群青ぐんじょう)” の例文
そして処々に一かたまりの五月さつき躑躅つつじが、真っ白、真っ赤な花をつけて、林を越して向うには、広々と群青ぐんじょう色の海の面がながめられます。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
窓の外は、一面に濃い群青ぐんじょうの夏の空だ。——この部屋は五階だ。なるほど、ベッドに寝たきりでいるのだったら、見えるのは空しかない。
暑くない夏 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
向うの方ではまるで泣いたばかりのような群青ぐんじょうの山脈やすぎごけの丘のようなきれいな山にまっ白な雲が所々かかっているだろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まさしく瑠璃るりの、群青ぐんじょう深潭しんたんようして、赤褐色の奇巌きがん群々むれむれがかっと反射したところで、しんしんとみ入るせみの声がする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
椿岳の泥画というは絵馬や一文人形いちもんにんぎょうを彩色するに用ゆる下等絵具の紅殻べにがら黄土おうどたん群青ぐんじょう胡粉ごふん緑青ろくしょう等に少量の墨を交ぜて描いた画である。
カンラカラカラと笑い飛ばすと、刻みの深い物凄い顔のひもゆるんで、群青ぐんじょうで描いたような青髯あおひげの跡までが愛嬌あいきょうになります。
一双いっそう屏風びょうぶの絵は、むら消えの雪の小松に丹頂たんちょうの鶴、雛鶴ひなづる。一つは曲水きょくすい群青ぐんじょうに桃のさかずき絵雪洞えぼんぼり、桃のようなともす。……ちょっと風情ふぜい舞扇まいおおぎ
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのパラソルは一口に云えば空色であるが、よく見ると群青ぐんじょうと、淡紅色ときいろの、ステキに派手なダンダラ模様であった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上半身は、それは美しい女体であるけれども、腰から下は暗い群青ぐんじょう色に照り輝いて、細っそりとまとまった足首の先には、やはり伝説どおりの尾鰭おひれがあった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
たとえば、金銀、群青ぐんじょう緑青ろくしょうなど岩物いわもの平常ふだん使うので、それも品を吟味して最初から上等品を用いさせました。
天井には群青ぐんじょうや朱の色のおもどろんだ絵具で天女てんじょ鳳凰ほうおういてあったが、その天女も鳳凰も同じように一方の眼が潰れていた。武士はまた右の方に眼をやった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
珍しいことに、その三体が三体共に、ただひと色のじつにすっきりしたいやみのない群青ぐんじょう色でした。
瑠璃るりの空に弧を描いた久摩くまの峯や、群青ぐんじょうの岩絵具を盛り上げた筒井峠、由良の流れは繭糸をくずしたように山裾をめぐっていた——その広やかな視野からあつまって来る風が
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道釈どうしゃく人物、花鳥、動物、雲鶴うんかく、竜、蔬菜そさい図、等が描かれてあります、その群青ぐんじょう、朱、金銀泥、あい、などの色調は、さも支那らしい色調であって、大変美しい効果のものであります
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
何もかもがその色に染まってしまいそうな深い群青ぐんじょうの海、そして潮の匂いがすぐにみずみずしい藻を連想させたり、それ自体がしょっぱい味を運んでくる潮風を吸い込んだりするときに
乳と蜜の流れる地 (新字新仮名) / 笠信太郎(著)
あらゆる人種からなる、十三万人の観衆に包まれた開会式オオプニングセレモニイは、南カルホルニアの晴れわたった群青ぐんじょうの空に、数百羽の白鳩しろばとをはなち、その白いかげが点々と、碧玻璃へきはりのような空に消えて行くころ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
強烈に過ぎはしないかと疑われる群青ぐんじょうと黄との対照、あるいは牡丹ぼたんの花などにおける有りとあらゆる複雑な紫色の舞踏、こういうようなものが君の絵に飽かざる新鮮味を与え生気を添えている。
白い帆を斜めに、群青ぐんじょうの午後の海をすべって行くヨットを見て、少女は目に涙がうかんできた。だが、少女は笑顔のまま手を振りつづけた。
朝のヨット (新字新仮名) / 山川方夫(著)
すると、雲もなくみがきあげられたような群青ぐんじょうの空から、まっ白な雪が、さぎの毛のように、いちめんに落ちてきました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
が、その影がすと、半ばうもれた私の身体からだは、ぱっと紫陽花に包まれたように、青く、あいに、群青ぐんじょうになりました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丘陵の灌木と灌木の間を点綴てんていしてうねりに沿って、みどり、紫、群青ぐんじょう、玉虫色に光るいらかを並べて、なだらかな大市街が美しい町並を形づくっているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
幾百年と経った大木のくすのきは樹皮は禿げ、枝は裂けていい寂色さびいろに古びている。そのこずえ群青ぐんじょうからすがはたはたと動かしてとまる。かおォかおォである。古風な白帝城。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
するとその投影かげの中から、群青ぐんじょう淡紅色ときいろのパラソルが、人魂ひとだまか何ぞのようにフウーウと美しく浮き出して、二三間高さの空中を左手の方へ、フワリフワリと舞い上って行ったが
