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もた
ふりがな文庫
“
擡
(
もた
)” の例文
長椅子の隅に丸まって少女雑誌を読んでいた晴子が、顔を
擡
(
もた
)
げおかっぱの髪を頬から払いのけながら、意を迎えるように口を挾んだ。
海浜一日
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
二階の大きな部屋に並んだ針箱が、どれも朱色の塗で、鳥のように
擡
(
もた
)
げたそれらの頭に針がぶつぶつ刺さっているのが気味悪かった。
洋灯
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
毛と云う毛は悉く蛇で、その蛇は悉く首を
擡
(
もた
)
げて舌を吐いて
縺
(
もつ
)
るるのも、
捻
(
ね
)
じ合うのも、
攀
(
よ
)
じあがるのも、にじり出るのも見らるる。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこでこの力競べは、自然と彼等五六人の独占する遊戯に変ってしまった。彼等はいずれも大きな岩を軽々と
擡
(
もた
)
げたり投げたりした。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
犇々
(
ひし/\
)
と上げくる秋の汐は
廂
(
ひさし
)
のない屋根舟を木の葉のやうに軽くあふつて往来と同じ水準にまで
擡
(
もた
)
げてゐる——彼はそこに腰をかけた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
▼ もっと見る
毛といふ毛は
悉
(
こと/″\
)
く蛇で、其の蛇は悉く首を
擡
(
もた
)
げて舌を吐いて、
縺
(
もつ
)
るゝのも、
捻
(
ね
)
ぢ
合
(
あ
)
ふのも、
攀
(
よ
)
ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信
(新字旧仮名)
/
小酒井不木
(著)
猛烈な
達引
(
たてひき
)
と
鞘当
(
さやあて
)
の中に、駒次郎が次第に頭を
擡
(
もた
)
げ、町内の若い衆も、勝蔵も排斥して、お勢の愛を一人占めにして行く様子でした。
銭形平次捕物控:030 くるい咲き
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「聞きゃ、道成寺を舞った時、腹巻の下へ蛇を
緊
(
し
)
めた姉さんだと云うじゃないか。……その
扱帯
(
しごき
)
が鎌首を
擡
(
もた
)
げりゃ
可
(
よ
)
かったのにさ。」
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
此処は低いが四方が開けているので
可
(
か
)
なり眺望が好い。野営地からは見えなかった五竜岳や鹿島槍岳が唐松岳の南に頭を
擡
(
もた
)
げて来た。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
と云いながら布団を頭から
被
(
かぶ
)
っていたが、だんだん暴れ方が激しくなるので、しまいに首をむっくり
擡
(
もた
)
げて
枕元
(
まくらもと
)
の電燈の鎖を引いた。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
何事ならんと頭を
擡
(
もた
)
げて見れば前の肥えたる曹長にはあらで
髯
(
ひげ
)
のむさくるしき一人の曹長が余ら一行の居場を縮めよと命ずるなり。
従軍紀事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
それが茶に対する風雅な熱意ばかりであるのかと思ふと、さうではなく、それに
芽生
(
めば
)
えたいろいろな俗情が頭を
擡
(
もた
)
げて来るのであつた。
上田秋成の晩年
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
仲間
外
(
はず
)
れになって寝ていた左次郎は、何かと思って、
亀首
(
かめくび
)
を
擡
(
もた
)
げてみると、丑がみんなの前に
皺
(
しわ
)
をのばして見せつけているのは
醤油仏
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
少女はあわてて頭を
擡
(
もた
)
げて、振り反ってみて、その大方の涼しい眼、牝鹿のもののようにおどおどしたのをば、薄暗い木蔭でひからせた。
あいびき
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
グングン頭を
擡
(
もた
)
げて来るのを、常から快からず思っているから、こうした場合には、きっと自分に入れてくれるだろうと思った。
入れ札
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そこで、何様である、徳川殿の勧めに就こうかと思うが、といいながら老臣等を見渡すと、ムックリと
頭
(
こうべ
)
を
擡
(
もた
)
げたのが伊達藤五郎
成実
(
しげざね
)
だ。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
雲雀
(
ひばり
)
が高く舞い上がるを見て、その真下まで這い行き口を
擡
(
もた
)
げて毒を吐かば、雲雀たちまち
旋
(
かえ
)
り堕ちて蛇口に入り、餌食となると書いた。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
胸中の苦悶は我を
