かいな)” の例文
ただ一呑ひとのみ屏風倒びょうぶだおしくずれんずるすさまじさに、剛気ごうき船子ふなこ啊呀あなやと驚き、かいなの力を失うひまに、へさきはくるりと波にひかれて、船はあやうかたぶきぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きゃしゃなかいなの青白い肌が、頑丈な鉄のような指先にむずと掴まれて、二人の少年の血色の快い対照は、私の心を誘うようにするので
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それをもとの社主は放任していたのである。新聞は新しい社主の手に渡った。少壮政治家の鉄のようなかいなが意識ある意志によってふるわれた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金剛石ダイヤモンドがきらりとひらめいて、薄紅うすくれないそでのゆるる中から細いかいなが男のひざの方に落ちて来た。かろくあたったのは指先ばかりである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、外から声をかけると、とんとんとんと二階から降りて来るらしい跫音あしおとがした。同時に、ぱらと白い女のかいなが、内から芦簾あしすだれをかかげて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我れに隱くすことなく我れに包むことなく、心安く長閑に落付きて、我が此かいなに寄り此膝の上に睡るべしと、の給ふ御聲心耳にひゞくたび/\
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もがき疲れたかいななりが見えて来ないかと待ち侘びるけれど、その甲斐もなく、さっき顔を見せたのが最後のおさらばだったのだ。
パチリと女はかいなを打った。どうやら藪蚊が刺したらしい。左の腕の肩まで捲った。月光に浮いて見えたのは、ベッタリ刻られた刺青いれずみであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勝平の鉄のようなかいなが何となく頼もしいように思えた。逗子ずしの停車場から自動車で、危険な海岸伝いに帰って来ることが何となくあやぶまれ出した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は私の背後に太いロップや金具のゆるく緩くきしめく音を絶えず感じながら、その船首に近い右舷の欄干てすりにゆったりと両のかいなをもたせかけている。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
東京で淋しく死だ今井も、故郷の人達の友情に依って、こんなに手厚く葬られる。自分も最後の呼吸いきを引取る時には、故郷の人々のかいなに縋りたい——。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
玉のかいなは温く我頸筋くびすじにからまりて、雲のびんの毛におやかにほほなでるをハット驚き、せわしく見れば、ありし昔に其儘そのままの。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、浪路は、抱き締められながら、骨太なかいなの圧迫や、毒々しい体熱のぬくもりに、言うばかりない嫌悪けんおを感じて、相手の言葉が、耳にも入らず、もだえた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
われのかいなはむなしく相手の頭の上を通過し、われはわが力によろめき自ら腰がくだけて敗れたのである。
男女川と羽左衛門 (新字新仮名) / 太宰治(著)
地平線の上にかいなを長くさしのべなば、われはもゆるかの土と紅色くれない石榴ざくろとに触れもやせん。金光きんこう燦爛さんらんたる国土かな。鳥飛ばず、曇りもえせず、色もあせざる空の下。
で、その問題も先づ無事に片がつくと、大統領は久し振で可愛かあいい夫人のかいなりかかつて教会に往つた。
お葉は更にって縁先えんさきに出た。左の手には懐紙ふところがみを拡げて、右のかいな露出あらわに松の下枝したえだを払うと、枝もたわわつもった雪の塊は、綿を丸めたようにほろほろと落ちて砕けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同時にまた目の前へ浮かび上った金色こんじきの誘惑を感じはじめる。もう五分、——いや、もう一分たちさえすれば、妙子は達雄のかいなの中へ体を投げていたかも知れません。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで釣瓶を卸して、両のかいなの力をこめて綱を引いてみると、いよいよ重い手ごたえがあります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女のあごが私の肩に、私のかいなが彼女の腰に、密接して、夢中になって踊り始めたのであります。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
袖から見えるかいなの美しさなども常陸ひたちさんなどと言われる者の家族とは見えず貴女きじょらしい。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こういうやいなやかれは急に声をたててすすりあげ、その太いかいなを目にあててしまった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
抱き起す手先のかいな、松の古木のような、逞ましいのへカッと一塊の血潮が——。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
