さわ)” の例文
宇津木兵馬は、七兵衛の約束を半信半疑のうちに、浅草の観音に参詣して見ると、堂内のたつみに当る柱でさわいでいる一かたまりの人の声。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、まったくは降伏でない。誘降ゆうこうの上書を奉ったものにすぎぬ。それをしも、悪推量わるずいりょうして、さわぎ立てする者あらば、斬ってしまえ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それより母の許へ帰らんと望むに、許され帰る。その後、夜々形は見えずにさわぐ者あるので、母に告げると、蝋燭をともして見出せという。
唯だ姫が側なる人をベルナルドオならんと疑ひしとき、我心のさわがしかりしは、ねたみなるかあらざるか、そはわが考へ定めざるところなりき。
見よ、デモクラシーは宿昔しゆくせきの長夢を攪破せんとのみもがき、アリストクラシーは急潮の進前を妨歇せんとのみさわぐにあらずや。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
が、近江之介は、さわぎ立つ番衆を振り切って、もう部屋を出かかっていた。こっちから仕向けた争いであることは、衆目しゅうもくの見たところである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
また心静かなる時は手平かに、心さわげば手元狂う。訟を聴きつつ茶を碾くのは、粉の精粗によって心の動静を見、判断の確否を知るためである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
忽ちくりやかたに人の罵りさわぐ声が聞えた。程近き街の魚屋うをやが猫に魚をぬすまれて勝手口に来て女中に訴へてゐるのであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのさわがしい華やかさ、そのロンドンらしい「遵奉されたる蕪雑ぶざつさ」において、この「巷の詩」のもつ調子ニュアンスとすこしも変らないものを見出し得る町が
さりながら実家さとにては、父中将の名声海内かいだいさわぎ、今は予備におれど交際広く、昇日のぼるひの勢いさかんなるに引きかえて、こなたは武男の父通武が没後は
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お峯は心苦こころぐるしがりて、この上は唯警察の手を借らんなどさわぐを、直行は人をわづらはすべき事にはあらずとて聴かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
廟の傍の林には数百の烏が棲息せいそくしていて、舟を見つけると一斉に飛び立ち、唖々ああとやかましくさわいで舟の帆柱に戯れ舞い、舟子どもは之を王の使いの烏として敬愛し
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
双方共背後うしろから押されてゐる。中にちよい/\理性にかなつた詞を出すものがあつても、周囲まはりの罵りさわぐ声に消されてしまふ。此場の危険は次第にはつきり意識に上つて来た。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
そののち室内沈静にして、些々ささたる物音も聞えぬ事あり、時ありては畳を蹴立ててさわがしきひびきの起る折あり、突然、きいーきいーと悲鳴をあげて、さもくやしげに泣くも聞ゆ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空には一群ひとむれ一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森にはからすさわぎ始めた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
空には一群一群の小鳥が輪を作ッて南の方へ飛んで行き、上野の森にはからすさわぎ始めた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「ドウナルド、そんなにさわぐんじゃアありませんよ。」と、ジャネットはいいました。
殊に当節は葭簀よしずの囲いさえ結われたが、江戸ッ児は男も女もさわぐのが面白く、葭簀を境いにキャッキャッとの騒ぎ、街衢をはなれたこの小仙寰せんかんには遠慮も会釈もあったものではない。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
むやみに他人の不信とか不義とか変心とかをとがめて、万事万端向うがわるいようにさわぎ立てるのは、みんな平面国に籍を置いて、活版に印刷した心をにらんで、旗をげる人達である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしがおまへおなそばるではないか、それになか彼麽あんなさわぎをしてるのに、なにきこえるものか』たしかになかではおそろしい大噪おほさわぎをしてました——えずえたり、くさめをしたり
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さわぐ声がする、東の峡間に、一頭の羚羊かもしかを見つけ出したのだ、なるほど一頭いるわいと気がくころ、中村宗義は銃を抱えて、岩蔭を岩蔭をと身を平ッたく伝わって、谷側まで下りた
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
八幡横手の阪道から、宮裏みやうらの雑木林をかけて、安小間物屋、鮨屋すしや、柿蜜柑屋、大福駄菓子店、おでん店、ずらりと並んで、カンテラやランプの油煙ゆえんを真黒に立てゝ、人声がや/\さわいで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
スエ子だか百合子だか、母見わけがつかず、自分と分るとさわいで
さわぎどよめいているところへ下女のお米きた
群鳥むらどりかける翼のそのさわぎと
