こら)” の例文
これがあの傲慢ごうまん無礼な英国官吏をこらして王室の威厳を御保持になった方とも思われないくらい、女にもしたいほどのお優しさでした。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「旦那の三郎兵衞が持つてゐた筈だが、それは表向きで、こらしめのための窮命きうめいだから、鍵はツイ廊下の柱にブラ下げてあるさうですよ」
私があんまりポチばかり可愛がって勉強をしなかったから、父が万一ひょっとしたらこらしめのため、ポチを何処かへかくしたのじゃないかと思う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「はて文盲もんもうの野人は度しがたい者だ。よしそれほど剛情を張るなら試してやる。あ、これ、裏坂の仁作、この儀助を一つこらしめてやれ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わるい病が催して何か言い寄って参らば、そこがそちの働きどころじゃ。近寄らず近寄らせず巧みにあしらってこらしめてやるのよ
その重立おもだつた人々の顔には、言ひ合せた様な失望の色がある。これは富豪をこらすことは出来たが、窮民をにぎはすことが出来ないからである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
が、あんなけだもののようないやしい男を、こらすために、お前の一身を犠牲にしては、黄金を土塊つちくれと交換するほど、馬鹿ばか々々しいことじゃないか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ぐにお前をつかまえて、誰とも云わず先生の前に連れて行て、先生に裁判してもらうがよろしいか。心得て居ろとひどこらしめてやった事があった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
君も撲られっ放しでは気が済まないだろうから、一つこらしめのために訴えてやるか。誰かに聞けば直ぐ移転先きは分るだろう
越年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きっと芸者衆が何かひどくいけないことをなしたので父様はそれをおこらしめになっていらっしゃったのでございましょう。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
これ以上昂らせることの無益は、定明の短慮焦躁の日常を知っていたから、経之はこらしめることをしないで去って行った。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それで手捕りにしてふん縛り、うんといじこらしめて、今後二度と来させまいとするのが、彼等悪漢わる共の思惑なのであった。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは恐る、日ごろ心たけかりし父の、地下よりおどでて我をむちうつこと三百、声を励まして我が意気地いくじなきを責め、わが腑甲斐ふがいなきをこらし給わんか。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又信ず。予が殺人の動機なるものは、その発生の当初より、断じて単なる嫉妬の情にあらずして、むしろ不義をこらし不正を除かんとする道徳的憤激に存せし事を。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お父様もお母様もこらしめのためにわざと御飯を片づけてしまって、お父様はどこかへ御用足しにお出かけになり、お母さんも一寸買物にお出かけになりました。
お菓子の大舞踏会 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
まだ、手を下して、人をこらしたということはないけれども、まかり間違って、この入道の怒りを買った日には、なんだか底の知れないような刑罰が下りそうだ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最初の動機は、Fの意気地なしのこらしめと慰めとを兼ねて一週間も遊びに帰えすつもりだったのが、つい自分ながらいくらか意外なような結果になったのだった。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
それに小兼も半治もあゝいう負けない気の奴だから、何と勧めても一つになると騒ぐので、わたくしも吉崎様へ済まねえからの野郎はこらしましたが、外に悪い事もなし
摘発して、弱者はたすけ、悪人はこらして、社会を覚醒している結社だと云うことを承知してもらいたい
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とうさんが幼少ちひさ時分じぶん晝寢ひるねをしてますと、どうかするとこのぶよはれることがりました。そのたびに、お前達まへたち祖父おぢいさんがおほきなてのひらで、ぶよこらしてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
凸助でこすけ……いや、鼻ぴっしゃり、芋※ずいきの葉の凹吉ぼこきちめ、細道で引捉ひッつかまえて、張撲はりなぐってこらそう、と通りものを待構えて、こう透かして見ますがの、背の高いのから順よく並んで
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の後継者であるべきものに対してなんとなく心置きのあるような風を見せて、たとえばこらしめのためにひどい小言を与えたあとのような気まずい沈黙を送ってよこした。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
鋭き言葉に言いこらされて、餘儀なく立ちあがる冷泉を、引き立てん計りに送り出だし、本意ほいなげに見返るを見向みむきもやらず、其儘障子をはためて、仆るゝが如く座に就ける横笛。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「私、あなたなんかに誤魔化ごまかされませんわ。甘く見ていらっしゃるから、こらしめの為めよ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こらすも改めず罰するも恐れざるに至っては遂に施すに術なし。飲酒喫烟は悪習なり人これを知るも咎めず。赤垣源蔵あかがきげんぞうは一升徳利に美談を残し大高源吾おおたかげんごは煙草入の筒に風流を伝う。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
