ふる)” の例文
鳴鶴等一流の諸先生が達筆をふるったものだが、一時は守田宝丹のひねくれた書法が奇抜というので、提灯屋の書いた看板まで宝丹流。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
ことあらわれ夫おそれて妻を離縁したと載せ、スプレンゲルはある人鬼がその妻を犯すを、刀をふるうて斬れども更に斬れなんだと記す。
しかし、審配は毅然として、防禦の采配をふるった。ために、外城の門は陥ちたが内城の壁門は依然として固く、さしもの曹操をして
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ自殺までには大分時間があるから、充分、十二分に落ち付いて、紫の煙と、琥珀こはく色の液体を相手に悠々と万年筆をふるう事にする。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お千勢の矢場というは、お千勢の母親のお組が采配をふるい、娘のお千勢の愛嬌あいきょうを看板に、この二三年めきめきと仕上げた店でした。
が、彼はそれを両手に抱くと、片膝砂へついたまま、渾身こんしんの力をふるい起して、ともかくも岩の根をうずめた砂の中からは抱え上げた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして腕組みをして昂然こうぜんとした態度を作つた。それには不自然なところがあつた。兄はありたけの勇をふるつて弟の瞳ににらみ合つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
衛兵は三たび呼んだが、それでも返事のないのを見て、彼はやにわに銃剣をふるって大尉の胸を突き刺した。大尉は悲鳴をあげて倒れた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
斉名は筆をふるって書いた。ところで卿の御気に召さなかった。そして卿はあらためて大江以言に委嘱された。以言も骨を折って起草した。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
究理の利剣もその刃もろくも地にこぼれ、科学の斧も其力をふるふに由なく、たゞ詩と信仰のみ最大の権威を以て天啓の如く世界を司配す。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は髪剃かみそりふるうに当って、ごうも文明の法則を解しておらん。頬にあたる時はがりりと音がした。あげの所ではぞきりと動脈が鳴った。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神尾とても看板書きになったわけではなく、頼まれたればこそ、こうして筆をふるうのでありましょう。そこへ廊下を歩いて来る人の音
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
邦強く敵無くんば、まさに長策をふるうて四方を鞭撻べんたつせんとす、則ち人をしておのれに備うるにいとまあらざらしむ、何ぞ区々防禦のみを言わんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ちええ、面倒だ。と剣をふるい、胸前むなさき目懸けて突込みしが、心きたる手元狂いて、肩先ぐざと突通せば、きゃッと魂消たまぎる下枝の声。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
い分別といふのはほかでもない、もしか卜新老が約束にそむいたら、持前のお医者の腕をふるつてみせる事だ。ゲエテが言つたぢやないか。
分けや丸、半玉と十余人の抱えのかせぎからあがる一万もの月々の収入も身につかず、辣腕らつわんふるいつくした果てに、負債で首がまわらず
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
種々の境遇の變化の中に現れる主人公の性格を強調した心理描寫の筆をふるふべきであつたと思ふが、浮雲の如く去來する心持ムウドは描けても
雪の底の生活に飽き飽きした若い人などが、何という目的もなしに、鍬をふるうて庭前の雪を掘り、土の色を見ようとしたという話もある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
諸流の調和を図りまた家元なるものの特権をふるふて後進年少が進んで行かうといふ道を杜絶とぜつすることのないやうにしてもらはねばならぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それをもとの社主は放任していたのである。新聞は新しい社主の手に渡った。少壮政治家の鉄のようなかいなが意識ある意志によってふるわれた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
で、禿はその通の病人だから、今ではあの女がひとりで腕をふるつて益す盛につてゐる。これすなはち『美人びじクリイム』の名ある所以ゆゑんさ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そういう訳なら案内は不用いらぬ。お前はここで待っているがよい。……さて、数馬殿、お気の毒じゃが、腕をふるっていただかなければならぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある日は「御料理仕出し」の招牌かんばんをたのまれて千蔭ちかげ流の筆をふるい、そうした家の女たちから頼まれる手紙の代筆をしながらも
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから自分の机から硯をひきよせ、誰かが揮毫の依頼においていったものらしい画箋紙を切って「読意如読書」と筆をふる
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
