」である。かかる密儀に関連してイエス・バラバの名は古くより知られていたと考えてよい。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
何事をも永遠に免(ゆる)すものの目の前で、のた打ち廻るような必死の苦痛を、最初たった一人が受けたなら、その外の一切の人間の罪は、もうそれで贖(あがな)って余(あまり)あろうではないか。
かの女は、今こそこの父はむす子の幼時に負うた不情の罪を贖(あがな)う決心でいるのだと思った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その愛というのは、人の僕となり、人に仕え、人の贖(あがな)いとして己が生命を捨てる心です。
己が此危険を御身に予告するのは、己が嘗て御身に禍を遺した罪を贖(あがな)ふ所以(ゆゐん)である。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
稚きより境遇が生む自棄の子の、あはれ全国そこここに散りしけるを、移民学園てふ名の下に一括し。土地と共に心さへ新らしき民にして育てむとて。あらゆる新平の子女を我が手に贖(あがな)ひ得つ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
陳辯(いひわけ)も分䟽(ぶんそ)も聽(き)かぬ。涙(なみだ)も祈祷(きとう)も罪(つみ)をば贖(あがな)はぬぞよ。それゆゑに何(なに)も申(まう)すな。急(いそ)ぎロミオを退去(たちさ)らせい。さもなうて見附(みつ)けられなば、其時(そのとき)が即(やが)て最期(さいご)ぢゃ。此(この)死骸(しがい)を荷(にな)ひゆきて、予(よ)が命(めい)を待(ま)て。
いまこそ、妾(わらわ)の憎しみを知ったであろうのう。そもじを十字架(クルス)に付ければとて、罪は贖(あがな)えぬほどに底深いのじゃ。横蔵を害(あや)め、慈悲太郎を殺したそもじの罪は、いまここで、妾(わらわ)が贖ってとらせるぞ。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私の奴婢でも同様で、或いは主人の意志により、或いは相互の諒解により、或いは自ら贖(あがな)って、家人に昇級したり、良民になったりしうるのである。家人を解放して良民となしうることも同様である。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
贖(あがな)ふに足るべきか心を鎭(しづ)めて熟(とく)と思案を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
科(とが)を贖(あがな)ふ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
すさのをの天つ罪を行うた後、贖(あがな)ひとして、田を元の如くする様を、神人として演ずるのだ、といふ風に解する時代が、あつたに違ひない。
復古政府は血をもって贖(あがな)いたるこの爵位を予に否認すれども、予が子はこれを取りこれを用うべし。もとより予が子はそれに価するなるべし。
二〇一宿(ひとよ)を供養(くやう)して二一罪を贖(あがな)ひたてまつらんと、二二礼(ゐやま)ひて奥の方に迎へ、こころよく食をもすすめて饗(もてな)しけり。
淺瀬とは、神がたゞその恩惠(めぐみ)によりて赦(ゆる)し給ふか、または人が自らその愚を贖(あがな)ふか即ち是なり 九一—九三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
人間の利己心の罪をみずから進んで贖(あがな)ったその潔(きよ)い婦人が、クリストフさん、人からどう判断されたとお思いになりますか? 意地悪な世間は彼女をとがめて
されど故(わざ)とならぬ其罪を贖(あがな)はんとてこそ、車上の貴人(あてびと)は我に字を識り書を讀むことを教へしめ給ひしなれ。
これ十九章二十五節にあるヨブの言(ことば)たる「われ知る我を贖(あがな)う者は活(い)く、後の日に彼必ず地の上に立たん」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
... 罪を罪と知るものには、総じて罰と贖(あがな)いとが、ひとつに天から下るものでござる。」——「さまよえる猶太人」は、記録の最後で、こう自分の第二の疑問に答えている。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「君には秘密にすべきマッチ箱を売った失敗を贖(あがな)うことを命ずる。但(ただ)し我等の祖国は君の名をR団員の過去帖に誌(しる)して、これまでの忠勇を永く称するであろう、いいか」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当局者は能(よ)く罪を罰するを知れり、乞い問う、罪を贖(あがな)い得たる者を救助するの法ありや、再び饑餓(きが)の前に晒(さら)して、むしろ監獄の楽しみを想わしむることなきを保(ほ)し得るや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
器の美は人の汗の贖(あがな)いである。働きと美と、これが分離せられたのは近代のことに属する。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
放埒(はうらつ)であつた前日の非を贖(あがな)へとばかり極端に自己を呵責(かしやく)して、身に出来るだけの禁欲を続けて来たことは誤りであつた。肉体に加へた罰から精神までも哀れに萎縮してしまつた。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)