うち)” の例文
或日あるひ、れいのとほり、仕度をして、ぶらりとうちを出て、どことはなしに、やつて行きますと、とうとう木精こだまの国に来てしまひました。
虹猫と木精 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
樽野は晴れた日だけを朝起きして、半年前までは皆で住んでゐたのだが今は彼の書斎だけが残つてゐるN村のうちへ出かけるのだつた。
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
何分にもいくさのあとで、ここらも荒れ切っているので、うちはきたなくなっているばかりか、盗賊どもがしきりに徘徊するので困ります。
あひるさんは、にはとりさんのおうちにはいつて、にはとりさんと二人で、戸を内側からおさえて、桃をポケツトの中へかくしました。
露子つゆこうちまずしかったものですから、いろいろ子細しさいあって、露子つゆこが十一のとき、むらて、東京とうきょうのあるうちへまいることになりました。
赤い船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ほら、ごらん、ずうッと向うに、大きな星が三つ光ってるだろう。わしのうちは、その一ばん左の星のすぐうしろにあたるんだよ。」
金のくびかざり (新字新仮名) / 小野浩(著)
誠に有難ありがたい事で、わたくしもホツといきいて、それから二の一ばん汽車きしや京都きやうと御随行ごずゐかうをいたして木屋町きやちやう吉富楼よしとみろうといふうちまゐりました
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「はいではありません。子供の癖に真夜中に起きてうちの中をノソノソ歩きまわるなんて……何て大胆な……恐ろしいでしょう……」
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その間僕は炉のそばにそべっていたが、人々のうちにはこのうちの若いものらがんで出す茶椀酒ちゃわんざけをくびくびやっている者もあった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「死の旅にも同時に出るのがわれわれ二人であるとあなたも約束したのだから、私を置いてうちへ行ってしまうことはできないはずだ」
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私のうちは、こういう種類の人が、毎晩何十人となく集まっていた。従って、私のうちは乞食の元締みたいな、役割を自ずと持っていた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
惜しくも正月は過ぎ去ってしまって、閏土はうちへ帰ってしまわなければならなくなった。私は悲しくなって大声を上げて泣き出した。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
うちの子はどうしてこう低能なんだ、なぞと、学校の試験や親の思う通りにならなかった場合に、そんな勝手なことはいえないはずだ。
二人はまた同時に車夫に帰つて、私のうちの父や番頭の大阪行を引いて来たあとを、銀場ぎんばいたで向ひ合つて食事などをして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なにをするうちか、誰の住いか、見さだめるひまもなかった。脱兎だっとのように三人は、小屋から飛び出して、その木戸の中へ駈けこんだ。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
……いや山科のお百姓のうちに出養生をさしているの、いや南山城の親類が引き取ったのといって、みんな真赤な譃じゃありませんか。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「さう自任してゐちや困る。実は君の御母おつかさんが、うちの婆さんに頼んで、君を僕のうちへ置いて呉れまいかといふ相談があるんですよ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分のうちはお萩餅はぎどころでなかつた。それでも平七が忙しい中で、亥の子藁を拵へて呉れたので、自分はそれを持つて門の外へ出た。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「知っていますよ、だからなおさらおまえに菓子は売れない。しかもわしのうちつくる上菓子などは、おまえの口にするものじゃない」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとっつあんはそこで、そのうちの自転車をり、それにのって、もうチェーンがきれるほどペタルをふんで土浦つちうらへ走っていきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
いや、これに対しても、いまさらよそうちへとも言いたくなし、もっと其家そこをよしては、今頃間貸まがしをする農家ぐらいなものでしょうから。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「来そうもないな。まさかうちがわからないんでもなかろうけれど、——じゃ神山さん、僕はちょいとそこいらへ行って見て来らあ。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茂兵衛 (声)こちらはお蔦さんと仰有います方のおうちじゃございませんか、わたくしは川向うの人と交際つきあいを持たねえ者でござんす。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
