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痘痕
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あばた
ふりがな文庫
“
痘痕
(
あばた
)” の例文
と、その声が呼んだかのように、土蔵の口へ現われたのは、顔に醜い薄
痘痕
(
あばた
)
のある、蔵番らしい男であったが、手に
匕首
(
あいくち
)
を握っている。
前記天満焼
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
伯母さんの
痘痕
(
あばた
)
は見えぬかえと笑ふに、それでもお前は年寄りだもの、己らの言ふのは嫁さんの事さ、年寄りはどうでも宜いとあるに
たけくらべ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
とともに、その
痘痕
(
あばた
)
と、細君が若うして且つ美であるのをもって、処々の講堂においても、演説会においても、音に聞えた君子である。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
王政復古——幕府はもう永くない——ご一新は近い、となると渋沢の顔は、柔和な眼も、
痘痕
(
あばた
)
の一つ一つも、野心そのものに熱をおびて
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
物干の間から
覗
(
のぞ
)
いて見ると紺の
股引
(
ももひき
)
に
唐桟縞
(
とうざんじま
)
の
双子
(
ふたこ
)
の尻を端折り、上に
鉄無地
(
てつむじ
)
の
半合羽
(
はんがっぱ
)
を着て帽子も
冠
(
かぶ
)
らぬ四十年輩の薄い
痘痕
(
あばた
)
の男である。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
無残にも
小豆
(
あずき
)
大の赤黒い
痘痕
(
あばた
)
が、
籠釣瓶
(
かごつるべ
)
の佐野次郎左衛門で、会員達の好奇心も一ぺんにさめて、思わず顔を
反
(
そむ
)
けることも少くはありません。
法悦クラブ
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その日の旅で身体の節が硬くなったような気がした私は
按摩
(
あんま
)
、即ちマッサージ師を呼びむかえた。彼は深い
痘痕
(
あばた
)
を持つ、盲目の老人であった。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
お庄は空罎の積みの前に立って、「え、え。」と言って聴いていたが、ぽつぽつ
痘痕
(
あばた
)
のような穴のあるお袋の顔が、薄気味わるく眺められた。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「疱瘡ですって? なるほどそう仰しゃれば、あの男には
痘痕
(
あばた
)
があったっけ! ですがなんだってまたあなたは……。」
永遠の夫
(旧字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
其処は代々畳屋をやっていたが、肥った白
痘痕
(
あばた
)
のある其処の主人が歿くなるとともに商売をよして、その比は老婆と年とった娘が何もせずにいた。
鷲
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
これまで見たことのある厭な意地くねの悪い顔をいろいろ取りだして、白髪の
鬘
(
かつら
)
の下へ
嵌
(
は
)
めて、鼻へ
痘痕
(
あばた
)
を振ってみる。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
「みんなは知りませんが、そう云った奴の
面付
(
つらつき
)
だけは
記憶
(
おぼ
)
えています。色の黒い、
痘痕
(
あばた
)
のある、
瘠
(
や
)
せこけた
拙
(
まず
)
い面でした。朝鮮人かも知れません」
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
痘痕
(
あばた
)
があって、片目で、背の低い男ぶりを見ては、「仲平さんは
不男
(
ぶおとこ
)
だ」と
蔭言
(
かげこと
)
を言わずにはおかぬからである。
安井夫人
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
美しい蟹に
痘痕
(
あばた
)
の名はふさわしくないと遠泉君は思っていると、老いたる漁師はその蟹の由来を説明した。
五色蟹
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そのときお民は
痒
(
かゆ
)
がるのを掻かせないために、七昼夜というもの一睡もせずに看病をした、おかげで小太郎は
痘痕
(
あばた
)
を残さずに済んだが、お民は過労にまけて倒れ
初蕾
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
緑いろの
鳥打帽
(
とりうちぼう
)
をかぶった、薄い
痘痕
(
あばた
)
のある物売りはいつもただつまらなそうに、
頸
(
くび
)
へ
吊
(
つ
)
った箱の中の新聞だのキャラメルだのを眺めている。これは
一介
(
いっかい
)
の商人ではない。
十円札
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「——我慢していらっしゃい、いい子だから。大
痘痕
(
あばた
)
になるところを助ったんじゃあないの」
長崎の印象:(この一篇をN氏、A氏におくる)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
短く刈った
褐色
(
かっしょく
)
の髪、
痘痕
(
あばた
)
のある
無髯
(
むぜん
)
の顔、太い眼、太い鼻、太い
唇
(
くちびる
)
、二重
頤
(
あご
)
、短い首、恐ろしく大きな背中、
樽
(
たる
)
のような腹、胴体から分かれ出てる腕、馬鹿に大きな手足
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
