流行はや)” の例文
参勤交代の大名の行列が通るたびに、店には侍衆がたくさん立たれて、刀や鍔を買って行ったそうで、とてもよく流行はやったそうです。
その頃は自転車の流行はやり出した始めで、半七老人のいう通り、下手な素人がそこでも此処でも人をいたり、塀を突き破ったりした。
それからまた、近頃の教科書には本文とは大した関係のないしかし見た眼に綺麗なような色々の図版を入れることが流行はやるようである。
これはその前から流行はやったことで、その真似をしていたのに過ぎないのだから、気の向いた時は吹き鳴らし、気の向かぬ時は吹かず
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また両の耳は、昔流行はやったラジオのラッパのように顔の側面に取りつけられ、前を向いたラッパの口には黒いきれで覆いがしてあった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それといふのが、時節柄じせつがらあつさのため、可恐おそろしわるやまひ流行はやつて、さきとほつたつじなどといふむらは、から一めん石灰いしばひだらけぢやあるまいか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もうこのころじゃ、門附けは流行はやらんでな。ことしあもうめよかと思うだ。五、六年前まであ、東京へ行った連中も旅費のほかに小金を
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
瀬戸物のちんだの、睡蓮だの、刺繍の鳥だのを有難がった、安物のモック・オリエンタリズムは、西洋でも追い追い流行はやらなくなった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この年は初めて悪性の世界的流行感冒が流行はやった秋のことで、自分もその風邪かぜかかったが、幸いにして四、五日の軽い風邪で済んだ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その頃女給達の仲間には、何人もの客に一日の公休日を共にする約束をしては一つ場所に集合をさせてすっぽかす事が流行はやっていた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ところが今の空っ風で病院が無暗に流行はやるでしょう。到頭此方で女房を貰う。子供が続々出来る。最早もう悉皆すっかり土着してしまいましたよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
十年も昔に流行はやったような紋付羽織を祝儀不祝儀に着用して、それを恥ともせず、否むしろ粗服を誇りとするが小諸の旦那だんな衆である。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道理で、辻斬りが流行はやるというのにこのごろはなお何かに呼ばれるように左膳は夜ごとの闇黒やみに迷い出る——もう一口ひとふりの刀さがしに!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この頃江戸の町には奇怪な見世物が流行はやっていた。時代に投合したものか、市人しじんの趣向に適したものか、とにかく大変な人気である。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今年の夏の草花にカルセオラリヤが流行はやりそうだ。だいぶ諸方に見え出している。この間花屋で買うとき、試しに和名を訊ねて見たら
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つ慶長の初めには疫病が流行はやり、天変地異がつゞいた。こんな事を仏僧や神官が神仏の怒りとして持ち出さずにはおく訳はなかつた。
留置場でヒゼンが流行はやる話をきき、またこの不潔なやり方を見て、何よりわたしは淋毒が目にでも入っては大変だと恐怖を感じた。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは亜米利加のお金持ち仲間で流行はやる男と女の遊び方で、お金持ちになればなる程、そんな遊びの方法しかたが乱暴なんですってさあ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これ面白おもしろい、近頃ちかごろ落語らくご大分だいぶ流行はやるから、何所どこかで座料ざれうとつ内職ないしよくにやつたら面白おもしろからう、事によつたら片商売かたしやうばいになるかもしれない。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
仏寺、経巻、仏像の廃棄や捨売すてうり流行はやった時ですから、綾麿も気にはかけて居りましたが、こう言われるとさすがにギョッとしました。
けれども自分じぶんでそれをやったおぼえはございませぬ。きょうとはちがって東国とうごく大体だいたい武張ぶばったあそごと流行はやったものでございますから……。
たとえば近来(第一次大戦以前)英国でしきりにストライキが流行はやる。アメリカにおいても近来あらゆる方面にストライキが行われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのころ仙術といふものが流行はやつて、それに熟達すると、ながく老といふことを知らないで生きながらへることができるのみか
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
しのぶをか」は上野谷中の高台である。「太郎稲荷」はむかし柳河藩主立花氏の下屋敷に在つて、文化のころから流行はやりはじめた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あるいは俗人で仏信心のものが持仏じぶつの前で木魚を叩いているものとも解されぬことはないが、「今流行はやる」というような言葉から推すと
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
... 思切って緞子どんす繻珍しゅちんに換え給え、」(その頃羽二重はぶたえはマダ流行はやらなかった。)というと、「緞子か繻珍?——そりゃア華族様のッた、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