驅
(
か
)
りて、狹きヱネチアの
巷
(
こうぢ
)
を、縱横に走り過ぎしめしに、ふと立ち留りて頭を
擡
(
もた
)
ぐれば、われは又
前
(
さき
)
の劇場の前に在り。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
ある年江州より
彷徨
(
さまよ
)
ひ来り、織屋へ奉公したるを手始めに、何をどうして溜めしやら、廿年ほどの内にメキメキと頭を
擡
(
もた
)
げ出したる俄分限
心の鬼
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
時々、
内儀
(
かみ
)
さんは
櫛巻
(
くしまき
)
にした病人らしい頭をすこし
擡
(
もた
)
げて、種々雑多な物音、町を通る人の話声、遠い電車の響までも聞いた。
死の床
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
果然、これは双葉嬢でござる。このとき若殿はうっとりと眼をさまされ、けげんそうに、「なんだ」とおつむを
擡
(
もた
)
げ召された。
若殿女難記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
徐
(
おもむ
)
ろに
擡
(
もた
)
げて鉄縁の
近眼鏡
(
めがね
)
越
(
ごし
)
に打ちながめつ「あア、
老女
(
おば
)
さんですか、大層早いですなア——先生は
後圃
(
うら
)
で御運動でせウ、何か御用ですか」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
エバを取り逃がした蛇のように鎌首を
擡
(
もた
)
げて、血走った眼で私を睨み上げていたが、やがて、
怨
(
うら
)
めしそうに切れ切れに云った。
鉄鎚
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
乞へども乞はるゝ人答へず、かへつて願ひを増さしめんためその乞ふ物をかくさずして高く
擡
(
もた
)
ぐるもこの
類
(
たぐひ
)
なるべし —一一一
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
箇でなければ何事もテキパキと出来ないといふ形になつて来る、そしてその時に圧せられた箇の思想がまた再び首を
擡
(
もた
)
げて来るに相違ない——
自然
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
当時頭を
擡
(
もた
)
げて来たのが東金家だった。東金君のお父さんは一代で
身上
(
しんしょう
)
を拵えるくらいの人だから、ナカ/\の
遣手
(
やりて
)
で、兎角の風評があった。
村一番早慶戦
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
と気の早い男があったもので、
碌々
(
ろくろく
)
聞きもしないうちからもうグンニャリして、
椅子
(
いす
)
に
蹲
(
うずくま
)
った。そして恐る恐る顔を
擡
(
もた
)
げて
葛根湯
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
ここに於て当選の
暁
(
あかつき
)
には、議員の位地を利用して、一方に失いしところを他方に補わんとする野心が勃然と頭を
擡
(
もた
)
げて来る。
選挙人に与う
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
女乞食は、大儀相に草の中から頭を
擡
(
もた
)
げたが、垢やら埃やらが流るる汗に
斑
(
ふ
)
ちて、鼻のひしやげた醜い面に、謂ふべからざる疲労と苦痛の色。
二筋の血
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
次
(
つぎ
)
の
朝
(
あさ
)
お
品
(
しな
)
はまだ
戸
(
と
)
の
隙間
(
すきま
)
から
薄
(
うす
)
ら
明
(
あか
)
りの
射
(
さ
)
したばかりに
眼
(
め
)
が
覺
(
さ
)
めた。
枕
(
まくら
)
を
擡
(
もた
)
げて
見
(
み
)
たが
頭
(
あたま
)
の
心
(
しん
)
がしく/\と
痛
(
いた
)
むやうでいつになく
重
(
おも
)
かつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
私が顔を拭いたり、尚眼をぱちくりさせてゐる間、もういゝかといふやうに、それを
擡
(
もた
)
げたまゝ、ぢつと私を見守つてゐた。
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
しばらく草鞋を穿いて雲水の
托鉢僧
(
たくはつそう
)
と洒落のめし日本全国津々浦々を放浪していたが、やがてお
江戸
(
ひざもと
)
へ舞い戻って気負いの群からあたまを
擡
(
もた
)
げ
釘抜藤吉捕物覚書:13 宙に浮く屍骸
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「みよーさん、(娘の名)
貴嬢
(
あなた
)
は、まあ
如何
(
どう
)
して、こんな所へ来なすっただ」と
訊
(
たず
)
ぬると、娘はその
蒼白
(
あおじろ
)
い顔を
擡
(
もた
)
げて、苦しそうな息の下から
テレパシー
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
妖女が馬腹をくぐる時の文句に「周囲の山々は
矗々
(
すくすく
)
と
嘴
(
くちばし
)
を揃え、頭を
擡
