のぞ)” の例文
もの優しく肩が動くと、その蝋の火が、件の絵襖の穴をのぞく……その火が、洋燈ランプしんの中へ、𤏋ぱっと入って、一つになったようだった。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急に、大地は眼のまえでれている。暗い空に岩角の線がうっすらうねっている。そこからのぞけば絶壁であろうことは疑うまでもない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
破穴やぶれあなからのぞいていますが、これを少しも知りませんで、又作はぐい飲み、猪口ちょくで五六杯あおり附け、追々えいが廻って来た様子で
眼鏡屋の店先へ来るとのぞき眼鏡があって婆さんが一人覘いている。此方のレンズを覘いてみると西洋の美しい街の大通りが浮き上がって見える。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
玉はのぞいていた時から、心の中でこんな女を弟の細君にしてやりたいと思っていたので、そこで弟と結婚してもらいたいと言った。女はいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
この塔の部屋のなかは、そいつはのぞいて行かなかつた。あたかも百枚の扉のうしろにあるかのやうだ、二人がかうしてともにしてゐる深い眠りは。
良久しばらくしてのぞいてるとうを歩兵ほへい姿すがたはなくて、モ一人ひとりはうそば地面ぢべたうへすわつて、茫然ぼんやりそら凝視みつめてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私が盛に哲学書をあさったのも此時で、基督教キリストきょうのぞき、仏典を調べ、神学までも手を出したのも、また此時だ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
新舞踊の披露会をのぞいたり、それが二三夜続く中には「あまり外へ出歩いてセンスの肌理が粗くなったわ」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
母が先日問はず語りに云つてゐた縁談の周旋者の名前が大谷だつたので、彼れは封筒を取り上げてのぞいたが、手紙を引き出して讀まうとはしないで、元の所に置いた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
朝起きて顔を洗いに出ると、春がひよこえたのを知らせた。石田は急いで顔を洗って台所へ出て見た。白い牝鶏の羽の間から、黄いろい雛の頭がのぞいているのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
外の方をさしのぞけば、大空は澄める瑠璃色の外、一片の雲も見えず、小児の紙鳶たこは可なり飛颺ひようして見ゆれども、庭の松竹椿などの梢は、眠れるかの如くに、すこしも揺がず。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
掘りかえした墓場のようにのぞかれるシュレック・フィルンの崖の上を、左にはシュトラールエックの尾根づたい、この麓はガックの嶮のあると云う、その雪路をよろめいて
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
はかまをつけ扇子せんすを持って、一字一句、活字になったときの字づらの効果を考慮し、他人がのぞいて読んでも判るよう文章にいちいちらざる註釈を書き加えて、そのわずらわしさ
葭簾張よしずばりのスキ間から楽屋が丸見えだもんですから、道庵がのぞき込むというと、そこで在郷の役者連が衣裳、かつらの真最中で、それをお師匠番が周旋する、床山とこやまがかけ廻る
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼らは影法師のうつるのも忘れてそっと障子のあなからのぞいたり、または森のなかを歩いてるところを見つけて変化へんげものの正体でも見あらわすようにじろじろと見まわしたりする。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
……此の伯母をて居たのが酒井政俊といふ舞台数も踏んで居る芸達者な女形だつたので、……「浪子」の容態が案じられる思入で、立つて来て屏風へ手をかけてのぞいてみたが
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
「懸けた工合は……どうですな」と渡した方が旦那様の御顔をのぞくようにして尋ねる。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
使女A もうお嬢様、窓からのぞくのはお止め遊ばしませ——何んだか今夜も昨晩のように魔でもさしそうな晩でござります。——早く御寝間へおはいりなされてお眠り遊ばしませ。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕は自分の顔をのぞき込むより(何だか古い、もの寂びた井戸の底を覘くように)
雲の裂け目 (新字新仮名) / 原民喜(著)
此頃歌さんのところへ遊びに来出した男がある。名を井上さんという。昨夜も来た。乃公が客間へ入って行ったら二人で話をしていた。乃公は此人の顔が能く見たいから、傍へ寄ってのぞいてやった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三軒が皆とおしのようになっていて、その中央なかの家の、立腐たちぐされになってる畳の上に、木のちた、如何いかにも怪し気な長持ながもちが二つ置いてある、ふたは開けたなりなので、気味なかのぞいて見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
溝などの中をのぞくと早春から既にそのセリが一杯に繁茂している。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