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甲板かんぱんに出ても、これまで群青ぐんじょうに、かがやいていたおだやかな海が、いまは暗緑色にふくれあがり、いちめんの白波が奔馬ほんばかすみのように、飛沫しぶきをあげ、荒れくるうのをみるのは、なにか、胸ふさがる思いでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それが、群青ぐんじょうなまの陶土に溶かし込んだような色で、粘稠ねっとりよどんでいる。その水面に、みずちの背ではないかと思わせているのが、金色を帯びた美しい頭髪で、それが藻草のようにたなびいているのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
老人はまゆせてしばらく群青ぐんじょういろにまった夕ぞらを見た。それからじつに不思議ふしぎ表情ひょうじょうをしてわらった。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なるほど小さい、白魚しらうおばかり、そのかわり、根の群青ぐんじょうに、薄くあいをぼかしてさき真紫まむらさきなのを五、六本。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
したたる眼も遥かな芝生の彼方此方かなたこなたには鬱蒼うっそうたる菩提樹ぼだいじゅがクッキリした群青ぐんじょうの空を限って
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あいあお群青ぐんじょうと、また水浅葱みずあさぎと白と銀と緑と、うず飛沫ひまつ水漚すいおうと、泡と、泡と、泡と。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
よっぽど西にその太陽たいようかたむいて、いま入ったばかりの雲の間から沢山たくさんの白い光のぼうげそれはむこうの山脈さんみゃくのあちこちにちてさびしい群青ぐんじょうわらいをします。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僧都 紺青こんじょう群青ぐんじょう白群びゃくぐん、朱、へきの御蔵の中より、この度の儀に就きまして、先方へお遣わしになりました、品々のたぐいと、数々を、念のために申上げとうござりまして。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときはもう、あかがねづくりのお日さまが、南の山裾やますそ群青ぐんじょういろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺しらかばの幹などもなにか粉をいているようでした。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山藤が紫に、椿が抱いた、群青ぐんじょういわそびえたのに、純白な石の扉の、まだ新しいのが、ひたととざされて、の椿の、落ちたのではない、やさしい花が幾組かほこらに供えてあった。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢を見るように、橋へかかると、これも白い虹が来て群青ぐんじょうの水を飲むようであった。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あちこちの木がみなきれいに光り山は群青ぐんじょうでまぶしいわらいのように見えたのでした。けれどもキッコは大へんに心もちがふさいでいました。慶助けいすけはあんまりいばっているしひどい。
みじかい木ぺん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もののうつつのように、いま生れたらしい蜻蛉とんぼが、群青ぐんじょうの絹糸に、薄浅葱うすあさぎの結び玉を目にして、綾の白銀しろがねうすものを翼に縫い、ひらひら、とながれの方へ、葉うつりを低くして、牡丹に誘われたように
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背きがち、うなだれがちに差向ったより炉の灰にうつくしい面影が立って、そのうすい桔梗の無地の半襟、お納戸縦縞たてじまあわせの薄色なのに、黒繻珍くろしゅちんに朱、あい群青ぐんじょう白群びゃくぐんで、光琳こうりん模様に錦葉もみじを織った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森々しんしんたる日中ひなかの樹林、濃く黒く森に包まれて城の天守は前にそびゆる。茶店ちゃみせの横にも、見上みあげるばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじへて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のある如き、たら/\あがりのこみちがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
森々しんしんたる日中ひなかの樹林、濃く黒く森に包まれて城の天守は前にそびゆる。茶店の横にも、見上るばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじえて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のあるごとき、たらたらあがりのこみちがある。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……いかにや、年ふる雨露あめつゆに、彩色さいしきのかすかになったのが、木地きじ胡粉ごふんを、かえってゆかしくあらわして、萌黄もえぎ群青ぐんじょうの影を添え、葉をかさねて、白緑碧藍はくりょくへきらんの花をいだく。さながら瑠璃るりの牡丹である。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)