夜も表からは電燈の光も見えないので、うちにいるのかいないのか見当もつかないのだそうです。つまり交友関係が全くないのですね。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから數日間すうじつかん主人しゆじんうち姿すがたせなかつた。内儀かみさんは傭人やとひにん惡戯いたづらいてむしあはれになつてまたこちらから仕事しごと吩咐いひつけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「どういうことと申しますと?」与兵衛が、木場の甚を見ながらお高にきき返して、「柘植のおうちと和泉屋との関係かかりあいでございますか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、うちもんをはひらないまへに、かれはからつぽになつた財布さいふなかつま視線しせんおもうかべながら、その出來心できごころすこ後悔こうくわいしかけてゐた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「済みませんけれど、一時お宅のアパアトにおいて戴きたいんですが……。うちが見つかるまで。——家を釘づけにされちやつたんで。」
和解 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
もう十二年ぜんである、相州そうしゅう逗子ずしの柳屋といううちを借りて住んでいたころ、病後の保養に童男こども一人ひとり連れて来られた婦人があった。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「私、このうちを焼きたくないのよ。このあなたのお家、私の家なのよ。この家を焼かないでちやうだい。私、焼けるまで、逃げないわ」
戦争と一人の女 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
酒をつけて出すうちがたまにあると、彼は笑いながら、警官に酒を飲ませると、きつとその家には祟りがあるからやめなさいと言う。
この握りめし (新字新仮名) / 岸田国士(著)
「ピアノよ、キュピーよ、クレヨンね、スケッチちょうね、きりぬきに、手袋に、リボンに……ねえかあさん、おうちなんかくださらないの」
クリスマスの贈物 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「お前はうちのためになることを何もしたことはない。それにどうして三分の一やることが出来よう。第一イワンやマルタにすまない。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
「だつて、お父さんがうちにをらんのより、をつた方がいゝんぢやないの? もううちへ帰つて来てくれたんだからいゝぢやないの?」
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
「ああ!」とおかみさんがこたえた。「うち後方うしろにわにラプンツェルがつくってあるのよ、あれをべないと、あたしんじまうわ!」
女は別にこばむ色もなく、小女を呼び返して、喬生のうちへ戻って来た。初対面ながらはなはだうちとけて、女は自分の身の上を明かした。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
それは、ただよそのうち門口かどぐちに取りつけた小さい牛乳受けを、自分の顧客のうちの門口へおきかえるという簡単な仕事で出来たのだ。
私は、杉野君にも、またモデルのひとにも、両方に気の毒でその場で、立って見ている事が出来ず、こっそりうちへ帰ってしまった。
リイズ (新字新仮名) / 太宰治(著)
俊夫君はそれをじっと眺めていましたが、やがて歩きだし、一まわりして玄関に来ると、うちの中からは令嬢が出迎えてくださいました。
髭の謎 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
イワンのうちからは二十六年の間、何のたよりも来ません。イワンにはじぶんの家内や子どもたちの生死さへもわかりませんでした。
ざんげ (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「俺のうちへ来てくれ。住いはサドワヤ街だよ。コワリョーフ少佐の家はどの辺かと訊きさえすれば、誰でも教えてくれるからね。」
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
センイチはうちあがりこんで、まだびく/\してるセイに、森の中のこと、悪魔の姿を借りたことを、くはしく話してきかせました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
うちに居る時は斎藤の娘、嫁入つては原田の奥方ではないか、いさむさんの気に入る様にして家の内を納めてさへ行けば何の子細は無い
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ワーリャ (ドアのそばに立って)わたしね、アーニャ、こうして一日じゅううちのことであくせくしながらいつも空想しているの。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「そう云ったって駄目なんだってば、みんな僕を疑って居て、今夜も探偵がうちの様子を聞いて居るかも知れないんだもの。………」
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伴蔵はふるいながらうちへ帰り、夜の明けるのを待ちかねて白翁堂勇斎の家へ飛んで往った。そして、まだ寝ていた勇斎を叩き起した。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夕食の時、己がおばさんに、あのエルリングのような男を、冬の七ヶ月間、こんな寂しいうちに置くのは、残酷ではないかと云って見た。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
私のうちへはそれが手にとるように聞こえるのです。何でもひどく打ったり蹴ったりしているらしく、奥さんは泣いておられました。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「ぢや、私のうちへでも來てゐればいゝのに。話の結末がつくまで當分此家ここへでも來ていらつしやいな。さうしてゐちや惡いのか知らん。」
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)