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燻
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いぶ
ふりがな文庫
“
燻
(
いぶ
)” の例文
「灰が
湿
(
しめ
)
っているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて
蓋
(
ふた
)
をとると、赤い絹糸で
括
(
くく
)
りつけた蚊遣灰が
燻
(
いぶ
)
りながらふらふらと揺れる。
一夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
中には自分の重みの上になほその子供を帯にくゝりつけ垂れ下げられてゐる。そしてそれを遠巻に焚木の煙がじり/\と
燻
(
いぶ
)
してゐる。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
「お父さんな、まだ帰らんのか。」と浅七は外から
這入
(
はい
)
って来た。家の中は暗かった。
囲炉裏
(
いろり
)
の中には
蚊遣
(
かやり
)
の青葉松が
燻
(
いぶ
)
って居た。
恭三の父
(新字新仮名)
/
加能作次郎
(著)
お組とやらいふ娘一人の命ではなく、その奧にもつと/\複雜な犯罪が潜んで今ブスブス
燻
(
いぶ
)
つてゐる樣な氣がしてならなかつたのです。
銭形平次捕物控:115 二階の娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
裏戸口
(
うらとぐち
)
の
柹
(
かき
)
の
木
(
き
)
の
下
(
した
)
に
据
(
す
)
ゑられた
風呂
(
ふろ
)
には
牛
(
うし
)
が
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
して
鼻
(
はな
)
を
舐
(
な
)
めづつて
居
(
ゐ
)
る
樣
(
やう
)
な
焔
(
ほのほ
)
が
煙
(
けぶり
)
と
共
(
とも
)
にべろ/\と
立
(
た
)
つて
燻
(
いぶ
)
りつゝ
燃
(
も
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
▼ もっと見る
晃
煩
(
うるさ
)
く
薮蚊
(
やぶっか
)
が押寄せた。裏縁で
燻
(
いぶ
)
してやろう。(納戸、
背後
(
うしろ
)
むきに山を仰ぐ)……雲の峰を
焼落
(
やきおと
)
した、三国ヶ岳は火のようだ。
夜叉ヶ池
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
妙だ、變な匂ひがするつて、ヘツ、する筈だあな、線香で鰯の匂ひを消さうと思やがつて、
和尚
(
おしやう
)
が
燻
(
いぶ
)
したてるんだ、たまらねえ。
佃のわたし
(旧字旧仮名)
/
長谷川時雨
(著)
燻
(
いぶ
)
し
鮭
(
さけ
)
の小皿と一しょに、新蔵の膳に載って居るコップがもう泡の消えた黒麦酒をなみなみと湛えたまま、口もつけずに置いてあります。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その
後姿
(
うしろで
)
に、
薫
(
く
)
ゆらすとみえた、
紫煙
(
シガア
)
のけむの一片。それが白い。ぽんと、
抛
(
な
)
げすてられたその殻。地におちて、なほ
燻
(
いぶ
)
る余燼。
雪
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
底深い
群青色
(
ぐんじやういろ
)
の、表ほのかに
燻
(
いぶ
)
りて弓形に張り渡したる眞晝の空、其處には力の滿ち極まつた
靜寂
(
しじま
)
の
光輝
(
かがやき
)
があり、
悲哀
(
かなしみ
)
がある。
樹木とその葉:12 夏のよろこび
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
いぶかしげな乱れた思案が、ぼやけた部屋の明るみを
燻
(
いぶ
)
るやうに湧き漂ひ、うなだれた呂木の心を無限の遠さへ連れていつた。
Pierre Philosophale
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
さてその
農民小屋
(
のうみんごや
)
にはひつて
見
(
み
)
ると
爐邊
(
ろへん
)
には
薪
(
まき
)
が
燃
(
も
)
やされてあつて、その
地方
(
ちほう
)
の
風俗
(
ふうぞく
)
をした
爺
(
ぢい
)
さんがたばこを
燻
(
いぶ
)
らしてゐたり
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
が、泥が深かったので、一足もはいることは出来なかった。半かけの月に照らされて、水は
燻
(
いぶ
)
した銀のように、
朦朧
(
もうろう
)
とした光を浮かべていた。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そのとき母親と娘との眼路の
果
(
はて
)
に、まだ春浅い茜いろに
燻
(
いぶ
)
されたような桃花村が静かすぎる空につづいて
長閑
(
のどか
)
げに見えた。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
ほかの時は
絶
(
た
)
えず小さな口笛を吹きながら、用もないのに
沸
(
わ
)
いているのだが、その鍋の
罅
(
ひび
)
だらけの腹の下で、消えかかった二本の
薪
(
まき
)
が
燻
(
いぶ
)
っている。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
「古記」によると、