昔の男一匹は動物的に猛勇をふるうを特性としたとはいいながら、なおかつ当時においても女子よりは思慮しりょと判断の力がすぐれていたであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まさに一触即発のこの時、天は絶妙な劇作家的手腕をふるって人々を驚かせた。かの歴史的な大惨禍、一八八九年の大颶風ハリケーンが襲来したのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし、この、「長い黒の外套がいとう」を着て闇黒あんこくむ妖怪は、心願しんがんのようにその兇刃きょうじんを街路の売春婦にのみ限定してふるったのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ロンドンのサボイ・ホテルやカルトンで腕をふるっていた頃には、どれほどのいしん坊がはるばる海を渡って彼の皿を求めに来たか知れない。
あたかも利刃をふるって泥土をるに等しい何らの手答えのない葛藤を何年か続けた後に、二葉亭は終に力負けこん負けがして草臥くたびれてしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
文士筆をふるふ猶英雄剣を揮ふが如し。共に空を撃つが為めに非ずす所あるが為也。万の弾丸、千の剣芒、し世を益せずんば空の空なるのみ。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
同行の高頭君は、退屈紛れに、杖を沙上にふるって、それを模写していた。自然は欺かれず、人間の智能は、鹿の足痕一つをだに描き得なかった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これは、美和子のふるう論理の中でも、相当夫人にとっては、痛いものであるだけに、夫人はますます苛々いらいらして、表情らしい表情を無くしてしま
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
欧米国民は夫れを知るや知らずや、中にも露国は傲慢無礼、日本を蔑視し、東洋に暴威をふるはんとせしより、日本国民の血は沸けり、骨は鳴れり。
警戒すべき日本 (新字旧仮名) / 押川春浪(著)
後進を誘掖いうえきするに到りては、今の独逸ドイツ文学に酔へる青年幻想家、いかでか一鞭をふるふて、馬を原頭に立るの勇気無らん。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
私も人々の間にまじって一臂いちびの力をふるい一人の悪漢をじあげましたが、よく見るとそれは皮肉にも竹内だったのです。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と、何処からともなく又数多たくさんの鼠が出て、伊右衛門のふるっている刀にからみついた。其のひょうしに伊右衛門は刀をり落した。其処を与茂七が
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ゾパルは新知識の所有者を以てみずから任じ、新説の提唱をなすが如く思いて意気揚々ようようとして舌をふるう、これに対してヨブは右の如く答えるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私にはすぐこの男の低能なことがわかったので、もちろん、自分の手練をふるうに持って来いの相手として目をつけた。
崩れを横切って偃松の少ない右の尾根を一息に登る、登って山稜の一角に立った、そして力任せに杖をふるって大声に叫び出さずにはいられなかった。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
いよいよほこふるいもしくは弁を揮わんとし、現在の偶像——それもすでに揺ぎ始めてる——にたいして、騒々しく出征の途にのぼらんとする時には
既に隻脚かたあしを墓に入れしひとりの者程なくかの僧院のために歎き、權をその上にふるひしことを悲しまむ 一二一—一二三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
が、ここで、そなたが、普留那ふるなの弁口をふるうて、西の米をどしどし売らせたなら、米価は、一どきに低落し、長崎屋方は、総くずれになるは必定ひつじょうだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
左様さうです、し松本等の主張ならば、僕も驚きは致しませぬ、しかるにの温良なる、むしろ温柔のきらひある浦和武平が、涙をふるつて之を宣言したのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
舟は深碧の水もてめぐらされたる高き岩窟いはやに近づきぬ。ジエンナロは杖をふるひて舷側の水を打てり。われは且怒り且悲みて、傍より其面を打ち目守まもりぬ。
流汗をふるいつつ華氏九十九度の香港ほんこんより申し上げそろ佐世保させほ抜錨ばつびょうまでは先便すでに申し上げ置きたる通りに有之これあり候。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
取扱うや、概して科学者の態度だ。すなわち実験室において、南京なんきん兎を注射するごとく、もしくは解剖室において、解剖刀をふるうがごとくであった、云々
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四本の脚を踏んばって突き刺さった槍の力を受け止めていた牛は、忽ち渾身の勇をふるってそれをね返し、鋭い大きな二本の角でぐさりと馬の右腹を突いた。
闘牛 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
ち上って、また突進すると、面倒なりとばかり、大男は、怪腕をふるって、若い水夫の顔面に一撃を加えた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
ふるって友人の笑覧に供したまでなのだが、かくの通り立派に表装してしまったね、三月十日の空襲の際には、伝家の宝物の如く大事に持って逃げたというんだ。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
そしてつい此間は、彼が断崖の上で鶴嘴をふるうと見るや、徳さん親子が魔の淵の藻屑と消えたではないか。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)