多人数たにんず)” の例文
旧字:多人數
男「おおきに待遠まちどおだったろうな、もっと早く出ようと心得たが、何分なにぶん出入でいり多人数たにんずで、奉公人の手前もあって出る事は出来なかった」
彼らほど多人数たにんずでない、したがって比較的静かなほかの客が、まるで舞台をよそにして、気楽そうな話ばかりしているお延の一群いちぐんを折々見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英国の学者社会に多人数たにんず知己が有る中に、かの有名の「ハルベルト・スペンセル」とも曾て半面の識が有るが、シカシもう七八年も以前の事ゆえ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
蝋燭のほのほと炭火の熱と多人数たにんず熱蒸いきれと混じたる一種の温気うんきほとんど凝りて動かざる一間の内を、たばこけふり燈火ともしびの油煙とはたがひもつれて渦巻きつつ立迷へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どっと立上る多人数たにんずの影で、月の前を黒雲が走るような電車の中。大事に革鞄かばんを抱きながら、車掌が甲走った早口で
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくあってその座敷がにわかに騒がしく、多人数たにんずの足音がして、跡はまたひっそりとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかれども、これらの壮士は、かえって内地にとどまるかた好手段ならんといいしに、新井これに答えて、なるほどしかる、かくの如き人あらば、即ち帰らしむべし、何ぞ多人数たにんずを要せん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
病院びょういんでは外来患者がいらいかんじゃがもう診察しんさつ待構まちかまえて、せま廊下ろうか多人数たにんず詰掛つめかけている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
奉公人も多人数たにんず居って多過ぎるからへらそうと思っているところだから、奉公に置く事も出来ません帰えって下さい、此の開明の世の中に
今日は高知こうちから、何とかおどりをしに、わざわざここまで多人数たにんず乗り込んで来ているのだから、是非見物しろ、めったに見られないおどりだというんだ
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
襖越ふすまごしに聞いている人にまで、何人で叩くのか、非常な多人数たにんずで叩いている音の様にきこえると言います。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼らのうちには古井が磯山に代りしをむのふうありて議かなわず、やや不調和の気味ありければ、かかる人々はいさぎよく帰東せしむべし、何ぞ多人数たにんずを要せん、われは万人に敵する利器を有せり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その理由の第一は、時勢既に変じて多人数たにんずの江戸づめはその必要を認めないからである。何故なにゆえというに、もと諸侯の参勤、及これに伴う家族の江戸における居住は、徳川家に人質を提供したものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このくらい遠慮するなら多人数たにんず集まった時もう少し遠慮すればいいのに、学校でもう少し遠慮すればいいのに、下宿屋でもう少し遠慮すればいいのに。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
成程なるほど子分こぶん多人数たにんずるのは子槌こづちで、れから種々いろ/\たからしますが、兜町かぶとちやうのおたくつて見ると子宝こだからの多い事。甲「だい国立銀行こくりつぎんこう大黒だいこくえん十分じふぶんります。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
希有けうぢやと申して、邸内ていない多人数たにんず立出たちいでまして、力を合せて、曳声えいごえでぐいときますとな……殿様。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
病人は二人に支えられながら、釣られるように、かない足を運ばして、窓の方へ近寄ってくる。この有様を見ていた、窓際の多人数たにんずは、さも面白そうにはやし立てる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
名に負う大家たいけの事でございますから、お大名様方にもお出入でいりが沢山ございまして、それが為めに奉公人も多人数たにんず召使い、又出方でかた車力しゃりきなども多分に河岸へ参りますゆえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
キャキャとする雛妓おしゃく甲走かんばしった声が聞えて、重く、ずっしりと、おっかぶさる風に、何を話すともなく多人数たにんずの物音のしていたのが、この時、洞穴ほらあなから風が抜けたようにどっ動揺どよめく。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
難儀をするものは世間には多人数たにんずあって、僕は交際も広いから一々恵みつくされません、そうしてゆえなく人に恵みをすべきものでもなく、又故なく貰うべきものでもなく
そうして遠浅とおあさ磯近いそちかくにわいわい騒いでいる多人数たにんずあいだを通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎ出した。彼らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
変化へんげ、妖怪、幽霊、怨念の夜だからと言って、そのためにすそ、足の事にこだわるのではないのだが、夜半よなかに、はきものの数さえ多ければ、何事もなかったろう。……多人数たにんずが一所だから。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何うもいぶかしいは粥河圖書、事に依ったら又己を欺いて多人数たにんずの同類で取巻いて、飛道具で撃取うちとろうとたくむかもしれんが、さある時は止むを得ず圖書を一刀のもとに斬って捨て
するとまたななめにたおれかかる。浩さんだ、浩さんだ。浩さんに相違ない。多人数たにんず集まってみに揉んで騒いでいる中にもし一人でも人の目につくものがあれば浩さんに違ない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二俣ふたまたの奥、戸室とむろふもと、岩で城をいた山寺に、兇賊きょうぞくこもると知れて、まだ邏卒らそつといった時分、捕方とりかた多人数たにんず隠家かくれがを取巻いた時、表門の真只中まっただなかへ、その親仁おやじだと言います、六尺一つの丸裸体まるはだか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の代り事成就なせば向後こうご御出入頭おでいりがしらに取立てお扶持も下さる、ついてはあゝいう処へ置きたくないから、広小路あたりへ五間々口ごけんまぐちぐらいの立派な店を出し、奉公人を多人数たにんず使って
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ごもっともで、よく注意は致しますが何分多人数たにんずの事で……よくこれから注意をせんといかんぜ。もしボールが飛んだら表から廻って、御断りをして取らなければいかん。いいか。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
多人数たにんずに囲まれてかよった時、庚申堂こうしんどうわきはんの木で、なかば姿をかくして、群集ぐんじゅを放れてすっくと立った、せいの高い親仁おやじがあって、じっと私どもを見ていたのが、たしかに衣服を脱がせた奴と見たけれども
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が物を廉く売ると申して無闇に廉く売るのでは有りません、多分に買い出すと廉くなる上に、多分の利を見ずに廉う売るので、諸方より多人数たにんず買いに来るから、骨は折れますが
おれ見着みつけてつてかへる、死骸しがいるのをつてれ。』とにらみつけて廊下らうか蹴立けたてゝた——帳場ちやうば多人数たにんず寄合よりあつて、草鞋穿わらぢばき巡査じゆんさ一人ひとりかまちこしけてたが、矢張やつぱりこといてらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時々どっと山颪やまおろしに誘われて、物凄ものすごいような多人数たにんず笑声わらいごえがするね。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という是れが決闘状はたしじょう取遣とりやりでございますが、むこうは盗賊の同類が多人数たにんず居りますから、其等それらが取巻いて飛道具でも向けられゝば其れり、左もない所が相手も粥河圖書だからおめ/\とも討たれまい
かか広野ひろの停車場ステエションの屋根と此のこずえほかには、草より高く空をさえぎるもののない、其のあたりの混雑さ、多人数たにんずふみしだくと見えて、敷満しきみちたる枯草かれくさし、つ立ち、くぼみ、又倒れ、しばらくもまぬ間々あいだあいだ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)