注連しめ)” の例文
浦づたいなる掃いたような白い道は、両側に軒を並べた、家居いえいの中を、あの注連しめを張った岩に続く……、松の蒔絵まきえの貝の一筋道。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
注連しめだの輪飾だのを一ぱいに積んだ車がいそがしく三人の間を通って行った。——新しい、すが/\しい藁の匂が激しく三人の鼻をった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
たちまちそこが開けて見ると、第二の岩戸があって、注連しめが張りめぐらしてある。その中は土の牢、岩の獄屋ひとやになっているのがありありとわかる。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
元日からきょうまでを松のうち、あるいは注連しめの内と称したわけで、また、この朝早くそれらのかざり物を焼き捨てる。二日の書初めを燃やす。
なはには注連しめのやうにきざんだあかあをかみが一ぱいにひら/\とられてある。彼等かれら昨日きのふうちに一さい粧飾かざりをしてにはとりくのをつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さて入り口に清水川原しみづがはらといふあり、こゝにいたらんとするみちかたはらに、丸木のはしらたて注連しめを引わたし、中央に高札あり、いかなる事ぞと立よりみれば
ここでは注連しめ飾りが町家ののきごとに立てられて、通りのかどには年の暮れの市が立った。だいだい注連しめ昆布こんぶえびなどが行き通う人々のにあざやかに見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
御用金は奥の御居間の床の間に、注連しめを張ってお供え申しておいた。盗賊の入ったのは真夜中でござろう。
黒いひのきの舞台に、五色のとばりが垂れていた。棟の四方に、めぐらしてある注連しめに、山風がそよとうごいて、庭燎にわびの火の粉がチラチラ燃えつきそうに時折かすめる。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思いながら、門松の笹の葉が注連しめと一緒に風にざわめいている交通のはげしい大晦日の往来へ出た。
鏡餅 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼は姫路の城に入ると、天主閣の周囲には注連しめを張らせた。閣の入口には毎日もろもろの供物をささげさせて、月に一度ずつは城主自身が必ず参拝を怠らなかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまも焼けずにのこつてゐる二天門あたり注連しめか飾りか橙か、観音堂ちかい市の売声が、どよめきが真黒い人影が、仄明るい灯かげの中に聞え、うかがはれて来る風情は
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
蹲踞しゃがんで出刃をみがくものもある。寒い日の光は注連しめを飾った軒先から射し入って、太い柱や、そこに並んで倒れている牛や、白い被服うわっぱりを着けた屠手等の肩なぞを照らしていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
往還から少し引ッ込んだ門構えに注連しめを張り、あるいは幔幕まんまくをめぐらせ、奥まった玄関に式台作りで、どうかすると、門前に古い年号を刻み入れた頂上三十三度石などが立っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
注連しめ飾り、桶類、金物類そのほかの店が隙間なく、高張や長提灯の数をつらねて、耳もろうするばかりの呼び声、ことに明治の中頃の景気は格別、江戸時代に輪をかけてすばらしい人出
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
年を迎える家のしるしとして、棚と注連しめ飾り松飾り以外にどういう支度をするか。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あれほど心頼みにした天満天神の注連しめとも別れるのは心細く、行先に不安の念を抱く者は多い。天皇は粗末な腰輿ようよを召された。輿こしをかつぐ者もないのである。葱花そうか鳳輦ほうれんとは名ばかりであった。
神棚には新しい注連しめが張られて燈明が赤々と照っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
注連しめを張っておいでになるのですもの。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おごそかに注連しめの内てふ言葉あり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それでも、注連しめを張った岩窟の中まではおぼろに光が届いて、その奥の方に、かすかに白い衣服がうごいていることがわかる。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど、そこには注連しめを張った大きな銀杏のたくましくそそり立っているばかり、鳥居も、玉垣も、社殿も……牛島神社の影もかたちもが存しなかった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
捧げた心か、葦簀よしずに挟んで、常夏とこなつの花のあるがもとに、日影涼しい手桶が一個ひとつ、輪の上に、——大方その時以来であろう——注連しめを張ったが、まだ新しい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御用金は奧の御居間の床の間に、注連しめを張つてお供へ申して置いた。盜賊の入つたのは眞夜中で御座らう。
榊枝さかきえで、牛若の体をはらった。颯々さっさつと、白い注連しめと緑の風にはらわれて、牛若は何かしら体がぞくとした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さけ其處そこてんじた。にはの四ほん青竹あをだけつたなはあかあをきざんだ注連しめがひら/\とうごきながら老人等としよりらひとつに私語さゝやくやうにえた。陽氣やうきにはへ一ぱいあたゝかなひかりなげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
