おお)” の例文
それから数分後に、私はそのおおきな岩をのあたりに見ることのできる、例の見棄みすてられたヴィラの庭のなかに自分自身を見出みいだした。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
予往年大英博物館で、この蛙アルコールづけを見しに、その蹼他の蛙輩のよりすぐれて大なるのみ、決して図で見るほどおおきになかった。
猛然と、彼のおおきな腕はお通を抱きしめて枯草の中へたおれた。お通は白い喉首のどくびを伸ばして、声もあげ得ずに、彼の胸の中でもがいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は、中国人だ。東洋人は、概して西洋人よりも心臓が強健だ。けれど、日本人にはかなわぬよ。しかし、僕は、安南人あんなんじんおおきな心臓を
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そのゆらめく光りが、おおきな杉の樹立と、大社づくりの古びた神殿と、その前に設けられた、方四間の舞台を、照らしだしていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あなたは、かげではひそかに美味うまいものを食っていたンでしょう? アンナ・カレニナ、復活、ああどうにもやりきれぬおおきさ……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そう云いながら、老人は勝平の身体をなかば抱き起すようにした。が、おおきい身体は少しの弾力もなく石のかたまりか何かのように重かった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
されど、そのかわりには、うろこ生えておおいなる姿の一頭のりゅう、炎の舌を吐きつつ、白銀しろがねの床しきたる黄金の宮殿の前にぞうずくまりてまもりける。
しかし今日は、いよいよ草はおおきく樹間はせまり、奥熱地の相が一歩ごとに濃くなってゆくのだ。そして、この三日の行程が四十マイル弱。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うまほうでもまたわたくしによく馴染なじんで、わたくし姿すがたえようものなら、さもうれしいとった表情ひょうじょうをして、あのおおきなからだをすりけてるのでした。
太和年中、鄭生ていせいというのが一羽のおおきい鳥を網で捕った。色はあおく、高さ五尺余、押えようとすると忽ちに見えなくなった。
いくらまじめにながめていても、そんなおおきなちょうざめは、泳ぎもうかびもしませんでしたから、しまいには、リチキは大へん軽べつされました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
近くは深沈としたブリュウブラックのうしおめんに擾乱する水あさぎと白の泡沫。その上をおおきな煙突の影のみがはしってゆく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そのマツ樹の丸木舟の化けて川上に登っておおウナギになったもので、そしてまた突き刺されて傷をえたのに腹をたてて洪水を起こして川を下り
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
「成る程なあ。その田宮ちゅう男なら二、三度門口で挨拶した事がある。瓦斯ガスを引く時にね。人相の悪いおおきな男だろう」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
煙突は一流の工場にでもあるような立派なもので、尾田は、病院にどうしてあんなおおきな煙突が必要なのか、怪しんだ。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
お前の死は僕を震駭しんがいさせた。病苦はあのとき家のむねをゆすぶった。お前の堪えていたもののおおきさが僕の胸を押潰おしつぶした。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
奥殿の床板は塵埃ちりほこりの山をし、一方には古びたおお太鼓がよこたわり、正面には三尺四方程の真赤まっかな恐ろしい天狗の面がハッタとこちらを睨んでござる。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
いやな雨もよいの朝、おおきな雲。海の上に落ちた其の巨大な藍灰色らんかいしょくの影。朝七時だというのに、まだ灯をつけている。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
空にはながらく動かないでいるおおきな雲があった。その雲はその地球に面した側に藤紫色をした陰翳いんえいを持っていた。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
夷官は必ず曰わん、日本は海国なり、陸道もて奔走すること、数百千里なれば、へいを費すこと甚だおおし、火輪船を用いるのまされりと為すに如かざるなりと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
熊笹の中をけ下ると、つがもみなどの林に這入はいる。いかにおおきな樹でも一抱ひとかかえぐらいに過ぎないが、幹という幹には苔が蒸して、枝には兎糸としが垂れ下っている。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
おおきな箱のような連絡船が動き出すと、もうすぐ向うに、下関のながいホームや暗い建物が見え出した。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
おおきな汽船だけに、まア、リフトの昇降時しょうこうじにかんじる、不愉快ふゆかいさといったほどのものでしたが、やはり甲板に出てくる人の数は少なく、喫煙室スモオキングルウムで、麻雀マアジャンでもするか
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それから円天井のついたおおきな陰気な部屋——これは浴室である。二階は婦人患者が占領している。
藤蔓の間へぶら下って居たからいようなものゝ、下へ落ればおおきな岩が幾つも有るから身体は微塵にっ砕けるだが、幸いわしが下に居たから助けて上げたけれども