林児はめいらずに武の悪口をついた。武の叔父のこうは寛厚の長者であった。おいがあまり怒ってわざわいを招くのを恐れたので、つきだしてこらしてもらった方が好いだろうといって勧めた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「さては彼の狐めが、また今日も忍入りしよ。いぬる日あれほどこらしつるに、はやわすれしと覚えたり。憎き奴め用捨はならじ、此度こたびこそは打ち取りてん」ト、雪を蹴立けだてて真一文字に
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さういふ無知な状態に在つたからして、「てやこらせや清國を」といふ勇ましい軍歌が聞えると、直ぐもう國を擧げて膺てや懲せや清國をといふ氣になつたのだ。反省もない。批評もない。
大硯君足下 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
チーア卿は、さっきの装置で調べると、今飛行機にあれを積んでインド方面へ向けて飛行中だが、見ていなさい、あと三十分で飛行機は空中火災を起して墜落じゃ。泥棒にはいいこらしめじゃよ
しかし日曜の散歩を一度よして、みずからおのれをこらしてしまうと、非常に退屈になって、恨みを忘れた。クリストフは例のとおり自分の方から申し出た。オットーはそれを承知してやった。
我はかの惡少年をこらして後、翁猶在らば、家まで送りて得させんとおもひしに、早やいづち往きけん見えずなりぬ。その後翁の事をば少しも心に留めざりしに、或日ふと猶太廓ゲツトオの前を過ぎぬ。
我まことにエフライムのみずから嘆くを聞けり、いわく汝は我をこらしめ給う、我はくびきに馴れざるこうしのごとくに懲しめを受けたり、エホバよ、汝はわが神なれば我を牽転ひきかえし給え、しからば我かえるべし。
私もこんな年齡としに成りながら、遂そんな心配もあるまいと、迂濶に油斷をした許に取り返しのつかないあなたの娘さんへ傷をつけまして、こらせと申されゝば野郎は手でも足でも打ち折りますが
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
諸氏よ、誰人かよく蛸をこらす勇士なきや。蛸博士を葬れ! 彼を平なる地上より抹殺せよ! 諸君は正義を愛さざる乎! ああ止むを得ん次第である。しからば余の方より消え去ることにきめた。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして、陸上競技で支那シナが依然無得点であることを彼の口から確かめると、我が意を得たというような調子で、「こういうような事でも、やはり支那人は徹底的にこらして置く必要がある」とつぶやいた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
十七節にいう「神のこらし給う人は幸福なり、されば汝全能者の儆責いましめを軽んずるなかれ」と。彼は人に臨む艱難を以て罪の結果と見、従ってこれを神よりの懲治こらしめしたのである。すでにこれ懲治である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
助け惡をこらさるゝ事萬事ばんじかくごとしとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その斬っていずるや、児戯じぎをあしらう如く脚下にねじ伏せ、懇々、これをこらして放したというような話すらのこっているほどである。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍等が出て白酒を飲んで価を償わずに花道へ入る。小団次の黒手組助六が一人の侍の手をじ上げて花道から出て侍等をこらす。侍等は花道を逃げ入る。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お父様、あんな男に起訴されて、泣寝入りになさるような、腑甲斐ふがいないことをして下さいますな。飽くまでもたたかって、相手の悪意をこらしめてやって下さいませ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
暮から小さい物の盜まれるのは、榮吉も苦々しく思つてゐるらしく、これは誰の仕業しわざにしろ、ついでに平次に搜し出して貰つて、うんとこらして頂きたいといふ意見です。
あゝ天何故なにゆえに我をくまで懲らしめ給うか、身に悪事をなしたる覚えなきに、如何いかなれば斯く我を苦しめ給うぞ、世にある時は人を助け、人のために人をこらしもし
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここは山神の住居すまいであって、神聖境であるべきを、二人の者がまぎれ込んで永遠の静寂を乱したので、神が怒ってこらしめのために、この不思議さを見せたのであろうか。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
再三のことで、あまりといえば許しておけないから、当座のこらしめのために相違ないのを、大勢がやって来て、担ぎ出し、それを天神山で焼き殺すということになっている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その方どもの罪業ざいごうは無知蒙昧もうまいの然らしめた所じゃによって、天上皇帝も格別の御宥免ごゆうめんを賜わせらるるに相違あるまい。さればわしもこの上なお、叱りこらそうとは思うて居ぬ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よしよし捕まえてこらして遣ろうと、ぬき足さし足うしろから近寄ってお出でになりました。
ドン (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
その詩に史上の事實をめ、聞くに堪へざる平字の連用をなしたるなど、皆むちうこらすべきとがなるを。我はまことに甚しき不快を覺えき。かゝる事に逢ふごとに、我は健康をさへ害せられんとす。
尊王攘夷そんのうじょういという言葉は御隠居自身の筆に成る水戸弘道館の碑文から来ているくらいで、最初のうちこそ御隠居も外国に対しては、なんでも一つこらせという方にばかりこころざしを向けていたらしいが
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この饒舌じょうぜつこらさんとて、学生は物をも言わでこぶしげぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訴状には「御城おんしろ御役所おんやくしよ其外そのほか組屋敷等くみやしきとう火攻ひぜめはかりごと」と書いてある。檄文げきぶんには無道むだうの役人をちゆうし、次に金持の町人共をこらすと云つてある。かく恐ろしい陰謀である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)