だいだい)” の例文
普通ふつう焚火たきびの焔ならだいだいいろをしている。けれども木によりまたその場処ばしょによってはへんに赤いこともあれば大へん黄いろなこともある。
待つほどに首尾よくいったとみえて、気早にもあの三宝の飾りだいだいまでもこわきにしながら、おおいばりでその伝六が姿を見せました。
緑もかばだいだいも黄も、その葉の茂みはおのおのその膨らみの中に強い胸を一つずつ蔵していて、溢れる生命に喘いでいるように見える。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
玄関に向ってあいている門番の小窓には、背後からだいだい色のスタンドの光を浴びて、カラーなしのシャツ姿の爺さんが首を出していた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その下にだいだいを置き橙に並びてそれと同じ大きさほどの地球儀をゑたり。この地球儀は二十世紀の年玉なりとて鼠骨そこつの贈りくれたるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
だいだいのかずをよけいくゞって来ているだけに、おめえなんぞよりいろんなことがヒョイ/\とわけもなく俺たちには感じられるんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
魚を釣っているのは、彦島の諸式商「なんでも屋」の親爺、まだ、五十には遠いのに、すっかり頭髪が絶えてしまい、だいだい色に光っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
大原君、サアこの菓物くだものを取り給え。名物揃いだ。枇杷びわの方は有名な房州南無谷なむやの白枇杷だし、だいだいのようなのは淡路あわじ鳴門蜜柑なるとみかんだ。好きな方を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかしこの初めて見るメロンは、外側が浅いあざやかな緑色で、それが内側のだいだい色にとけ込んでいる様子が、如何いかにも美しく、また高貴に見えた。
寺田先生と銀座 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そこはまだ濃密な煙に包まれてい、倒れた倉の残骸を、だいだい色のほのおめていたし、穀物の焦げる香ばしい匂いが、せるほど強く漂っていた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
三吉は南向の日あたりの好い場所をえらんで、裏白だの、譲葉ゆずりはだの、だいだいだのを取散して、粗末ながら注連飾しめかざりの用意をしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だいだい色のような小さい赤い本で、マノン・レスコオだの、ポオルとヴィルジニイだの、カルメン、若きウェルテルの悲しみ、など読みふけりました。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
だいだいと笠と柿を売物にして、『親代々かさっかき』と呼んだというのは小噺こばなしにあるが、それとは少し違うようだな、八」
それが、他にある洋橙オレンジとは異なり、いわゆるだいだい色ではなくて、むしろ熔岩ラヴァ色とでもいいたいほどに赤味の強い、大粒のブラッド・オレンジだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
窓の外では、廂の上に伸びでただいだいの木に、蜜蜂が何疋もたかって、白い花をほろほろとこぼしていた。次郎は、見るともなしにそれを見つめていた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だいだいをコウブツなどというのも、最初はカブスではなかったかと思う。カブは九年母とも書いてもとは外来語らしい。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
金色こんじきの、聖者の最期さいごを彩る荘厳そうごんに沈んだ山と、空との境目が、その金色の荘厳を失って、だいだいの黄なるに変りました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
灰色の薄琥珀タフェタの室内服をゆるやかに着こなし、いささか熟し過ぎたるだいだいのごとき頬の色をしているのは、室内の温気うんきに上気したためであろうと見受けられた。
かし、梅、だいだいなどの庭木の門の上に黒い影を落としていて、門の内には棕櫚しゅろの二、三本、その扇めいた太い葉が風にあおられながらぴかぴかとひかっている。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ここでは注連しめ飾りが町家ののきごとに立てられて、通りのかどには年の暮れの市が立った。だいだい注連しめ昆布こんぶえびなどが行き通う人々のにあざやかに見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
枇杷びわが花をつけ、遠くの日溜りからはだいだいの実が目を射った。そして初冬の時雨しぐれはもうあられとなって軒をはしった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
よその屋敷の塀の上にたまたま、その蜜柑があったと思って、盗んでもほしい気がして寄って見ると、それはだいだいであったり、喰べられない花梨かりんであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の売ったものはこれは老人自身のひと趣向なので巾八寸位の蒲鉾板かまぼこいた位のものに青竹を左右に立て、松を根じめにして、注連縄しめなわを張って、真ん中にだいだいを置き海老えび
丘の上の住宅は燃えており、麦畑のふちの銭湯と工場と寺院と何かが燃えており、その各々の火の色が白、赤、だいだい、青、濃淡とりどりみんな違っているのである。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
頂上まで来たとき、青いだいだいの実に埋った家の門を這入はいった。そこが技師の自宅で句会はもう始っていた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