焦土
(
しょうど
)
となるもの五百戸、人畜の死傷もおびただしく、曠野の空の
燻
(
いぶ
)
ること七日七夜に及んだという。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
斎藤
豊作
(
ほうさく
)
氏の「落葉する野辺」など昔見たときは随分けばけばしい生ま生ましいもののような気がしたのに、今日見ると、時の
燻
(
いぶ
)
しがかかったのか
二科展院展急行瞥見
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
近代生活も、短歌としての匂いに
燻
(
いぶ
)
して後、はじめて完全にとりこまれ、理論の絶対に避けられねばならぬ詩形が、更に
幾許
(
いくばく
)
の生命をつぐ事が出来よう。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
履物
(
はきもの
)
の類では同じ町に見かける
阿檀葉
(
あだんば
)
の
草履
(
ぞうり
)
を挙げねばなりません。よく
燻
(
いぶ
)
して海水で洗いますが、これを繰り返すこと二十年にも及ぶものがあります。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
晩春の午後の陽射しを受けて淋しく
燻
(
いぶ
)
し
銀
(
ぎん
)
色に輝く白樺の幹や、
疎
(
まば
)
らな白樺の陰影に斜めに荒い縞目をつけられて地味に映えて居る緑の芝生を眺めて居た。
決闘場
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
湯島のほうから延びて来る火は、もう
佐久間町
(
さくまちょう
)
あたりの大名屋敷を焼きはじめたとみえ、横さまに吹きつける風は
燻
(
いぶ
)
されたように、煙と熱気に充ちていた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
と
唱
(
とな
)
えつつ、自由にどこの家にも入って、
自在鉤
(
じざいかぎ
)
のあたりまでも
燻
(
いぶ
)
しまわったからで、ヨガとは日中のカすなわち
蚋
(
ぶよ
)
に対して、夜の蚊をそういうのである。
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
薮蚊
(
やぶか
)
の群が
侘
(
わび
)
しい音をさせて襲って来る頃で、縁側には
蚊遣
(
かやり
)
を
燻
(
いぶ
)
らせた。
蛙
(
かわず
)
の鳴く声も聞えた。家内は、遊び疲れた子供の為に、蚊帳を釣ろうとしていたが
芽生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
頂に固く凍った雪の面は、太陽にまともから照らされて、眩ゆい銀色に輝きわたり、ややうすれた
燻
(
いぶ
)
し銀の中腹から深い紺碧の山麓へとその余光を漂わせている。
禰宜様宮田
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
幾多の苦難を苦難として迎へようとする殉教者の覚悟と、理想の高きを攀ぢ、秘境の深きを探る開拓者の根気との
燻
(
いぶ
)
し銀を交へた、明暗多彩な刺繍図であります。
青年の夢と憂欝:――力としての文化 第五話
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
大阪の煙でこの世界から
燻
(
いぶ
)
り出しますぜ……今日限りあなたは大阪の土地を一切見ることを許しませんよ
空中征服
(新字新仮名)
/
賀川豊彦
(著)
私の心の奥底には確かに——すべての人の心の奥底にあるのと同様な——火が燃えてはいたけれども、その火を
燻
(
いぶ
)
らそうとする
塵芥
(
ちりあくた
)
の
堆積
(
たいせき
)
はまたひどいものだった。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
其夏、毎晩夜遅くなると、健の
家
(
うち
)
——或る百姓家を半分
劃
(
しき
)
つて借りてゐた——では障子を
開放
(
あけはな
)
して、居たたまらぬ位杉の葉を
燻
(
いぶ
)
しては、中で
頻
(
しき
)
りに団扇で
煽
(
あふ
)
いでゐた。
足跡
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そうした
劃期的
(
かっきてき
)
の悲しみは悲しみとしても、彼は何か小さい自身の人生の大部の
痕迹
(
こんせき
)
が、その質素な一室の
煙草
(
たばこ
)
の
脂
(
やに
)
に
燻
(
いぶ
)
しつくされた天井や柱、所々骨の折れた障子
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
石油の燃えたしるしに、それの上つらだけが黒く
燻
(
いぶ
)
されて居る薪を竈の外へ、一たんとり出した。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
昔宮中で小官吏が
炬
(
かがり
)
に火を付けて大声に鼠
燻
(
いぶ
)
し鼠燻しと呼んで庭内を曳きずり廻した後、王様から穀物の
煎
(
い
)
ったのを入れた袋を賜わった事が民間に伝わったものであると。
十二支考:11 鼠に関する民俗と信念
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
プスリプスリと
燻
(
いぶ
)
るような
気燄
(
きえん
)
を吐いて、散々人を厭がらせた揚句に、僕は君に
万斛
(
ばんこく
)
の同情を寄せている、今日は一つ忠告を試みようと思う、というから、何を言うかと思うと
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