土間の窓が開いて、茂兵衛が顔を出し、内をのぞいている。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
ものやさしくかたうごくと、らふが、くだん繪襖ゑぶすまあなのぞく……が、洋燈ランプしんなかへ、𤏋ぱつはひつて、ひとつにつたやうだつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あいちやんはけて、それが鼠穴ねずみあなぐらゐちひさなみちつうじてることをり、ひざをついてまへたことのあるうつくしい花園はなぞのを、そのみちについてのぞみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして、紙箒はたきを持つて兄の机の上の埃を拂ひながら、書物の間に插んである洋紙をのぞいて、まづい手蹟で根氣よく英字を書き留めてゐるのに、感心もし、冷笑を浮べもした。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
幸兵衞夫婦は左右から長二の背中をのぞいて、互に顔を見合せると、お柳はたちま真蒼まっさおになって、苦しそうに両手を帯の間へ挿入さしいれ、鳩尾むなさきを強くす様子でありましたが、おさえきれぬか
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朝早くいってのぞいてみると榻を空にして小翠の室にいっていた。それから元豊の病気は二度と起らなかった。元豊と小翠は夫婦の間がいたって和合して、影の形に随うがようであった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
染色してはのぞいて見たが、結核菌は見当らない、今度は隔離室にいる患者の痰を取り寄せて貰って、染めて見たりして暇をつぶす、顕微鏡は私のと同じ型のを用いていた、染料の汚点だらけで
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
手足をぬぐい、下駄をつっかけ、土蔵をのぞいてみるのであったが、入口のすぐ側に乱雑に積み重ねてある康子の荷物——何か取出して、そのままふたの開いている箱や、蓋からみだしている衣類……が
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
伝え言う……孫右衛門まごえもんと名づけた気のい小父さんが、独酌どくしゃく酔醒よいざめに、我がねたを首あげて見る寒さかな、と来山張らいざんばりの屏風越しに、魂消たまげた首を出してのぞいたと聞く。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤子あかごうなつたので、うかしたのではないかと、あいちやんは氣遣きづかはしげに其顏そのかほのぞみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私の家へ入つて來る時には、私達家の者が見つからないと、無斷で上へ上がつて、書齋へでも寢室へでも、あるひは便所へでものぞいて搜すので、私達は屡々しばしばびつくりさゝれた。
吉日 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
と云いながらっと文治郎の手を下へ置いて立上り、外をのぞいて見てぴったりいり□□□□□□□、□□□□□□□□、□□□□□□て、薄暗くなった時、文治の側へぴったり坐って
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そっと起きてのぞいてみると、三、四人の女郎むすめが地べたへ敷物を敷いて坐り、やはり三、四人のじょちゅうがその前に酒と肴をならべていた。女は皆すぐれて美しい容色きりょうをしていた。一人の女がいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
つたふ……孫右衞門まごゑもんづけた小父をぢさんが、獨酌どくしやく醉醒よひざめに、がねたをくびあげてさむさかな、と來山張らいざんばり屏風越びやうぶごしに、魂消たまげくびしてのぞいたとく。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此間も、草履穿きでかまはない服裝なりをして、家を締めて出掛けますと、近所にいらつしやる主人たくのお友達が窓からのぞいて、「ヤア、村田の妻君、今日は見學か。」と冷かしなさるんですよ。
見学 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
といいながら格子の間からのぞいて見ると、むこうに本尊が飾って有りまする。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さびしい笑顏ゑがほが、戸袋とぶくろへひつたりついて、ほのしろ此方こなたのぞいて打傾うちかたむいた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と云われ茂二作夫婦は驚いて、長二の顔をのぞきまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひさしよりか背の高い、おおきな海坊主が、海から出て来て、町の中を歩行あるいていてね……人がのぞくと、蛇のように腰を曲げて、その窓から睨返にらみかえして、よくも見たな、よくも見たな、と云うそうだから。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いたちのぞくやうな、ねずみ匍匐はらばつたやうな、つてめたひしが、ト、べつかつこをして、ぺろりとくろしたくやうな、いや、ねんつた、雜多ざつた隙間すきまあなが、さむさにきり/\とんで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
押絵のあとに、時代を違えた、写真をのぞくのも学問である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)