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溢
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あふ
ふりがな文庫
“
溢
(
あふ
)” の例文
力松はさう言つて
口惜
(
くや
)
しがるのです。一國らしい中年者で、田園の匂ひが全身に
溢
(
あふ
)
れるだけに、此男に
嘘
(
うそ
)
があらうとは思はれません。
銭形平次捕物控:145 蜘蛛の巣
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「梅雨ばれ」と云ひ、「私雨」と云ひ、「雲ちぎれ」と云ひ、
悉
(
ことごとく
)
俗語ならぬはない。しかも一句の
客情
(
かくじやう
)
は無限の寂しみに
溢
(
あふ
)
れてゐる。
芭蕉雑記
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
それが
人
(
ひと
)
の
言
(
い
)
うように
規則的
(
きそくてき
)
に
溢
(
あふ
)
れて
来
(
こ
)
ようとは、
信
(
しん
)
じられもしなかった。
故
(
ゆえ
)
もない
不安
(
ふあん
)
はまだ
続
(
つづ
)
いていて、
絶
(
た
)
えず
彼女
(
かのじょ
)
を
脅
(
おびや
)
かした。
伸び支度
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
季節とは関係なしに工場の中は暑く、石灰粉の微粒は渦を巻いたり、
条
(
しま
)
を描いたりしながら、白くて厚い幕のように漂い
溢
(
あふ
)
れていた。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
松があって雑樹が
一叢
(
ひとむら
)
、一里塚の跡かとも思われるのは、妙に低くなって、沈んで島のように見えた、そこいらも水が
溢
(
あふ
)
れていよう。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
その太鼓を、梁にかけた
下締
(
したじめ
)
の下へ置いて、そうして
身繕
(
みづくろ
)
いをして、その
紐
(
ひも
)
へ両手をかけた時には、なにかしら涙が
溢
(
あふ
)
れて来ました。
大菩薩峠:07 東海道の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それは女の肉体の動作が柔らかくしなやかで、猫のように静かなことであった。そのくせ、彼女は力に満ち
溢
(
あふ
)
れた
体躯
(
たいく
)
を持っていた。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
何ものをも忘れて、何からも解き放たれて、自由な、気楽な、その上何かこう血をわき立たせるような力が
溢
(
あふ
)
れて来た、あの一時を。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
気丈な母ですから、懐剣を抜いて
溢
(
あふ
)
れ
落
(
おち
)
る血を
拭
(
ぬぐ
)
って、ホッ/\とつく息も絶え/″\になり、
面色
(
めんしょく
)
土気色に変じ、息を絶つばかり
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
女どもは、
溢
(
あふ
)
れ出ようとする愚痴を、切なく抑えて胸が一ぱいになっていた。子供らは荷物の間に
挾
(
はさ
)
まって干菓子などを噛んでいた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
面
(
かお
)
を洗い全身の
冷水摩擦
(
れいすいまさつ
)
でもすると、体中の血液は
漲
(
みなぎ
)
り
溢
(
あふ
)
るる様な爽快を感ずることは、今日も青年時代と少しも異なるところがない。
青年の元気で奮闘する我輩の一日
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
僕も勿論愉快が
溢
(
あふ
)
れる……、宇宙間にただ二人きり居るような心持にお互になったのである。やがて二人は茄子のもぎくらをする。
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
「君は
善
(
よ
)
き人なりと見ゆ。彼のごとく
酷
(
むご
)
くはあらじ。またわが母のごとく」しばし
涸
(
か
)
れたる涙の泉はまた
溢
(
あふ
)
れて愛らしき
頬
(
ほお
)
を流れ落つ。
舞姫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
その話はそれだけの話です。しかしわれわれはそのときのカーライルの心中にはいったときには実に推察の情
溢
(
あふ
)
るるばかりであります。
後世への最大遺物
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
読むにたえない時ちゃんの手紙の上に私はこんな筈ではなかったと涙が火のように
溢
(
あふ
)
れていた。歯が金物のようにガチガチ鳴った。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
一時は鴨川が
溢
(
あふ
)
れるかとも危ぶまれた今年のさみだれも、五月の末から俄に晴れつづいて、六月にも七月にも一滴の雨がなかった。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
もちろん淡い夢のような作品その物にも、彼女独得の情熱と