「そんだつて
俺
(
お
)
ら
被
(
かぶ
)
んねえよ」
痘痕
(
あばた
)
の
爺
(
ぢい
)
さんはすつかり
悄
(
しを
)
れて
畢
(
しま
)
つた。
群集
(
ぐんしふ
)
は
皆
(
みな
)
腹
(
はら
)
を
抱
(
かゝ
)
へた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
痘痕
(
あばた
)
だらけの、蟹の甲羅のやうな
道化
(
おどけ
)
た顔をして、
白墨
(
チヨオク
)
の粉の着いた黒木綿の紋付に裾短い袴を穿いた——それが真面目な、教授法の熟練な教師として近郷に名の知れてゐる
道
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
少し
痘痕
(
あばた
)
ある鳳眼にして長面の片山君は、
銭函
(
ぜにばこ
)
の海岸で崖崩れの為死んだ愛犬の皮を胴着にしたのを被て、手細工らしい小箱から煙草をつまみ出しては長い煙管でふかしつゝ
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
「あたいは
劉
(
りゅう
)
さんていう
痘痕
(
あばた
)
のおやじが、
鉱山
(
やま
)
へ働きに行けば、お母さんにもお金をやれるし、子供でも戦争の役に立つんだと云ったから
路三
(
ルサン
)
や、
万里
(
ワンリ
)
なんかと一緒に来たんだ」
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
痘痕
(
あばた
)
が有つて跛の男。これが此講義所の番人、如何にも敬虔らしく天からインスピレーシヨンでも受けて居るかの様に、眼を閉じては祈り、眼を開いては牧師の口に注意して居る。
死線を越えて:01 死線を越えて
(新字旧仮名)
/
賀川豊彦
(著)
ただ自分の隣りに
腫物
(
できもの
)
だらけの、
腐爛目
(
ただれめ
)
の、
痘痕
(
あばた
)
のある男が乗ったので、急に心持が悪くなって向う側へ席を移した。どうも当時の状態を今からよく考えて見るとよっぽどおかしい。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「失礼ながら先生の奥さんのお父さんは
痘痕
(
あばた
)
のあるお方じゃありませんか?」
負けない男
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
お彼岸に雪解けのわるい路を途中花屋に寄ったりして祖母につれられてきて、この部屋で
痘痕
(
あばた
)
の和尚から茶を出された——その和尚の弟子が今五十いくつかになって後を継いでるわけだった。
父の葬式
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
その大石というのは
子持石
(
こもちいし
)
であった。
凝灰岩
(
ぎょうかいがん
)
に堅くて黒い
礫
(
れき
)
を
孕
(
はら
)
んでいる。その大小の礫の抜け出したあとが
痘痕
(
あばた
)
のように見える。その穴にはしのぶが生えている。いわゆるのきしのぶである。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
沸々沸々と、瓦斯の立つ
痘痕
(
あばた
)
の
面
(
めん
)
、これがあの丸太の、美女の胴体とは。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
顔中に薄い
痘痕
(
あばた
)
があったが、目は細く光って
眦
(
まなじり
)
が上り、
鼻梁
(
はなばしら
)
が高く通って、
精悍
(
せいかん
)
な気象を示したが、そのげっそりと
下殺
(
しもそ
)
げした頬に、じりじり生えている
髭
(
ひげ
)
が、この男の風采を淋しいものにした。
船医の立場
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
見ると
蒼白
(
あおじろ
)
い顔色に薄い
痘痕
(
あばた
)
がある。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
痘痕
(
あばた
)
のある
柔和
(
にうわ
)
な
顔
(
かほ
)
で、
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さうに
私
(
わたし
)
を
見
(
み
)
た。が
口
(
くち
)
も
利
(
き
)
かないでフイと
門
(
かど
)
を、
人
(
ひと
)
から
振
(
ふり
)
もぎる
身躰
(
からだ
)
のやうにづん/\
出掛
(
でか
)
けた。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
きらりと、うす
痘痕
(
あばた
)
の中に、大きな眸が光った。安兵衛は膝を進めて、たった今、荷田春満から聞き込んだ事をつぶさに告げて
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
土竈
(
へつつひ
)
の陰に恐れ入つてゐるのは、三十を少し越したらしい女、ひどい
痘痕
(
あばた
)
で、眼も片方はどうかしてゐる樣子です。
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
藤さんはにわかに荷物を
纒
(
まと
)
めて帰って行ったというのである。その伯父さんというのはだいぶ年の
入
(
い
)
った、鼻の先に
痘痕
(
あばた
)
がちょぼちょぼある人だという。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
痘痕
(
あばた
)
があって、片目で、背の低い田舎書生は、ここでも同窓に馬鹿にせられずには済まなかった。それでも仲平は無頓着に黙り込んで、独り読書に
耽
(
ふけ
)
っていた。
安井夫人
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
女は年ごろ二十二、三で、顔にうす
痘痕
(
あばた
)
はあるが垢抜けのしたいい女。どう見ても素人らしくない人相、髪は散らしているので、どんな
髷
(
