さん)” の例文
驚きの声が、多勢の口をいて出ました。井戸の底にあるのは、——さんたる大判小判?——いやそんな生優しいものではありません。
「あれ、あの煌々こうこうとみゆる将星が、予の宿星である。いま滅前の一さんをまたたいている。見よ、見よ、やがて落ちるであろう……」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春の寒いゆうべ、電灯のさんたる光に対して、白く匂いやかなるこの花を見るたびに、K君の忰の魂のゆくえを思わずにはいられない。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人性のさんとして輝くところ、そこに幸福があり、悦楽がある。人性の光輝を発揚せしめんとするところ、そこに努力があり、希望がある。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
月の光を浴びて身辺処々ところどころさんたる照返てりかえしするのは釦紐ぼたんか武具の光るのであろう。はてな、此奴こいつ死骸かな。それとも負傷者ておいかな?
前に言う如く、この夜は、月光さんとして鏡の如き宵であったから、敵も味方も、ありありとたがいの面を見ることができる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これこそは、文明人の特権、近代に寄せられた信篤き敬称、廿世紀の頭上にさんとして君臨する、光栄の月桂冠ではないか。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
燈光とうくわうさんとしてまばゆき所、地中海の汐風に吹かれ来しこの友の美髯びせん、如何に栄々はえ/″\しくも嬉しげに輝やきしか、我はになつかしき詩人なりと思ひぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ここにさんとして輝くのは、旭日あさひに映る白菊の、清香かんばしき明治大帝の皇后宮、美子はるこ陛下のあれせられたことである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その権威は厳として宇宙に磅礴ほうはくし、その光輝はさんとして天地を照破し、その美徳はようとして万生を薫化しております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文明を刺激の袋の底にふるい寄せると博覧会になる。博覧会を鈍きの砂にせばさんたるイルミネーションになる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ人一倍たけが高く、肩にさんと白髪が波打っているのが見て取れた。老人かな? それにしては、ヌッと伸びた腰つきが、そうではないと裏切っている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それだのに彼はなお莞爾かんじとして、天の栄光をたたえているのだ、彼の上にはシメオンという教名が、イルミネーションのごとく、空にさんとして私の眼を射る。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
たちまち壁は開かれて、其の中にさんとして一基の真珠塔が輝いて居るではないか。突如佐瀬は卓上テーブルの花瓶を取って怒れる眼鋭くハッシと許り橋本目がけて投げつけた。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかもその軍隊が無かったら安寧秩序が保てなかったろうと考えさせられるのだから、この際、御同様、礼讃すべきものはやはり威光さんたるサーベルではあるまいか。
サーベル礼讃 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
野も林も寂として声がない、対岸の灯が蛍火のように明滅する——アルプスの群山は濃い闇に吸いこまれて、空に星はさんとして輝いているが、氷の片影すら認め難い。
さんとした黄金づくりのお顔のこまやかな刻み目にも、もはや古いほこりがつやをつくって沈んでみえ、筒井は両のたなごころにえてしばらく、じっと拝するがごとく見恍みほれた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
背皮に黄金おうごんの文字をした洋綴ようとじ書籍ほんが、ぎしりと並んで、さんとしてあおき光を放つ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しづかにあしきよをはりていざとばかりにいざなはれぬ、流石さすがなり商賣しやうばいがらさんとして家内かないらす電燈でんとうひかりに襤褸つゞれはりいちじるくえてときいま極寒ごくかんともいはずそびらあせながるぞくるしき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
謹んで新年を迎へ奉り併せて高堂の万福を祈上候さんとして輝く新春の光に白雪を頂くアルプスの連峰雲上遥に諸賢アルピニストの御健康を祝するが如く仰ぐも荘重の気全身に満るを覚え申候
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
そしてその手は絶えず卓子の上をすべって書籍をそっと押しけつつその間にさんとして光る短刀に近づいたが、たちまちそれをキッと握りしめた。ドーブレクはあいかわらず熱心に喋り続けている。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
八ヶ岳と蓼科山との間に奥穂高、常念、大天井おてんしょうから鹿島槍、五竜に至る北アルプスの大立物が、銀光さんとして遥かの空際を天馬の如く躍っている。籠ノ塔の後には岩菅いわすげ山らしいものさえも望まれた。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
人間の悲願煩悩ぼんのうを一つにこめて、いつ見てもさんたる光を放っている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さんたる独自の芸術として、誇るべきものを持つのであります。
更に鞘より鋭利なるつるぎさんと拔き放ち、 190