情緒
(
じょうしょ
)
がいかに
溢
(
あふ
)
れていたにしても、一般に受ける性質のものではなかった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
甚七の足が、岡崎まで走らないうちに、彼は、或る一宿場に
溢
(
あふ
)
れている千駄に近い小荷駄隊と、約二千ばかりの軍勢に行き会った。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二
度
(
ど
)
、三
度
(
ど
)
この
祈
(
いの
)
りを
繰
(
く
)
りかえして
居
(
い
)
る
内
(
うち
)
に、
私
(
わたくし
)
の
胸
(
むね
)
には
年来
(
ねんらい
)
の
命
(
みこと
)
の
御情思
(
おんなさけ
)
がこみあげて、
私
(
わたくし
)
の
両眼
(
りょうがん
)
からは
涙
(
なみだ
)
が
滝
(
たき
)
のように
溢
(
あふ
)
れました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
路地の片側はアパートで伊沢の小屋にのしかかるように年中水の流れる音と女房どもの下品な声が
溢
(
あふ
)
れており、姉妹の淫売が住んでいて
白痴
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
爾時
(
そのとき
)
、優に
朧
(
おぼ
)
ろなる、謂はば、帰依の酔ひ心地ともいふべき
歓喜
(
よろこび
)
ひそかに心の奥に
溢
(
あふ
)
れ出でて、やがて
徐
(
おもむ
)
ろに全意識を領したり。
予が見神の実験
(新字旧仮名)
/
綱島梁川
(著)
彼は不思議そうにその眸に視入った。と忽ち、もっと無心なものが、もっと豊かなものが妻の眸のなかに笑いながら
溢
(
あふ
)
れていた。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
親身の情が
溢
(
あふ
)
れて出ている——二人の親に死別れやら生き別れして顔も知らねえ俺にとっては——意気地もなく人様の親兄弟が羨ましい。
瞼の母
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
この
藷
(
いも
)
なかりせば国内の食物は
夙
(
つと
)
に尽きて、今のごとく人口の
充
(
み
)
ち
溢
(
あふ
)
れる前に、外へ出て生活のたつきを求めずにはいられなかったろう。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
そこで許宣は舗を出て、
銭塘門
(
せんとうもん
)
のほうへと往った。初夏のような
輝
(
かがやき
)
の強い
陽
(
ひ
)
の照る日で、仏寺に往き墓参に往く男女が街路に
溢
(
あふ
)
れていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
溢
(
あふ
)
るゝ浄福、
和
(
なご
)
やかな夢見心地、誇りが秘められなくて温厚な先生の時間などには、私は柄にもなく挑戦し、いろ/\
奇矯
(
きけう
)
の振舞をした。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
刑務所は学校と同じことに、立派な人間ばかりいて、立派な友情が
溢
(
あふ
)
れるほど存在しているものだとばかり誤解していたことだ。
柿色の紙風船
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
その音波の一波毎に、彼の全身が総毛立つ程も懐しい、彼女の甘い声音には、彼はまぶたに
溢
(
あふ
)
れる熱い涙をどうすることも出来なかった。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
離るるとも、
誓
(
ちかい
)
さえ
渝
(
かわ
)
らずば、千里を繋ぐ
牽
(
ひ
)
き
綱
(
つな
)
もあろう。ランスロットとわれは何を誓える? エレーンの眼には涙が
溢
(
あふ
)
れる。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
鶴子は酒屋の男の去った後あたりにはもう誰もいないと思うと、こらえていた涙が一時に
溢
(
あふ
)
れ落るのを急いでハンカチで押えた。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
こういう
文藻
(
ぶんそう
)
溢
(
あふ
)
るる記録に至っては、まったく中尉独自の領域でありまして、この後を引き受け得るものなぞはただの一人もおりませぬ。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
それかのものの汝に見えしは、汝が
言遁
(
いひのが
)
るゝことなくしてかの
永遠
(
とこしへ
)
の泉より
溢
(
あふ
)
れいづる平和の水に心を開かんためなりき 一三〇—一三二
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
彼の屋敷下の小さな谷を流るゝ小川は、何処から来るのか知らぬが、冬は大抵
涸
(
か
)
れて了う。其かわり夏の出水には堤を越して畑に
溢
(
あふ
)
れる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
物は最も広大にして
鞏固
(
きょうこ
)
なる容器の中に収めて置くことが最も安全です。一斗の水を一升
桝
(
ます
)
に入れようとすれば必ず
溢
(
あふ
)
れます。
三面一体の生活へ