力の張ッて来た右のかいなへひやりひやりと当るのが実に心持のよいことであッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
筆に奮迅ふんじんの苦闘をあえてするかいなも、勇気もあるものの、ただの浮世の風波に堪え得ぬ花の如き少女、おお、我が恋人は今頃いかに、今宵こよいをいかに送るならんと空の彼方、見よ月に雲のかかり
夫は母と共に外出して夜更よふけても帰って来ない、もう病人は昏睡状態におちいって婢中じょちゅうかいなだかれていたが、しきりに枕の下を気にして口をきこうとして唇をかすかに動かせども、もう声が出ない
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
少焉しばらくあって、一しきり藻掻もがいて、体の下になった右手をやッとはずして、両のかいなで体を支えながら起上ろうとしてみたが、何がさてきりで揉むような痛みが膝から胸、かしらへと貫くように衝上つきあげて来て
列車は前後あとさきが三等室で、中央まんなかが一二等室、見ると後の三等室から、髪をマガレットにつかねた夕闇に雪をあざむくような乙女の半身が現われた。今玉のようなかいなをさし伸べて戸のラッチをはずそうとしている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「うははははは、尊公に斬り落とさるる首は、生憎あいにくながら伊賀の暴れン坊、持ち申さぬ。そ、それより、近いうちに拙者が、ソレ、その、たった一つ残っておる左のかいなをも、申し受けるおりがまいろう」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
愛くるしい娘の子が両のかいなに力を籠めて、200
其時にのみ剛強の彼のかいなの凄きやを。 245
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
君が清き丸きかいな、われはそとくちづけぬ。
子路ききて かいななでつつ
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
(無造作に、座を立って、卓子テエブル周囲まわりに近づき、手を取らんとかいなを伸ばす。美女、崩るるがごとくに椅子をはずれ、床に伏す。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妻のかいなは、羅生門の鬼の腕を思わせる。しがみついていた良人の衾は引き剥がれ、まろくしていた背も、こッち向きに、引っり返されて。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白きかいなのすらりと絹をすべりて、抑えたる冠の光りの下には、渦を巻く髪の毛の、珠の輪には抑えがたくて、頬のあたりになびきつつ洩れかかる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暖かく柔かな光子のたなごゝろは、とても振り放す事の出来ない魔力を持って居るように軽く私のかいなを捕えて、薄気味の悪い部屋の方へずる/\と引っ張って行き
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
巨勢がかいなにもろ手からみて、すがるやうにして歩みし少女は、この店の前に来て岡の方をふりかへりて
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
獅子の乳で育ったとう野蛮人の猛将を、細いかいなで刺し殺した猶太ユダヤ少女おとめの美しい姿が、勇ましい面影が、蝕画エッチングのように、彼女の心にこびりついて離れなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かいなであれ、その秀でた部分が何より第一に人眼をひき、誰も彼もが期せずして異口同音に、『どうだい、ちょっとあれを見給え、なんて素晴らしいギリシア型の鼻だろう!』
かいななども細く細く細くなって影のようにはかなくは見えながらも色合いが変わらず、白く美しくなよなよとして、白い服の柔らかなのを身につけ夜着は少し下へ押しやってある。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ヒラリと飛ぶと鷺組のお絹、地面に草に蔽われながら、横仆わっている鉄盤へ、双のかいなをヒョイと掛けた。直径一間はあるだろう。大鉄盤が女の力で、持ち上がるべき理由がない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
舌をかんでの狂い死にの、その臨終いまわの一刹那せつなとも知らず、抱きしめの激しさに、形相ぎょうそうの怖ろしさに、ぐいぐいと締めつける、骨だらけのかいなの中から、すり抜けて思わず壁ぎわまでげ出し
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
五体にみなぎる精力せいりきが、両のかいなにおのずからあつまる時、わがたましいは流るるごとく彼に通いて、はじめて面も作られまする。ただしその時は半月の後か、一月の後か、あるいは一年二年の後か。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、枕に凭れたかいなが顫えて、腑甲斐なくもシドロモドロになります。
白きかいなのヘーレーの命傳へ來るアテーネー
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
かいなを拡げて迎え容れた椅子であろう。
かいなてつの匂にうちむせぶ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
男子のたたかいは剣とかいな
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あらはなるお前のかいな