まかな)” の例文
はじめは彼もほかの下宿人と同じようにまかないをしてもらっていたが、所謂いわゆるニコヨンの労働をするようになってからは自炊をしていた。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
よほど余計な到来物とうらいものでもなければ出さないで、連中たちの負担でまかなわせましたばかりでなく、とき/″\はこんな負担を命じました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実直さとともにけ、せぎすな体で、まかない方の辛労をひき受けて来たのだ。無限の実直さには何らの価値もみとめてはいなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
まかなひの婆さんや、娘達が、げらげら笑ひながら、するめを裂いたり、鯖干さばぼしに醤油をかけてくれたりしてゐる。富岡はかなり酔つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
船が印度洋を通りかゝつた頃、青年将校は苦力とまかなひ方との間に激しい喧嘩がおつぱじまつてゐるのに気がいた。賄ひ方は広東カントン人だつた。
一文無しになって尻込みばかりする井上半十郎正景は、赤痣の美女にまかなわれて、うやらうやら、浜松の宿に着きました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
御広敷おひろしき橋廊下はしろうかという屈強な渡りを見つけて、二の丸御門につづくお留守居部屋とまかない方の屋根をふみこえて走りつづける。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここからは土手を一本道の小梅へ下ったおまかない長屋に、市崎いちざき友次郎さまとおっしゃるお旗本がござりまするが、そのお組屋敷のことでござります
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
それにこの人達は学校の食堂でまかなって貰って、三度々々食事のために通っていたから、教師としての捨吉が知らないようなことをも知っていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ルーレットという賭博で国の政治をまかなっているので有名なモナコのモンテカルロで「お蝶夫人」をうたった時でした。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
時々出稼ぎにあちこちの病院へ出張したが、その報酬は全部自分で使ひ、寿枝には一銭も渡さず、しかも家の費用はすべて寿枝が自分の金でまかなつてゐた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
その代わり年とった女を二人やとって交代に病院にさして、洗い物から食事の事までをまかなわした。葉子はとても病院の食事では済ましていられなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
申付られたり此三右衞門は小身せうしんの上至て貧窮ひんきうの處へおのれ夫婦ふうふとも都合四人の口故日々のまかなひに甚だ難儀なんぎ致しけるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
叔父と幸さんとは、食堂の方で、まかないから取った朝飯を済ましたり、お庄が持ち込んで行ったお茶や菓子を食べたりしてから、やがて十時ごろに帰って行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一日の賃銀は五十銭であったが、彼は朝から晩まで実によく働いて、われわれ一行七人の炊事から洗濯その他の雑用を、何から何まで彼一人でとりまかなってくれた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まかなひつてどの位? ときくと、さあ、お客樣がいらしつたから、一圓五十錢にもしたかしら、それとも一圓かしら? 大概三十五錢から、四十錢だと上等なのです。
北京の生活 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
二月五日の衆議院で、東条とうじょう首相が堂々とこの新製鉄法を述べ、これで今次の大戦をまかなうべき鉄には不自由しないと演述した。議員は皆喝采かっさいした。私たちは唖然あぜんとした。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
厚く物をまかなった上、なお今後ご用をつとめるようにとの、ごじょうをさえ内密に賜わったのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きずを療じた後、これ我が表姪王二姐とて、生まれ付いた無性人で夫にわれたとこの頃知ったから妻の伴とし置くと称し、昼は下女同然にまかなわせ使い、夜はすなわち狎処こうしょした。
黒棚やすだれも新たになり、召使ひの数もえたのだつた。乳母は勿論以前よりも、き活きと暮しを取りまかなつた。しかし姫君はさう云ふ変化も、寂しさうに見てゐるばかりだつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この商売をなすには莫大の費えなれども、政府には米もなく金もなきゆえ、百姓・町人より年貢ねんぐ運上うんじょうだして政府の勝手方をまかなわんと、双方一致のうえ相談を取り極めたり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
理想が低いと言って笑う人があるかも知れないが、私達は大抵月九円でまかなっていたのだから、二十五円といえば、その三倍に当る。今日の学生は少くとも月五十円の学資を要する。
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わたくしは頓と心得ませんが、棒を持って見廻って歩き、大した高ではございません、十石三人扶持、御作事方まかない役と申し、少禄では有りますが、段々それから昇進致す事になるので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここの屋根の下にまかないの小川の食堂があって、谷中やなかのお寺に下宿していた学生時代に、時々昼食を食いに行った。オムレツと焼玉子の合の子のようなものが、メニューの中にあった。
病院風景 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それならば食事をまかなうより外に人を通わせぬよう致しますか、しかし余り牢住居ろうずまいようではないか、ムヽ勝手とならば仕方がない、新聞けは節々せつせつあげましょう、ハテらぬとは悪い合点がてん
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これはみんなパーシェンカ、君んとこのおかみがまかなってくれたんだよ。あの女、一生懸命に僕にちやほやしてくれるのさ。むろん、僕はかくべつ主張もしないが、拒絶もしないんだ。