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お腹のなかで、動くのが、動くばかりでなくなって、もそもそとうような、ものをいうような、ぐっぐっ、とおおきな鼻が息をするような、その鼻がめるような、舌を出すような
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたしあなたのさびしい気の引けたようなところを見ると、なんだかお気の毒で涙ぐみそうになってよ。あなたまたからだがばかにおおきいからなおその寂しさが目につくんですわ。
とすればエンジン以外での技術的改良によって、補助金がなくてももうかるように工夫するほかはない。それにはべらぼうもなくおおきな船を造るというのがブランネル氏のプランである。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
突然、その時裏庭に向いた、障子一杯に蒼白い、燐の火が燃え立つと思う間もなく、おおきな女の頭の影が、髪をおどろに振り乱し、最初はじめに一つやがて二つ、それから三つ映って見えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
体のおおきい、どちらかといえば無口な男であったが、勇武にすぐれており、また一徹で正直であったため、部落のなかに勢望があった。モーナルーダオにはテワスルーダオという妹がいる。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
演者苦心の神経怪談こころをこめて勤めますれば、ひとえに大入り満員の、祝花火をおおきく真っ赤に、打ち揚げさせたまえと祈るは、催主馬楽がいささかの知り合い、東都文陣の前座を勤むる。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
川に浮んでいたときはあんなに小さく、扁平へんぺいに見えた木材が、陸にあげられてこんな風に目の前に並ぶと、向う側の男の胴体もかくれるほどおおきかった。木挽らはそれを挺子棒がんたでかつぎ起した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
もうあと三四日という蕾のおおきな桜のまわりは
花に送られる (新字新仮名) / 今野大力(著)
くろくて おおきくて すごいようだ
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
私たちの未来は涯もなくおおきい。
大大阪のれいめい (新字新仮名) / 安西冬衛(著)
おおきな樹立こだちに囲まれていて、ふところの広い平庭である。樹々の蔭には、もう夕闇が漂って、蚊ばしらの唸りが何処ともなく耳につく。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「西ノ方ヘ漂流シテイマシタ。——ソレヨリ、この附近ニおおキナ海坊主ガ出マスカラ注意シテ下サイ。奴ハ船ヘ襲イ掛ッテ来マス」
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
瑠璃子の嫣然たる微笑を浴びると、勝平は三鞭酒シャンペンしゅよいが、だん/\廻って来たそのおおきい顔の相好そうごうを、たわいもなく崩してしまいながら
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは、やや距離があってか、そうおおきくは見えない。しかしこれで、「天母生上の雲湖」の秘密の一部を明かにした。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しん懐帝かいてい永嘉えいか年中に、韓媼かんおんという老女が野なかでおおきい卵をみつけた。拾って帰って育てると、やがて男の児が生まれて、そのあざな※児けつじといった。
このおおトチの木はこの村の始まらぬ前からあったもので、そして村の草分けの家の大屋の守護神木でもありました。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
老人ろうじんはだまってしげしげと二人のつかれたなりを見た。二人ともおおきな背嚢はいのうをしょって地図を首からかけて鉄槌かなづちっている。そしてまだまるでの子供こどもだ。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
全く、暑くて悶死もんししそうだ。どっかに、おおきな水たまりはありませんかね。鯨の如く汐を噴いてみたいのですよ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
オヤと思っているうちに、その見なれぬおおきな星が赤く太い尾を引いて動いた。と続いて、二つ三つ四つ五つ、同じような光がその周囲に現われて、動いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また多助は江戸表に置きましても稼業に出精しゅっせいしまして、遂におおきな身代となり、追々に地所を買入れ、廿四ヶ所の地面持とまでなり、本所に過ぎたるものが二つあり
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おおきな虚無の痙攣けいれんは停止したまま空間に残っていた。崩壊した物質の堆積たいせきの下や、割れたコンクリートのくぼみには死の異臭がこもっていた。真昼は底ぬけに明るくて悲しかった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
場末のこのあたりは、ふもとの迫るすそになり、遠山は波濤はとうのごとくかさっても、奥は時雨の濃い雲の、次第に霧に薄くなって、眉は迫った、すすき尾花の山のは、おおきないのししの横に寝たさまに似た
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
潮流の激しい海峡は黒い波の逆まいているのが、おおきな箱の揺れ加減でも、じかに身体からだに感じた。十四五年前故郷を追われて出京するとき、初めてここを渡った当時のことがおもい出された。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)