元伐もとぎりにした二本の樅には注連しめなぞが掛けられて、その前で禰宜ねぎ祈祷きとうがあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『伊勢の浜荻』巻一に、注連しめを標と同じものだということを述べて、その末に次のように書いてある。他国にて注連縄というものを、伊勢神宮の地でシメツクシというのは方言である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貴重尊用きちようそんようの縮をおるには、家のほとりにつもりし雪をもその心してほりすて、住居すまゐの内にてなるたけけふりの入らぬあかりもよき一間ひとまをよく/\きよめ、あたらしきむしろをしきならべ四方に注連しめをひきわたし
なんでも高い段のようなものを築いて、そこへ御幣ごへいさかきをたてて、座敷の四方には注連しめを張りまわして、自分も御幣を持っていて、それを振り立てながら何かいのりのようなことをするんだそうです
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お豊は、その通りにここまで来てみると、もうかなり勇気が出て、注連しめを張った木に手をおいて、中をのぞぎ込んでは四辺あたりを見廻してみました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
周囲にさくを結いたれどそれも低く、錠はあれどさず。注連しめ引結いたる。青くつややかなるまろき石のおおいなる下よりあふるるをの口に受けて木の柄杓ひしゃくを添えあり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、そこを店とすれば、店と奥とのさかいには、注連しめが張り廻してあるのが——すぐ武蔵の眼についた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
騒がしく、楽しい町の空の物音は注連しめを引きわたした竹のそよぎにまじって、二階の障子に伝わって来ていた。その中には、多吉夫婦の娘お三輪みわが下女を相手にしての追羽子おいばねの音も起こる。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その地に注連しめめぐらし飯酒を供えて、祈祷して還るというので、これまた産の様子を見たのではないが、この神事のあった年に限って、必ず新たに一万人の信徒が増加するとさえ信じていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
正面の上のかたは板羽目にて、上に祭壇を設け、注連しめを張れり。中央の出入り口にはやぶれたるすだれを垂れたり。下の方もおなじく板羽目。庭前の下のかたに丸太の門口、蠣殻かきがらの附きたる垣を結えり。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして十六日の宵宮よみや、はやくも明日を待ち兼ねてのうき立つはやしの音をのせ、軒々の注連しめを、提燈を、その提燈の上にかざした牡丹の造花をふいてわたる夕かぜの、いかに生き生きと、あかるく
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この池を御禊の池といって、しいの木が二本、門柱でもあるかのように前に立って、それに注連しめが張り渡してありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きよめ砂置いた広庭の壇場には、ぬさをひきゆい、注連しめかけわたし、きたります神の道は、(千道ちみち百綱ももづな、道七つ。)とも言えば、(あやを織り、にしきを敷きて招じる。)
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
注連しめのついた荒縄あらなわがギリギリとかれのうでへまわされた。民部はこのあいだに、なにか、いってやりたかったけれど、むねがいっぱいで、かれにあたえることばを知らなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはまだ注連しめの内という祝いの日のうちなのだからおかしくはない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玄関先に注連しめが張りまわしてあった。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女が倒れているのは——静かな神社の境内けいだい。突き当ったのは、注連しめの張った杉の大木にめぐらした木柵。ここは諏訪の秋宮あきのみや、この杉こそは名木根入杉ねいりすぎ
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「野郎、こっちを向いて、尿いばりをしていやがる。——佐々の旦那、もうなんぼ何でも、堪忍はできますまい。注連しめを張って、おれたちは仕事をしているってえのに、犬のような」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ねえ、こっちにもう一つ異体いていなのは、注連しめでも張りそうな裸のお腹、……)
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五 注連しめと松飾り
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兵馬が見ると、その長持には注連しめが張って、上には札が立ててある。その札に記された文字は
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大名小路の金碧こんぺきさんらんたる門や構えを見て来た眼で——ここの暗やみ坂の青葉の底に、そこらの百姓家の屋根と変らない——ただ鰹木と注連しめだけが違う——わびしいお宮を見ると、猶々なおなお
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔とも、妖怪変化とも、もしこれが通魔とおりまなら、あの火をしめす宮奴が気絶をしないでこらえるものか。で、般若は一ちょうおのを提げ、天狗は注連しめ結いたる半弓に矢を取添え、狐は腰に一口ひとふりの太刀をく。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)