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
暫くの間、私はこのあたりに無言でせっせっと
鍬
(
くわ
)
を入れて来た自分の相棒の内生活を
窺
(
のぞ
)
く興味に
溢
(
あふ
)
れ、なお高次郎氏の歌集を読んでいった。
睡蓮
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
目まぐるしい坂下の町をしばらく
眺
(
なが
)
めていると天から地から満ち
溢
(
あふ
)
れた日光の中を影法師のような一隊が横町から現われて坂を上って来た。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
『
静
(
しづ
)
が
可
(
い
)
い、
静
(
しづ
)
が
可
(
い
)
い』と彼は心に
繰返
(
くりかへ
)
しながら室内をのそ/\歩いて居たが、突然ソハの上に倒れて両手を顔にあてゝ
溢
(
あふ
)
るゝ涙を
押
(
おさ
)
へた。
節操
(新字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
ふと下宿屋の庭先に置かれてあった「へご鉢」を見ますると、おりふしの雨で、そのへご鉢の水が
溢
(
あふ
)
れんばかりの
水嵩
(
みずかさ
)
に増しておりました。
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
剖
(
さ
)
いて見ると
好
(
よ
)
き麦粒が満ちいる。長者大悦して倉に
納
(
い
)
れると
溢
(
あふ
)
れ出す。因って親族始め誰彼に分って合国一切恩沢を蒙った。
十二支考:09 犬に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
それがいかにも
歓
(
よろこ
)
びに
溢
(
あふ
)
れ、青春を持て
剰
(
あま
)
している食後の夜の町のプロムナードの人種になって、特に銀座以外には見られぬ人種になって
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「川も春になると、
雪解
(
ゆきどけ
)
で水かさが増えるでええのう。かう水が
溢
(
あふ
)
れて、ゆつたり流れてゐるのは、気持のええものだわい。」
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
これを見た青眼先生の眼からは、忽ち涙がハラハラと
溢
(
あふ
)
れ落ちました。そうして慌てて走り寄って、女王を抱き
除
(
の
)
けながら——
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
直也の二つの眼には、あつい湯のような涙が、
湧
(
わ
)
くように
溢
(
あふ
)
れていた。初めて、顔を見たばかりの少女の、厚い
情
(
なさけ
)
に対する感激の涙だった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
道に
溢
(
あふ
)
れて流れている水に口づけて飲んだり、梅干の種を向うの
笹藪
(
ささやぶ
)
に投げたりして、出来るだけ長く休む方が
楽
(
らく
)
であった。
遍路
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
伯爵は其箱を見、この答えを聴くより、
忽
(
たちま
)
ち露子の腕を取って、其腕に
玉村
(
たまむら
)
侯爵から贈って来た
腕環
(
うでわ
)
を
嵌
(
は
)
め満面に
溢
(
あふ
)
るるばかりの
笑
(
えみ
)
を
湛
(
たた
)
えて
黄金の腕環:流星奇談
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
たちまち
数多
(
あまた
)
の天使の集団の合唱が起こり、「いと高き処には栄光、神にあれ。地には平和、主の悦び給う人にあれ」との讃美が天地に
溢
(
あふ
)
れた。
キリスト教入門
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
恐らく今を
措
(
お
)
いてはこれほどの
溢
(
あふ
)
れるような幸福の感じをもって私達自身にすら眺め得られないだろうことを考えていた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
ことに
英吉利
(
イギリス
)
人が灰色兎・栗鼠・蜂鳥・馴鹿・かんがるう・野犬を襲撃するくだりには、それらの生物に対する氏の同情が切々と
溢
(
あふ
)
れ出ていて
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
少年は今はもう
羨
(
うらや
)
みの色よりも、ただ少年らしい無邪気の喜色に
溢
(
あふ
)
れて、頬を染め目を輝かして、如何にも男の児らしい美しさを現わしていた。
蘆声
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そうしてその葉が、峰と峰との
裂
(
さ
)
け
目
(
め
)
から
渓合
(
たにあ
)
いへ
溢
(
あふ
)
れ込む光線の中を、ときどき
金粉
(
きんぷん
)
のようにきらめきつつ水に落ちる。
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
溢
漢検準1級
部首:⽔
13画
“溢”を含む語句
溢出
充溢
横溢
脳溢血
噴溢
吹溢
居溢
満溢
漲溢
汪溢
溢漲
溢水
溢美
旺溢
溢血
聞溢
立溢
脳溢血症
高麗加世溢
盛溢
...