木や陶器や
海泡石
(
かいほうせき
)
の
煙管
(
パイプ
)
がお目どおりをした——すっかり
燻
(
いぶ
)
しのかかったのも、まだ燻しのかからないのも、
鞣革
(
なめしがわ
)
に包まれたのも、包まれないのもあり、つい最近に
骨牌
(
カルタ
)
でとった
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
人間も其の有力な仲間になつて、海の食物の分前を取るのにいそがしい。人間は大船隊でもつて魚に向つて行つて、それを干物にしたり、塩漬にしたり、
燻
(
いぶ
)
したりして、荷作りする。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
燻
(
いぶ
)
しをかけることを知っている控え目な腕の
冴
(
さ
)
えとから、生まれたものであろう。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
明るいようでも、それは
燻
(
いぶ
)
されている。何かしらまた空にも寒い
靄
(
もや
)
がかかって、窮みもなく日の光が光らずに流れてゆく。小樽を出てからの展望はいよいよ北海らしい感じを深めて来た。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
つぎに豚の頭を
燻
(
いぶ
)
し焼きにしたのが耳鼻をつけた姿であらわれた。船頭が庖丁で
薄身
(
うすみ
)
に
削
(
そ
)
いでみなに渡す。昨日、鯨の脂身だと思ったのはこれだったのかと、気色が悪くなって寒気が出た。
重吉漂流紀聞
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
茶の間の真中に真四角のゐろりがきられて、煤けた
鍵竹
(
かぎたけ
)
の先には、黒焦に焦げた薬罐がかゝつて、木のころがぶすぶすとその下に
燻
(
いぶ
)
つて居る。女房は下座の
爐辺
(
ろばた
)
にすわつて挨拶さへもしない。
夜烏
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
そのなかには肌脱ぎになった人がいたり、柱時計が鳴っていたり、味気ない生活が
蚊遣
(
かや
)
りを
燻
(
いぶ
)
したりしていた。そのうえ、軒燈にはきまったようにやもりがとまっていて彼を気味悪がらせた。
ある崖上の感情
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
凡
(
すべ
)
てが
燻
(
いぶ
)
されたようで、白昼の黄昏に、気が遠くなるばかりである。
雪中富士登山記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
そのまわりに暖かそうな
月暈
(
おかさ
)
が銀を
燻
(
いぶ
)
したように
霞
(
かす
)
んで見えている。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
ところが、あの手燭には、鉄芯が真黒に
燻
(
いぶ
)
っているだけで、蝋は完全に燃焼してしまってる。するとそれが、ホンのわずかでも蝋燭の形をしたものが残っていて、そのまま燃え終った証拠じゃないか。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
鰻を
燻
(
いぶ
)
して一日ほど
乾
(
ほ
)
してバターで焼く料理もありますし、牛のスープで煮てゼラチンで寄せるのもあります。しかし鰻は血液の
中
(
うち
)
に毒分を持っていますから
生焼
(
なまやけ
)
や
生蒸
(
なまむし
)
のものを食べてはいけません。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
後年のほうが
燻
(
いぶ
)
し銀のような渋さに磨きがかかり
我が円朝研究:「怪談牡丹灯籠」「江島屋騒動」「怪談乳房榎」「文七元結」「真景累ヶ淵」について
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
さてその椅子は、彼等に甚だ親切で、
褐
(
かち
)
に
燻
(
いぶ
)
され
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
「早く
體
(
からだ
)
あ
倒
(
さかさ
)
にして、松葉の煙で
燻
(
いぶ
)
すが可い。」
少年の死
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
鉢に五徳に鋭い
鉞
(
まさかり
)
、洗う水も
燻
(
いぶ
)
す火も、何もかも
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
燻
(
いぶ
)
るよに、じじと一つ
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
思はず脊延びして見渡すと遠く相模湾の方には夏の名残の雲の峯が渦巻いて、富士も
天城
(
あまぎ
)
も
燻
(
いぶ
)
つた光線に包まれて見えわかぬ。
岬の端
(新字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
七之助は憤怒と汚辱感にブスブス
燻
(
いぶ
)
りながらも、その刀を手水鉢のところへ持って来て、自分の手で洗う外は無かったのです。
銭形平次捕物控:246 万両分限
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
燻
漢検1級
部首:⽕
18画
“燻”を含む語句
一燻
燻肉
蚊燻
燻蒸
黒燻
松葉燻
燻腿
燻製
燻銀
燻占
空燻
燻製鰊
余燻
燻々
銀燻
坐燻
股燻製
突燻
燻鰊
燻香
...