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
さんとしておとなく消えぬ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
主人の指した茶箱、簡單に掛つた繩を拂つて開けると、中には千兩箱が三つ、ふたを開くと、三千枚の小判が、さんとして灯の下に光ります。
ここにたれよりも百戦の功をさんと身にあつめていたものは新田義貞で、きのう今日の彼は稀世の名将みたいにあつかわれていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲は墨よりも黒く、金色はさんとして輝いている。太陽の光線がどういう反射作用をするのか知らないが、見るところ、まさに描ける龍である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
吾れに従う人々の安息の地を求むべく、さんたる北斗星の光を心あてに、沙漠をうれいさまようた鼻がありました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さんたる金剛石ダイヤモンドがぎらりと痛く、小野さんの眼に飛び込んで来る。小野さんは竹箆しっぺいでぴしゃりと頬辺ほおぺたたたかれた。同時に頭の底で見られたと云う音がする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくして帰還した川上夫妻の胸には、仏蘭西の芸術家が重く見るオフシェ・ダカジメ三等勲章がさんとしていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
勇美子はこういって、猶予ためらって四辺あたりを見たが、手をその頬のあたりもたらして唇を指に触れて、嫣然えんぜんとして微笑ほほえむとひとしく、指環ゆびわを抜き取った。玉の透通ってあかい、金色こんじきさんたるのをつッと出して
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
改札口を出て先ず仰ぐ南方の天には、羅馬ローマの滅亡を予知して色を変じたといわれている天狼星シリウスの閃光が、叢の奥から覗いている狼の目玉のように凄い。其上にはオリオン星座がさんとして輝いている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
主人の指した茶箱、簡単に掛った縄を払って開けると、中には千両箱が三つ、ふたを開くと、三千枚の小判が、さんとしての下に光ります。
いずれにせよ、彫梁ちょうりょうの美、華棟かとうけん碧瓦へきがさん金磚きんせんの麗、目もあやなすばかりである。豪奢雄大、この世にたとえるものもない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただの夢ではない。糢糊もこたる夢の大いなるうちに、さんたる一点の妖星ようせいが、死ぬるまで我を見よと、紫色の、まゆ近くせまるのである。女は紫色の着物を着ている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
う云いながら、巡査は無闇に松明を振廻ふりまわすと、火の光は偶中まぐれあたりに岩蔭へ落ちて、さんたる金色こんじきの星の如きものがやみうかんだ。が、あれと云う間に又朦朧もうろうと消えてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、油断をいましめ合う一部もあった。事実、信長の見まわしている天地の一方に、謙信の存在はなお北斗ほくとのような光芒こうぼうさんとして持っていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其處には、八五郎に頼まれて、若い手代の金之助が一人、部屋の中に取り降したボロ片の中に、さんとして輝く小判の小山を見張つてゐるのでした。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
どうしてもえられぬと云う一念の結晶して、さんとして白日はくじつを射返すものである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然らば、たとい鳶がいずこの果てへ追いやられても、あるいはその種族が絶滅にひんしても、その雄姿はさんとして永久に輝いているのである。鳶よ、憂うるなかれ、悲しむ勿れと云いたくもなる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さんとして、二人の具足や太刀金具が光を放つ。それにつけて満身の雪も滴々てきてきとしずくして落ちた。いや二人の涙はそれにまさるものがあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
は『御藥草』と書いた御用の唐櫃からびつ、力任せにふたをハネると、中からさんとして金色こんじき無垢むく處女をとめの姿が現はれます。
上は大穹窿おおまるがた天井てんじょう極彩色ごくさいしきの濃く眼にこたえる中に、あざやかな金箔きんぱくが、胸をおどらすほどに、さんとして輝いた。自分は前を見た。前は手欄てすりで尽きている。手欄の外にはにもない。大きな穴である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と枯れ草の根をつかみ、滅前めつぜんの一さんともいうべき断末苦を、ピクリ、ピクリ、と四肢の先に脈うたせているばかり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畳の上へ飛散ったのは、さんたる山吹色。かき集めると、小判でちょうど三十枚あるではありませんか。
女はさんたるものを、細き肉にいただいている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さんとして、朝空に誇っている馬印うまじるしの一つは、明らかに、敵方の将校、木下藤吉郎の陣地を証明しているものだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
受取って見ると、まさに小判で五十両、紙包は少し破れましたが、さんとして山吹色に輝きます。