葦切あしきりはけゝしとさわ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「十八公麿のすがたが見えぬとて、そう、さわぎたてることはない」侍女のことばをたしなめて、彼女は、静かに良人の枕元を離れた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さわぐべく、歌うべき当人の株を奪って、その騒音は、意外といえば意外だが、さもそうありそうな船内の一角から起りました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
燈に丁字頭ちょうじがしらが立つと銭を儲けるとて拝し、かささぎさわげば行人至るとて餌をやり、蜘蛛が集まれば百事よろこぶとてこれを放つ、ずいは宝なり、信なり。
わが此不慮此不幸の全範圍を感ぜしは、酒店の人の罵りさわぎつゝ走り寄りアヌンチヤタと媼との我前に來るを見し時なりき。
どこからか外れ飛んで来た羽子はねが、ヒョイと壁辰の襟首えりくびに落ちた。女の児が追っかけて来てさわぎ立てる。壁辰は、にっこり掴み取って、投げ返した。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんともすさまじい享楽と騒擾そうじょうの一大総合場面——バグダットの朝市場ほどさわがしく、顛狂院の宴会できちがいの大群が露西亜ロシアバレイを踊ってるほどにも奔流的な光景キイドを呈するのが
別にいやな顔もせず、一口の不平もこぼさず、不規則に酒を飲んだり、物を食ったり、女を相手にしたり、していながら、何時いつ見ても疲れたたいもなく、さわぐ気色もなく、物外に平然として
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風の暴頻あれしき響動どよみに紛れて、寝耳にこれを聞着ききつくる者も無かりければ、誰一人いでさわがざる間に、火は烈々めらめら下屋げやきて、くりやの燃立つ底より一声叫喚きようかんせるはたれ、狂女は嘻々ききとして高く笑ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大半は小娘だから、小鳥の囀るように何やら言ってさわいでいる。岡田は何事もわきまえず、又それを知ろうと云う好奇心を起すひまもなく、今まで道の真ん中を歩いていた足を二三歩その方へ向けた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
二勺より路は黒鉄くろがねを鍛へたる如く、天の一方より急斜して、爛沙らんさ焦石せうせき截々せつ/\、風のさわぐ音して人と伴ひ落下す、たまたま雲を破りて額上かすかに見るところの宝永山の赭土あかつちより、冷乳のかめを傾けたる如く
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
かく言ううちもかれの手なる鈴は絶えずさわぎぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お粂は、そこにあるくしの二つ三つを膝にのせて、聞かない振りをしていながら、えりあしにあかねをさしたように血をさわがせていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米友の姿が屋根の上に現われた時に、下では折助どもが喧々囂々けんけんごうごうとしてさわぎ罵りました。梯子はしごを持って来いと怒鳴りました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この教育は六年の間續きたり、否、七年ともいふことを得べし。されど六とせ目の年の末には、早く多少の風波の我生涯の海の面にさわぎ立つを見たり。
西インドへ輸入するとたちまち風変りとなって鳴きさわがず、その代りにいつ盛るという定めもなく年中唖でやり通しで、林中に食物多き故、野生となって大いに蕃殖はんしょくす。
下廻りや座方の衆がわいわいさわいで先刻もやたらにそこらを歩いていた——という彦兵衛の話。
別にいやかほもせず、一口ひとくちの不平もこぼさず、不規則に酒を飲んだり、ものつたり、女を相手にしたり、してゐながら、何時いつ見てもつかれたたいもなく、さわぐ気色もなく、物外に平然として
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬にいたるまで土とほこりに汚れきった一頭立ての軽馬車を雑然とかためて、高粱こうりゃんむちを鳴らして何か大声に罵りあいながら客待ちしているのが、遠くさわがしいだけにうつろに眺められる。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
夫は出でていまだ帰らざれば、今日ののしさわぎて、内に躍入をどりいることもやあらば如何いかにせんと、前後のわかれ知らぬばかりに動顛どうてんして、取次には婢をいだり、みづから神棚かみだなの前に駈着かけつけ、顫声ふるひごゑ打揚うちあ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ご観念をと、すすめたところで、なかなか、おあきらめを持つみかどではあるまい。……といって、じたばたさわがれては」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はて、あの人が槍を抱えて島田先生のあとをねらって行くなと思うと、さきの毒一件から、またわたしの胸がさわぎ出しました
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
杯盤狼藉はいばんろうぜきをきわめてさわいでいた、風体人相の好くない浪人者と覚しい七、八人の一団——部屋の隅に、四曲屏風を立てめぐらして、その中に、白衣に白の弥四郎頭巾をかぶり
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今度はいよいよ化け物類の出勤時間、草木も眠る真夜中に、彼ら総出で何とも知れぬ大声でさわぎ立て、獅・豹・熊・牛・蝮蛇まむしさそり・狼の諸形を現じて尊者の身が切れ切れになるまでさいなんだが