家根やね)” の例文
また地形石ちぎょういしなどがそのままとなっていたり、家根やね石などが転っていたりした。裏手には杉の木の林があって、土手には熊笹が繁っていた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから一年あまりの後に家屋の手入れをすると、家根やね瓦の下から長さ一丈ほどの瓢を発見した。その瓢にもひと筋の矢が透っていた。
金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。
その中から幾個いくつかの小独楽を産み出し、産み出された小独楽が石燈籠や鳥居や、社殿の家根やねなどへ飛んで行き、そこで廻り出したことであった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
數「うん岩越、ひょろ/\歩くと危いぞ池へおっこちるといかん、あゝ妙だ、家根やね惣体そうたい葺屋ふきやだな、とんと在体ざいてい光景ありさまだの」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恋猫こいねこ恋犬こいいぬにわとりは出しても/\につき、すずめは夫婦で無暗むやみに人のうち家根やねに穴をつくり、木々は芽を吐き、花をさかす。犬のピンのはらははりきれそうである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この間しめ出しを食った時なぞは野良犬の襲撃をこうむって、すでに危うく見えたところを、ようやくの事で物置の家根やねへかけあがって、終夜ふるえつづけた事さえある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隣りの料理屋の地面から、せいの高いいちじくがしげり立って、僕の二階の家根やねを上までも越している。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
家根やねに巣をつくつてゐた、雀の子が、ある朝、天井裏に迷ひおち、チイ/\悲鳴をあげて、天井板をあるき廻つた、私はその逃げ場をつくつてやるために、天井板を一枚はづしてをいたが
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
其所にも此所にも家根やねや火の見へ上がって上野の山の方を見て何かいっている。
家根やねの上から白いけむりがあがっている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
家根やねのくさひでりにかわく
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
遠くには、町の家根やねが見えた。その彼方には、高い国境くにざかいの山々がつらなって見えた。淋しい細い道は無限に何処いずこへともなく走っている。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがてのきの瓦を踏む音がして、彼は家根やねから飛び下りて来たので、獄卒は先ずほっとして、ふたたび彼に手枷足枷をかけて獄屋のなかに押し込んで置いた。
門の家根やねから空の方へ、松の木がニョッキリ突き出していた。遥かの町の四つ角を、終電車が通って行った。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
靴屋くつやはこれをくと、襯衣シャツのまんまで、戸外そと駈出かけだして、うえかざして、家根やねうえながめました。
丈「此間こないだ大工の棟梁が来て、家根やねの事をお話したから、其の事だろうと思っていましたが、何しろお話を聞きましょう、これ胴丸どうまるの火鉢を奥の六畳へ持ってけ」
「夢窓国師も家根やねになって明治まで生きていれば結構だ。安直あんちょくな銅像よりよっぽどいいね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家根やねに巣をつくつてゐた、雀の子が、ある朝、天井裏に迷ひおち、チイ/\悲鳴をあげて、天井板をあるき廻つた、私はその逃げ場をつくつてやるために、天井板を一枚はづしてをいたが
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
かくは一つ家根やねに住み、一つかまの御飯をたべ、時には苦労を共にし、また楽しみをも共にし、ひたすらお互いに斯道しどうを励んだことで、今日といえども、私は既に七十有余の高齢に達しておりますが
老婆は大きな眼鏡をかけて冬の仕事に取かかって襤褸つづれぬっている……鳥籠の上に彼方かなた家根やねの上から射し下す日はあたたかに落ちて
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きょうも明るい日が大きいいらかを一面に照らして、堂の家根やねに立っている幾匹の唐獅子からじしの眼を光らせている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれどもマリちゃんはじっとすわって、ないていました。するととりんでて、家根やねうえとまった。
「あっ、畜生、こいつア不可いけねえ。あべこべに先方むこうが水遁の術だ。……中止々々! 水鉄砲は中止。……さてこれからどうしたものだ。ともあれ家根やねから飛び下りるとしよう」
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
