)” の例文
「無断でへやへ踏みこむのみか、いきなり縄をかけて、武士らしくとは、何たる暴言。この郁次郎にはせませぬ、理由をっしゃい」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我わが問ひをもてあきらかにしてし易き説をはや刈り收めたれば、我は恰も睡氣ねむけづきて思ひ定まらざる人の如く立ちゐたり 八五—八七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
夜遅く栗橋に出て大越の土手を終夜歩いて帰って来たこともある。女の心のしがたいのに懊悩おうのうしたことも一度や二度ではなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
中途ちゆうとからかほした宗助そうすけには、くもせなかつたけれども、講者かうじや能辯のうべんはうで、だまつていてゐるうちに、大變たいへん面白おもしろところがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この時わが胸をきて起こりし恐ろしきおもいはとても貴嬢きみしたまわぬ境なり、またいかでわが筆よくこれを貴嬢きみに伝え得んや。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「しかし、あなたはフランス語をお喋りになりますね。そこは大体、地上と交通のない地底の国のはず。その点がどうもせませんよ」
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかし、米友の単純な心でも、どうもあれからのお絹の挙動がせない、他の人が騒ぐほどに騒がないお絹の心持がわかりません。
運転手は何故そんなことを云われたのかせなかったが、病院へ入れられてはたまらないと思って、猛烈なスピードで車を飛ばした。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学問とは、ただむずかしき字を知り、し難き古文を読み、和歌を楽しみ、詩を作るなど、世上に実のなき文学を言うにあらず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、たしかに、二女に共通したものがあるのだったが、鼓村師にはせなかった。安坐の上に乗せた箏に、をたてながら
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼はベアトリーチェと知り合いになったがために、何かし難いようなある力の影響をうけていることを、自分ながら幾分いくぶんか気がついた。
「昼のほどに徒然草を読んでいたら、どうもせぬところがあったので、すぐに双ヶ岡まで走って来た。ほほ、増穂のすすきじゃ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小むずかしい面相かおつきをして書物と疾視競にらめくらしたところはまずよかったが、開巻第一章の一行目を反覆読過して見ても、更にその意義をし得ない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
妻は「死んだ」と言う語に驚いたらしく、前掛まえかけで手をき拭き一寸ちょっとせないらしく、「兵さん?」と言って、そのまま黙った。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「その妻恋坂のお女中が、何しにこうして姿をかえて、君の身辺に入りこんでおるのかっ? それが、せぬ。解せませぬっ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
やがて二人はしきりに歌ひ出しぬ。云々しか/″\してヤーモ、ヤーモ、ヤーモーヤーモー、ヤーモ、ヤーモ何の事か一切す可からず。
どうもせぬ。さて、合点のゆかない。現におつかい姫を、鉄砲で撃った猟夫は、肝をつぶしただけで、無事に助かった。旦那はまず不具かたわだ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せぬ話ではないか。外でもない。お前さんはその間に、例の青眼鏡の男に変装して、三河島へ先廻りをしなければならなかったからじゃ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とげ死人を取て遣すぞと云るゝゆゑ九郎兵衞夫婦はしめたりと思ひ莞爾々々にこ/\がほに居たりけり大岡殿は九助に向はれ面を上いと云れ同人の面體めんてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはせる、それは解せるがかんかん虫、虫たあ何んだ……出来損なったって人間様は人間様だろう、人面白くも無えけちをつけやがって。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
部屋のすみにある小さな、疑いもなく火のはいっていない鉄ストーヴを見ていたので、部屋の中のこの蒸し暑さはしかねた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
此美人を此僻地へきちいだすは天公てんこう事をさゞるに似たりとひとり歎息たんそくしつゝものいはんとししに、娘は去来いざとてふたゝび柴籠をせおひうちつれて立さりけり。
「なある! さてそこで?」老人はまだせずに、一そう人のよさそうな笑みを浮かべながら、そのつづきを待ち受けた。
すべからざるものをもし、ふみに書かれぬものをも読み、乱れて収められぬものをも収めて、ついには永遠の闇のうちに路を尋ねてくと見える。
嗚呼、此詞は深く我を動したり、我もしば/\或はなさけ厚き夫人の詞、夫人の振舞を誤りしたるにはあらずやと、自ら疑ひ自ら責めしことあり。
六年の田舎住居、多少は百姓の真似まねもして見て、土に対する農の心理の幾分をしはじめて見ると、余はいやでも曩昔むかしみとめずには居られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こゝろたくさへおもほゆ。彼また吾をしたれば、おのれがよろこびにえとゞかねばとて、卑しみ果つることつゆなかりき。