『別に流行はやつてもゐえしまへんけど、藝妓げいこはんがこんなことをして出しやはると、お客さんが口で受けたりしてはりまんがな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
大門際おほもんぎわ喧嘩けんくわかひとるもありけり、よや女子をんな勢力いきほひはぬばかり、春秋はるあきしらぬ五丁町てうまちにぎわひ、おくりの提燈かんばんいま流行はやらねど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
娘の子のジユツプも円く踊子の様にひらいたので無くて、大人をとなの女の服装と同じく日本の衣物きものの様に細く狭く直立したのが流行はやつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先刻さっきお部屋を見たときに、あれが湿板写真——つまり日本に例をとれば、明治初年に流行はやった硝子写真であることを知りました。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また他の者の噂によっても大分お医者さんが流行はやり、法王の侍従医になって居るという事を聞いたから安心して居ったけれども
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……えー、薪割りようのものにて、……滅多打ちにしたものらしく、六畳の血の海の中で、……よく流行はやるねえ、このごろは。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかしそれが外国で流行はやっているということについては、自分もなにかそんなことを、婦人雑誌か新聞かで読んでいたような気がした。——
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
この時、私や竹内先生などが栃の木を使ったので、その頃栃の材を彫刻に使うことが流行はやりましたが今日では余り使われていないようです。
かれは其処そこでさまざまな人人を見た。それは、当時に流行はやった小唄をヴァイオリンに併せて弾いたりする卑俗な街頭音楽者のむれであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
博士が子供の時、東京でこつくりさんといふものが流行はやつた。それから洋行してゐると、欧羅巴で机叩つくゑたたきといふことが流行つた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一方、火葬や風葬などというものが流行はやってきて、彼等のあいだには死というものに対する考えかたがぐっと変って来ました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ああ云うものを単衣ひとえに仕立てることがポツポツ流行はやって来ましたけれども、あれに始めて目をつけたものは私たちではなかったでしょうか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このいそがしい世の中に、流行はやりもせぬ幽霊の書物をまして愛読するなどというのは、呑気のんきを通り越して贅沢ぜいたくの沙汰だと思う。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現今いま婦人ひとは、かなり個性に生きてゐるといふが、そのくせ流行はやりものに安くコビリつく。その點、古い下町の女はかなり自分に生きてゐた。
下町娘 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
いざといふ場合にると、基督の精神も何も有つたもので無い、婦人をんなの愚痴にかへつて、昨今世間に流行はやつてゐる煩悶に陥る。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
銀座裏の酒場では「まだおそくはない」という叛乱軍の兵士に呼びかけた師団長の言葉が女給の殺し文句に変ってひとしきり流行はやっていたが
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
父は原型を拵えてからやるのは始めは嫌いだったけれど、後にポインティング マシンが流行はやりだしてからは原型によってやるようになった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
これは寛政頃流行はやり初めた物らしく「上るは下るは」と名づけたらしいとあって、馬上の唐人また武者姿で所作して見せるを、一人奇な声で
という風で、※吐きが念を入れて流行はやって居たから「瀬川の仇討」など、当時の手紙一本位を証拠に信じる事は出来ない。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
先生はそれから長い間精神科の病室にはいって居られましたが、先年インフルエンザの流行はやった時、肺炎にかかって寂しく死んで行かれました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……それを今流行はやりの露助の真似まねをして、飛んでもないことをケシかけるものがあるとしたら、それこそ、取りも直さず日本帝国を売るものだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
相場さうば氣味ぎみときにやうつかりすつと損物そんものだかんな、なんでも百姓ひやくしやうしてこくんでものが一とうだよ、卵拾たまごひろひもなあ、赤痢せきりでも流行はやつててな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あんまりしんとしているからまたどこかの偽の藩札でもこしらえてるんじゃないかと思ってね、当時流行はやるそうだから」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
起きられるようになって店へ出ると、客が慰めてくれて、よく流行はやった。妾になれと客はさすがに時機を見逃さなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)