台所のひさしから家根やねに飛び上がる方、家根の天辺てっぺんにある梅花形ばいかがたかわらの上に四本足で立つ術、物干竿ものほしざおを渡る事——これはとうてい成功しない、竹がつるつるべって爪が立たない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家根やねの上に葮簀よしずが掛って居て、其処に看板が出てあったよ、癪だの寸白疝気せんきなぞに利くなんとか云う丸薬で、黒丸子くろがんじの様なもので苦い薬で、だらすけみたいなもので、癪には能く利くよ、お前ねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
水は崖の下にむせんでいた。水色の夜の空は、白い建物の間からあらわれ出て、星は穿うがたれた河原の小石のように散っている。瓦や亜鉛の家根やねの上を月の光りが白く照した。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
康煕こうき年間のある秋に霖雨ながあめが降りつづいて、公の祠の家根やねからおびただしい雨漏りがしたので、そこら一面に湿れてしまったが、不思議に公の像はちっとも湿れていない。
夫婦ふうふ相談さうだんして、あめ次第しだい家根やねつくろつてもらやう家主やぬしことにした。けれどもくつはうなんとも仕樣しやうがなかつた。宗助そうすけはきしんで這入はいらないのを無理むり穿いてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「えい!」と突き出す大身の槍、それを外して鼠小僧、パッと家根やねへ飛び移った。
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある時亥太郎が門跡様もんぜきさま家根やね修復しゅふくしていると
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一人は其処そこへ行って火を焚き始めた。青いけむりが上った。また彼方に黒い家根やねいただきが見えている。何か小屋があるらしい。此処ここの小屋は山漆をいて黒土と砂利で固めたのだ。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
S旅館もかなりの損害で、庭木はみんな根こぎにされる、塀を吹き倒される、家根やねを吹きめくられるという始末。それでも、表の店の方は、建物が古いだけに破損が少ない。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一所いつしよりたひとは、みんはなれ/″\になつて、ことありいそがしくあるいてく。まちのはづれをると、左右さいういへのきから家根やねへかけて、仄白ほのしろけむりが大氣たいきなかうごいてゐるやうえる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家根やねの瓦の見えるのが、全体の風致を害していて、欠点といえば欠点とも云えた。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
町から少しはなれ家根やね処々ところどころに見える村だ。空は暗く曇っていた。おしまという病婦が織っているはたの音が聞える。その家の前に鮮かな紫陽花あじさいが咲いていて、小さな低い窓が見える。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
家屋を撃ちこわす場合は、家根やねを打ち破るばかりで、地を傷めないのが普通である。
しかし用木は頑丈で、それが時代をんでいる為か、鉄のような色を呈してい、瓦家根やねが深く垂れ下り、その家屋も黒く錆ていた。だから巨大な蝙蝠が、翼をひろげているようである。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木賊葺とくさぶきの厚板が左右から内輪にうねって、だいなる両の翼を、けわしき一本の背筋せすじにあつめたる上に、今一つ小さき家根やねが小さき翼をして乗っかっている。風抜かざぬきか明り取りかと思われる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藁屋わらやの、今迄、圃の繁りや、木の枝に隠れて見えなかったのが、急に圃も、森も、裸となって、灰色の家根やねが現われ、その家の前で物を乾したり、働いている人の姿などが見えた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
何という古風な社だろう! その様式は神明造しんめいづくり千木ちぎが左右に付いている。正面中央に階段がある。その階段を蔽うようにして、檜皮葺ひはだぶき家根やねが下っている。すなわち平入ひらいりの様式である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いっしょに降りた人は、みんな離れ離れになって、事あり気に忙がしく歩いて行く。町のはずれを見ると、左右の家の軒から家根やねへかけて、仄白ほのしろい煙りが大気の中に動いているように見える。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから一年あまりの後、職人を呼んで家根やねのつくろいをさせると、瓦のあいだから何か堅い物が地に落ちた。よく見ると、それはさきに紛失したかの箆であった。つづいてひからびた骨があらわれた。
小舎こやは山の上にあった。幾年か雨風に打たれたので、壁板したみには穴が明き、窓は壊れて、赤い壁の地膚があらわれて、家根やねは灰色に板が朽ちて処々ところどころむしろかぶせて、その上に石が載せられてあった。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)