一僧 (旧字旧仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「のう! ……その両人が菓子折二つを身共に届けて参ったとは、なおさらせぬ謎じゃ。亭主! 三ツ扇屋の亭主!」
次郎はせないといった眼付をして、じっと権田原先生の顔を見つめた。権田原先生もしばらく次郎の顔を見ていたが
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
此家ここの隣屋敷の、時は五月の初め、朝な/\學堂へ通ふ自分に、目も覺むる淺緑の此上こよなく嬉しかつた枳殼垣からたちがきも、いづれ主人あるじは風流をせぬ醜男か
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それをお初がむきになって停めたりすれば、せない顔付きで「どうせ、遊んでいるんだのに……」と云うて、手持ち無沙汰げに渋々と下っていく。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
文麻呂、不思議な笛の反響をせぬ態度で、もうひとしきり吹いて、再び突然、唇から笛を離してみる。耳を澄ます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
と、老母は床の上におきなおりましたが、ふだんのわが子のそぶりから考えて、老母にはなんともしかねるのです。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「これはこれはせぬ事じゃ。現在愚僧が太刀を揮って首打ち落としてござりますわい。人間の身で首を落とされては死ぬより他はござりますまい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高木の口をふさぐために、俺が行って締め殺したと思っているわけでもあるまいが、なにかせないような顔をしている。しかし別に何も言わなかった。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうにもおれにはせねえんだ。こうして行灯の薄暗い光りで眺めていても、お前のそのうつくしい顔や体に、なんとなく殺気が感じられてならねえ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
せ申した。せ申した。方々、かようでござる。木の枝を断ち申したるあと、癒え申せばたかくなるでござろう。塵土あつまれば、これもたかくなるでござろう。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吉田の親分さんも大人気おとなげないな。大民政党が、たかが玉井金五郎一人を、そんなにまで邪魔にするとはせん。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そしておきみはその夜から再び、野良犬のやうな男を呼び込まねばならなくなつた。あのなまづのやうな醫者の不可解な言動もこゝで始めてせたのである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
渠の話の流が淀みなくなり、自分の寐て居た間の変遷をするまでになつたのは、これより大分後の事です。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
と、駿介には伊貝の氣持がどうにもせなかつた。「しかしどうもそれぢやほかに望み手もないわけだ。」
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
智慧ちえの浅瀬を渡る下々の心には、青砥の深慮がしかね、一文惜しみの百知らず、と笑いののしったとは、いつの世も小人はあさましく、救いがたいものである。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
廻らして国の土産、道の粮物にも所望し給へかし、たゞ官食ばかりにては慰もあるまじ。且は身の計をも存じ、又人の心をも兼ね給へかしと、様々教訓しけり。
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
(『維摩経ゆいまきょう』に曰く、「もし生死しょうじしょうを見れば、すなわち生死なし。ばくなくなく、ねんせずめっせず」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
んでとおっしゃいますが、あんまり親方おやかたのおきなさることが、せねえもんでござんすから。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
己れ自からが意味をさないで話しているものだから、ぐに襤褸ぼろが出て、薄ッぺらな所があらわれる。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
よしまた、知ったにしても、こういう江戸ッはわれら近代の人の如く熱烈な嫌悪けんお憤怒ふんぬを感じまい。我れながらせられぬ煩悶はんもんに苦しむような執着を持っていまい。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
立てぬいたのか? ——もっとそれよりせないのは汐見と小倉と自分とでもって帰った骨を何としても親たちの手にわたさない……飽くまで押えて渡さなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
小山内氏は何の事か一向せなかつたが、どんな場合にも女に生捕いけどられるのは苦しむものだと知つてゐるので、直ぐ次ぎの間に逃げ込んで、家鴨あひるのやうに我鳴つた。
もう一人が「打不立有鳥だふりゅううちょう」と答えました——その意味合いがせないので、そこに居合わせた人々が、とかくの詮議立てをして居りますと、それを御聞きになった若殿様が
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)