見棄みす)” の例文
それから数分後に、私はそのおおきな岩をのあたりに見ることのできる、例の見棄みすてられたヴィラの庭のなかに自分自身を見出みいだした。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし私はそう容易たやすく彼を見棄みすてるほどに、兄さんを軽んじてはいませんでした。私はとうとう兄さんを底まで押しつめました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世間の者から見棄みすてられてしまったって、俺にはなよたけがついている。清原や小野に裏切られてしまったって、俺にはなよたけがついている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
れがよこゝろはこうなれど、おこるまえぞえ見棄みすてまえ、たがひかほあはせたら、言辭ことばけてくだされよう……」巫女くちよせ時々とき/″\調子てうしげていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
事に依ったらあいつは逃げたのではあるまいか。長くおれ見棄みすてて行ってしまったのではあるまいか。もう己の側で暮しているのが我慢しにくくなったのだ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「よしや富貴ふうきになりたもう日はありとも、われをば見棄みすてたまわじ。わが病は母ののたもうごとくならずとも」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いま見棄みすてられてるものか、ちたまへ、あやまるよ。しかしね、仙臺堀せんだいぼりにしろ、こゝにしろ、のこらず、かはといふがついてゐるのに、なにしろひどくなつたね。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ヂュリ 大空おほぞらくもなかにもこの悲痛かなしみそこ見透みとほ慈悲じひいか? おゝ、かゝさま、わたしを見棄みすてゝくださりますな! この婚禮こんれいのばしてくだされ、せめて一月ひとつき、一週間しうかん
「諸国は広い、木曽ばかりに、陽が射すものとも限っていまい。土地を見棄みすてて立ち去るがよいぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寛大にも見棄みすてられることに同意する。障害に対しては不屈であり、忘恩に対しては柔和である。
彼はそれを見棄みすてて帰ることもできかね、つい憂鬱ゆううつな日を一日々々といたずらに送っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それが貧しいすすけた家の奥までも、ほとんと何の代償も無しに、容易に配給せられる新たな幸福となったのも時勢であって、この点においては木綿のために麻布を見棄みすてたよりも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
人に見棄みすてられた家と、葉の落ち尽した木立こだちのある、広い庭とへ、沈黙が抜足をして尋ねて来る。その時エルリングはまた昂然として頭を挙げて、あの小家こいえの中のたくっているのであろう。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
その園絵さま故に、それほどの苦労を遊ばす喬さまが、どんな事があっても、園絵さまをお見棄みすてなされて自分にお心をお向けになろうとは……いいえ、そういうことを考えてはなりませぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
井上でも大橋でも脱会の決心をひるがへしたのは、篠田さんに懇々こん/\説諭されたからでもありますが、姉さん、篠田さんの居ない教会に、寂しく残つて居なさる貴嬢を見棄みすてるに忍びないと云ふのが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今までこれらのものの存在を見棄みすてたのは自覚の不足にる。どの公な物産陳列所も、申し合せでもしたかのようにその地方の固有のものをならべない。そうして都風みやこふうしたものを目指している。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私はよっぽどそのまま引っ返そうかと思った時分になって、雑木林ぞうきばやしの中からその見棄みすてられた家が不意に私の目の前に立ち現れたのであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あれにはもうこの儂が必要ではなくなったのじゃ。なよたけのかぐやは竹取翁を見離して行きまする。この儂を見棄みすてて、貴方のものになるのじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「なに。お前を疑っているのではない。お前の己を愛していてくれる事は、己もく知っている、お前はあたりまえで己を見棄みすてるような事はない。しかし。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
かれ只管ひたすら恐怖きようふした。しか二人ふたり見棄みすてゝくことが出來できないので、どうしていゝか判斷はんだんもつかなかつた。さうするうちにおしなの七日もぎた。かれ煩悶はんもんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たゞ挨拶あいさつをしたばかりのをとこなら、わしじつところ打棄うつちやつていたにちがひはないが、こゝろよからぬひとおもつたから、そのまゝに見棄みすてるのが、わざとするやうで、めてならなんだから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぽっと出の女中の手に成った、どうにも我慢のならない晩飯も一つの原因であったが、時のジャアナリズムから見棄みすてられたわびしさも、とかく彼を書斎に落ち着かせようとはしなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道すがら枝折しおり々々としばはわが身見棄みすてて帰る子のため
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……そんなむなしい努力の後、やっと私の頭にうかんだのは、あのお天狗てんぐ様のいるおかのほとんど頂近くにある、あの見棄みすてられた、古いヴィラであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
勘次かんじ主人しゆじんために一所懸命しよけんめいはたらいた。以前いぜんからもかれたゞとなり主人しゆじんから見棄みすてられないやうとこゝろにはおもつてるのであつた。しか非常ひじやう勞働らうどう傭人やとひにん仲間なかまにはまれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まくしほつたのに、……あゝ、ながわづらひゆゑみせさびれた、……小兒こどもときからわたし贔屓ひいき、あちらでも御贔屓ごひいき御神輿おみこし見棄みすててくか、とかたおとして、ほろりとしつゝ見送みおくると
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小野 (意を決したように、悲壮ひそうな顔)石ノ上! 俺は失敬する! 君を見棄みすてるのは忍びないが、俺は気違いと行動を共にするのはまっぴら御免だ! 君がなよたけの唄と聞いているのは
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
母はまだまだ葉子を見棄みすててはいなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さすれば無用むようつひえせつせむ、なんぢ一人いちにん奉公ほうこうにて萬人ばんにんのためになりたるは、おほ得難えがた忠義ちうぎぞかし、つみなんぢはづかしめつ、さぞ心外しんぐわいおもひつらむが、見棄みすてずば堪忍かんにんして、また此後このごたのむぞよ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それ見棄みすてて、御堂おだうむかつてちました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)