珊瑚や海藻よりも、いっそう強い色をもっていて、赤、もも色、くれない、黄、だいだい、褐色、青、緑、紺、あい、空色、黒など、まるで、ぬりたてのペンキのように光っている。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
だいだい色や金縁や淡碧うすみどりに縁取られた重畳してる線で、地平を取り囲みながら、柔らかな輝きを見せている雪のアルプス連山、ダ・ヴィンチ式の山々。アペニン山脈に落ちてくる夕闇ゆうやみ
その森を越えた二人は無言のまま、直ぐ鼻の先の小高い赤土山の上にコンモリと繁った深良屋敷の杉の樹と、梅と、枇杷びわと、だいだいと梨の木立に囲まれている白い土蔵の裏手に来た。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから青、だいだい色、あい、赤となって、まん中が赤です。白が一番おそく走っている道路で、となりへいくほど速くなり、まん中の赤の道路が一番速く、時速百キロで動いています
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
最初の会見は、縁側近く四つ五つ実を持つただいだいの樹のある、竹山の室で遂げられた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しからば茶色とはいかなる色であるかというに、赤からだいだいを経て黄に至る派手はでやかな色調が、黒味を帯びて飽和の度の減じたものである。すなわち光度の減少の結果生じた色である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
町々辻々は車をとめ、むしろを敷いて、松、注連縄しめなわ歯朶しだ、ゆずり葉、だいだいゆず……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その中に、ひさしに唐辛子、軒にだいだいの皮を干した、……百姓家の片商売。白髪の婆が目を光らして、見るなよ、見るなよ、と言いそうな古納戸めいたなかに、字も絵も解らぬ大衝立おおついたてを置いた。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松、杉、ひのきかし、檞、柳、けやき、桜、桃、梨、だいだいにれ躑躅つつじ蜜柑みかんというようなものは皆同一種類で、米、麦、豆、あわひえきび蕎麦そば玉蜀黍とうもろこしというような物もまた同じ種類であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だいだいの実十余個を取って堂下にころがして置いて、二人は堂にのぼって酒を飲んでいると、夜も二更にこうに及ぶころ、ひとりの男が垣をえて忍び込んで来たが、彼は堂下をぐるぐる廻りして
今宵かぎりに売れ残った松飾りやだいだいが見ているうちにどんどんなくなってゆく。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
人からだいだい色の美しくてきのいいローラカナリヤを贈られて愛育していたのに、この間、死なせてしまい、このごろ窓の外に春の陽ざしのうららかなのを見ると、カナリヤが生きていたら
愉快な教室 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
その他、正月の飾り物にはだいだい、小判、餅等なり。これ、親代々金持ち(緒や橙金餅)を祝するの意なりという。ある地方にありては、元日の雑煮中に必ずいもかしらを入れてこれを食うといえり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
宗助も二尺余りの細い松を買って、門の柱に釘付くぎづけにした。それから大きな赤いだいだい御供おそなえの上にせて、床の間にえた。床にはいかがわしい墨画すみえの梅が、はまぐり格好かっこうをした月をいてかかっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
装飾的な背景の前にどつしりと立つてゐるだいだい色の女は視覚的に野蛮人の皮膚の匂を放つてゐた。それだけでも多少辟易へきえきした上、装飾的な背景と調和しないことにも不快を感じずにはゐられなかつた。
とある屋敷のだいだいに そして雀も啼いてゐる
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
君が代をかざれだいだい二万籠 舟泉
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「ええ、ああ、あの大きなだいだいの星は地平線ちへいせんから今上ります。おや、地平線じゃない。水平線かしら。そうです。ここは夜の海のなぎさですよ」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この変な七つの飾りだいだいを、七日の朝の七ツどきから始めて、七つの駕籠に乗せ、だれにもわからぬよう見とがめられぬように
外はすっかり明るくなり、あけてある窓の向うに、斜めからさす朝日をあびて、だいだい色に染まっている女竹のやぶが見えた。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だいだいのつゆをしぼって髪をゆすぐ水に入れます。ベッドの日向にはあなたの着物やかけぶとんやがほしてある。
その人は骨組ががっしりして大柄なかしの木造りのドアのような感じのする男で、だいだい色がかったチョコレート色の洋服が、日本人にしては珍らしく似合うという柄の人でした。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夕陽ゆうひの空には、旗のような鳥だの、垂天の翼のような雲だの、赤く、白く、紫に、すみれに、だいだいに、金色こんじきに変ずる山の形だの、空の色だのというものが、見る眼をあやにしたり
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
待ちなよ八、それじゃ、あんまり智恵がなさすぎる、——上の糸は苧やだいだいでおと読ませるに決っている。その次は紐に相違ないが、輪にして端っこを結んであるからたすきさ。
赤銅しゃくどう色のぶな、金褐色のくり珊瑚さんご色の房をつけた清涼茶、小さな火の舌を出してる炎のような桜、だいだい色や柚子ゆず色や栗色や焦げ燧艾ほくち色など、さまざまな色の葉をつけてる苔桃こけもも類のくさむら