勘定奉行は重任だ、大蔵卿だからな。公卿くげの大蔵卿は名前倒れの看板だが、傾きかけた幕府の大台所を一手にまかなう役目は重いよ、辛いよ。旗本ぱたもとの家にしてからが、勘定方は辛いぞ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただおとよさんが得心とくしんして来てくれさえすれば、来た日からでも身上しんしょうまかないもしてもらいたいっての、それは執心な懇望よ、向うは三度目だけれどお前も二度目だからそりゃ仕方がない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのお店のまかなひをしてゐたんですがね。旦那も大旦那もなくなつたんですよ。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかもこれに供給する兵器弾薬の量を考えると、余はこれをまかなう方法を知らぬ
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
月々支出している、また支出しなければならない金額は、彼に取って随分苦しい労力の報酬であると同時に、それですべてをまかなって行く細君に取っても、少しもゆたかなものとはいわれなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも、六人もの子供の食事をまかなうのだから、お一つ買うのにも頭を使うと使わないとでは随分な違いになる訳であるが、いやしいことを云えば、お惣菜そうざいの献立なども大阪時代とは変って来て
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを小分こわけして見ると、三等室の患者は役員やまかなひまでに馬鹿にされることもそれだ。ほかの人は二枚も三枚も立派な着がへを持つて來てゐるのに、自分はいつも一枚しかないこともそれだ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
平生最も隠居にしたしんでゐる此八人の門人は、とう/\屋敷に泊まつてしまつた。此頃は客があつてもなくても、勝手の為事しごとは、兼て塾の賄方まかなひかたをしてゐる杉山三平すぎやまさんぺいが、人夫を使つて取りまかなつてゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
傳染病に怖氣おぢけのついた、意地惡いぢわるの管理人が逃げてしまつて、ロートン施療院せれうゐんの看護婦長だつた、彼女の後任者は、まだ新しい家のきまりに慣れてゐないので、比較的にもの惜しみをないでまかなつた。
股肱ここうたのみ、我子とも思へる貫一の遭難を、主人はなかなかその身に受けし闇打やみうちのやうに覚えて、無念の止み難く、かばかりの事に屈する鰐淵ならぬ令見みせしめの為に、彼が入院中を目覚めざましくも厚くまかなひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
弥勒みろくには小川屋という料理屋があって、学校の教員が宴会をしたり飲み食いに行ったりするということをかねて聞いていた。当分はその料理屋でまかないもしてくれるし、夜具も貸してくれるとも聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
……疊があるとまかなひだけのことだすさかい、總代さんとこからをなごし(下女の事)でもやつて、一晩のことだすもん、どないにでもしますんやが、疊なしではあんた、だい/\ごく仕樣がおまへん。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何でも物価高直こうじき折柄おりから、私のいれる食料では到底とてまかない切れぬけれど、外ならぬ阿父おとっさんのたっての頼みであるに因って、不足の処は自分の方で如何どうにかする決心で、謂わば義侠心で引受けたのであれば
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まかないはいうまでもなく店持ちである。青年級は二十七歳で終る。
大公儀が甲府勤番の諸士をまかなふために用意した五千兩の大金、柏木で紛失ふんしつしてしまつたでは、土地の御用聞の寅吉の顏が立たなかつたのです。
旅籠屋はたごやをはじめ、小商人こあきんど、近在のすみまき等をまかなうものまでが必至の困窮に陥るから、この上は山林の利をもって渡世を営む助けとしたいものであると
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
豹一はやがて中学校にはいったのだが、しかし安二郎はふところを傷めなかった。お君は毎日どこからか仕立物を引き受けてきて、その駄賃だちんで豹一の学資をまかなった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
上役の、おまかない方支配がしらの、大沢高之進様に、あんまりべっぴんじゃねえお嬢さまがおあんなすって、これがつまりぽうっとなっておしまいなすったんですよ。
右門捕物帖:30 闇男 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
成りあがりの役人どもは、妻子を郷里において単身のりこんで来ていた。貧乏そだちの彼らには、与えられた権力と、まかなわれる俸禄がふいに気持をおごらしていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
伯母も身うちには薄倖はっこうの女で、良人おっとには早く死にわかれ、四人ほどの子供もだんだん欠けて行き、末の子の婚期に入ったほどの娘が一人残って、塾の雑事をまかなっていた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「滞府中には、あなたから充分な、おまかないをいただいておるし、この後といえども、流寓落魄りゅうぐうらくはく貧しきには馴れています。どうかそれは諸軍の兵にわけてやってください」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えゝ一週間ひとまわりなり二週間ふたまわりなりお席をおきまして、お座敷つぼの内へへッついでも炭斗すみとり火鉢すべて取寄せまして、三週間みまわりもおいでになれば、またまかないのばゝあも置きまして、世帯をお持ちなさいますなら
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
付ず取調て御見分ごけんぶんの御役人へ御わたし申すべしと細々こま/″\御遺言ごゆゐごん有て終にむなしく成給ひし然ば泣々おほせの如く取計ひ御石碑せきひをも建立こんりふして御後の取まかなひ萬事すませ後下人共へは御紀念かたみ金を分與へて暇を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのお店のまかないをしていたんですがね。旦那も大旦那もなくなったんですよ。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)