(
もた
)
げて、この月下の光景を、
朧
(
おぼ
)
ろ朧ろと
覗
(
のぞ
)
き込んだ」
雪の白峰
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
『いろ/\
委
(
くわ
)
しい
事
(
こと
)
を
承
(
うけたまは
)
りたいが、
最早
(
もはや
)
暮
(
く
)
るゝにも
近
(
ちか
)
く、
此邊
(
このへん
)
は
猛獸
(
まうじう
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
ともいふ
可
(
べ
)
き
處
(
ところ
)
ですから、
一先
(
ひとま
)
づ
我
(
わ
)
が
住家
(
すみか
)
へ。』と
銃
(
じう
)
の
筒
(
つゝ
)
を
擡
(
もた
)
げた。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
況んや蘇峰先生の名は反動思想の
些
(
いささ
)
か頭を
擡
(
もた
)
げんとしつゝある今日に於て又少からず社会の注目を惹くべきに於てをや。
蘇峰先生の「大正の青年と帝国の前途」を読む
(新字旧仮名)
/
吉野作造
(著)
所天が眼を開けて見ると、後妻が己を起しているのですぐそれを悟って首を
擡
(
もた
)
げて見た。女はもうお辞儀をやっていた。
藍微塵の衣服
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
新生活の妄想でふやけきっている頭の底にも、自分の生活についての苦い反省が、ちょいちょい角を
擡
(
もた
)
げてくるのを感じないわけに行かなかった。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
悩ましい、どうしようもない、悲しい一日々々を重ねた。しかし、彼の内部に一度巣くつた
憧憬
(
しようけい
)
は、やがてまた新らしい形となつて頭を
擡
(
もた
)
げ初めた。
新らしき祖先
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
「……」私は頬冠りもとかずに、一寸顔を
擡
(
もた
)
げ、きよとんと大学生の顔を視上げた。「あなたは、どなたでせうか?」
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
兼太郎
(
かねたろう
)
は点滴の音に目をさました。そして油じみた
坊主枕
(
ぼうずまくら
)
から
半白
(
はんぱく
)
の頭を
擡
(
もた
)
げて不思議そうにちょっと耳を
澄
(
すま
)
した。
雪解
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
首を
擡
(
もた
)
げて聞き澄ましたが、にわかにムックリ起き上った。
周囲
(
まわり
)
を見ると女太夫共が、昼の
劇
(
はげ
)
しい労働に
疲労
(
つかれ
)
、
姿態
(
なりふり
)
構わぬ有様で、大
鼾
(
いびき
)
で睡っていた。
大捕物仙人壺
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
『ファイルヘン、ゲフェルリヒ』(すみれめせ)と、うなだれたる
首
(
こうべ
)
を
擡
(
もた
)
げもあへでいひし声の清さ、今に忘れず。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
作者の主観は隠そうとしても隠すことが出来ないのであって客観写生の技倆が進むにつれて主観が頭を
擡
(
もた
)
げて来る。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
お怒りにならないようならお話いたしとうございますと低い
声音
(
こえ
)
で、月のような顔を
擡
(
もた
)
げる時、もう、生絹のいうことが何であるかが大抵わかっていた。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
私は首を
擡
(
もた
)
げて、窓の硝子の外をのぞいて見た。けれどもその内側に光る硝子の外はたゞまつ暗で、耳をすましても、雪の降るらしい音も響もなかつた。
輝ける朝
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
心の動揺がすっかり収まったと見えて、いったんは見分けもつかぬ深みへ、落ち込んでしまった顔の凹凸が、再び恐ろしい鋭さでもって影を
擡
(
もた
)
げてきた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
すると、今までは、悲しみにまぎれて、忘れるともなく忘れていたある
疑
(
うたがい
)
が、猛然として頭を
擡
(
もた
)
げ始めたんだ。
恐ろしき錯誤
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
それを一段聞くと道庵がしきりに昂奮して、軽井沢で
発心
(
ほっしん
)
した武者修行の
謀叛
(
むほん
)
が、むらむらと頭を
擡
(
もた
)
げました。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
墓地の
樒
(
しきみ
)
の木に
障
(
さわ
)
るので、若い洋服の医師が手を添えて枝を
擡
(
もた
)
げたりして、棺は掘られた墓の前に据えられた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
擡
漢検1級
部首:⼿
17画
“擡”を含む語句
擡頭
擡上
半晌擡身