まげ
)
に結っていたか判りません。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
最後に、ラインハルト夫人はクリストフに
良人
(
おっと
)
を紹介した。彼はひどい
醜男
(
ぶおとこ
)
だった。顔は
蒼
(
あお
)
ざめ、
髭
(
ひげ
)
がなく、
痘痕
(
あばた
)
があり、
憐
(
あわ
)
れっぽかった。しかしたいへん善良な様子だった。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
後
(
あと
)
では
波
(
なみ
)
が
巖
(
いは
)
に
打
(
う
)
ちつける
樣
(
やう
)
に
暫
(
しば
)
らく
騷
(
さわ
)
いだ。
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
は
皆
(
みな
)
十
分
(
ぶん
)
笑
(
わら
)
つて、
又
(
また
)
痘痕
(
あばた
)
の
爺
(
ぢい
)
さんを
熟々
(
つく/″\
)
と
見
(
み
)
ては
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
して
袂
(
たもと
)
で
口
(
くち
)
を
掩
(
おほ
)
うた。
到頭
(
たうとう
)
極
(
きま
)
り
惡相
(
わるさう
)
にして
爺
(
ぢい
)
さんも
去
(
さ
)
つて
畢
(
しま
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
薄
痘痕
(
あばた
)
をその間にかくしているような皺の多い面長な重蔵の顔には笑いが浮んでいる。
猫車
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
薄
痘痕
(
あばた
)
のある顔である。気付いてお繁が顔を向けると、すぐに襖は閉ざされた。
前記天満焼
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
己
(
おい
)
らは
痘痕
(
あばた
)
と
濕
(
しつ
)
つかきは
大嫌
(
だいきら
)
ひと
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れるに、
主人
(
あるじ
)
の
女
(
をんな
)
は
吹出
(
ふきだ
)
して、
夫
(
そ
)
れでも
正
(
しよう
)
さん
宜
(
よ
)
く
私
(
わたし
)
が
店
(
みせ
)
へ
來
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さるの、
伯母
(
おば
)
さんの
痘痕
(
あばた
)
は
見
(
み
)
えぬかえと
笑
(
わら
)
ふに、
夫
(
そ
)
れでもお
前
(
まへ
)
は
年寄
(
としよ
)
りだもの
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
よしんば、その不明の目的のために岩形氏を殺したとしても、その手がかりになる留学生は、唯、顔に
痘痕
(
あばた
)
があるというだけで、探し出すにしても雲を掴むような苦心をしなければならぬ。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
その日、いつものやうに、のそり/\二階へ上つて行つた時、わたくしは朝鮮人らしい
痘痕
(
あばた
)
の目につく若い洋服の男が、化粧用の品物を詰込んだ革包の中を、そろ/\片づけ初めてゐるのを見た。
勲章
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
この
点
(
てん
)
から見ると主人の
痘痕
(
あばた
)
も
冥々
(
めいめい
)
の
裡
(
うち
)
に妙な
功徳
(
くどく
)
を施こしている。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「
痘痕
(
あばた
)
のある怖い人でございます」
負けない男
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
がつらつら思うに、茶屋の帳場は婆さんか、
痘痕
(
あばた
)
の亭主に限ります。もっともそれじゃ、繁昌はしまいがね。早いから女中はまだ
鼾
(
いびき
)
で居る。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大高源吾は、肉のかたく
緊
(
し
)
まった体を、ずんぐりと重そうにいつも扱っていた。浅黒いうす
痘痕
(
あばた
)
があって、すこし
猪首
(
いくび
)
のせいか、首を曲げる癖がある。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
痘痕
(
あばた
)
でも
眈目
(
めつかち
)
でもなく、どこか美しくさへある女ですが、何んとなく冴えない顏で、目鼻立の端正なのが、反つてこの女の魅力を傷つけてゐると言つた感じのお磯です。
銭形平次捕物控:105 刑場の花嫁
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「
何
(
な
)
んちいか
寄
(
よ
)
せて
見
(
み
)
せえ」
先刻
(
さつき
)
の
爺
(
ぢい
)
さんはいつた。
彼
(
かれ
)
の
顏
(
かほ
)
には
痘痕
(
あばた
)
を
深
(
ふか
)
く
印
(
いん
)
して
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
煎餅やのお福のやうな
痘痕
(
みつちや
)
づらや、薪やのお
出額
(
でこ
)
のやうなが
萬一
(
もし
)
來ようなら、直さま追出して家へは入れて遣らないや、己らは
痘痕
(
あばた
)
と
濕
(
しつ
)
つかきは大嫌ひと力を入れるに、
主人
(
あるじ
)
の女は吹出して
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
痘
常用漢字
中学
部首:⽧
12画
痕
常用漢字
中学
部首:⽧
11画
“痘痕”で始まる語句
痘痕面
痘痕志士